宜しいですか、ウェイバー様。ネロ様は、ご自身の目的の為ならば、その御身を餌にすることも厭わないお方です。
誤字直しました。ありがとうございました。
「ソフィーネ侍女長。失礼ですが、その事件の最中はミリーシャ嬢やあなた方は一体なにをしていたのですか?」
先程の話に……ネロ様とネレイシア姫様の信奉者であるミリーシャ嬢(過激派)やこの離宮の使用人の人達が一切出て来ていない気がします。
まあ、考えられることとすれば……最悪、秘密裡に処理などをしていてもおかしくはないのですが。
「……当時のわたくし共の主は、側妃様でしたので。ミリーシャも、本来の護衛対象は側妃様でした。なのでネロ様に、側妃様から絶対に目を離さないようにとの厳命を受けておりました」
「・・・そう、でしたか」
わたしが来る前にはもう、この離宮には側妃……ミレンナ様はいらっしゃらなかったので、失念していました。現在、ネロ様とネレイシア姫様はアストレイヤ王妃殿下の養子となられているとのことですが、当時はまだ側妃であったミレンナ様の庇護下(ほぼ育児放棄状態だったそうですが)にいたのでしょう。というか、普通に考えると現状の……まだたった七歳のネロ様が離宮の指揮を執り行っていることこそが、異常そのもの。
ネロ様との話し合いをする前の、非常にヒステリックで攻撃的なミレンナ様はなにをするか判らないので、監視しろという意味合いでしょうか。
そして、事件のとき。ネロ様のお顔さえ知らなかったわたしでさえ、件の元司祭には多少の殺意が湧くというのに……ネロ様とネレイシア姫様の信奉者の方々(過激派含む)は、どれ程悔しい思いを押し殺したことでしょう。
・・・一瞬、厭な考えが頭を過ぎりましたが、この方達。ネロ様に対する数々の無礼を、秘密裡に報復していたりはしませんよね?
と、なんとも言えない考えが過ぎったものの、ソフィーネ侍女長の薬品講座は進んで行きました。
「では、本日の講座はここまでとなります。お二人共、お疲れ様でした。ああ、ウェイバー様は少々残って頂いて宜しいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「では、俺は先に失礼しますね」
アーリー君が出て行ってから、ソフィーネ侍女長が口を開きました。
「ネロ様が神殿へ赴いたのは、おそらくはシエロ様の為だと推測されます」
「え?」
「現在は兎も角。シエロ様は以前、ときどき神殿に出掛けておりましたので。シエロ様が、外道な元司祭や他のクズ共の餌食になる前にと、ネロ様が神殿の外道共を駆逐したのでしょう」
「ネロ様は、神殿にそのような輩がいると判っていて出向いたということですかっ!?」
驚愕するわたしへ、怜悧な表情で頷き返すソフィーネ侍女長。
「ネロ様ご本人へ問い質してもはぐらかされてしまいますが。おそらくは、全て判った上での確信犯的な行動だと思われます。神殿へ赴く前に、護身用の薬品類を入念に準備されていましたので」
「っ!?」
口を開こうとしたわたしに鋭い視線を向け、
「宜しいですか、ウェイバー様。ネロ様は、ご自身の目的の為ならば、その御身を餌にすることも厭わないお方です。ウェイバー様も、ご覧になっていたでしょう? シエロ様の護衛見習いであるグレンを守る為、クラウディオ殿下に勇ましく立ち向かったネロ様のお姿を。ネロ様は、そのようなお方です」
グレン君へとちょっかいを掛けたクラウディオ殿下の股間を思い切り蹴飛ばして、我々へ名を名乗れと強く啖呵を切ったときのことですか……確かに、勇ましい姿でした。
見習い侍女服を着た女装姿ではありましたが。
「これは、わたくし共の罪でもあります。当時、まだ三つにもならなかったネロ様が、わたくし共へ無体を働くミレンナお嬢様との間へ割って入って、お嬢様をお止めしました。ネロ様は、そのときから……庇護される側ではなく、誰かを庇護する立場。守る立場へとなってしまったのです」
ああ、そうか。だから、ネロ様は自然に……ご自身の身を盾とすることを厭わないのか。
「ネロ様は、ご自身の懐へ入れた方を守る為なら、多少……いえ、かなりの無茶をいとも簡単にやってのける方です。故に、ウェイバー様。努々、ご自身で危機へ陥ってネロ様へ危険なことをさせないよう、ご自愛してお気を付けくださいませ」
鋭い視線が、わたしを強く射貫く。
「肝に銘じます」
シエロ王子やライカ王子、アストレイヤ王妃殿下は勿論のこと。おそらくは、わたしやアーリー君、グレン君が危機に陥っても、ネロ様は無茶をしてでも助けようとしてくださる、と。
故に、そもそも危機に陥るような事態になるな、と釘を刺されていますね。
わたしは文官で……以前なら、『主(クラウディオ殿下)の為に身体を鍛えるなどあり得ません。護衛に任せておけばいいことでしょう』と、鼻で嗤っていたことでしょう。
けれど、ネロ様がわたしの為に身体を張ってくださるというのなら。その前に、自ら危機に陥らないよう、自助努力をすべきですね。
身体を動かすのは得意ではありませんが……ネロ様の為なら、頑張りましょう。
まだあんなにお小さいというのに。誰かを守る為なら、その身を餌や盾として使用することも厭わない、危なっかしい主をお守りする為に。
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読んでくださり、ありがとうございました。
侍女長「最悪、神殿の井戸や水源に睡眠薬と幻覚剤を投げ込んで、その間に処理するという計画もありましたが……アストレイヤ正妃様のお陰で計画は中止になってしまいましたわ」( ◜◡◝ )
シュアン「なんて恐ろしい計画を立てているのですかっ!? 無関係の方々も無差別に巻き込まれてしまうではないですかっ!?」( º言º; )"
侍女長「あら、本気にされてしまいましたか? わたくしとて、偶に冗談くらいは言いますわ」( ◜◡◝ )
シュアン「全く冗談に聞こえませんでしたからねっ!?」(*`Д´)ノ!!




