第2話 芸術は物理に動け!
翌日、土曜日の出勤だ。
今回は、私と冬馬君で綾瀬警察署圏内、城川先輩とベベロちゃんは築地警察署圏内を担当する事になった。
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綾瀬警察署の方に挨拶を済ませ、外へ出る。
「よろしくお願いしますね、弐崎さん」
私はそう言う。
「あの、何て言うか。僕たち同級生ですし、名前で呼びませんか?」
冬馬が言う。
……確かに言う通りかもしれない。
「じゃあ、冬馬君って呼ばせていただきます」
そう言うと、冬馬は笑顔を見せた。
「僕は翠子さんって、呼びますね」
そして、街中へ繰り出した。
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同じ刻、もう一方のコンビも警察署に挨拶を済ませていた。
「よろしくなぁ、兄ちゃん」
ベベロが言う。
「そうか、飛び級っても9歳だからな。兄ちゃんの呼び方、分かるな」
ネオンはベベロの頭を撫でる。
「……なっ、なで、撫でなんで……!」
顔が真っ赤になり、煙が頭から出る。
「あっち!『熱化』の力、凄いな」
(熱化とは、ベベロの力の一つ)
「に、兄ちゃんがそう言うから……」
「それじゃあ、行こうか。ベベ」
ネオンが言うと、ベベロは頷く。
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見回り開始をしてから、一時間経過。
「……何にも無いな」
ネオンが言う。
「そうな。中央区って結構、突然変異保持者の逮捕率が高いっちゅう話を聞いたけんな……」
ベベロがそう返す。
「まあ、何事もなければそれで良いんだけどな」
その時、大きな物音が鳴り響いた。
旧築地市場の方面からだ。
二人がそっちに目を向くと、大きな煙が見える。
「……行くぞ、ベベ!」
「あいよ!」
約5分後、現場の近くに着いた。
(……くそ、あの物音はなんだ?)
ネオンは警戒する。
「兄ちゃん、あれ!」
ベベロが指す方を向く。
対向側にパステルカラーの大きな動物が見え、その近くにキャンバスを片手に男性の姿が居る。
その男性が何かを呟いたかと思うと、動物が動き始め建物を破壊し始めた。
「『発見器』反応したで」
ベベロが『発見器』を光らせて言う。
「そうか。厄介だが、捕まえるぞ!」
ネオンが言うと、ベベロは頷く。
「憑依!」
「熱化!」
二人はそう言うと、その人に向かって走り出した。
▫▫▫
その頃、私と冬馬は公園で小休憩を挟んでいた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
冬馬が言った瞬間、『通信機』が鳴る。
『翠子さん、冬馬君、聞こえるか』
雷都の声だ。
「はい、どうしましたか?」
『ベベロさんとネオン君が、築地警察署圏内で『突然変異』保持者と戦闘中との報告があった。二人では捕獲困難と申し立てがあり、至急応援求む』
私と冬馬は、頷いた。
「「了解!」」
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戦闘から、30分以上は過ぎたであろうか。
「俺の芸術に、手出しするなぁ!」
男性がキャンバスに筆を走らせると、そこから鳥が現れた。
「おりゃぁぁ!」
ベベロが走り出し、飛び上がって鳥の足を掴む。
そして、そのまま地面へ叩き込むとその鳥は消滅した。
(……ちくしょう、キリがねえ!)
ネオンはそう思う。
描いては倒しての、エンドレスだ。
二人では動物を対処するのに手一杯だ。
本部に応援要請はしたが、いつ来るか分からない。
「……くっ」
さっきの対処で、ベベロの息遣いが更に荒くなる。
(流石に、ベベの体力ではそろそろ限界か……)
「これでお前ら、チェックメイトだ!」
描くと巨大ゴリラが現れ、二人に向かって拳を振り上げる。
(……ここは、ベベを守る方向へ!)
防護に入ろうとした瞬間だ。
「『ウォーター・ウォール』!」
目の前に水の壁が現れ、拳を防いだ。
(この声は、塩小路だ)
ネオンは悟る。
「お二人!お待たせしました!」
冬馬の声もする。
「先輩、ベベロちゃん、お助けします!」
私が言うと、二人は頷いた。
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「……目的対象完了、初回制限は2分半。初回制限で決着を付けましょう!」
眼帯を外した冬馬が言う。
「はい!」
私は手に力を入れる。
「何人も何人も……!邪魔をするんじゃねぇ!」
男性が筆を走らせ、虎を出す。
その虎は私の方へ走り出す。
「『ジェット・ウォーター』!」
水は虎を避けるかのように、放物線を描いて男性に直撃する。
男性とキャンバスがずぶ濡れになったかと思うと、襲いかかろうとした虎は消え去った。
「……確保!」
私は男性に駆け込み、捕らえた。
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「……クソッ、どうして俺の芸術の邪魔なんか……」
警察官に明け渡す為、待っている途中男性がそう呟く。
その時、冬馬が血相を変えて彼の胸ぐらを掴む。
「人に迷惑かけて、まだそんな事言うんですか!!」
「ちょっと、ちょっと。落ち着いて、冬馬君!」
私が間を取ると、冬馬は離れた。
「……すいません、取り乱しました」
こんな表情を見せるのは意外だと思った。
その時、目の前にパトカーが止まった。
「捕獲、お疲れ様です」
身柄を渡した。
「……それじゃあもう昼だし、一回引き上げるか」
ネオンが言うと、皆は頷いた。
▫▫▫
午後の見回りは、何事も無く終わった。
本部への帰り道、私は気になったことを冬馬に聞いてみた。
「あの、前に何かあったんですか?さっきの身柄を明け渡す時に、凄い剣幕で言っていたが気になって」
そう言うと、冬馬は物悲しそうな表情を見せる。
「……まあ、色々と……」
「あ、ごめんね。無理に話さなくてもいいよ?気が向いたらでいいから」
慌てて私は言うと、冬馬は頷いた。
(……これも、また追々分かるのかな)
そう思いながら、帰路へついていた。