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ミリーシャさん。シュアンさん、大丈夫ですか? なんだか目が虚ろになっているような気がするんですが……

 視点変更。


 なぜ、わたしはこのようなことをしているんだ?


 酷使した身体。ぼんやりとする頭に、とりとめのないことばかりが過ぎる。


 なぜ、こうも必死に走っているんだったか?


「ウェイバー様、昨日よりもよく走れていますよ。素晴らしいです」


 と、ミリーシャ嬢の声が掛けられる。


「もう少しです、一緒に頑張りましょうねシュアンさん」


 さっと横を走り過ぎるときにアーリー君が声を掛けてくれる。


「さあ、ラスト一周です。冷たい果実水を用意していますよ」


 そんな声が聞こえながら、荒い呼吸で足を動かし続ける。


 少し前のわたしなら、こんな疲れることはしなかった。


 ネロ様達と出会ってからまだ一月も経っていないというのに、自国でクラウディオ殿下に仕えていた頃のことが大分昔のことのように感じる。


 あの頃は――――クラウディオ殿下のことは専属の護衛が守ってくれるのだから、わたしが彼を守る為になにかをする必要性を全く感じなかった。


 というより、クラウディオ殿下のことを守りたいとまで思う程、わたしはクラウディオ殿下に対して好意を持っていなかったのだろう。


 まあ、王族という身分は兎も角。クラウディオ殿下は人間としては割とクズ寄りで、これと言って尊敬できるようなところも大してなかったですし。 


 なにより、自分が危機に陥ったからと、あっさりとわたしに性犯罪者という汚名を着せてさっさと逃げ出すような最低クソ野郎でしたからね。


 同じ王族であるというのに、現在の主であるネロ様とはなにもかもが違う。


 片や、幼少期から大事にされて順風満帆に育ち、誰にも(かしず)かれ、他人の気持ちを思い遣ることを知らなかったクラウディオ殿下。片や、乳飲み子の頃から実の両親に疎まれ、双子の妹君と使用人達の命を守り続け、更には自分の兄だと認めたシエロ王子のことも守ろうと奮闘しているネロ様。


 まだたった七つという幼さなのに、子供らしいところなどあまり見たことがない。


 常に策を巡らせ、いつも誰かを守ろうと懸命なネロ様。


 一応、わたしは自分が有用だと思われて拾われたことは理解しています。


 ネロ様も、そのことを否定はしません。ですが、あのときわたしの言い分など聞かず……わたしに口を開かせず、クラウディオ殿下一行のしたことの責任を問い、そのまま首を刎ねられていてもおかしくなかったのです。


 けれど、ネロ様はそのような簡単なこと(・・・・・・)で終わらせはせず、頑固で面倒なわたしを懐柔し、口を割らせた上で丁重に扱ってくださった。そのお陰で、わたしは今生きていられる。


 両親へも、性犯罪者の汚名を着せられてしまった不名誉を弁解できた。なにより、また生きて両親に会うことができるのです。


 もし、わたしへの対応をしたのがネロ様以外であったなら……きっともっと簡単で単純な方法が取られていたことでしょう。死刑か、拷問で無理矢理口を割らされて廃人になっていたか。


「一つ、『物理的に襲って来る敵に情を掛けるべからず!』はい、復唱」

「えっと、物理的に襲って来る敵に情けを掛けるべからず」

「ウェイバー様も、ぼんやりしていないで復唱!」

「ブツリテキニオソッテクルテキニ、ナサケヲカケルベカラズ」

「はい、よく言えました。もし敵に情けを掛けるのであれば、相手が確実に自分よりも弱者だと判断したときのみ。けれど、油断は絶対に禁物です。はい、復唱。『油断大敵!』」

「油断大敵」

「ウェイバー様も復唱」

「ユダンタイテキ」

「はい、よくできました」

「あの、ミリーシャさん。シュアンさん、大丈夫ですか? なんだか目が虚ろになっているような気がするんですが……」

「大丈夫です。少々、疲労で意識が朦朧としているだけだと思われますので。今のうちに、色々と刷り込んでおきましょう」

「え? 刷り込むって……?」

「護身術の心構えです。いいですか、アーリー君。この教えは、心身に刻み込むもの。とっさのとき、自然と身体が身を守るように動くまでが護身術です」

「成る程。わかりました」

「いいお返事です。一つ、『襲い来る敵の顔面に一発かまし、急所へ攻撃して一目散にダッシュで逃走!』はい、復唱」

「襲い来る敵の顔面に一発かまし、急所へ攻撃して一目散にダッシュで逃走」

「ウェイバー様も復唱」

「オソイクルテキノガンメンニイッパツカマシ、キュウショヘコウゲキシテダッシュデトウソウ」


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


「では、これより護身用薬物の取り扱いについて注意点を説明します」


 冷ややかな声が響き、ハッ! と目が覚めたように声の主を見詰める。


「どうされましたか? ウェイバー様」


 わたしとアーリー君はいつの間にか席に着いていて、目の前のテーブルには薬品の瓶が幾つか並んでいました。


 いつの間に……? 少々というか、大分記憶があやふやな気がします。


 わたしは一体なにをして……?


「ソフィーネ侍女長が、なぜ……?」

「ウェイバー様はお疲れのようですね。では、もう一度説明します。わたくしは薬師の家系出身なので薬学を少々嗜んでいるのです」

「ああ、そうでしたか。すみません、ぼんやりしていたようです」

「いえ、お気になさらず。ですが、お二人に紹介する薬品類は人体に有害なものも含まれているので、これより先は呉々も気を抜かれないようにしてくださいませ」


 と、ソフィーネ侍女長が一つ一つ薬品とその効果について説明をして行く。


「あの、ソフィーネ侍女長」

「はい、なんでしょうか? ウェイバー様」

「この薬品類は、明らかに毒薬なのではありませんか?」

「ウェイバー様はご存知かと思われますが? どのような薬とて、過ぎれば毒となります。また、裏を返せば毒もまた症状に合わせて適切に調合すれば薬となる。故に、毒と薬は表裏一体なのですよ?」

「いえ、それは知っていますが。そうではなく、なぜ我々へ毒物を?」

「護身用、と説明した筈ですが?」

「それは聞きましたが……」

「ちなみにですが、ネロ様とネレイシア様も持っておりますよ? わたくしの調合した麻痺薬や麻酔薬、その他薬品類を」

「ええっ? あんな小さいネロ様達にも持たせているんですかっ!?」


 読んでくださり、ありがとうございました。


 ミリーシャ「ふぅ、いい感じに疲労困憊したウェイバー様への刷り込みが成功しましたね♪」(+・`ω・)9


 侍女長「ええ。理屈っぽくて頑固な方は、肉体的に追い込んでから『教育』するに限りますからね」( ◜◡◝ )


 シュアンとアーリーは、戦闘侍女ミリーシャの脳筋気味な教えを刷り込まれちゃってます。(((*≧艸≦)ププッ

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