始まりの物語 (後編)
翌日の放課後。
私と城川先輩は、《メージェント》の本部へと向かっていた。
「……そう言えば、先輩の突然変異って幽霊が憑依する力でしたっけ」
私はそう、先輩に聞いてみる。
「ああ、そうさ」
「その、憑依されるとどうなるのかな……なんて」
私みたいな、物理的なモノではないから気になったのだ。
「んー、なんて言うんだろうな。普段のよりも強い力が出るっていうのかな」
「……それ、役に立つんですかね」
私が言うと、城川先輩は苦笑いをする。
「一種の呪われみたいだな、なんて思ったりしたよ。まあ、憑依が選ばれたからには、やるだけやるしかねぇって事さ」
(……ふぅん、先輩もそう思っているんだな)
何だか、城川先輩と一緒に選ばれて良かったような気がする。
「……と、ここみたいだな」
警視庁の裏手にある、ビルに着いた。
『警視庁別館 《メージェント》特別施設』と、書いてある。
二人は、そこへ入っていく。
「……お二人、もしかして《メージェント》第三期生の方ですかね」
警備員の人が声をかけた。
「はい、そうです」
城川先輩がそう返す。
「では、此方へどうぞ」
▫▫▫
『TOKYO Ver.305』
と、掲げられた部屋へ案内された。
既に、第三期生が集まっている。
「これで全員ですね。……隊長方をお呼び致します」
警備員がそう言って、部屋を出た。
(計5人、か。意外と少ないのね)
私はそう思う。
「あれ、城川さん」
その時、一人の男子生徒が話しかけた。
隣区の桜谷崎高校の制服を着ているが――
「冬馬くんか。君も選出されたんだな」
城川先輩が言う。
「お二人は知り合いなのですか?」
私が横から言う。
「ああ、実は同じ中学出身でな」
冬馬、と呼ばれた人も頷く。
少し離れた所で、桜谷崎高校の制服を着た人がもう一人席に座っている。
……なんか、雰囲気が違う。
「僕んちの高校、野瀬先輩も召集されたんです」
冬馬がそう言うと、彼はこちらを向いて手を上げた。
「先輩、突然変異の能力上、あんまり口を開かないんです。別に嫌っている訳じゃ無くて」
そう冬馬が付け加える。
「確か、『思考読み術』だったな」
城川先輩が言う。
「ああ、思いがけない事を言ってしまうのを避ける為、ですか」
私がそう呟くと、野瀬先輩は頷く。
「えーなあ、知り合いが居って。自分なんか、八王子からわざわざ来とるのに」
甲高い声が聞こえた。
彼女の方を向く。
高校生の集まりだって聞いたけど、それよりも幼く見える。
……し、見た目が……
「なんやね、その目線!って、もう馴れたけれどな。ほれ、これが証拠」
その子そう言うと、学生証を見せた。
『私立登水女学園 2年2組 ベベロ・ヘリン』
と、書いてある。
それと、名前の横に『飛び級組』の文字がある。
「ベベロさんって、今何歳なのです?……って、聞いちゃいけないだろうけど」
私は恐る恐る聞くと、ベベロはニカッと笑顔を見せる。
「自分、今年で9歳」
「「………9歳!?」」
一瞬の間の後、皆は驚いた。
誕生日の欄を見ると、本当に今年で9歳になる。
……どうやら、彼女は欧州出身なのだが、物事つく前から日本に住んでおり『努力のベクトルを間違えた』との事で飛び級になったらしい。
(ベクトルを間違えた、ねぇ)
普通は、頑張ったからとかだろうけど……まあ、それはそうとしてだけどね。
▫▫▫
「みんな、お待たせ」
女性の声が聞こえたと思うと、三人の大人が入ってきた。
「全員居るね。とりあえず、点呼をとるよ」
その女性が紙を取り出して、私達の名前を言っていく。
皆は応える。
「……さて、次は私らの紹介だね。私は、第三期生で構成されたVer.305の隊長である、水嶌汐莉と言います。よろしくね」
「俺は、副隊長の東雲雷都と言います」
「……で、僕は警察庁の突然変異特別対策課の巡査である、弥星樹也と申します」
「「よろしくお願いします!」」
「これから、私達の活動などの説明を一通り行いますね」
▫▫▫
活動は、都内の見回りに加え不審者の発見と拘束。
時間は、平日は夕方~19時まで、休日は9時~20時 (休憩あり) まで。
なお、学校行事は優先はされます。
(休みの日は基本日曜日に割り当てますが、緊急出動がありますのでご了承を)
基本的な持ち物として、《メージェント》所属の手帳、連絡用の通信機、そして『突然変異発見器』という小型の機械を持っていただきます。
『発見器』は、突然変異所持者のデータベースが組み込まれているので、発見時の補佐として使ってください。
(ちなみに、《メージェント》所属者のデータは入っていません)
それと、万が一危険な状態が起きた場合には、速やかに本部に伝えるようにしてください。
場合によって、隊長や副隊長、Ver.205部隊が応援に向かいます。
最後に、法令によりメンバーと皆様のご家族の安全の為、特別施設の寮に入居するようになりますのでよろしくお願いします。
▫▫▫
「……さて、一通りお話しました。何か質問はありますか」
汐莉が言う。
「あの、Ver.205ってのは?」
私が聞く。
「第二期生の集まりの事さ。俺もそこに所属していたが、君たちの副隊長に選ばれたんだ」
雷都が答える。
「……じゃあ、一期生は?」
城川先輩が横から言うと、なぜか汐莉は顔を曇らせた。
「言えないことでもあるのですか」
ふと、野瀬さんが言う。
一言目がそれとはビックリしたけど……何かを察知したのかな。
「……うーん、まあ、ね。一応私は一期生なんだけど、訳あって今現在……部隊は存在していないの。解体された後にフリーでやってて、第三期生が組まれる事になって、隊長を任せられたのよ」
汐莉は、そう答えた。
今のところ、これ以上は深追い出来ないし何も言えない。
「あと、質問は?」
樹也巡査が言う。
皆は首を横に振る。
「追々気になった事があれば、また聞いてくださいね。……それでは、一旦解散をしましょう」
▪▪▪
汐莉と樹也は、警察本部の方へ向かうとの事で先に部屋を出た。
「あの、副隊長」
二人を見届けたあと、雷都に話しかける。
「一期生の事、だろう」
私は頷く。
「……実のところ、俺も解体理由は分からないんだ。所属される前に、無くなっているって話は聞いたんだがな。それと、警察側の人間から『一期生の事は深追いするな』、と言われているんだ」
「余計に怪しいじゃないですか」
城川先輩が横から言う。
「まあそうだけどな……止められてたら仕方がないだろう。とりあえず、今は仕事に専念するように、よろしく頼む」
(……追々、分かる事なのかな)
と、私は思った。
それに、副隊長の言う通り……今は仕事に集中しよう。
▪▪▪
説明と寮の入居が終わった、Neo A.D.213年4月16日。
この日から、私の物語が始まる。