ネロリン信者ってば、普通に身内も巻き込んで手伝わせてるのね。いいのかしら?
「仕事が早いですね。もっと時間が掛かるかと思っていました」
昨日の今日だし。
「ええ。偶々、休暇でこちらへ旅行に来ていたうちの使用人の手を借りましたので! 身内に絵の上手い者がいたようで、手伝って頂いたそうです!」
誉めて誉めて! という表情で応えたのは、ネロたんの侍女。
ああ、うん。偶々じゃないやつね? ま、手は多いに越したことはない。というか、ネロリン信者ってば、普通に身内も巻き込んで手伝わせてるのね。いいのかしら? ああ、でも……
「そうですか。では、手伝って頂いた方には特別手当てを用意してあげてくださいね。無償は駄目ですよ? 費用は、わたしのポケットマネーから出しておいてください」
対価が発生するならOKでしょ。
「では後で、アストレイヤ様の方へ費用申請をしておきます」
どうやら経費で落としてくれるようだ。ラッキー♪
「ありがとうございます。では、仕上がったという似顔絵を、模写が得意な方に量産してもらってください。地元の画家を複数使っても構いません。支払いは枚数に応じた出来高制で。仕上がりをチェックして、クオリティが低い絵には払わなくて結構です。ついでに、心配性な貴族夫人が発注した、と。そして……『外国人が見目麗しい子供を連れ去ろうと狙っている。子供がいる家は気を付けろ』という話と共に、『子供に声を掛けていた怪しい外国人の似顔絵』を警邏隊へ垂れ込んでください」
「『子供の連れ去り』の噂の方は、昨夜のうちに町で広めるよう取り掛かっています」
「そうですか。では、もう一つ有益な情報を。既に知っていたら少々お恥ずかしいのですが……」
「なんですか? ネロ様」
「個人の識別に、耳の形を用いるという話を聞いたことはありますか?」
「耳を、ですか?」
不思議そうな顔をする執事さん。
「ええ。耳の形は、人それぞれ個性があります。変装やお化粧で顔の印象はある程度変えられますが、耳の形はなかなか変えられるものではありませんからね。絶対ではありませんが、間諜などを見分けるのに役立つ情報かと」
どこぞの国のスパイは、他人に成りすますときに耳でバレないよう、耳も整形するのだとか。身バレすると困る逃亡犯や犯罪者などもやってたりするらしい。ちょっと闇が深い。
ま、柔道やレスリングなど寝技のある格闘技を何年もやっていると、何度も床に擦られて耳が変形するらしいけど。さすがに、この国周辺で柔道やレスリングをやっている人はなかなかいないだろう。そもそも、レスリングは存在するかどうかだし?
「大変有益な情報、ありがとうございます。では早速、似顔絵に耳の形も描き加えるよう指令を出すことにします」
「ああ、耳の形込みの似顔絵は我が国の関所のみで配布をするようにしてください。わざわざ、こちらがどういう風に識別しているかを教えてあげる必要はありませんからね」
「了解しました」
うむ。こっちに来ているクラウディオの耳の形が、いずれ公式な場で出会うかもしれないクラウディオと違っていたら、どちらかが影武者ということだ。
こっちに来ているのが影武者の方だったら……影武者のクセに、美少年と浮気? 三昧をしているなら、とんだ強心臓な奴ではあるけどね!
大穴で、実はクラウディオは元々一卵性の双子で、その片方が影武者をしている。影武者の方は、積年の恨みかなにかでクラウディオの評判を落としたい……という可能性もなくはない。
な~んてね。それどんな物語の主人公よ? って感じではあるけど。ま、これは無いわよねー? どっちみち、クラウディオ(仮)がうちの国の美少年を毒牙に掛けたことは変わりない。
どんな事情があろうと、浮気や遊びで美少年を弄ぶ行為は許すまじっ! あ、無論女の子……いや、老若男女関係無く、他人のこと弄んでポイ捨てするクソな奴は地獄に堕ちろっ!! なんだけどね?
「ああ、ちなみにですが。この耳の形は、親子で遺伝することも多いそうです。顔や容姿が似ていない親子の場合でも、耳の形がそっくりだったということはあるようなので。髪や瞳の色、顔の造作で親子関係を推測するよりも、結構信憑性があると思いますよ? 相続関係でよく揉めるお仕事の部署に教えてあげてください。お家乗っ取りの防止に、少しは役立つと思います」
「直ちに、アストレイヤ様へ連絡致します」
と、慌ただしく動く執事さん。
ふむ……やっぱり、面倒なあれこれがあるらしい。
ま、個人の識別法が広まっちゃう可能性が高くなるけど。継承権どうこうで、不当な目に遭う人が減るのはいいことよねー。
さて、当面の指示は出したし、あたしにできることは大してない。
せいぜい、無邪気な振りした情報収集くらいなもの。
というワケで……もう一遊びして来ますか!
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
読んでくださり、ありがとうございました。




