そもそも、なぜわたくしはこんなに城内勤務の若い男性に嫌われているのでしょうか?
さて、ウェイバー様はどう出るでしょうか? と、思っていたのですが――――
ウェイバー様がお手紙や招待状などのチェック係に任命されてからは、『記入ミス』がかなり減ったと思います。全て無くなったワケではないので、やはり以前に仰っていたように、ウェイバー様ご自身が忙しくされているようでもありますし……嫌がらせを受ける身であることも、事実なのかもしれません。
そんな風に、ウェイバー様を間に挟んでクラウディオ殿下とやり取りをすることが増え、自然とウェイバー様と会話をすることも増えて行きました。
わたくしを気に掛けてフォローしてくださることも多く、この方は誠実な方なのだと思いました。ただ、少々神経質でものをハッキリ言い過ぎなところはありますが。わたくしには弟はいますが、兄はおりません。もしかすると、兄がいたらこのような感じなのかもしれませんね。
なので、ウェイバー様へ直接お聞きすることにしました。
「ウェイバー様」
「なんでしょうか? サファイラ様」
「なぜ、ウェイバー様はわたくしとクラウディオ殿下が一緒にいるときに、度々不快そうなお顔をされるのでしょうか?」
「っ! そのような顔をしていましたでしょうか? それは失礼致しました。以後、気を付けます」
驚いたお顔で謝罪するウェイバー様。
「わたくしがお聞きしたいのは謝罪ではなく、不快そうなお顔をされる理由ですわ。わたくしにはお教えできませんか? それとも、別になにか深い理由がお有りになって?」
「それ、は……」
割合ハッキリものを言うウェイバー様が、珍しく口籠りました。
「それは? なんでしょうか?」
「はぁ……わたしが不快なのはクラウディオ殿下の、あなたへの言動です。こう言ってはなんですが、クラウディオ殿下は上に立つべく育てられたお方です」
「ええ、それがなにか?」
「口を濁さずに言うと、クラウディオ殿下はそれ故に、あまり下の立場の者を慮ることができない方だとわたしは思っています。おそらく殿下は、年下のあなたへ酷く甘えたことを言っているという、その自覚すらも無いでしょう」
あらあら、これはまた随分と思い切ったことを……ですが、そうですか。
クラウディオ殿下の言動が、甘えや我儘だと思う方が我が家以外にもいらっしゃるということですね。なんだかわたくしも、少し報われたような気がします。
「そのような方ですが……わたしもできる限りサファイラ様のご負担を減らせるよう努力しますので、クラウディオ殿下を宜しくお願い致します」
と、ウェイバー様は年下のわたくしへ頭を下げました。
「ウェイバー様がそこまで仰るのでしたら」
溜め息を吐きたいのを堪えて頷きました。
わたくしは、おそらくクラウディオ殿下に選ばれて? 婚約した筈です。
けれど……いえ、だからこそ、それが許せない方もいるのでしょうか?
それからも細々とした嫌がらせは続き……
気付きました。わたくしへ嫌がらせをするのは、圧倒的に城で働く若い独身男性が多いということに。三十代以上、もしくは若くとも既婚男性は……派閥関係で敵対する派閥の方以外は、わたくしに親切にしてくださったり、丁重に扱ってくれます。
中には、わたくしの公爵家の派閥に属する方もわたくしへ嫌がらせをすることがあったのですが……寄子の家の子息が、寄親の家の娘にそのようなことをして、ただで済むと思っていたのでしょうか? それとも、自分の属する派閥を理解していないお馬鹿さんだったのかしら?
わたくしだって、手をこまねいて嫌がらせを受けているワケではございません。反撃くらいは致します。判り易い故意の嫌がらせに対しては、容赦無く不備を指摘します。それで、城の人間が幾度入れ替わったことでしょう。
それで少々、要らぬ恨みを買っている気がしますが……先に仕掛けていらしたのはどちらなのでしょう? と、問い掛けて差し上げたいですわね。
そもそも、なぜわたくしはこんなに城内勤務の若い男性に嫌われているのでしょうか?
これからも、この状態が続いて行くのでしょうか? 王室へ嫁ぐというのに、敵が多い状態というのは困ります。ウェイバー様へ頼り切りというのも宜しくないでしょう。
それとも、わたくしは青少年と称される時期の男性に嫌われるような人物なのでしょうか? わたくしは、十二でクラウディオ殿下との婚約が内定してより、あまり殿方と接して来てはいません。あまりにも城内の若い男性に嫌われているので、わたくしの方に問題がある可能性もあります。
自分の性格が素晴らしいとは全く思っておりませんし、程々に腹黒いことも自覚はありますが……わたくしは世間的に宜しくない、嫌われるような性格をしているのでしょうか?
そんな不安を抱いてしまったので、お父様とお母様に聞いてみました。
わたくしが、クラウディオ殿下の婚約者として相応しくない言動をしているから、城内の若い男性に嫌われてしまっているのでしょうか? と。
お父様とお母様は、そんなことはないと仰ってくださいましたが……それは、身内の贔屓目ということも考えられます。
悩んでいると、お父様が仰いました。
「結束の強い男同士のグループというのは、身内の男の婚約者や恋人、妻などに強く当たることがある」
「どういうことでしょうか?」
「どう説明すればいいか難しいのだが……友人へ妻や婚約者を蔑ろにさせることで、自分達の方が女性達よりも優先され、自分達の方が大事にされている実感を得たいという意識、とでも言えばいいか?」
「恋よりも自分達との友情を大事にしろ、という強要みたいなものでしょうか? それならば、女性同士でも多少は見られますわね」
まあ、大事な友人が婚約者ばかりを優先し、自分を蔑ろにすれば少々寂しいとは思いますし。なんでしたら、軽く嫉妬くらいはするかもしれません。けれど、婚約者ではなく自分を優先し続けろなどという……言ってはなんですが、幼稚な方はいずれ人間関係に決定的な亀裂や軋轢を齎すと思うのですが?
「それだけ、とも言えないが……おおよそ似たようなものだろう。殿下には、あまりお前を蔑ろにしないようにと苦言を呈しておく」
「? ありがとうございます。お父様」
「いや……お前には、苦労を掛ける」
と、お父様は酷く渋い表情をなさりました。
なにやらよくわからない、男性同士の嫉妬みたいなものでしょうか?
わたくしは、そのようなものに巻き込まれて嫌がらせを受けていたのでしょうか?
自分達の友情を確かめる為に、婚約者や配偶者へ冷遇を求めるなど……ハッキリ言って、しょうもない上にくだらないですわっ!? という気持ちで一杯です。
そのような試し行為で確認しないと実感できない友情など、本当の友情と言えるのでしょうか?
なんだか、悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなって来ましたわ。
まあ、クラウディオ殿下は見目麗しいですし? 見目麗しいご友人方も多いみたいですし? 城内の男性達にも人気がおありのようですし? やたら殿方に慕われているようで、わたくしを敵視する方もおりますし? 年下だからと、わたくしを舐めて掛かる方もいますし?
無意識に他人を下に見ているような傲慢な彼のなにがそんなにいいのか、わたくしには全くわかりませんけどね!
八つ当たり、もしくはそのような理由でしょうもない上、非常に気色悪い試し行為をされるわたくしは、いい迷惑でしかないのですが?
別にわたくしとて、クラウディオ殿下が好きで婚約者になったワケではないのですが?
それでも、クラウディオ殿下が婚約を解消する気が無いのであれば、わたくしは我慢しなければ……ああ、でも、ずっとこんなことが続くのかしら?
と、クラウディオ殿下との婚約が酷く億劫になって来た頃――――
なにやら、わたくしの心にとある衝動が湧き起こるようになりました。淑女としては失格な衝動なので、笑顔で押し留めますが・・・
嫌がらせを受ける度に押し留める分、その衝動は深くなって――――
顔面に投げ付けてやるのもいいですわね……
「サファイラ様、今なにか仰りましたか?」
あら、危ないですわね。口に出してしまっていたようです。
「いえ、なんでもありませんわ」
笑顔で、けれど……この野郎共思いっ切りぶん殴ってやりたいですわっ!! という、淑女にあるまじき強い衝動を堪えるのが日常になってしまいました。
いつもわたくしを見下すようなお顔が痛打に、苦痛に歪む姿を見てみたいですわぁ……そうできたら、どれだけ気が晴れるでしょうか。
なんて……わたくし、こんなに暴力的な思考をする女の子ではなかった筈なのですけれど? これも、クラウディオ殿下の婚約者になってしまった弊害ですわね。
いつか、本当に手が出てしまいそうで困ってしまいますわ。
そう思っていたある日、突然の謹慎を言い渡されてしまいました。そろそろ終了し、王太子妃教育へ移行する筈だった王子妃教育も一旦凍結。
なんでも、クラウディオ殿下が襲撃を受け、療養中とのことです。どこで襲撃を受けたかや、傷病の様子は機密扱いとのことで教えて頂けませんでした。
なに一つ情報が無いまま、自宅で軟禁状態で半月程過ごしたでしょうか。
読んでくださり、ありがとうございました。
パパの、クラウディオの愛人達をめっちゃぼやかした苦しい説明。そして、Sっ気に目覚めつつあるサファイラちゃん。(*`艸´)
茜「ちなみに、なにも悪いことをしていなくても、警備上や安全上の観点、配慮から『外出を慎んで身辺に気を付けてね?』というのも『謹慎』に当たるのよ」(*ゝ∀・*)-☆
「まあ、サファイラちゃんはクラウディオの婚約者で準王族扱いだから、クラウディオが襲撃された(犯人はあたしだけど!)とあっちゃ、謹慎を言い渡されても不思議じゃないわ」(((*≧艸≦)ププッ
「とは言え、この『謹慎』にはサファイラちゃんへの情報伝達を遅らせるという魂胆もあるでしょうけどね」(・∀・)