この日が来ることを、指折り数えてとってもとっても楽しみに待っていましたっ!! これから宜しくお願いしますね? アーリーさん♪
視点変更。
誤字直しました。ありがとうございました。
離宮に来て、まずは小さい王子様専属になる予定として仕事を教えられた。
評判によると、俺の主になる王子様はとんでもなく優秀らしい。それでまだ小さいというのに、書類仕事がかなり多いのだとか。
優しい王子様で、離宮の人達からとても慕われているみたいだ。まあ、通りすがりで他国の王族に目を付けられていた俺のことを気に掛けて、こうして保護してくれるような人だもんな。
そして、物語でよくあるように、母親が違う兄弟同士で仲が悪い……ということなんて一切なく、むしろ兄弟仲は良好。王子様達全員で共同事業を興す程に仲が良いらしい。
一応、一番上の王子様以外の王子様と王女様にはご両親のお話には触れないようにと注意をされた。王族だけあって、家族間の問題が複雑らしい。
あと、気になることと言えば……共同事業は、結構揉め易いんだけど。大丈夫かなぁ? と、ちょっと心配になった。今はまだみんな子供(一番上の王子様でもまだ九歳っ!? いろんな意味で驚愕した)だから、利益配分なんかで揉めたりしないのかもしれないけど。将来利益配分で揉めたりしないよう、契約書の見直しを進言した方がいいかも。
と、軽~く共同事業について思ったことを俺の教育係の執事さんへ言ってみた。すると、
「そう言えば、君は商家出身でしたね」
なにか考えるような素振りを見せ、色々と質問をされた。
神殿が腐敗しており、不正や悪事を行っていた神官達を一斉検挙。孤児院や救貧院などの救済措置として王子様達の興した慈善事業があり、それについての意見を求められた。
なんでも、王子様達は現在この国の主流ではない木炭という燃料を流通させようと計画中らしい。商人観点からの意見が聞きたいとのこと。
もし、実物を入手できる伝手があるなら頼みたいと、俺の両親に動いてもらっていると言われた。両親は外国に行っているらしい。更に、可能であれば、炭焼き職人の勧誘もしてほしいとのこと。
父さんと母さんも頑張っているみたい。俺も頑張らなきゃ!
でも、その伝手とか以前に、かなり気になっていることがある。
王子様達の共同事業は、法整備が整っているかということだ。まず、そのことを質問した。
「法整備、ですか。その辺りについては、まだだと思います。なにが気になるのですか?」
「これ、かなりよく考えられていて、実際に利益も出していますよね?」
「ええ」
「でも、これ。少し詰めが甘いと思います」
「……アーリー君。どの辺りがそう思われるのでしょうか?」
少し鋭い目付きになったので、怒られるかな? と思いながらも言葉を続ける。
「新規事業参入者のことです。王子様達は、弱者救済の為に事業を興して成功させた。けれど、これ。見方を変えると、どこまでも弱者から搾取できるシステムに成り得ると思うんですよ。新規事業参入者が利益優先にして、孤児や傷病人を無理矢理働かせる……ということになっては、本末転倒ですよね?」
「殿下方の真似をする悪徳業者が現れる、という危惧ですか」
「はい。特にこれ、運搬や力仕事などにこの国の退役軍人の方を再雇用しているとありますが。他国の傭兵を使うことだってできますよね?」
「成る程。わかりました。人身売買の温床になる可能性、ですか」
「はい」
俺も巻き込まれかけた、人身売買。
例えば、他国で傭兵をしていた軍人を使い、孤児を集めて王子様達のやったように農場や牧場の経営をする……という人が、これから絶対出て来ると思う。
だって、王子様達がかなりの利益を出しているから。このシステムを真似れば、自分達も儲けられると考える人は出て来るに決まっている。
そして、その誰かが王子様達のように純粋に弱者救済を目的にするとは限らない。むしろ、弱い立場の人を徹底的に搾取し、利益優先にする可能性の方が高いと考えるべきだ。他人を利用することを厭わない強欲な商人なんて幾らでもいるって、父さんが言ってたし。
実際に俺も、表ではにこにこといい人のような顔をして、少し裏に回ると従業員を奴隷のように扱う事業主を見たことがある。うちじゃない他の店のことだったので、口出しはできなくて歯がゆい思いをしたけど……
故に、王子様達の考えた事業形態は国営で行うべきだと思う。または、国の許可制。とにかく、なんらかの形で国が絶対に携わるようにしないといけない。そして、行政による監査と監察と指導を適宜行う旨を契約書に明記すべきだ。商人は、国や行政の手が入ることや干渉されることを嫌うし。後ろ暗いことがある商人なら殊更だろう。
そして、この適宜というのがポイント。定期的な監査や監察なら、その時期に合わせて不正を隠してしまう準備時間を与えてしまうことになる。けれど、監査、監察の時期を明記せず、『適宜』とすれば、怪しいと不審に思った時点で介入する口実になる。
ということを、拙くも一生懸命執事さんへ伝えた。
法整備をして、『うちの国の国籍を所持し、尚且つ国か施設を造る地域に数年以上定住した事実があること』という項目を組み込めば、外国人が事業参入することをある程度は防げる筈。ある程度であって完全に防げるワケじゃないというのは、仕方ない。
なにせ、法整備をして規制したところで、その法の抜け穴を探るという行為はいたちごっこ。そこは、官憲や役人の人達に頑張ってもらうより他ない。
あとは……ライカ農場(仮)という名称で呼ばれているのであれば、第一王子のライカ様が多く管理費や手間を掛けるべきだと思う。
そんなことを話したら――――なんか、偉そうな雰囲気の大人の人(主におじさん)達に取り囲まれて色々と話をさせられた。最後に、俺の話の内容をまとめたものを王妃様へ提出すると言われて心底驚いた。
この国の王妃様って、侍従見習いの話や疑問もちゃんと聞いてくれるような人なのっ!?
と、かなりびっくりしたことがあって。
それから俺は、無事? に、ネロ様にお仕えすることとなった。
ネロ様にはなぜか、輝くような笑顔で大歓迎されました。
「この日が来ることを、指折り数えてとってもとっても楽しみに待っていましたっ!! これから宜しくお願いしますね? アーリーさん♪」
ぎゅっと、小さな温かい手が俺の手を握り……慈しむような藍色の瞳が俺を見上げて言った。
「はい。これからよろしくお願いします、ネロ様」
「はい! ではまず、アーリーさんとシュアンには護身術講座を受けてもらいます。これが最優先事項。他のことは全て後回しにして構いません」
「え? 護身術、ですか?」
「ちょっと待ってください、ネロ様! 彼へ護身術を習わせるのは非常によくわかりますが、なぜわたしまでなのですかっ!」
声を上げたのは、なんだか見る度に苦虫を噛み潰すような顔をしているシュアンさん。なんだろ? 胃が弱いって前に聞いたけど、またお腹痛いのかな? 前も思ったけど、胃薬を差し入れしよう。
「え? シュアンのことが心配だからですよ?」
「護身術を最優先にするとなると、ネロ様の補佐はどうするのですかっ?」
「大丈夫です。それにほら、どこぞのお馬鹿さんがなにかして来ないとも限りませんからね。いざというときの備えは怠らず、しておくべきです」
にこりと優しく言うネロ様に、
「っ!? わかり、ました……」
非常に渋々という感じに頷くシュアンさん。
「では、アーリー君」
「はい」
「一刻も早く、護身術講座を終わらせますよ」
「はい!」
と、こうして俺とシュアンさんは、マットの敷かれた演習場へ向かった。
なにしろ、最優先事項。しかも、護身術講座を終えるまで通常業務は免除だとか。
誰が講師をしてくれるのかと思っていたら・・・
簡素なシャツとパンツ姿の女性が現れた。
「では、これよりミリーシャお姉さんの暴力……ではなくて、護身術講座を始めます」
読んでくださり、ありがとうございました。