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まだ十にも満たない、子供らしく高い声がクスクスと穏やかに笑いながら、とても痛烈な皮肉を言う。

 視点変更。


 交易の締結は、驚く程に順調だった。


 いや、交渉相手が王子殿下とは言え、年端も行かぬ子供二人であったことにも少々驚いて……アストレイヤ王妃殿下の名代であろうと思った。


 クラウディオ殿下の側近になる前から優秀と名高いウェイバー殿も交渉の場におり、この短期間でよくぞアストレイヤ王妃殿下の信頼を勝ち取ったものだと、感心すらした。


 早速、シュアン・ウェイバー殿を相手に交渉をしようとしたら……にっこりと微笑んだ愛らしい笑顔で、


「ふふっ、お手紙では何度かやり取りしていますが、直接お会いするのは初めまして。どこぞの犯罪者似の元王太子との婚約は無事解消されたようですね。その後、お嬢さんは元気にしていますか?」


 真っ直ぐにわたしを見上げた紫紺の瞳に驚愕した。文通相手は、高貴な貴族女性……もしかすると、アストレイヤ王妃殿下という風に思っていた。


 しかし、これは……本当に、ネロ殿下がわたしの文通相手(・・・・)なのか?


「公爵閣下。本日の閣下の交渉相手はわたしではなく、我が主であるネロ様とその兄君のシエロ王子殿下です。このお二人は見た目は幼いのですが、舐めて掛かると非常に痛い目に遭います。クラウディオ殿下のように」


 ウェイバー殿の真剣な表情の忠告。


「公爵閣下。非常に信じ難いこととは存じますが、クラウディオ殿下を陥れたのは、こちらのネロ様です」

「ふふっ、陥れたとはまた人聞きが悪いですねぇ? わたしは単に、我が国で傍若無人に振る舞う犯罪者集団の似顔絵を手配して、『このような国を跨いだ犯罪者集団がいますよ?』と、周辺諸国にも気を付けた方がいい、と周知させたまでのこと。どこぞの王太子……いえ、元王太子でしたっけ? と、その犯罪者の顔が似ていただけなのでしょう? ほら、王族はその国の顔であり看板ですからね。その()と似た顔の犯罪者がいるなら、さっさと捕まえて、看板に泥を塗られる前に然るべき罰を与えた方がいいでしょう? 違いますか?」


 まだ十にも満たない、子供らしく高い声がクスクスと穏やかに笑いながら、とても痛烈な皮肉を言う。遠回しに、『うちの国で好き勝手なことした輩を犯罪者として追い払っただけ。当然、そちらの元王太子の不始末に然るべき罰はあるのだろうな?』という風に聞こえる。


 ウェイバー殿の言う通り、見た目の愛らしさに騙されると大変な目に遭うところであった。なにより……我が国のクラウディオ(元王太子)の野郎、なにしてくれとんじゃっ!? と、今すぐ大声で問い詰めたい衝動に駆られる。それくらいの居た堪れなさ。


「それにシュアン、間違えてはいけませんよ? そちらのお国からの正式回答は、『クラウディオ元王太子殿下とよく似た犯罪者』なのだそうですからね」

「ああ、そういうこと(・・・・・・)になっておりましたね。失礼しました」


 しれっとした顔で、クラウディオ殿下のことを流すウェイバー殿。国王陛下に乞われ、クラウディオ殿下の側近になり……結果、性犯罪者という汚名を着せられて主であったクラウディオ殿下に身代わりとして見捨てられ、葬儀まで挙げられて死んだ者とされた心中は如何ばかりか。


 その澄ました表情からは読み取れない。まあ、一つ言えるとすれば。そのような扱いをしたクラウディオ殿下のことをウェイバー殿が見限ったとしても、なんら不思議は無い。


 我が国で死んだ者とされたウェイバー殿はこちらの国へ亡命し――――新な主としてネロ殿下を選んだということなのだろう。


 ウェイバー殿程の人材が勿体無いと思う反面、我が娘同様にクラウディオ殿下に理不尽な目に遭わされたウェイバー殿が無事であることにほっとする。


「では、雑談はこれくらいにして。早速交渉を始めましょうか?」


 と、笑顔で交渉が開始された。


 渡された資料、そしてサンプルだという食品、加工品が試食としてテーブルに載せられる。


「現在、そちらの公爵領と貿易を考えている食品類とその加工品の一部です」


 加工前の小麦、精製した小麦粉。果物、ドライフルーツ、ジャム。そして、それらを使用したというパンや焼き菓子。


「どうぞ、味見(・・)はご自由になさってください」


 とのウェイバー殿の言葉で、控えていた執事が毒見(・・)をして確認。


 ドライフルーツはそのままではわたしには甘かったが、酒に漬け込んで焼き菓子に混ぜてあるものは美味しかった。酒によく合いそうだ。また、保存が利く為に非常食として備蓄するのもいいのだとか。


 そして、保存食は定期的に品質チェックをして、傷む前に備蓄品を安く売ったり、そうでなければ思い切って孤児院や救貧院などに無料で配り、新しい保存食を購入した方がいいのだという。いざというときに古い食糧を食べて食中毒を起こしてしまい、動けなくなってしまっては元も子もない。


 そうやって食糧を領民に回せば餓死者が減り、感謝されて領主の人気も上がり、生産者や経済も潤うのだという。これは……保存食を定期的に我が領へ売り付ける気満々だな? この年にして、もうこんなに営業が上手いとは。


 それに、この幼さにして既に視点が為政者としてのものでもある。


 本当に……末恐ろしい王子殿下だ。しかし、この優秀さではこれから先大変な苦労をすることだろう。他国の王位継承権にどうこう言う気は更々無いが……この優秀さで、第三王子とされているというのだから驚きだ。


 いや、優秀過ぎるが故に、継承権を下げる為に側妃の子でありながらも第三(・・)王子とされているのだろうか? そして、今回はネロ王子殿下の添え物だと思っていた、妾妃の子でありながら第二(・・)王子とされているシエロ王子殿下も、実はかなり優秀だと気付かされた。


 気を引き締め、王子殿下方とウェイバー殿の説明を聞き――――


 それはそれはスムーズに交易の締結が成ってしまった。


 まあ、我が領はサファイラの婚約白紙撤回の件で、十年分の税金優遇措置を捥ぎ取っているからな。ぶっちゃけ、国に献上する分の税金を暫くは棚上げできる。


 国内の王侯貴族同士で取り引きする方が、足の引っ張り合いが面倒な程。


 そして、予定よりも交易締結が早くなった為、時間が余った。


「ふふっ、お話がスムーズに進んだので、まだ時間がありますね」

「そうですな」

「というワケで、少々わたしとプライベートなお話をしませんか? お手紙でも書いたように、わたし。お嬢さんの元気なお姿を見たいんです。できるなら、お茶でもしてみたいのですが宜しいでしょうか?」


 にこりと、ネロ王子殿下がわたしを見上げる。


「サファイラに、ですか」

「ええ。それで、質問なのですが」

「なんでしょうか?」

「お嬢さんが男性が苦手になっている可能性がありますよね? お嬢さんとお会いするに当たり、お嬢さんに質問をして頂けますか? 『わたしはドレスを着て女装した方がいいでしょうか?』と」

「・・・は?」


 にこにこと、わたしを見上げる神秘的な紫紺の瞳。


「失礼、ネロ王子殿下。今、なんと仰いましたか? 少々聞き取れなかったようでして」

「お嬢さんに、『わたしもドレス姿が宜しいでしょうか? ただ、ドレスに着替えるとなると少々時間が掛かるけれど宜しいでしょうか?』と。お返事を頂けると嬉しいのですが」

「・・・ウェイバー殿、これは一体?」


 笑顔のままのネロ王子(・・)殿下のお言葉の意味がわからず、思わずウェイバー殿へと助けを求めてしまった。


「……ネロ様のお考えにも、深い意味があるそうです。サファイラ様のことを慮っての言動ですので、公爵閣下。サファイラ様にご返答を願います」


 すっと目を逸らしつつ、サファイラからの返答を求められたっ!?


「ああ、ちなみにですが。わたしは女装は慣れているのでお気になさらず」

「い、いえ、そういうことではなく……そ、その、他国の王子殿下に、我が娘の為にそこまでして頂くワケには……」


 読んでくださり、ありがとうございました。


 ネロ(茜)の言葉で公爵パパは混乱している。


 シュアンに助けを求めたが目を逸らされた。


 みたいな?ꉂ(ˊᗜˋ*)


 次回も公爵パパ視点。というか、長くなったので分割。(*ノω・*)テヘ

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