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まあ! ネロ殿下は本当に……わたくしを甘やかすのがお上手ですこと。


「・・・サファイラ様まで、子供扱いですか」


 やれやれとでも言いたげに落ちる溜め息。


「あら? サファイラお姉様は、まだ十五歳。未成年なので、立派な子供ですわ」


 にこりと見上げると、


「ネロ様。わたしにまでその口調はどうかと思いますが?」


 返される胡乱げな眼差し。仕方ないわねー?


「わかりました。口調を戻せばいいのでしょう? でも、サファイラ嬢にはネリーの口調で話し掛けた方が負担にならないと思うのですが? ほら、一応わたし。サファイラ嬢からしたら他国の王子じゃないですか」

「それは……確かにそうかもしれませんが……」


 嫌そうに顔を顰めるシュアン。


「というワケで、サファイラ嬢にはネリーの口調でお話しようと思います。やっぱり、女装しておいてよかったですね♪」

「・・・よもやとは思いますが、実はネロ様は女装が趣味ということはありませんよね?」


 じっとりとした視線が向けられる。


「ふっ、可愛いわたしが可愛い格好をしてなにが悪いのですか」


 胸を張って言うと、


「・・・ご自身でそこまで仰いますか。ネロ様がそこまで自己愛が強い部類のお方だったとは。可愛い、など言われ慣れていらっしゃるかと思いましたが」


 若干引き気味の眼差し。


「そう言えば……誰かに『可愛い』、と面と向かって言われ始めたのはつい数ヶ月前くらいからですね。まあ、大体は『可愛らしい顔に似合わず』という言葉が多いですけど。一番わたしを可愛いと言ってくれるのは、アストレイヤ様ですね♪」

「え? 普通はご両親や親族が……っ! すみません。大変な失言でした」


 ナチュラルに言い掛けた言葉に、ハッとした顔で謝るシュアン。まあ、ぶっちゃけネロたんは置かれた環境が異常だものねぇ?


「いえいえ、色々知っての通りの環境でしたし。それに、わたしが面食いなことは事実です! そしてネリーちゃんがラブリーなのも事実! まあ、そんな冗談二割は置いといて。女装はなにかと便利ですからね。実際、シュアンも初見でわたしが王子だとは見抜けなかったでしょう?」

「八割は本気で、ネロ様は相変わらずシスコン(妹君思い)なようですね……確かに。まさか王子殿下が見習い侍女服を着て、他国の王太子殿下を威勢よく蹴り飛ばすとは思いもしませんでしたよ」

「わたしこそ、まさか他国の王太子殿下が我が国へ破壊工作を仕掛けがてら、見目良い子供をホテルへ連れ込もうとしているとは夢にも思いませんでしたよ? 更には、それを諫めるどころか、率先して見目良い子供を集める側近とか、大分終わっていますよね? なんの為の側近なんだか?」


 まあ、控えめに言っても最悪。人間のクズよっ!!


「クッ……なにも言い返せません」

「まあ、シュアンがどこぞの王太子に煙たがられていたというのも、大体想像は付きますから。止めようとしたのではないか……とは、思っていますよ?」

「信頼はありがたいのですが。実際には、止められていませんし……むしろ、もっと本気で止めようとすれば、なりふり構わずに止めるべきだったのでしょう。けれど……わたしのクラウディオ殿下への忠誠は、所詮その程度だったということです」


 どことなく沈んだ口調。


「ふふっ、では、わたしはシュアンに見切りを付けられない主で在らねばなりませんね」


 軽い口調で返すと、


「ネロ様が道を誤るようであれば、身命を()してお諫め致します」


 なんぞ、命を懸けると返しよる。重いわ!


「う~ん……そこまで重い忠誠は全く求めていなかったんですけどねぇ? もっとこう、軽~い感じになりません? せいぜい、降格や左遷程度とか?」

「誰へ忠誠を捧げるかは、各個人が決めるものでしょう? ネロ様は、そういうことを強要する行為はお嫌いかと。それに、いつも飄々としていらっしゃるネロ様の困惑するお顔が見られて、胸が空く思いです」


 まあ、間違ってないけど! というか、実はやり込められて悔しかったんかい! ……いや、幼児にやり込められて悔しくない人は少ないか。


「なかなか言いますね」

「なんだかんだ、いつもやり込められておりますので」


 スンと澄まし顔であたしを見下ろすシュアン。


 そこへ、コンコンとノックの音がしてフィーラちゃんが戻って来た。


「大変お見苦しいところをお見せした上、中座してしまって申し訳ございません」


 ふっ、美少女の恥じらうお顔頂きましたっ!!


「いえいえ、サファイラお姉様の可愛いおめめが無事なようで安心しました♪さ、一緒にお菓子を食べましょう? お茶はなにがいいですか? わたくしのお勧めは、蜂蜜入りのカモミールミルクティーやココアですわ。甘くて気分がほっこりしますのよ?」

「カモミールをミルクティーにしますの?」

「ええ。飲んだことありません?」

「ええ、その……甘い飲み物は子供っぽく、ないでしょうか?」

「? お子様なわたくしがお勧めしているのです。子供っぽくて当然ではありませんか?」

「あ、いえ、すみません! ネロ殿下のことを子供っぽいと言ったワケではないのです! わたくしが、子供っぽくないでしょうか?」

「大丈夫ですよ。大人でも甘いものが大好きで、子供のお菓子を取り上げてまで食べちゃうような大人げない人もいると聞きますし。お茶に蜂蜜を入れたくらい、どうってことありませんわ。それに、先程も言いましたが。ここには、サファイラお姉様のことをとやかく言う人はおりませんのよ? お好きなものをお好きなように、どんどん食べてくださいませ。あ、もしダイエットをなさっていらっしゃるなら……今日だけはお休みして、明日から節制なされば宜しいのよ? 侍女の方も、今日くらい目を瞑ってくれますわ」


 にこりとフィーラちゃんの侍女を見やると、うんうんと大きく頷いてくれた。


「まあ! ネロ殿下は本当に……わたくしを甘やかすのがお上手ですこと」


 クスリと微笑むフィーラちゃん。


「では、カモミールミルクティーをお願い致します」


 読んでくださり、ありがとうございました。

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