なぜ? どうして? というのが多い婚約だったように思います。
視点変更。
わたくしがクラウディオ殿下の婚約者に内定されたのは、十二歳のときでした。
なぜ? どうして? というのが多い婚約だったように思います。
わたくしは公爵家の娘ですし、政略として四つの年の差などは大した問題では無いのですが……
けれど、わたくしよりもクラウディオ殿下と年の近い他の公爵家や侯爵家の、優秀と名高いご令嬢はいらっしゃいますのに。なぜ、四つも年下で、それも大して優秀とは言われていない……どちらかというとぼんやりしていると言われるわたくしが? と、不思議に思っておりました。
不思議と言えば……わたくしがクラウディオ殿下の婚約者に決まったと告げたときのお父様とお母様も、なぜか全く嬉しそうではなかったことも不思議です。
理由を聞いても、我が家は特段王家との繋がりを求めていないから、とのお答えでした。お父様とお母様の……どこか苦々しさを堪えているようなお顔は、とてもそれだけだとは思えないのですが。
お父様もお母様も、クラウディオ殿下との婚約に乗り気でないのは明白。けれど、決まってしまったことは仕方ないと言ったところでしょうか。わたくしには話せないような事情がお有りかと思い、これ以上質問するのはやめることにしました。
まずは確りと王子妃教育に励みなさいと言われました。
王子妃教育で適正が見られなければクラウディオ殿下との婚約は公表されることなく、そのまま解消となる手筈なのだからと説明されました。
いきなり王太子妃教育が始まらない理由は、適正が無くても王太子妃教育をある程度受けてしまえば、我が国の王族に嫁ぐより他なくなってしまうからだそうです。王子妃教育までであれば、他国の王侯貴族へ嫁ぐ為の準備にしてしまうことができるから、なのだとか。
そんなこんなで、クラウディオ殿下の暫定婚約者として王子妃教育が始まりました。
教育係からのわたくしの評価は、可もなく不可もなくと言ったところでしょうか?
女性の教育係からはお墨付きを頂いても、なぜか若い男性の教育係からは辛い点数を貰うことが多く、このままではクラウディオ殿下の婚約者失格なのだとよく言われてしまいます。
そんなことがよくあって落ち込むこともありましたが、わたくしはそれなりにやれていると評価されたのでしょう。
十三歳になり、わたくしがクラウディオ殿下の婚約者として正式に決定。公表されました。
婚約が決定して初めて、わたくしはクラウディオ殿下とお会いしました。
灰色の髪に青灰色の瞳。自信に満ち溢れた端正なお顔。わたくしよりも、四つ年上の十七歳の……第一王子殿下。近々立太子なされる予定なのだそうですので、余程のことが無い限りはクラウディオ殿下が国王になると見做されております。
「お前がサファイラか。俺がお前を婚約者に選んだ」
「そう、なのですか……」
「ふっ、あまり嬉しそうには見えんな?」
「いえ、少々緊張しておりまして。大変光栄なことだと」
「ああ、そういうのはいい」
わたくしの言葉を遮り、クラウディオ殿下は言い募りました。
「お前は、少々おっとりというか……ぼんやりしているという評判だそうだ」
「そうですね。そのようなことはよく言われます」
ぼんやりしていると言われるだけで、実際にぼんやりしているワケではないのですが。少々考え事などをしているときに話し掛けられると、上の空でお返事を返してしまうことがあるようで、ぼんやりやおっとりなどと言われてしまうのでしょう。
「だが、頭は悪くない」
「ありがとうございます」
「俺が婚約者に……行く行くは王妃になる女に求める最大の条件は、醜い嫉妬をしないことだ」
自信満々なお顔で、少々……いえ、なかなかなことを仰いますね、クラウディオ様は。
「俺は将来国王になる。側妃を複数迎えることもあるだろう。そのときに、醜い嫉妬をせず、後宮の管理を任せられる女でないと困るのだ。国内の女なら、公爵家の娘であるお前が抑えられるだろう。まあ、他国の姫が側妃になると少々難しいかもしれんがな」
結婚どころか、婚約して初めての顔合わせで、それも自分より四つも年下のわたくしへ側妃を複数娶る……もしくは、後宮に女性を囲うという傲慢な宣言。それも、後宮の管理をわたくしへ丸投げ予定、ですか。
好き嫌いという感情が芽生える以前に、この仕打ち。
これから先が……非常に思いやられます。お父様とお母様が、クラウディオ第一王子殿下との婚約に乗り気ではなかった理由がよくわかりました。
しかも、クラウディオ殿下のお付きの方々は……この宣言に、ニヤニヤしている方、当然だと頷いている方、無表情の方ばかりですね。ああ、いえ。数名、非常に不快そうな表情をしておりますね。
わたくしの味方になってくれそうな方、そして敵に回りそうな方のお顔は確り覚えておきましょう。
そういう風にして、わたくしとクラウディオ殿下との顔合わせは終了しました。
なんとも言えない、苦々しい思いで――――
それでも、わたくしはクラウディオ殿下の婚約者となってしまったのです。
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読んでくださり、ありがとうございました。
ある意味、クズでゲスいクラウディオの被害者、サファイラちゃん視点。(*ノω・*)テヘ