小さな両手を差し出すネロ殿下に・・・ズッキューンっ!! と、心臓を撃ち抜かれた気分ですわっ!?
視点変更。
少しの頭痛と、沢山眠った満足感と倦怠感に包まれながらぼんやりと目を覚ますと――――
「サファイラーっ!? ネロ王子殿下から言伝が届いたぞーっ!?」
お父様の慌てた声がして、一気に覚醒しました。
最速で身支度をし、見られる格好で部屋を出ると、シンプルだけど可愛らしい封筒に入ったお手紙が渡されました。
『サファイラ嬢へ。
本日は町でお忍びのお買い物を楽しみましょう。
服装は、裕福な平民が着るような楽な格好で。
十四時にお迎えに上がります。
ネロより』
しなやかな文字で書かれたお手紙を読んで、
「今何時ですか~っ!?」
慌てて時間を確認しました。外はもう日が高いです! 明るいです! 眩しいです!
時計は、十一時過ぎを指していました。
「思いっ切り寝過ごしましたっ!? い、いえ、今から準備すれば間に合いますよねっ!?」
そんなこんなで、侍女達と慌てて出掛ける準備を整えました。
寝過ごすだなんて、クラウディオ殿下の婚約者に決まってからは一度もありませんでしたのにっ!?
本当に子供の頃以来。ああもうっ、昨日からずっと……泣いてしまって自分で感情のコントロールができなかったり、今日は寝坊したりと、子供の頃にしかしていないやらかしばかりをしていますね。本当にお恥ずかしい限りですわ!
と、バタバタしながらも十四時までにはなんとか支度を終えました。昨日に引き続き、侍女達には感謝です。
時間通りに、「お客様がお見えです」とホテル従業員が知らせてくれました。そして――――
「こんにちは、サファイラお姉様」
にこにこと可愛らしい笑顔……というか、昨日に続いて今日も随分とお可愛らしいワンピース姿でご挨拶をする女の子に、
「ね、ネロ殿下っ!?」
お父様が驚愕の声を上げました。
「ふふっ、公爵様? 初めまして、今日のわたしは裕福な商家の末っ子レイシーちゃんです。ちなみに、こちらがレイシーちゃんのお兄ちゃんのシェン君です」
にこりと、お父様へ変装中だと告げるネロ殿下。髪色やそばかすなど、見た目は昨日と少々変わっておりますが、高く澄んだお声は一緒です。髪の毛はウィッグでしょうか?
そして、そのネロ殿下のお隣にいた男の子が口を開きます。
「はじめまして。レイシーの兄のシェンです。本日は、妹がどうしてもサファイラ嬢と出掛けたいと無理を言いました。もし俺の同行が嫌でしたら、断ってくれて構いません」
にこりとわたくしへ柔らかく微笑む水色の瞳。ネロ殿下の兄君ということは、こちらの方はシエロ殿下ということでしょうか?
「いえ、お気遣いなく」
見れば、ネロ殿下と同じか少し上くらいの年頃のようです。幾ら王子殿下とは言え、お気を遣わせてしまって情けなく思います。
「両殿下共、このような格好で失礼致します」
と、少々渋いお顔でお二人をネロ殿下とシエロ殿下であると示すのはウェイバー様。
「本日は……ネロ殿下たってのご希望で、サファイラ様と町でお買い物をしたいとのことです。故に、このような変装をしております。ご理解くださいませ」
「な、成る程。そういうことでありましたか……」
焦ったようなお顔で頷くお父様。
「無論、町中には近衛騎士が配備されており、サファイラ様の安全には最大限配慮させて頂きます。使用人として連れ歩く方々も、侍女に扮した女性騎士なのでご安心を」
「うちの護衛は優秀ですからね。ご安心を。まあ、いざとなったらシュアンが身体を張ってサファイラ嬢をお守りするので大丈夫です」
ふふんと胸を張るネロ殿下。
「勝手に安請け合いをされても困るのですが……」
はぁ、と落ちる溜め息。
「え? あ、その、ウェイバー様は文官で……それに、現在はネロ殿下のご側近でいらっしゃるのでは?」
「ああ、シュアンはわたしの側近になるに当たり、わたしの護衛に鍛えられていますから」
「え? ウェイバー様、が……?」
「不本意ながら。『ネロ殿下の下で働くならば、自分で自衛できるくらいにはならないと、傍に置いてはおけない』と護衛の方に言われてしまいまして。一応、この数ヶ月で護身術の及第点を頂きました」
ああ、道理で……昨日は久々にお会いして、ウェイバー様は以前よりも健康的で逞しくなったと思ったのはお身体を鍛えていらしたからなのですね。納得です。
「ということですので、ご安心を」
「いえ、その、ウェイバー様がネロ殿下のご側近になられたのでしたら、最優先すべきはネロ殿下の御身ではないのですか?」
「ああ、その辺りは大丈夫です。わたしの護衛は優秀なので。シュアンがわたしを守るような事態にはそうそうさせませんよ。ということで、翻って、サファイラ嬢の身の安全も保証します」
「そうですね。シュアンより……本日連れている女性騎士達の方が断然強いので、大丈夫だと思いますよ?」
にこりとネロ殿下のお言葉を肯定するシエロ殿下。
「・・・実際にその通りなのでご安心を」
どこかむすりとしたお顔のウェイバー様。本当に、以前よりも表情が豊かになって楽しそうですわね。
「では、公爵様。サファイラお姉様とお出掛けに行っても宜しいでしょうか?」
にこりとお父様を見上げるネロ殿下。
「ハッ、では本日は娘を宜しくお願い致します」
「さて、公爵様の許可も頂きましたし、早速お出掛けしましょう♪あの、手を繋いでも宜しいでしょうか? サファイラお姉様♡」
きゅるんとした上目遣いでこてんと首を傾げながら、小さな両手を差し出すネロ殿下に・・・ズッキューンっ!! と、心臓を撃ち抜かれた気分ですわっ!?
なんでしょうかっ、この可愛さはっ!?
気が付くと、わたくしはネロ殿下の柔らかくて温かい小さなおててに手を握られて引っ張られていました。
引っ張られていると言っても、痛いことはなく、強引さもなく、どちらかというと、甘えられているような手の繋ぎ方です。
ああ、どうしたことでしょう? なんだか先程から……胸がきゅんきゅんして止まりませんわっ!?
これが、あのウェイバー様を虜にしているネロ殿下の魅力ということでしょうか?
読んでくださり、ありがとうございました。
お久し振りですみません。体調崩してるのとリアルのバタバタが重なってます。なので、次の話も書けたら更新になります。(´-ω-)人