で、女装と男装どっちにします?
「さて、まずは観光と行きますか♪でも、その前に……」
「その前に? なんだ、ネロ」
「変装してあちこち回りましょう!」
「え? ネロ様?」
「ぁ~……ま、変装は妥当かもな。登城できる奴がいたら、俺らの特徴からすぐに身バレしそうだし」
「で、女装と男装どっちにします?」
納得したように頷く蒼に質問をすると、
「は? 俺が女装するワケねぇだろっ!」
即行拒否された。
「ネロ様? なにか言いましたか?」
「いいえ? なんでもありませんよ? では、グレンさんが女装します?」
「な、なんでそうなるんですかっ!? 第一、俺は見習いとはいえ護衛ですよ! 動き難い格好なんてできません!」
「そうですか? スカートって、意外に小物を隠せる場所が多いと思いますよ?」
スカートの中なんて、確認しようとする奴は普通に通報案件だし。女スパイだとか、どこぞのセクシー女泥棒だとかが、服の下に色々隠し捲ってるし。
「え? ね、ネロ様? その言い方だと、まるで……」
「ああ、実はわたし。偶にネリーと入れ替わって遊んでいるので」
「な、それ、言っていいやつ?」
「え? シエロ様? もしかして、シエロ様も知っていたんですかっ!?」
「んあ? まあな」
知っていたもなにも、元々ネロたんとネリーちゃんは同一人物ですからねっ☆
「ふふっ、内緒ですよ? グレンお兄様♪」
しーと人差し指を立ててあざとく上目使いで見上げると、
「ね、ネレイシア様っ!?」
顔を真っ赤にして慌てるグレン。
「いえ、ネロです」
「おい、あんまからかってやるなって。で、女装すんの?」
「まぁ、同性同士で回るより、男女でなら色々なところへ行っても不自然ではないですからね。男の子のワガママ、そして女の子のワガママをフルに活用しましょう」
「わかった」
「では、わたしは女装して来ます。シエロ兄上とグレンさんも変装をお願いしますね」
「へ? 俺もですか?」
「ええ。商家の子供という設定で、グレンさんが長男。シエロ兄上が次男。わたしが末っ子の妹ということにしておきましょうか。シエロ兄上の髪色は目立ちますからね」
「確かになー。若白髪って言い張るには若過ぎるしなぁ」
思案げに前髪を摘む蒼に、
「シエロ様は綺麗な銀髪ですよっ! それに、若いもなにもまだ子供でしょうに!」
ツッコミを入れるグレン。
「というワケで、よくいる茶髪辺りのカツラを被ってください。お揃いの髪色にすれば、それなりに兄妹に見える筈です」
「やー、顔の系統違い過ぎて兄妹には見えなくね?」
「その辺りをつっこまれたら、素直に『全員母親が違うので』……と、悲しげな顔で言いましょう。普通の人なら、それ以上のことは遠慮して聞くのをやめる筈です」
「ま、間違ってはねぇな」
「では、また後程」
と、蒼とグレンと分かれ、別の……ネリーちゃんの荷物を積んである馬車に侍女と一緒に乗り込み――――商家のお嬢さん風のワンピースに着替えた。
「おー、バッチリ女装だな」
「ネレイシア様……とも、また違う感じですね」
先に着替え終わって、茶髪のカツラを被っていた二人があたしを見やる。
「ふふっ、お待たせしました」
「髪どうしたん?」
「ああ、付け毛の付いた帽子の中に突っ込んであります」
ネロたんの潤艶ロングなサラサラ黒髪(ネロたんのときは首の後ろで一つ括り)は、まとめて帽子の中に入れて、茶髪の付け毛を帽子から垂らしている。パッと見、茶髪ロングで帽子を被った美幼女にしか見えないことだろう。
「あれ? そばかすが……」
と、不思議そうにあたしを見下ろすグレン。
「ああ、変装ですからね。お化粧です」
ふっ、こんなものでネリーちゃんの美貌は全く翳らないけどね!
「お、いいなそれ。俺も描いてみるか」
「いいよ。それじゃあ……」
「ネロ様、どうぞ」
と、侍女の差し出した眉墨用のペンシルでちょんちょんとシエロたんの柔らかツヤツヤ卵肌にそばかすを散らす。
「ついでに、眉も染めようか?」
「おう、頼む」
銀色の眉毛に茶色を乗せる。ああ、勿体無い。でも……
「更に、野暮ったい黒縁眼鏡でも掛ければ……」
「どうぞ、お使いくださいシエロ様」
「ああ、ありがとな」
侍女の差し出した変装用黒縁伊達眼鏡を掛けるシエロたん。
「どうだ?」
「うん。良い感じにもっさりしたわねー」
これぞ、リアル『眼鏡を取ると美形キャラ』ね! ここまでしないと、シエロたんの愛らしさは隠せないということだ。無論、どんなに隠して変装していたって、あたしくらいになると、絶対にシエロたんを見破る自信があるけどね! 推し愛の力とかで!
「も、もっさり……って、ネロ様?」
「なぁに? グレンお兄様」
「や、やっぱりネレイシア様ですかっ!?」
「いえ、ネロですけど。念の為呼び名を変えましょう。わたしのことは……レイシーにでもしておきましょうか」
「真ん中取った感じか」
「別にリーとか、シアでもいいけどね? シエロ兄上は?」
「んじゃ、適当にシェンで。グレンは?」
「え? 俺、ですか?」
「まあ、決め難いならそのままか、いっそ名前を呼ばないでお兄様呼びで通すという手もありますけどね」
「し、シエロ様が決めてください!」
「別にいいけどよ。んじゃ、グレインな」
「おお、一文字入れるだけでなんか違う雰囲気になったわねー」
「適当な感じでいいだろ。な、グレイン」
「え? あ、はい。なんでしょう? シエロ様」
「お前、その呼び方と喋り方なんとかしろ」
「あ……す、すみません。シェン様?」
「だから、そこは呼び捨てにすべきだろうが? 兄貴よ」
「あ、兄貴……ですか」
「これは……わたしもシエロ兄上に倣って、グレイン兄貴っ! に、しとくべき?」
舎弟が兄貴を呼ぶ感じのノリとイントネーションで。
「それはやめてくださいっ!」
なぜか嫌がるグレン。
「え~、それじゃあ、グレイン兄さん、シェン兄さん辺り?」
「ネロの兄貴呼びか、それはそれで面白そうなんだけどなぁ」
「ねー?」
「ネロ様には似合いませんから!」
「そこは、ネロじゃなくてレイシーだろ」
「あ……そ、そうでしたね。シェン……と、レイシー……シェンとレイシー」
と、ぎこちないグレンを長男役。そして伸び伸びとしたシエロたんこと蒼を次男。末っ子妹をあたしとして、領地視察を開始!
♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫
読んでくださり、ありがとうございました。
ネロ(茜)「グレイン兄貴ィ!」(Ψ°∀°)Ψグヘヘ
グレン「や、やめてください! ネロ様には似合いませんからっ!?」( ̄□ ̄;)!!
シエロ(蒼)「面白いのに。なー?」(*`艸´)
ネロ(茜)「ねー?」ꉂ(ˊᗜˋ*)




