ネロとシエロがいなくて寂しい……なんて、思う暇もない程忙しくなったっ!
視点変更。
ネロとシエロが視察旅行だと言って、城から出て行った。
僕は、置いて行かれた。
二人は仲良く旅行・・・
僕は、一人城でお留守番。
最近は、いつもシエロとネロかネリー……ネリーはネロが演じているそうだけど。の、三人で一緒にいることが多かったのに。
今日からは、前に戻ったみたいに一人だ。
最初は、ネロとシエロのことを警戒していた。
父上のお気に入りで、庶子なのに第二王子として扱われているシエロ。
側妃の子供で、神童だと名高いネロとネレイシアの双子。
異母兄妹で、きっと王位継承権を狙っているものだと疑っていた。
母上に取り入って、僕になにをさせるつもりなんだろう? って。
でも、二人は僕の想像とは全く違っていた。
シエロは、第二王子扱いされることを面倒がって……あんな、女の子みたいに可愛い顔をしているのに、結構口が悪い。
ネロは、神童だと言われていたのに、王族としての教育を全く受けていなくて、マナーも見苦しくない程度で微妙。いつもにこにこと楽しそうに、優しい顔で僕やシエロに話し掛ける人懐っこい子。普段は猫被りをしているようで、実はこっちも案外口が悪い。
ネレイシアは、僕のことをお兄様と呼んで慕ってくれる可愛い女の子。
僕は母上の命令で、そんな三人(本当は二人だったけど)に勉強を教えることになった。
シエロの方はともかく、ネロとネリーの方は歴史や地理がからっきし。全然勉強していないのがわかった。側妃と……父上の教育方針が悪くて、今まで本当に家庭教師が付けられていなかったのだと聞いた。
ただ、勉強を教えていると、頭は悪くない……ううん、むしろかなり頭が良い子達なのだと判った。本当に、なにも教えられていなかっただけなんだ、って。
ネロとネレイシアは僕よりも母上と仲が良さそうで、ちょっと複雑な気持ちになったけど……ネロとネレイシアは、側妃と仲が悪く、父上とも会ったことがないのだと聞いた。
それで、僕の母上に懐いている可哀想な子達だ、と。僕の侍従がそう言っていた。
シエロの方は、ネロとネレイシアよりは母上と仲良さそうには見えなかった。むしろ、ちょっと母上のことを苦手に思っていそうな感じ。
でも、大人の話し合いに付いて行けるくらい、シエロも頭が良い子なのだと気が付いた。
最初は、三人のことを嫌な子達だと思っていたのに。絶対に仲良くするつもりなんて無かったのに・・・いつの間にか、三人で一緒に過ごすことが楽しくなっていた。
シエロは口が悪くて、ネロとネレイシアはいつもにこにこして……偶に、とんでもない発言をして周囲を驚かせて――――
うん。本当に驚いたのは、ネロとシエロのあの発言だ。
自分達は王位継承権に興味は無い、と。父上を……クソ親父と言って、クソ親父をさっさと引き摺り下ろして、ライカ兄上に国王になれ、と。
そう言われて――――頭が真っ白になった。
二人の言ったことに、母上も最初は困惑して……そして、とっても楽しそうに笑っていた。僕は母上の、あんな楽しそうに笑う顔、初めて見た。
二人の言ったことは、なんとなくでしか理解できない。
でも、授業などで習っているから少しは判る。今の、僕達の国が正常ではないということが。おそらくは、このままの状況が続けば悪いことになるだろう……と。
それをどうにかしようと食い止めていたのが……僕のことを放ったらかして、興味が無いのだと思っていた母上だった。
王妃としての仕事に加え、国王代理としての仕事もこなし、父上が働かないことで不満を溜めている貴族達の調停までしているとネロが言った。
僕は、自分の寂しさや厳しくなって行く教育に対して不満を持っていただけで、母上がどんなことをしていたのか、父上がなにをしていなかったのか、全く知ろうとしていなかった。
一生懸命勉強していたら、いつか父上が認めてくれるかも・・・って、そう思っていたのに。そんなことが吹き飛ぶような衝撃。
ネロとシエロに言われて初めて、母上が担っていること。かなりの負担を強いられていたことに気が付いた。
シエロが側妃に何度も暗殺されそうになっていたことも、ネロとネレイシアが側妃宮で酷い待遇を受けていたことも知らないで・・・
母上と父上に構ってもらえなくて。僕のことを見てもらえなくて。寂しくて、悲しくて、不満で、怒って、勝手に期待して、失望して――――鬱屈していたことが、とても恥ずかしくなった。
僕の周りには、僕のことを大切にして守ってくれる人が沢山いる。
でも、シエロとネロには?
二人の境遇を知ったとき、「ライカ兄上」と僕に呼び掛けて笑顔を向けてくれる二人の気持ちがなんとなくわかった。二人もきっと、寂しかったんだって。
そう、思っていた時期が僕にもありました。
でも、うん・・・なんかこう、ネロとシエロと話しているうちに、そういうの全部吹っ飛んじゃったよっ!?
なにあの子? 頭良いというか、色々先読みし過ぎてちょっと怖いくらいだ。
母上も、ネロにはたじたじになっていることがある。
だから、僕がネロにびっくりしたりたじろいだりしても、なにもおかしくないよね?
ネロが言っていることは、僕にはまだ難しいことがある。でも、それをシエロも理解しているように思う。
母上が言っていた。おそらく、僕達異母兄弟の中で、一番普通なのが僕だって。ネロの頭が異様に良過ぎるせいで目立っていないけど、実はシエロの方もかなり頭が良いんだって。
少し、不公平だと思わないでもない。
でも・・・母上が言っていた。「あの二人は、周囲の環境が悪かったせいであんなに賢くなったのかもしれない」って。
二人には今まで、周囲に頼れる大人がいなかったから、自分で考えて自分を助けるしかなかったのかもしれない。そう考えると・・・
少し、悲しくなる。
だから、二人が僕よりも頭が良い子達だと知っていても。二人が僕のことを「ライカ兄上」って呼んで慕ってくれるから。
僕は・・・シエロとネロと、ネリーと仲の良い兄妹になろうって決めた。
なのに・・・
僕だけ、視察旅行に置いて行かれた。
許可を出したのは、母上だ。
今日から、二人が帰って来るまでは、以前のように一人で勉強をしなきゃいけない。
それが、なんだかすっごく寂しい――――
と、若干拗ねていた自覚はあった。でも・・・
『ライカ兄上へ。
シエロ兄上と視察旅行に行って来ます。
お留守番のライカ兄上が寂しくないようお土産を沢山贈るので、楽しみにしていてください』
と、そんな手紙と共に――――
大量のお土産が届き出した。
ネロとシエロが出発して、三日目から。お菓子やよくわからない食べ物やオモチャみたいなもの。
そして、一番びっくりしたのは、
「なんで知らない子供達が農園に届いてるのっ!? どっから来たのっ!?」
なにやらよくわからないけど、続々と子供や女性達がうちの農場へと届けられる。
『孤児院や救貧院で不遇な目に遭って来た方々です。
以前のように、うちで面倒を見てあげてください』
なんて、手紙が遅れて届いた。
びっくりしてあたふたしていたら、
「ライカ。ネロとシエロの視察の報告書だ。お前も読んでおけ」
と、母上から報告書を渡された。
父上の派閥の貴族領へ向かう道中で書かれたものらしい。
道路整備した方がいい。という記載から始まって――――
街道整備をするメリットとデメリット。ただ、街道整備には資金が掛かるけど、王都近郊を食料生産地にして他領や行く行くは外国に食料を輸出するときには確実にプラスになる、とのこと。
宿泊した町では国営の孤児院や救貧院を見て回り……報告書には、母上の使用人やネロの使用人達に施設を回るように指示したのはネロだと書かれていた。
そして、国営の孤児院や救貧院への予算が不当に横領されている可能性あり。施設の居住者への待遇の悪さ。更には、施設から人を買ったとの記載まである。
横領に加え、人身売買の容疑あり。至急調査をされたし、と。
ちなみに、施設の人を買い取ったのはネロのポケットマネーだとか。
なんかこう、本格的な視察だったっ!? しかも、まだ目的地に着いてさえいないのに、その道中で沢山不正の疑惑や証拠を集めてるよっ!!
ついでに、立ち寄った地域の美味しいものや珍しい民芸品などを作っている人で、買収……というか、うちにスカウトできそうな人リストまで送られて来たっ!?
大量のお土産は、そのスカウトしたい人リストに載っている人達が作ったものだとか。
ネロとシエロがいなくて寂しい……なんて、思う暇もない程忙しくなったっ!
以前に、「お前がネロを支えるという選択肢もある」って母上が言ってたけど。
なんかこう、全くネロに勝てる気がしない。
母上の言う通りにするのも、いいかもしれないなぁ・・・
と、大量に届く人や物資を捌きながら思ってしまった。
✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰⋆。:゜・*☽:゜・⋆。✰
読んでくださり、ありがとうございました。
蒼「ネロの優しい眼差しって、あれだろ? 腐女子がショタを見守る視線ってやつ。ライカめっちゃ騙されてんぞ」ヾ(・ω・;)ォィォィ
茜「だって、ライカってば可愛らしいぷにショタなんだもの♪」。:+((*´艸`))+:。




