よし、ここはあれだ。中身アラサーなお姉さんが、可愛らしい美少女をよしよししてあげようじゃないの。
視点変更。
「ふふっ、漸く可愛らしい笑顔が見られました」
やっぱり、可愛い子が可愛く笑ってる姿ってのは眼福だわ♪恥じらう顔もまた善し!
やー、実際に会ってみて既にぶっ壊れちゃってたらどうしようかと思ったけど、そんなことなくて……マジで清楚系の美少女だったし!
「っ!? ね、ネロ殿下っ? な、なにを……そ、その、わたくしは可愛げがない女で、だから多くの殿方から嫌われて、いて……」
恥じらいながらも、顔を伏せるサファイラちゃん。自己肯定感低い感じかしら?
「? サファイラ嬢は可愛らしいですよ?」
「そ、そんなことはありません! だって、わたくしには、魅力が無いから……」
これってやっぱり、クラウディオ周辺のクズ野郎共の影響よね。あのまま婚約続けてたら自己肯定感を下げられ捲って、クラウディオの愛人関係(しかも全員男っ!!)のあれこれを知って、ある日突然プッチンして毒花系美女にビフォーアフターな感じ?
そんな風になっちゃう前に、クラウディオと縁切りできてフィーラちゃん的にはラッキーなんじゃない?
あたしってば、ナイスファインプレーね! よし、ここはあれだ。中身アラサーなお姉さんが、可愛らしい美少女をよしよししてあげようじゃないの。見た目美幼女だけどね♪
「サファイラ嬢。あなたの置かれていた環境は、あまり宜しくなかったのだと思います」
宜しくないっていうか、結構な悪さだったわよねー。気にしない人は全く気にならないだろうけど、フィーラちゃんはそんなタイプじゃなさそうだし。むしろ、気にし捲って自分の人格激変させちゃうくらいだもの。
「そんな、こと……」
「けれど、そんな環境の中でも折れず、腐らず、真っ直ぐに努力と自己研鑽を重ね、前を向き続けたあなたは素晴らしい方だと思います」
「え?」
「実は、わたしのやらかした後が気になったもので。僭越ながら、サファイラ嬢の置かれた環境を調べさせて頂きました。どこぞの元王太子のせいで、なにも悪くないあなたが王城の若い男性に理不尽な嫌がらせを受けていたことを知っています」
まあ、動機が男同士の爛れた関係で……腐女子的には『ゴチになりました! あざっすっ!!』な感じではあるけど。普通一般の女子には想像するのも若干難しいというか、ぶっちゃけ理不尽が過ぎるわよねー。むしろ、当て馬ポジというか……うん。憐れさが漂うわ。
フィーラちゃんもやられっ放しじゃなくて、反撃もしてるっちゃあしてるけどね?
これが、性格悪い子ならふ~ん……で済むんだけど。生憎、現在のフィーラちゃんは性格が悪いワケでもないし。勤勉な努力家。やり返された方に問題があることは明らかだし? おまけに美少女! よしよししない理由が無い!
「嫌われる理由がわからなくて、さぞや苦しかったでしょう。悔しかったでしょう。怖いと思ったこともあるでしょう。そんな中でも……誰かに当たることなく、無気力になることもなく、踏ん張って耐えたあなたは偉いです。よく頑張りましたね」
ミレンナみたいに、逆らえない人達に八つ当たりしなかったフィーラちゃんは偉い!
「な、にを……」
「見ず知らずの、ほんのちょこっと調べたわたしでも、あなたの努力は伝わっているのです。身近にいた人はきっと、あなたがどれ程の努力と忍耐を重ねて来たか、わたしよりも知っていることでしょう。違いますか? シュアン」
「っ!? こ、ここでわたしに振るのですかっ?」
んもうっ、ここでフィーラちゃんを間近で見て来たシュアンに振らず一体誰に振るってのよ? さあ、ビシッと言ってやりなさい!
「わたしより、サファイラ嬢のことを見知っているのはシュアンじゃないですか。どうせもう、婚約は白紙撤回されていますし。あなたは国では死人扱いです。ここでサファイラ嬢の努力を認めて少々誉めたところで、誰に憚ることはありませんよ?」
「……ああもう、本当にネロ様はっ!? わかりました! わたしが常々思っていたことを、サファイラ様へ伝えればいいのでしょうっ!? はぁ……」
と、ヤケクソのように言ったシュアンが溜め息を落とし、言葉を紡ぐ。
「サファイラ様はクラウディオ殿下よりも、わたしよりも年下なのに、クラウディオ殿下の……あの、他人への気遣いや配慮を全くしない無神経さと、傍若無人でクズなところによく耐えていたと思っています。サファイラ様が王城勤務の若い男性に嫌われていたのは、主にクズなクラウディオ殿下のせいであって、サファイラ様はなに一つ悪くありません。むしろ、彼らの横暴をお止めできなかったことを大変申し訳なかったと思っております」
「ウェ、ウェイバー様っ!?」
驚きの表情のフィーラちゃんを真っ直ぐ見据え、
「努力するあなたの姿を見て応援し、同時に励まされていた女性がどれだけいたことか。身分が低い使用人が、どれだけあなたに憧れを持ち、クラウディオ殿下の所業に腹を立てていたことか。あなたが彼らに接触しないようにと、気を遣っていたことか。おそらく、サファイラ様とクラウディオ殿下の婚約が白紙撤回されたことで安堵し、ひっそりと祝福した者も少なくないことでしょう。サファイラ様。あなたは、クラウディオ殿下のことを異様に慕っていた者達以外からは、嫌われてなどいませんでしたよ」
シュアンが自身で見聞きして、思って来たことを告げる。
まあ、むしろ同情の方が多い感じよねー。女性の味方がいてよかったよかった。
「サファイラ様、あなたの味方はちゃんといましたよ。ただ、少々身分的にあなたへ直接声を掛けることが憚られる者達が多かったのです。あなたは、クラウディオ殿下の婚約者でもありましたので。良識的な男性はあなたのことを気に掛けながらも、声を掛けることすら躊躇っていたのです」
親愛の眼差しと優しい声音に、ほろりとフィーラちゃんの瞳から涙が零れ落ちた。
「っ……す、すみません、お見苦しいところを」
慌てて涙を拭おうとするフィーラちゃんへ、ハンカチを差し出す。
「大丈夫ですよ。ここには、サファイラ嬢のことを悪く言う人は誰もいません。安心してください」
「ネロ、殿下……」
「よく我慢しましたね。あなたが頑張っていたことを見ていた人は、ちゃんといたでしょう? あなたに、というよりはどこぞのぼんくら元王太子シンパの輩に目を付けられないように、ひっそりではありますが。あなたのことを応援していた人もいたでしょう?」
「……っ」
うんうんと、何度も頷くフィーラちゃん。ぽろぽろと落ちる涙。
「ご、ごめ、なさっ……涙が、止まらなく、なってしまって……」
「大丈夫です。慌てて止めようとしなくてもいいんですよ? ゆっくり、落ち着いて息を吐いてください。少し、失礼しますね?」
よいしょ、っと椅子を寄せてフィーラちゃんの近くへ寄る。普通に隣に行っても、背中に手が届かないんだもの。こういうとき、ちみっ子は不便よねー?
行儀は悪いけど椅子の上に膝立ちになり、ぽんぽんとフィーラちゃんの背中を撫でる。
「大丈夫大丈夫。いい子いい子」
「っ!? ネ、ロでんか……」
「ん? なんですか? あなたは何年も、たくさんたくさん我慢したんです。今ここで、ほんのちょっと涙がでちゃったくらいなんですか。全く構いませんよ?」
頭を撫で撫でしながら、そっと涙を拭う。これだけ間近で見ても、泣き顔も美少女とはっ!? これが神絵師さんの造形美っ!!
「ネロ様……みだりに女性へ触れるのは、宜しくないと思いますが」
苦々しいといった顔でシュアンがあたしを見やる。
「ふっ、なんの為の女装だと思っているんですか? まあ、あれですね。気になるというなら、こうしましょう。大丈夫ですわ、サファイラお姉様? ここには、わたくし達しかおりません。子供が泣いてしまうことなど、よくあることですもの。女の子同士で、気分が昂ってしまうこともよくありますわ」
「女の子、同士……?」
胡乱げな眼差しが注がれるが、そんな視線は知らぬ! なにせ、ネロたんの性別は兎も角、中身のお姉ちゃんはアラサー女子!
アラサーが女の子言うなとかという苦情は受け付けん! 女性は、仮令しわくちゃで幾つになろうとも心の中に女の子がいるというものよ! 男が心の中に少年がいるというのと一緒じゃ!
ぽんぽんと背中や頭をあやすように撫で続け、ひっくひっくという嗚咽が小さくなった頃。
「……お恥ずかしい……ところを、お見せしました」
小さく掠れた恥じらう声がした。
「大丈夫ですわ。サファイラお姉様、少し落ち着かれたようでしたらお顔を洗いに行きましょうか? このままでは、折角の可愛らしいおめめが腫れてしまいますもの」
「っ!? はい……」
「サファイラお姉様をご案内して差し上げて」
と、真っ赤な顔したフィーラちゃんとその侍女を奥の部屋へ連れて行ってもらうことにした。まあ、なんだ。お化粧が、ねぇ? あと、目を冷やしてもらうといいわ。
「サファイラお姉様、泣いてお腹が空いたでしょう? 戻って来たら、また一緒にお菓子を食べましょうね?」
「……はい」
恥ずかしそうに頷き、侍女長へ案内されて奥へ向かうフィーラちゃん。
「・・・サファイラ様まで、子供扱いですか」
読んでくださり、ありがとうございました。
シュアン「ネロ様……みだりに女性へ触れるのは、宜しくないと思いますが」( ̄~ ̄;)
ネロ(茜)「ふっ、なんの為の女装だと思っているんですか? まあ、あれですね。気になるというなら、こうしましょう」(。・ω´・。)✧
ネロ「大丈夫ですわ、サファイラお姉様? ここには、わたくし達しかおりません。子供が泣いてしまうことなど、よくあることですもの。女の子同士で、気分が昂ってしまうこともよくありますわ」(*´∇`*)
シュアン「女の子、同士……?」(꒪꒫꒪)