散々人の警戒心煽っといて遊ぶのかよっ!!
「ふむ……」
「どうかしたん?」
町に繰り出し、ケーキ屋さんへ行ったり屋台を冷やかして、買い食いやら雑貨屋さんを巡ってお土産を購入し、あちこち楽しみながら見ていて――――
『ねぇ、気付いた?』
小さく蒼に問い掛けると、
『あん? なににだよ?』
胡乱げな返し。
『多分、誰かいる』
『は? 誰かってなんだよ?』
『誰かは知らないけど、多分どこぞのお偉いさんがこの町に来てると思う』
『……それ、まさに俺らじゃねーの?』
『ううん。違う。というか、こっちは視察目的だし。ぶっちゃけ、護衛は少数精鋭で少ないのよ。でも、町中に、あたし達の護衛とは違う……訓練を受けたような人達が点在している気がする』
そう。服装は町人風だけど、お城に駐在している衛兵のような……人達が、ちらほら歩いている。
『マジで?』
クソアマがいつ癇癪起こすかって、ピリピリしていた使用人達をずっと見て来たからかしら? 平静を装いながらも、どこか警戒している人を見分けるの、割と鼻が利くのよねー。
『うん。ちょっと聞いてみる』
と、アストレイヤ様の付けてくれた執事のおじさまにちょいちょいと手招きして屈んでもらう。
「誰か、いますよね? この町」
そう聞くと、微妙そうな顔で頷かれた。
「はい。おそらくは、護衛の必要などこかの組織の重鎮がお忍びで来ている可能性が高いと思われます」
「それが誰だか、知っていたりします?」
「いいえ。申し訳ありませんが、わたくし共も把握しておりません」
という、返答。若干の警戒が含まれることから、多分本当に知らないのかもしれない。こちらが把握できていない人物の、予定に無いお忍び。
ま、こっちも某要人のことは言えないけどね?
『なんだって?』
『どこの誰かは不明。でも、多分どこぞのお偉いさんがいることは確実みたい』
『マジかよ……』
『うん。そして、おそらくはあたし達の味方じゃない可能性の方が高い』
『ぁ~……だよなぁ。つか、元々味方のが少ないからしゃーねぇわな』
『まさにそれね。というワケで、警戒が必要よ』
『わかった。グレンには言うん?』
『ん~……どうしようかしら? 一応、あたし達側に付くという話ではあるけど。まだ子供だし。特になにかができるワケでもないもの。あたし的に、ストーカー予備軍ショタは利敵行為をしなければ、こっち側にいてもいいっていうスタンスなのよねー?』
このストーカー予備軍ショタが、完全にあたし達側に身を置くという断言はできないし。家族の柵やらなにやらで、やっぱりクソ親父ことレーゲンの方を裏切れない……ということだってある。その場合、グレンを積極的に排除や始末! ということはしないとしても。段々とフェードアウトさせて、重要なことはなに一つ教えないつもりだ。
なるべくなら子供に非道なことはしたくないので、せいぜいニセ情報をリークさせる為の要員として使うくらいしか、思い浮かばない。
『ねーちゃん、なにげに辛辣なのな』
『だって、子供ってすぐに意見がころころ変わるものでしょ? 親や周囲の環境だって、自分で決められるワケじゃないもの』
それに、むしろBLを拒否っている蒼には、攻略対象であり、レーゲンの手先でもあるストーカー予備軍ショタは、仮想敵なことを判っているのかしら?
『そりゃそうだけど。でもさ、ねーちゃん』
『つか、アンタ判ってんの?』
『なにがだよ?』
『あたし達の情報をクソ親父側へ流す行為は無論アウト。スパイ行為禁止。シエロたんとクソ親父との仲を取り持とうとするのもアウト。ま、アンタがBL的な意味で仲良くしたいってなら、別だけどね?』
『誰が仲良くするかっ!』
心底厭そうに吐き捨てる蒼。
『アンタを連れ去るのもアウト。無論。騙されてやった、子供だから、という言い訳は通らないわ』
『俺が、怪しい輩にほいほい付いてくワケねーだろ』
ギロリと不機嫌に見返す水色の瞳。
『子供同士の体格差だって、甘く見ちゃいけないのよ? 小さいうちは、一つ二つの差でも大きいものよ。それに、顔見知りの場合は? アンタの乳母だってクソ親父サイドじゃない。寝てる間にどこぞに運ばれていた、っていう誘拐だってあるのよ? 気を許している相手に誘拐されるって、結構多いパターンなのよ? 子供の連れ去りで一番多いのは、事情があって離れて暮らしている側の親や、その親族だったってオチなんだから』
『うっ……そ、それは』
『ま、その辺りの外的要因は幾ら自分が気を付けていてもどうしようもないことだってあるから、追々対策を考えるとして。とりあえずのところは……』
『とりあえず、なんだよ?』
『ちょっと警戒しつつ、普通に満喫しましょう♪』
『は? や、散々人の警戒心煽っといて遊ぶのかよっ!!』
『あら、警戒心を忘れたまま遊んで、気付いたらヤバい状況に陥っててどうしよう大ピーンチっ!? ってのがよかったかしら?』
『そうじゃなくてさ!』
『いずれにしても、視察することは決定だし。下手にこっちが警戒心剥き出し状態で行動しようものなら、お忍びの意味が無いじゃない。適度な緊張感を持ちつつ、この領地の人や、ここに来ているであろうどこぞのお偉いさんに怪しまれないよう、あちこちを探るって感じかしら?』
『……わかった』
『わかれば宜しい』
と、そんなことをひそひそ話していると、
「ご相談は終わりましたか?」
おじさま執事の質問。
どうやら、あたし達の方針が決まるのを待っていてくれたらしい。
「ええ。このまま予定通りにあちこち見て回りましょう。下手に警戒して、向こうの方に悟られるのも悪手だと思うので。では、まずは高級レストランにでも向かいましょうか」
「了解致しました」
「え? まだ食う気なん? しかも、高級なとこ?」
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