ああもうっ、だから言ったじゃないですかネロ様っ!? サファイラ様が困惑していらっしゃいますよ!
それとも……その方は男装の騎士様、だったりするのでしょうか?
「あの、お父様。本日の会談のお相手は、どのような方だったのでしょうか? 高貴なご婦人だとお父様は仰っていましたよね?」
「それは、その……非常に将来有望で……大変お可愛らしく、チャーミングな方だ」
と、なぜかすっとわたくしから視線を逸らして言いました。小さく呟かれた言葉はよく聞き取れませんでしたわ。
「お父様? なぜ、そっぽを向かれるのですか?」
「いや、その……お前が実際にお会いして、どのような方なのかを確かめなさい。というか、先方をお待たせしているのだから、早く返事をして差し上げないと」
「え? お待たせしてしまっているのですかっ!?」
「ああ。『女装をするのであれば、着付けに少々時間を取られるのでお待たせしてしまいますが。それでも宜しいでしょうか?』とのことだ」
「わ、わたくしもドレスにお着替え致しますので、むしろわたくしの方がお待たせすることになるかもしれませんわっ!? も、申し訳ありませんお父様、わたくし、急いで着替えて参ります!」
おそらくは王族でいらっしゃる方を、お待たせするワケには行きません。
慌てて侍女達を呼び、王族の方と顔合わせをしても失礼のない衣装へと超特急で着替えます。
ああもうっ、お会いするとは言いましたが、まさかの今日だとは思っていませんので油断していましたわっ!?
お父様もなにも言っておりませんでしたし、てっきり明日以降のことだと思っていました。ですが、考えてみれば先方は王族の方ですものね。お父様との会談だけでなく、他にも予定がおありになるのかもしれません。日程がタイトになるのも、仕方ないことです。
侍女達と大わらわで支度をして、ドレスを着付けて――――どうにか、一時間弱で支度を終わらせました。
着替えだけで少々疲れてしまいましたが、そんなことは言っていられません。
本番はここから。
わたくしは、わたくしのことを気に掛けて心配してくれていた方にお会いして、是非とも感謝の言葉を告げると決めていたのですから!
彼の方がクラウディオ殿下を嵌めて、クラウディオ殿下を王太子位から追い落としてくださったお陰で、わたくしはクラウディオ殿下と結婚せずに済みましたし。婚約を続けて、意味不明に王宮の殿方達に嫌われて嫌な思いをすることもなくなりました。
王太子妃教育を受けずに済みますので、自由時間も増えます。
まあ、少々難点を言えば……これから国が荒れて大変と言ったところですが。しかし、もしあのまま何事も無くクラウディオ殿下が即位していたかと思うと、ぞっと致します。
きっと、今以上に国が荒れる事態が起きていた可能性もありますもの。そういう意味では、クラウディオ殿下が早々に失脚したことは、我が国にとってもそんなに悪いことではないのかもしれませんね。
ええ、将来大きく国が傾いてしまうよりは……きっとこの方がいいのでしょう。
それにしても、クラウディオ殿下を嵌めたという方はどのような方なのでしょうか? きっと知略に長け、落ち着いた雰囲気の大人の女性なのでしょうね。
期待で胸をドキドキワクワクさせながら、彼の方がお待ちしていらっしゃるというコテージへと向かいました。
そこでわたくしを待っていたのは――――
「お久し振りでございます、サファイラ様」
頭を下げてわたくしを出迎えてくださるウェイバー様でした。
「ウェイバー様、本当に生きていらしたのですねっ!?」
「はい。ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
「いえ、いいえ。クラウディオ殿下が、ウェイバー様のご葬儀を執り仕切っていらしたのです。勝手に亡くなったことにされたウェイバー様がご無事で、本当によかった……」
謝るウェイバー様へ首を振り、無事を知ってほっと致しました。
お父様からウェイバー様が生きていることは聞かされていましたが、実際に見て大きな怪我や病などによる窶れなどが見られず、安心です。
「……というか、ウェイバー様」
「はい、なんでしょうか? サファイラ様」
「以前よりも健康そうに見えますわね」
心なしか、数ヶ月前にお見掛けしたときよりも逞しくなっているような気がします。
以前は、青いお顔で胃の辺りを押さえる仕種を偶にお見掛けしていましたもの。それが、今は肌艶がよくなって、とても健康的に見えます。
「それは、お互い様ではないでしょうか? サファイラ様も、以前に比べると健康的になったと思いますよ? おそらく、どこぞの殿下から離れられたことで、ストレスが減ったのでしょうね」
にっこりと、それはそれはイイ笑顔でウェイバー様が仰いました。
「あら、ウェイバー様もなかなか言うようになりましたね?」
以前なら、仮令心中で暴言の嵐が吹き荒れていようとも、実際に口に出すことはせず、眉間に深いシワを寄せて不機嫌……とも少し違う、神経質そうな空気を醸していらしたのに。
以前に比べ、纏う空気に余裕のようなものを感じられますわ。まあ、元々ウェイバー様はわたくしよりも年上の方なのですが。
「ええ。もう、どこぞのクズはわたしの主ではありませんので」
清々しい笑顔で言い切ったウェイバー様に、なぜか少しだけ寂しさを感じます。ああ、もう本当にウェイバー様はクラウディオ殿下のことを主として戴くことをお辞めになったのだと。
まあ、我が国ではウェイバー様はクラウディオ殿下をお守りして亡くなったことにされておりますし……実態としては、なにかしらの犯罪行為を行ったクラウディオ殿下に身代わりとして差し出され、この国に置き去りにされたそうなので。クラウディオ殿下や、我が国へ対する忠誠心も底をついたのでしょう。
「ふふっ、感動の再会は終わりましたか? お次は、わたしが挨拶をしても宜しいでしょうか?」
クスクスと、鈴を転がすような可愛らしい声がしました。
「……本当に、そのような格好でサファイラ様とお会いするおつもりですか?」
次いで、ウェイバー様がそのお声に嫌そうに……以前によく見ていた、神経質そうな顰めた表情でお応えしました。そのお顔を見ていたのは、つい数ヶ月前のことなのに、なんだかとても懐かしい気がしますわ。
「勿論です。では、初めまして。わたくしは第一王女のネレイシアです」
「え?」
声のした方を見ると、誰もおらず……いえ、目線を下の方へ下げるとにっこりと微笑む、神秘的な容姿のドレス姿の少女がいらっしゃいました。
「と、ご挨拶できればよかったのですが。生憎、本日妹は離宮にてお留守番なのです。改めまして、第三王子のネロと申します。このような格好で失礼させて頂きますね? サファイラ嬢」
「え? はい?」
え~っと? ちょっと、なにを言っていらっしゃるのかわからないですわ? このお可愛らしい方が、王女殿下ではなくて、王子殿下でいらっしゃる?
「ああもうっ、だから言ったじゃないですかネロ様っ!? サファイラ様が困惑していらっしゃいますよ!」
読んでくださり、ありがとうございました。
ネロ(茜)「改めまして、第三王子のネロと申します。このような格好で失礼させて頂きますね? サファイラ嬢」(*´∇`*)
サファイラ「え? はい?」(੭ ᐕ))?
シュアン「ああもうっ、だから言ったじゃないですかネロ様っ!? サファイラ様が困惑していらっしゃいますよ!」(*`Д´)ノ!!