『うちのお母さんったら、ヒス女で大変なのよ!』的な話。
「……ネロは、どれだけ本を読んだの?」
「そうですねー? 母が、癇癪を起こしてる間中ですかねー? 使用人達に怪我させないよう退避させて、彼らへ八つ当たりをできなくしたら、わたしに罵詈雑言を喚き散らすようになりましたから。至極五月蠅いので、母がぐったりするまで数時間存分に喚かせて。その間は、母を完全無視してずっと本を読んでました」
「うっわ、なんか思ってたより酷いな! それ、本当に大丈夫だったのかよ?」
「まあ、馬鹿なりに。わたしになにかあると側妃の地位が揺らぐという打算はあったらしいから。怪我をさせられたことはそんなにないよ」
「そんなに、ってことは、何度か怪我をさせられたことがあるってことだよな? ネロ」
じっとりと視線を向ける蒼。
「まあ、あの人、近くにある物を手当たり次第に投げるから。偶~にどっか掠ったくらい? 直撃したことはないよ。使用人達が、熱湯を掛けられたり陶器やガラス、アクセサリーを投げ付けられて大怪我したのに比べれば、全然大した怪我じゃないし。あの人の癇癪が治まった後、使用人達が大袈裟に手当てしてくれたから。全く痕も残ってないよ」
ネロたんのツヤツヤ玉のお肌はちゃ~んと無事よ☆
「え? ネロ……? どういう、こと……なの?」
「どういう、と言われても……母は元々、クソ親父によくは思われていなかった。それを、シエロ兄上のお母様を実家方の養子に迎え、貴族籍を用意するという条件で、無理矢理側妃の座に収まった人ですからね。逆を言えば、嫌いな女をクソ親父の寵姫とする手伝いをしたんです。そうまでして側妃になったのに、母はクソ親父に気を遣われるどころか、疎まれていた。わたし達を身籠ったことが発覚するなり、あからさまに無視されるようになったそうです。けれどそのことが認められず、シエロ兄上のお母様を恨み、わたしより先に生まれたシエロ兄上をずっと恨んでいる。そして、シエロ兄上よりも先に生まれなかったわたしとネレイシアを疎んでいるワケです。なにもかもが気に食わなくて、常に苛々している厄介な人ですね」
人生なにが楽しいのかしら? 理解に苦しむわ~。
「お前、そんなことまで知っていたのか……」
溜め息と共に落ちるハスキーな声。
「調べましたから」
【愛シエ】の舞台裏は、さすがヤンデレスキー御用達のゲーム世界と言ったところ。男女間も、普通にどろどろだった。ま、王族なんてそんなものと言われれば、こんなものかもしれないけど。
物語を楽しむなら、キャラクター達の生い立ちが少々過酷でも……『こんなことがあったのねっ、だからこの子はこうなったのねっ!?』で済むかもしれないけど。さすがに、自分がその立場になると、ちょっとばかりハードよねー?
あたし一人なら、それでも少しは楽しんだかもしれない。けど、残念ながら……それとも、嬉しいことに? あたしは独りじゃない。最推しであるシエロたん♡こと、手の掛かる可愛い蒼がいる。守るものがあるお姉ちゃんとしては、骨が折れるわ。全然、嫌じゃないけど♪
「なん、で……そんなに平然としてるの?」
ショックを受けたようにあたしを見詰めるライカ。
「なんでって、わたしが生まれたときから母はああでしたから。わたしは、それ以外の環境を知りません」
ネロとしては、だけどね? 茜としては――――両親が事故で亡くなるまで、確りと愛されて育まれたという自覚がある。だからこそ、血縁上の父母であるあのクソ女とクソ親父を、母親、父親としては認めてないワケだけど。
「お母様であるアストレイヤ様と、穏やかにお話ができるライカ兄上が羨ましいです。わたしは、母と話し合いをしたことがありませんので」
ふっふ~ん、どうよ? 『うちのお母さんったら、ヒス女で大変なのよ!』的な話。まぁ、アレだ。ライカがクソ親父に可愛がられない、アストレイヤ様が忙しくて構ってくれない、なのに厳しい教育ばかり課せられる……という不満やら鬱憤が積み重なって鬱屈して行った結果。素直で可愛らしいぷにショタから鬼畜ヤンデレになるというのなら、ネロたんのこの家庭環境を聞かせて、下には下がいるということを知ってもらおうじゃないの!
ちなみに、ネロたんはこ~んなやべぇ環境でも、グレずに立派に育って来たもんね! ま、ネロたんがそうだったからと言って、ライカにまで同じことを要求するつもりはない。グレたり、拗ねたりしてもいい。けど、ちょっとでも鬼畜ヤンデレ化を食い止めることができたらいいなぁとは思う。
「あ……その、えっと、ネロ! 母上でよければ、もっとお話する?」
「ふふっ、ありがとうございます。でも、そうですね……わたしは、ライカ兄上がアストレイヤ様と仲良くされている姿を見るのが好きなんです」
「え? 僕と母上……仲、いいの?」
読んでくださり、ありがとうございました。




