ネロから手紙! なんて書かれていたのですかっ?
「あの、母上。お呼びでしょうか?」
「ああ。ネロから手紙が届いてな。ライカに少々聞きたいことがあるそうだ」
「ネロから手紙! なんて書かれていたのですかっ?」
嬉しそうな顔でこちらへ寄って来るライカ。
「ああ、ライカは元気かと気に掛けていた」
「はい! 僕は元気です!」
「そうか。そしてな、『お留守番のライカ兄上は寂しい思いはしていませんか?』と書かれている」
「それは……その、少しだけ……」
ぷいと恥ずかしそうな赤い顔でライカがそっぽを向く。
「ふむ……では、こうも書かれている。『ライカ兄上が寂しいのでしたら、もう少しライカ兄上へお仕事をお任せしたいのですが。宜しいでしょうか? ほら、忙しくしていると、寂しいと思う暇もありませんからね。楽しいお仕事を沢山用意します♪』だそうだぞ?」
「いっ、いやいやいや、僕は全っ然寂しくなんてありませんからっ! というか、今もまだ忙しいというのに、まだお仕事があるんですかっ!? ネロはこれ以上僕になにをさせる気なのっ!?」
ふるふると凄い勢いで首を横に振り、慌てて寂しくないと言い張る。いや、今さっき少しだけ寂しいと言ったばかりだったと思うのだが?
まあ、一応この言い分にはわたしも多少思うところがある。ネロは、自分が優秀を通り越した天才だという自覚が薄くはないか? ライカは既に、ネロに任された仕事でいっぱいいっぱいだぞ? シエロもシエロで、ネロには劣るが、普通の子供ではない。ライカは王族として教育されているので、通常の子供よりは多少聡いが、そのライカよりもお前達の方がかなり賢いぞ? そんな自分達を基準にしてもらっては困るのだが。
「……そうか。では、寂しい思いはしていないと手紙を出したらどうだ?」
「ハッ! そ、そうですね! これ以上お仕事が増えたら大変だし……僕、ネロとシエロに手紙を書いて来ます!」
と、ライカはパタパタと走って部屋を出て行った。
ネロとシエロの二人と交流させるようになって、ライカが子供らしい表情をよく見せるようになった。以前は、取り繕った貴族的な笑みや少し不満そうな……けれど、それを隠しての澄まし顔ばかり見ていた気がする。まあ、実は不満顔に気付いていたので、あまりわたしには隠せてはいないのだが。そう言った顔より、今の方が断然いい。
国を乱さぬようにする為、義務で産んだ子ではあるが……それでも、自分の腹で育て、痛めて産んだ我が子だ。可愛くないワケがない。
最近は少し余裕ができ、ライカと過ごせる時間が増え、ライカと言葉を交わすことが増えた。以前よりも、ライカから感じる頑なさや隔意が薄れたような気がする。わたしにも、柔らかい表情や油断した表情を見せてくれるようになった。
これも、ネロとシエロのお陰だな。
さて、新しい報告によると――――ネロが保護した商家の子供とその保護者達がそろそろ王都に着くそうだ。
隣国王太子に目を付けられた子供は、さすがに国で保護せねばならん。ネロの巡らせた策と……ククっ、股間を蹴られたことによる療養期間なども鑑みて、数年は表立って動くことができなくなるだろうが。それでも、水面下で、暗部などを使って誘拐でもされては堪ったものじゃない。
その辺りを、本人含め保護者に十分に理解してもらわねばならん。
商家の子供ということだが、かなりの美貌の子供だとの報告。
城で保護した方がいいのだろうな。
城へ置く名目は――――まあ、無難なところで王子の付き人見習いにする、と言ったところか。
接点の無いライカのところで保護するよりは、顔を見知っているであろうネロかシエロのところで保護させた方がいい、とは思うのだが……無論、あの二人が少年に無体な真似をするとは疑っていない。とは言え、なぁ……? いきなり突拍子もないこと……大概はかなり有益なことなのだが、を始めるネロとシエロだ。
二人の身近に置くことで、影響を受けてしまう少年の方が心配な気もする。
悩みどころかもしれん。
とりあえず、少年の方は保護。そして、その両親の方には商人としての観点からの聞き取り調査だな。場合によっては両親の方と懇意になる必要もある。
レーゲン派貴族領の住人ではあるが、ざっと調べたところによると、不正をしている気配は無し。まあ、急ぎで調べたこと故、情報に穴がある可能性もあるが。
さぁて、どのような情報が出て来るか……
ネロの構想のこともある。どれから手を付けるべきだろうか?
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