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わ、わたくし、急いでいたものですから。その、ネロ殿下にもドレスを着てほしいと思っていたワケではなかったのです!


「ああもうっ、だから言ったじゃないですかネロ様っ!? サファイラ様が困惑していらっしゃいますよ!」

「だって、サファイラ嬢が男性を苦手になっているかもしれないじゃないですか。なので、女装してみました!」


 ふふんとお可愛らしく、胸を張ってわたくしを見上げるお姫様……ではなく、ドレス姿の小さい王子様。いえ、その、女装? と仰るドレス姿が大変お似合いで、言われなければ全く男の子だとは気付きませんでしたけれど。むしろ、違和感が全くありませんわ!


「え~っと……その、お気遣いありがとうございます? 確かに、わたくしは最近少々殿方を苦手に思い始めているという自覚がありますが……その、ネロ殿下のように大変お可愛らしい男の子は平気だと思いますわ」

「そうですか? では、女装の甲斐があった、ということでしょうか?」


 にこりとわたくしを見上げる瞳は、神秘的な藍色。その瞳に優しく見詰められます。


「いえ、そもそもサファイラ様はわたしと会話ができているのですから。ネロ様が危惧される程、サファイラ様は男性が苦手になっていないのではありませんか?」

「やれやれ、シュアンはなにを言っているんですか? それは、シュアンが元々サファイラ嬢とある程度の交流があり、親しくしていたからでしょう? シュアンがサファイラ嬢をよく助けていたという報告が上がっていますし。いいですか? わたしが言っているのは、サファイラ嬢は然程(さほど)親しくない人や初対面の男性が苦手になっていないか、ということを心配しているのです。全く、シュアンはサファイラ嬢に対する気遣いが足りませんよ」

「それは……その、サファイラ様。お気を悪くされたのでしたらすみません」

「いえ、大丈夫ですわ」

「ありがとうございます。それにしても……気遣い、でネロ様は女装をなさるのですか?」


 やれやれと溜め息を落とすネロ殿下に、じっとりとした視線を送るウェイバー様。


「ええ。なんでしたら、言葉遣いや仕種ももっと妹のネレイシアに寄せることができましてよ? どうでしょうか、サファイラお姉様? こちらの方がお話がし易いのであれば、本日はわたくし。この口調でお話し致しますわ」


 こてんと小さく首を傾げて微笑みを浮かべると、本当に一瞬で貴族女性と見紛うばかりの仕種と表情になられるネロ殿下。え? 本当の本当に、ネロ殿下は王女様ではなくて王子様なのでしょうか?


「……いえ、そこまでして頂くワケには参りませんわ。ネロ殿下のお話がし易い言葉で構いません。お気遣いありがとうございます」


 そう、ネロ殿下がご自分で王子だと名乗っているのですから、ネロ殿下は王子様なのでしょう。ええ、非常にお可愛らしくて女の子らしい可憐なドレス姿ではありますけれど。


「ふふっ、どう致しまして。では、口調はこのままで話そうと思います」

「はい」

「では、本日はわたしの招待へ応じてくださってありがとうございます」

「? ネロ殿下のご招待、ですか? 確か、わたくしをお呼びした方は、父の会談相手だと思うのですが……」


 お父様の会談相手はネロ殿下の保護者の方だったのでしょうか?


「ええ。本日は公爵様とお互いに有益なお話し合いをさせて頂き、無事に交易の締結が決まりました。ふふっ、公爵様とはここ暫く文通をしておりましたが、やはり実際にわたしを見て驚いていましたよ」


 クスリと、悪戯が成功したような笑み。


「え? あの、失礼ですが……もしかして、ネロ殿下がお父様の交渉相手でいらっしゃったのですか? その、ドレス姿で……?」

「ふふっ、いえ。さすがに、会談中はちゃんとした格好でしたよ? これはサファイラ嬢とお会いする為に着替えたのです。お返事くださったでしょう? 『わたくし()すぐにドレスに着替えて参ります』と」

「え?」


 サッと、血の気が引いて行くのがわかりました。


 あのとき、『急いで着替えます』とお父様へ言ったつもりでしたのに、お父様は『娘()ドレスに着替えて参ります』と、ネロ殿下の使者へお返事したのでしょうかっ!?


 こ、このままではわたくし、他国の王子殿下……しかも十歳未満の方に、女装を強要したとんでもない女になってしまいますわっ!?!?


「も、申し訳ございません! わ、わたくし、急いでいたものですから。その、ネロ殿下にもドレスを着てほしいと思っていたワケではなかったのです! い、今からでもネロ殿下の楽な格好をなさってください!」


 慌てて頭を下げると、


「だから言ったじゃないですか、ネロ様。『サファイラ様はきっとそのようなつもりではありませんよ』と」


 呆れたようにネロ殿下を見下ろすウェイバー様。


「どうやらわたしの勘違いだったようですね。サファイラ嬢もそのように謝らないでください。この格好はサファイラ嬢の緊張を解す目的でしたのに。恐縮させてしまっては失敗です。それに、女装は慣れていますので全然お気になさらず」


 にこりと、わたくしを優しく見上げる藍色の瞳。


「え? あの……はい?」


 えっと? 今のは聞き間違いでしょうか?


「わたしと妹は双子なので。実は、偶に入れ替わって遊んでいるのですわ。内緒にしてくださいませね? 本日は可愛い妹の格好で、わたしがサファイラ嬢とお話がしたかったということで」


 内緒、と人差し指を立てて悪戯っぽくウインクをするネロ殿下。わたくしへ気を遣わせないようにとのお言葉でしょうか?


「ああ、サファイラ様。ネロ様の女装は本当にお気になさらず。わたしもまだ、ネロ様とお知り合いになったばかりですが……それでも、もう幾度もネロ様の女装を見ておりますので。むしろ、ネロ様との初対面も女装姿でしたし」

「えっ? そ、そうなのですか?」


 我が国の王子殿下はクラウディオ殿下を筆頭に、皆様もう十代後半という年齢です。それに、男性らしい方々なので、王子殿下が女装をするというと、かなり違和感があるのですが。


 けれど、ネロ殿下はまだお小さいですし。お顔も、本当に女の子のようにお可愛らしいので……正直、とってもお似合いになられていますっ!!


 そこらの貴族令嬢なんか目じゃないくらいの可愛らしさと可憐さですわね。いえ、まだネロ殿下が王子殿下を自称している、ネレイシア王女殿下であるという可能性も捨て切れないのですが。


「では、ご挨拶はこのくらいにして。さあ、中へどうぞ。美味しいお菓子を用意しているのですよ。サファイラ嬢は、苦手なお茶や食べ物はありませんか?」

「い、いえ。特に苦手なものは……」

「そうですか、よかったです」


 と、中へ通されると、本当にお茶や美味しそうなお菓子が沢山用意されていました。


「実は、公爵閣下との交易で輸出する食材を使ったお菓子なんですよ?」



 読んでくださり、ありがとうございました。


 サファイラ(こ、このままではわたくし、他国の王子殿下……しかも十歳未満の方に、女装を強要したとんでもない女になってしまいますわっ!?!?)(((;°Д°;))))ガクガクブルブル

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