・・・なぜ、貴方方はそんなにもネロ王子を慕うのですか?
またまた視点変更。
ネロ様のお傍から引き離されてしまいました……
でも、あのにこりと微笑むネロ様の笑顔……ああもうっ、すっごく尊いです!
あの笑顔を脳裏に思い浮かべるだけで、おかず無しでパンが何個でもイケそうです!
そして、侍女長にネロ様の警護の為と、あのばっちい男の付き人だったシュアン・ウェイバー様の動向を監視するようにと命じられてしまいました。
ネロ様は、本当に慈悲深いお方ですからね。あのようにばっちくて穢らわしい男に仕えていた者にでも、お優しくして差し上げるだなんて……なんて天使なんでしょうっ!!
ということで、ネロ様の安全を守る為、わたくしはシュアン・ウェイバー様のお世話をすることにしたのですが……
この人、ちょいちょい面倒くさい人ですね。
ネロ様とシエロ様のお優しさで生かされているクセに、そのことをまだ理解……いえ、実感できていないようです。
ウェイバー様のプライバシーや尊厳など、ネロ様とネロ様が大事になさっているシエロ様の御身の前では塵芥よりも軽いというのに。往生際悪く、駄々を捏ねて手間を掛けさせてくれます。
まあ、説得だけでさっさと検診に応じたので善しとしておきましょうか。
そもそも、あんなばっちくて穢らわしい男の恋人だという疑惑が掛けられるのは、あんな男に仕えて、一緒に過ごして、我が国に来たご自身が悪いというのに。そういう目をむけられたくなければ、さっさとあんな男の側を辞するべきでしたね。
自身の引き際を見極められないから、こんな事態に陥っているのでしょうに。
アレですかね? 頭は良さそうなのに……なんでしょう? 賢い馬鹿という言葉がありましたよね? ウェイバー様はそれに該当する方なのでしょうか?
と、思ったのですが……なんと、ウェイバー様はわたくしよりも年下の十七歳でした。
この辺りの周辺諸国は基本的に十八歳で成人扱いされるので、ウェイバー様は成人手前の子供扱いされるべき方でしたか。
まあ、中途半端に賢い子供が周囲の大人に都合の良いように使われているというパターンでしょうね。ちょびっとだけ同情したので、ウェイバー様にはほんのり優しさを向けてあげましょう。丁度、わたくしの弟と同じ年頃ですし。
そう言えば、ここ十年程全く接触しておりませんが、わたくしの兄弟姉妹は元気にしているでしょうか……? わたくしがこの役職に就くに当たり、結構な金額が支払われたので大丈夫だと思いますが――――
「……あの……」
胃腸に優しい食事を持って来て、食事のお世話をしているときでした。
「はい、なんでしょうか? ウェイバー様」
「なぜ、わたしに女性の世話係が?」
不審感に溢れる目がわたしを疑わしそうに見ています。
これは……ご自身の世話をするのは殿方の方が良かった、ということなのでしょうか?
「わたしは捕虜扱いの筈です。そんなわたしに女性を付けるなど、あなたの上司はなにを考えているのですか?」
顔を顰めるウェイバー様。
「それは……わたくしの身を案じていらっしゃる、ということでしょうか?」
「端的に言えば、そうなりますでしょうか」
顰めたお顔のまま、警戒するようなお返事。
「それなら、心配ご無用です。わたくし、警護用の侍女ですので。さして鍛えてもいなさそうなウェイバー様を鎮圧することなど、赤子の手を捻るようなものです。ちなみにですが、わたくし。並みの騎士でしたら、帯剣していても三名程は余裕で沈められますわ」
そう返すと、ウェイバー様のお顔が引き攣りました。うふふ、油断を誘う為に侍女の振り……というか役職の一部として業務をこなしますが、わたくしの専門は護衛。あまり甘く見ないでほしいですわ。
「なので、下手なことは実行なさらないでくださいね? ウェイバー様は、ネロ様にお気に入られた模様。わざわざ命を粗末にして、ネロ様を悲しませるようなことはしないで頂けると嬉しく思います」
ええ。ウェイバー様が処分されて、ネロ様の悲しがるお顔は見たくありませんもの。
「・・・善処します」
と、青い顔で食事を食べ進めました。
食事が終わり、同じ部屋に控えておりますと・・・
「・・・なぜ、貴方方はそんなにもネロ王子を慕うのですか?」
そう質問されました。
これは、あれですね! ネロ様がどれ程素晴らしく、慈悲深く、機智に富み、思い遣り深く、麗しく、お優しく、お可愛らしく、まるで天使そのものであらせられるかをわたくしに語れと言っていらっしゃるのですね!
いいでしょう。このわたくしがどれ程ネロ様のことを信奉しているかを熱く、熱く語って聞かせて差し上げますわ!
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わたくしが……いえ、わたしは、騎士爵の家の六人姉弟の三番目の子供として生まれました。
父は騎士であまり家に居付くことはありませんでしたが、貧乏人の子沢山。
一番低い爵位で、ほぼ平民の我が家には使用人を雇う余裕もなく、家事や騎士夫人達のお付き合いにと忙しい母。弟妹の面倒を見るのは姉やわたし達の仕事でした。
姉は、弟妹の面倒を見るのに疲れると中間のわたし達に下の面倒を押し付け――――
いつの間にか、やんちゃな弟達の面倒はわたしが。姉が妹達の面倒を見るという暗黙の了解が出来上がっていたような気がします。
父は、あまり家にはいないのに、偶に帰って来ると騎士の息子だからと弟達に剣の手ほどきをしていました。そして、弟達の怪我の手当てはわたしに丸投げ。
正直、父と母にはあまり育ててもらった感覚は薄いですね。
うちでは姉の方が、よっぽど弟妹達の『母親役』をこなしていましたから。
わたしにはちょっとイジワルでしたが、それでも姉とは戦友のような関係だったと思います。二番目である長男の兄は跡取りとして教育され、一番大事にされていましたからね。あまりわたし達とは関わりませんでしたし。
そうやって弟達の面倒を見て、けれどわたし自身が誰かに……姉以外に面倒を見てもらうことは少なかった。そんな幼少期を過ごしました。
そんなある日のこと。
当時、十歳程だったでしょうか。
とある貴族の狩猟大会に手伝いとして参加することになったのです。
あれ、参加するだけの貴族は猟犬や猟銃、馬や侍従などなど……まあ、入用な物や出費はそれなりにあるでしょうが。大会の主催や準備をする側はかなり大変なんですよね。
狩猟大会の為に危険な獣は駆除しつつ、ある程度の獣は獲物として残さないといけない。獣が少なければ、他所から調達して来なくてはいけない。家畜やペットを獲物として放つのは駄目。生態系を考慮して、開催地区に生息するのに不自然じゃない獣の調達。
森や林の整備。馬が歩けるようにある程度切り開いたり。かと言って、あまり整備し過ぎても参加する貴族達が興醒めしてしまう。
程良く獣道が残り、さりとて悪路はできるだけ減らす。もしくは、悪路を抜いたコースを考えなければいけない。
万が一、高位貴族の誰かが落馬や猛獣に襲われて死亡してしまったら……主催や、森林の管理者の責任になる。下手をしたら主催側は物理的に首が飛ぶのです。
暗殺やら、不自然に見えない事故を起こすのに格好のタイミング。また、その罪を誰かへと擦り付けるのにも持って来い。
貴族の狩猟大会とは、色々な意味での狩り場でもある。そういう場所だったのです。
なので、猫の手も借りたいとばかりに手伝い要員として駆り出されることになりました。無論、断ることなどできません。これも、ほぼほぼ平民同然の下位貴族の宿命というやつですね。
そして、わたしが手伝いで参加した狩猟大会で事件が起きました。
どこぞの馬鹿貴族が、猟犬へ盛る興奮剤の量を間違えたらしくて……大人しい犬に興奮剤を与えて、獲物を狩り立たせようとしたらしいのですが、見事に失敗。
興奮剤で興奮して猛り狂った猟犬が、狩猟大会で夫や兄弟、恋人達の帰りを待つ女性達が交流を兼ねて開いていたお茶会に、乱入したのです。
興奮した犬は調教師を振り切って、女性達へと駆け出し――――
お茶会の場は、恐怖の悲鳴に埋め尽くされました。
読んでくださり、ありがとうございました。
視点がコロコロ変わるのが嫌いという方はすみません。(;´∀`)ゞ
なんか、戦闘侍女が自分語りを始めちゃいました。(*ノω・*)テヘ




