始まりの物語 (前編)
『突然変異』
それは、突如として人に備わった特殊能力の事。
その変異を持った人々と共存する生活が、ようやく日常になってきた昨今。
『塩小路 翠子』。
彼女は至って普通の高校生だが、変異を手に入れ、水を自由に操れるようになっていた。
――その娘が、突然変異の悪用を取り締まるようになるお話。
▪▪▪
ここは、東京のとある区にある天南地高校。
その日、入学式を迎えていた。
「ふわぁぁ、学校終わったーっ。つっかれったよぉ」
私は机に伏せて、そう言う。
「たく、まだ入学式を終えただけじゃない」
幼馴染みで同級生のみちかが言う。
「まぁ、そうかも知れないけど」
その時、校内放送がかかる。
『2年生の塩小路さん、3年生の城川さん。至急、職員室へ来てください』
3年生の城川さんって……確か、城川ネオン先輩だっけ。
「私と城川先輩で呼ばれるのは珍しいわ。何の話だろう……」
「行ってきなよ。私、事が終わるまで待ってるから」
みちかがそう言う。
「うん」
▫▫▫
職員室へ入ると、すでに城川先輩の姿が見えていた。
教頭先生が、手招きする。
「お待たせいたしました」
そう言うと、二人は頷いた。
「それでは早速だが、二人は突然変異の持ち主でしたな」
教頭先生が口を開く。
「ええ、そうですが……それがどうかしたのです?」
城川先輩が言う。
「《メージェント》の第三期生として活動をして欲しいとの事で、召集命令を下されたんだ」
教頭先生は、二枚の紙を机に置いた。
そこには、二人の名前と『《メージェント》第三期生として召集を命ず』との事が書かれていた。
「《メージェント》って、突然変異の悪用を取り締まる場所でしたよね。……どうして、私と城川先輩が選出されたんです?」
そう、私は聞く。
「攻撃面で、若い世代の人の所属が必要になってきたと聞いている」
他の高校からも何人か、第三期生として召集されている……とも教頭先生が追加で話した。
「とりあえず明日の放課後、《メージェント》本部に向かってくれ」
▫▫▫
「みちか、お待たせ」
教室で待っていた、みちかに話しかける。
「何の話だったの?」
みちかが興味津々で聞いてくる。
「《メージェント》に配属してくれってさ」
翠子は、さっき渡された『紙』を見せた。
「《メージェント》って、みどちゃんの能力みたいな人達が集まる場所よね。凄いじゃん!」
みちかには、自分が突然変異を持っている事は話していた。
「でも、私の能力ってそれほど強いのじゃないし。だって、『水を自由に操れる』だけだよ?」
みちかは首を横に振る。
「みどちゃんの力が人助けに繋がるなら、やってみる価値はあるよ」
実のところ、自分の突然変異は『使えない』と思っていて、滅多に能力を引き出そうとはしなかった。
みちかがそう言ってくれるのなら――
「私、頑張ってみる」
「うんうん!それじゃ、帰ろっか」
二人は教室を出た。
▪▪▪
「ただいまー」
家に帰った。
「お帰り、翠子。ちょっといいか」
お父さんがそう言ってきた。
「……なに?」
そのまま、居間へ向かう。
「さっき、学校から連絡があった」
《メージェント》の召集命令の事だと悟った。
「これ、なんだけど」
学校で渡された『紙』を、机の上に置く。
「……そうか、とうとう選ばれたんだな。《メージェント》あると聞いてから、翠子が呼ばれると思っていたよ」
お父さんは少し心配そうな顔をしている。
――自分が突然変異と初めて言われた時のようだ。
「大丈夫だよ、お父さん。前々から人助けしたいって思ってたから、いい機会を貰ったと思っているの。だから、ね?」
「まあ、そうだな。もうお前も高校生だし、心配のし過ぎはいけないな」
そうお父さんが言うと、居間にある仏壇の方を見る。
「……きっと、母さんが守ってくれるだろうな」