ギャンブルはある意味間違ってはいないと思いますよ?
「構いませんよ。こんな子供が責任者だなんて、普通はあり得ませんからね」
そう、アストレイヤ様ったらなかなかのギャンブラーなのよ! ま、あたしと蒼にベットしてくれたからには、そのご期待には存分に応える所存だけどねっ☆
「それは、そうなのですが……そうではなくて……」
「ンで、俺らがこの領地に入って今日で四日目な?」
ニヤニヤと笑いながら蒼が告げる。面白がってるわねー。
「四日っ!? わ、わたし達がして来たこと、が……たったの、四日で……」
がっくりと項垂れるシュアン。あら、よく見ると涙目。
ま、最短でも数ヶ月以上。下手すると数年は掛けたであろう仕込みが、たったの四日で全~部パーになったら、そりゃショックも受けるか。しかも、あんなふざけた……ある種、子供の嫌がらせ染みた作戦で、一生もんの代償……まさかの王太子が国際的に性犯罪者扱いされることになるなんてねー?
事実無根じゃないから厄介だし? 恥ずかし過ぎする上、捕縛されちゃ困るから気軽に国外出歩けなくなっちゃうものね!
フハハハハハハっ、うちの国に喧嘩売って来たことが運の尽きというものよ!
「ネロ様。夫人と子息達はどうしますか?」
チラリと撃沈しているシュアンを一瞥、執事さんがあたしに問い掛けた。
「夫人の関与について、領主はなんと?」
「真偽は不明ですが、『妻と子供達は、一切関与していない』、とのことです」
ま、領主がそう言ってるだけってこともあるわよねー?
「夫人に話を聞いてみましたか? そして、その感触は?」
「わたくし共の感触としては、夫人はおそらくなにも知らないかと。領主、子息達とは別室で軟禁していますが、大層不安がっておりました」
「そうですか……では、夫人と子息達への説明は……」
「領主のやったこと、報せるのか?」
蒼が口を挟んだ。
「いえ、それは……領主に選択させましょうか」
「なにを、でしょうか?」
「ギャンブルで巨額の借金を背負い、屋敷と爵位の差し押さえにあったことにするか。それとも国家転覆罪と横領罪、脱税を犯したことを正直に告げるか? の、二択を」
「ぅっわ、どっちもクズい感じだわー」
「ギャンブル、ですか?」
怪訝な顔をする執事さんに頷く。
「ええ、ギャンブルはある意味間違ってはいないと思いますよ? ほら、隣国の誘いに乗って一世一代の勝負に出て……見事に大負けした、とも取れる状況でしょう?」
しかも、隣国からしてみれば他国の一領主が捕まったところで大した痛手じゃない。むしろ、頭が痛くなるのはこっちの方だし。とは言え、今回クラウディオには思いっ切り痛手を負わせたけどねっ☆
「確かに」
「夫人には、離縁を勧めてみましょう。離縁して子息共々実家へ帰るか、それとも離縁せずに外国へ渡るか。それで、夫人の答えを領主へ教えてあげてください。夫人の選択を優先的に叶えましょう。領主がごねるようでしたら、『現実』と『代償』を突き付けてみましょうか」
ぶっちゃけ、横領や脱税してたら国に払ってない分の税金と、その期間分の超過税を請求するし。案外、屋敷と爵位を売ってでもお金作らなきゃいけないのは間違ってないと思うのよねー。
それに、子供に国家転覆罪を犯した領主の息子という汚名と莫大な借金を残すとか、親としてそれはかなり最低な所業だと思うし。『国家転覆罪及び横領、脱税の犯罪者』? or『大負け借金塗れのギャンブラー』? 家族に伝えるなら、どっちのがマシだって話よ。
国家転覆罪の犯罪者の身内って、結構大変だと思うのよねー。だって、国に監視されるのは当たり前。なんだったら、始末されても文句は言えない。どこぞの誰かに襲撃や暗殺されちゃうかも……なんて、常に緊張してなきゃいけない人生になっちゃいそう。絶対つらいに決まってる。
籍を抜いて他人になったところで、どこからか「あの犯罪者の身内よ」だとバレてひそひそ言われちゃうのよきっと。あたしなら、そんなストレスフルな生活、至極厭だわ。
「ぁ~、大負けして家も財産も家族も失うパターンなー? ま、自業自得なんだけどよ」
「ひとまず、聞いてみてください」
「かしこまりました」
と、スッと動く執事さん。
「さて、それじゃあ、帳簿を持って来てもらうか。それともわたし達が帳簿のある場所まで行くか。どうします? シエロ兄上」
「こちらへお持ちしますので、あまり動き回らないでください」
おおう、これはこの部屋から動くなってことね!
ま、あたしはこの視察の総責任者だし。蒼と共に王子という身分。人質に取ってワンチャン……なんて馬鹿なこと考えるような輩がいないとも限らない。
仕方ない。今は大人しくしておきましょう。
「では、急いでくださいね」
「かしこまりました」
「あ~あ、帳簿来たら休憩も終わりかー」
「ふふっ、がんばりましょうね」
「え? これ、休憩だったんですか? 捕虜への訊問だったのでは?」
ぱちぱちと瞬くグレン。
「え~? その捕虜も割と協力的だったし。今は撃沈してっからなぁ。大した労じゃないっつーか、むしろこっからが本番! って感じじゃね?」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。あ、手伝いたかったら手伝わせてやるぜ?」
「え、遠慮します」
ニヤリと蒼が笑うと、引き攣った顔で首を振るグレン。
それじゃ、あたしは今のうちにアストレイヤ様にお手紙でも書きますか。
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読んでくださり、ありがとうございました。




