・・・え? お、仕事? まだ増えるの~~~~っ!?!?
アストレイヤ様の執務室。
「ライカ兄上。わたし達、もう少し王都にいることになりました」
「そうなのっ? シエロ」
「ええ。そうですね」
「わぁ!」
と、嬉しそうな顔をするライカに、にっこりと告げる。
「はい。ライカ兄上が寂しくないよう、沢山お仕事を用意したので一緒に頑張りましょう♪」
あたしの言葉にド~ンと机に詰み上がる書類の山。まあ、まだまだ書類はあるから、これから山脈が築かれると言ったところかしら?
「・・・え? お、仕事? まだ増えるの~~~~っ!?!?」
ピシッと固まり、涙目であたし達を見やるぷにショタもまた善しっ!!
「まあ、なんだ。俺もネロも、他の人達も一緒にやるから頑張ろうライカ兄上」
ぽん、と慰めるようにライカの肩を叩く蒼。
「ふふっ、楽しいお仕事の時間ですよ♪」
「……ぅう、みんながいるから、もっと違うことしたかったのにぃ……」
あらあら、ツンデレぷにショタが今日は随分と可愛くデレてくれるじゃないっ♪
「え~っと……早く終わらせて時間が余れば、なんかできるんじゃないか?」
「っ!? 本当に?」
「そうですねぇ……早く終われば、ですね♪」
「じゃあ、がんばる!」
やる気を出したのか、キリっとした顔で書類に向かうライカ。
「油はともかく、農作物の生産をこんなに増やすの? 食べ切れないんじゃない? 腐らすと勿体ないよ?」
「ああ、余剰分は他領や他国に輸出予定になってるんだ」
「そうなの?」
「ええ。隣国の王太子だったクラウディオ殿下が、病気療養という健康上の問題を理由に王太子位を返上しましたので。下手をすると近いうちに王位継承権争いが勃発する可能性があるので、その備えですね。国が隣接していると、周辺国が荒れたときに余波を食らいますから」
「ぁ~……そっか。そう言えば、クラウディオ殿下は急病に罹ったんだっけ? まだ若かったと思うけど、病気なら仕方ないか。裏が無ければ王太子に戻ることもあるけど……このまま快癒しなければ、第二王子か第三王子、どちらか優秀な方が王太子に選ばれるのかな?」
「・・・」
クラウディオのやらかしを知らない様子のライカに、シュアンや他数名がピクリと反応。
「? どうかした?」
「いや、隣国の事情は後でアストレイヤ様に聞いてください」
と、蒼が答える。
「そうですねぇ……隣国の新しい王太子が優秀とは限らないと思いますよ」
「え? どうして?」
「派閥争いに勝った方でも成れるから、でしょうか」
個人が優秀だとしても、派閥や支えてくれる人達がいないと、そして担いでくれる人達が優秀じゃないと蹴落とされるでしょうし。
「ああ、だから、今のうちに食糧の増産と輸出の準備なんだ」
「ま、備えあれば患いなしってとこだな。人間、食い詰めて困ると碌なことにならない。強盗や強奪、略奪でも、なんでもするようになるからな。そんな連中が出ないよう、食糧増やそうぜ」
「一応、小麦は確り乾燥させて保管場所に気を付けていれば三十年程は保つそうですよ?」
「そうなのっ!?」
「まあ、さすがに三十年保管した小麦を食べるのはどうかと思うので、種麦にするんだと思いますが」
「ああ、そっか。税収や食糧だけじゃなくて、種として長期保存することもあるんだ」
ここで最初に税収って出て来る辺り、さっすが王子様って感じよねー。
「ええ。それに、ジャムや漬物などの加工食品にすれば、年単位で保存できますし。ブランデーケーキなんかも、ある種お酒で発酵させて長持ちさせますからね」
「ああ、だから加工食品の研究も、か」
「はい。ワインやシードルなどの果実酒もアルコール度数が低ければ、飲料水の少ない地域では水代わりに飲まれています」
飲料用水が貴重な地域では、子供も普通にアルコール度数の低いお酒を水代わりに飲むことがある。まあ、この辺りが外人さんがお酒に強い理由よねー。アジア系人種が他人種に比べてお酒に弱い人が多いのはきっと、アフリカやヨーロッパ地方に比べると、飲料用水が豊富にあったことが原因じゃないかと見ているわ。
アルコールというのは体内で毒物に変わる。それを分解するには身体にそれなりの負担が掛かる。故に、アルコールを飲まないで済むなら普通に水を飲むでしょう。で、アルコールで水分補給をしなくて済むようになった代わりに、アジア系人種は水の少ない地域の人達に比べると、アルコールの分解機能が衰えたんじゃないかな? と、考察してみた。
「へぇ……」
「まあ、子供のうちからアルコールを水代わりに飲むという地域もあるので、そういった地方には無自覚なアルコール依存症の人も多いようですが」
「ぁ~、やたら喧嘩っ早い地域の人とかいるよなー」
「アルコールは、摂取し過ぎると理性を飛ばしますからね。理性の利かないのが常態になっている人も、おそらくいることでしょう。飲料用水が少ない地域では、井戸や湧き水の所有権は命に関わりますからね。そりゃあもう、血みどろの闘争を繰り広げて水を争奪しているらしいですよ」
「あ、それで木炭の濾過装置か」
「? ろか装置って?」
「飲料用に適さない水を、濾過して汚れや毒を取り除くことで、飲めるようにする装置のことです。まあ、飲料用にまでできなくても、泥水を透明にすることができれば農業用水や生活用水に回すこともできるでしょう」
洗濯とか、食器の洗浄とか、手洗い用の水とか。
「え? 泥水を透明にできるのっ!? どうやってっ?」
「はい。濾過装置に木炭を使用するんです」
「木炭って、ネロが作りたいって言ってるやつ? 燃料じゃないの?」
「燃料以外にも使用方法は沢山ありますから。使い道次第では、渇水対策に使えます」
「へぇ……木炭ってすごいんだ」
「そうは言っても、まだ製造の目途も立ってないんだけどな?」
「それなら、早くたくさん作れるようにならなきゃね!」
そんなことを話しながら、書類を処理して行く。
「ね、ね、ちょっと休憩しない?」
「ん~? あ~、これ読み終わるまで待って」
真剣な顔で資料に目を落とす横顔に近付き、
「それじゃあ、ちょっとこっち向いて? ほら、あ~ん」
口元にお菓子を持って行くと、パクリと一口。
「あ? んぐっ……」
「美味しい?」
あたしの質問に、ポリポリごっくんとジャムサンドクッキーが飲み込まれて行った。
「お~、なんか甘酸っぱくて美味……って、いきなりなにさせとんじゃっ!?」
「え~? 食べての通り、お菓子をあ~んですよ♡」
ふっ、これぞ集中してるときの無防備な弟へのあ~ん攻撃! 小さい頃はよくこうやって食べさせたわねぇ。懐かしいわ。
にゅふふっ、シエロたんにあ~んしてお菓子食べさせちゃったっ♡
「ああもうっ、こういうことするなよなっ!?」
シエロたんが真っ赤になってそっぽを向く姿、頂きましたっ☆ありがとうございますっ!!
「え~? だって、休憩しましょうってお誘いしたのにシエロ兄上がこっち向いてくれないんですもの。ね、ライカ兄上もほら、あ~んしてください」
「へ? あ、あ~ん?」
と、びっくりした顔のライカにもジャムサンドクッキーを運ぶ。
「ふふっ、美味しいですか?」
素直に口を開けて飲み込み、
「っ!? ……ぅ、うん」
咀嚼して恥じらうように頷くぷにショタとか最高かっ!!
「ふふっ♡ライカ兄上が頑張っているのでご褒美です♪」
「ぁ、りがと……」
「いえいえ♡」
そう、これは頑張っているあたしへのご褒美でもあるのですっ!!
「ブルーベリーは目にいいんですよ。書類仕事で目を酷使するときには、おやつにするといいです」
「あ、ブルーベリージャムだったんだ」
「はい」
「ったく、油断も隙もあったもんじゃねぇぜ……遊んでねぇで、さっさと終わらせろっ!!」
ぷりぷりと照れるシエロたんも尊くてかわゆいわ♡
「ね、ネロ様、わたくしにもあ~んさせてくださいっ!!」
あら、ミリーシャが真っ赤な顔でお菓子を差し出して来たわ。
「ふふっ、ありがとうございます」
パクリと食べると、
「はぅっ!!」
真っ赤な顔でぷるぷると震えて顔を押さえた。
涙目のとろんとした顔でうっとりしている。大丈夫かしら?
「なにをしているのですか。飲食するなら、書類をどかしてからにしてください。お菓子の屑を零されては困ります」
眉を顰めてシュアンが言う。
「あ、シュアンもあ~んします?」
「・・・ネロ様、ウェイバー様には必要ないかと」
一瞬でスンとした顔になり、ミリーシャが言い切る。
「え、ええ。わたしは適宜休憩を入れるので、結構です」
引き攣った表情で顔を逸らすシュアン。
「殿下方、そろそろ休憩を入れては如何でしょうか」
と、一旦休憩になった。
こんな感じで蒼とライカにちょっかいを出しつつ、できる分の書類を片付けた。
✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐~✐
読んでくださり、ありがとうございました。
ネロ(茜)「ちょっとこっち向いて? ほら、あ~ん。美味しい?」(*>∀<*)つ◯
シエロ(蒼)「お~、なんか甘酸っぱくて美味……」(*^▽^*)
「って、いきなりなにさせとんじゃっ!?」(*`Д´)っ))
ネロ「え~? 食べての通り、お菓子をあ~んですよ♡」。:+((*´艸`))+:。
シエロ「ああもうっ、こういうことするなよなっ!?」ヾ(*`⌒´*)ノ