第11話 美貌と内面
「おはよう、ございます」
テスト期間を終え、のぼるは久々に出勤する。
「野瀬君、ちょっと良いかしら?」
汐莉が話しかける。
「……何でしょうか」
のぼるが聞くと、汐莉は『突然変異新規手配格書』を取り出す。
手に取り、中に書かれている事を確認する。
「箕縞さき……突然変異は、『一人に対して魅惑的に魅せる術』……」
そう、のぼるは呟く。
「実のところ、男性相手に金銭の搾取行為があると度々報告があってね。物理的な技じゃない分、貴方の能力で捕まえられるのかなって思っているのよ」
汐莉はそう言う。
「具体的な術って、分かっていますか?」
「どうやらね、幻術に近いらしいのよ……」
汐莉はそう言うと、イラストを出した。
「これ、誰です?」
のぼるが言うと、汐莉は苦笑いをする。
「手配格書と同じ人物よ。被害に遭った人達に聞いてイラストを描いてみたんだけど、違うでしょ?」
確かに、手配格書に載っている写真と比べても明らかに違う。
イラストの方が『美人』、とでも言おうか。
「で、貴方にどうにか彼女に接近して……確保をお願いしたいわ」
▪▪▪
「……さてと、どうしようか」
そう、のぼるは呟く。
どうやって接近しよう。
一応住所は分かるが、突然来たところで話に応じるとは思わない。
(そう言えば)
被害に遭った人が居る、そう隊長が言っていた。
樹也巡査に話をしてみよう。
「あれ、野瀬君?難しい顔をして、どうかしましたか」
ちょうど、樹也巡査が資料を抱えてやって来た。
「樹也巡査、ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょう」
さっき聞いたことを話す。
それを聞いた樹也巡査は、少し考える。
「……つい先日、企画課の方からその話を聞いたのです。刑事部にも話をしているようなのですが、なかなか尻尾を捕まえられないと聞いています。突然変異の仕業、だったのですね」
「その、被害に遭った方に話を聞く事は可能、です?」
「捜査第二課の方に、話をしてみますね」
樹也巡査がそう言うと、のぼるは頷いた。
▪▪▪
「澤渓警部、少しよろしいでしょうか」
樹也巡査は、第二課の澤渓警部に話しかける。
「弥星君、こちらに来るのは珍しいな。どうかしたか?」
「例の件、突然変異所持者と分かりました。被害者の方にお話を聞きたい、そう思いまして」
そう言うと、澤渓警部は「なるほど」と呟く。
「それだったら、ちょうど良かった。一人事情を聞きに来ているんだ。その人にだったら、話をして構わない」
「……ありがとうございます!」
▫▫▫
のぼると樹也巡査は、被害者が居るという会議室へ向かった。
「失礼します」
中に入ると、刑事と男性が居る。
「少し前に、他の刑事から事情を聞いています。あと、よろしくお願いします」
その刑事が、言う。
「分かりました」
樹也巡査が言うと、刑事は頷いて部屋を出る。
「突然変異特別対策課の、弥星樹也と申します」
「……《メージェント》所属の、野瀬のぼると言います」
二人が挨拶すると、男性は頷いた。
「貴方に聞きたい事があります。どこで、彼女と知り合いましたか?」
のぼるが聞く。
「1ヶ月ほど前、キルシィというチャットアプリで知り合いました」
男性が、そう返す。
「アカウント名とか、分かります?」
樹也巡査が言うと、男性はスマホを取り出す。
「あの後、キルシィのアカウントは削除したんですけど、スクショに撮ってありまして」
そう男性が言うと、画像を見せる。
『みゃんねこ』と言う名前が載ってある。
チャットの内容もあり、毎月数十万も振り込めと書かれている。
「実際に会ってから、この会話が来るようになりまして。最初は払っていたんですけど……会社の同僚にその話をしたら、『それはおかしい』と言われたんです。それでもう一回会おうとして、話しかけても返事が無かったのです」
そう、男性がいう。
「あと、もう一つ。この女性に間違いはありませんか?」
『幻術側』の絵を見せる。
「……そうです、この女性です!」
▫▫▫
「で、これからどうするんですか?」
男性に事情を聞いた後、樹也巡査はそう聞く。
「……そうですね。まだチャットアプリを使っていると思うので、そこから接近を試みます」
そうのぼるが返すと、樹也巡査は頷いた。
部屋へ戻り、自分のパソコンを開く。
今回は仕事柄、普段使っているアドレスでは駄目だろう。
仮で一回作り、そこから『キルシィ』に登録する。
(『キルシィ』は、アプリとサイトは同じサーバーとの事だ)
登録が完了し、『みゃんねこ』の名前を検索する。
「……お、あった」
同じ名前、アイコンの人が現れる。
『フレンドになる』を押すと、すぐにフレンドになった。
『フレンド登録ありがとう!ここ最近、男性と話が出来なくて寂しいと思ったのぉ』
相手から、開口一番そうメッセージが来る。
(ここは、慎重に……)
と、言葉を探る。
『みゃんねこさん、好きな趣味とかありますか?』
『そうですねぇ、カフェ巡りとか好きですよぉ?』
そう返ってくる。
『……では早速なんですけど、良ければ時間が合えば一緒に如何でしょう』
『ほんと?嬉しい……っ!じゃあ、明日……土曜日の午前中とかどうですか?』
『それでは、そうしましょう』
この会話は、そこで終わった。
「……案外、すぐに釣られたな。あとは、明日だ」
▫▫▫
「あの人、なんだかとってもお金を落としてくれそうねぇ。……さぁて、準備しなきゃあねぇ」
▫▫▫
翌日、土曜日。
指定されたカフェで、さきは待っていた。
(……もうすぐ、ね。早いとこ、お金を巻き上げなきゃ。生活がギリギリだもの)
そう思っていると、彼がやって来た。
「貴方が、メッセージをくれた方ね!私はみゃんねこです~」
さきが言うと、彼は頷いた。
「ここのカフェ、落ち着いて良いところよぉ?貴方も気に入ってくれるかしら」
「……貴女、さっき……『お金を巻き上げなきゃ』って思っていませんでしたか?」
唐突に、彼が言う。
「……そ、そ、そんな!そんな事、思っていませんわよ!」
「見た目を変えたところで、こちらに素性が見え見えなんですよ……箕縞さきさん」
(……この子、なに?私の考えが読めるの?……てか、変装とか名前とか、何で!?)
さきが慌てると、彼は笑う。
「変装、認めるんですね」
「……っ!?」
「失敬、自分は突然変異を捕獲する《メージェント》に所属の、野瀬のぼると言います。……貴女を、捕獲しに接近しました」
▪▪▪
彼女……箕縞さきは無事に確保された。
「それでは、罪を認めますね?」
樹也巡査が言うと、彼女は頷く。
「では、本日の取り調べはここまでです。」
さきは、部屋を出る。
「……あの」
出たところで、のぼるはさきに話しかける。
「何?」
「……貴女は、変装無しでも十分にお綺麗です。もっと、そこに自信を持ってもいいと思います」
「それ、お世辞かしら」
さきはそう返す。
「いいえ、お世辞ではありませんよ。仕事仲間が普段の姿の方が綺麗だと、言っていましたから。それは、自分もそうだと思います。だから……」
そうのぼるが言うと、彼女は微笑んだ。
「……あ、ありがと」
その言葉を最後に、彼女は奥の方へ歩いていった。




