第10話 『ファイナルばあさん』
あの話の、翌日。
「おはようございます」
智利が出勤する。
「……あ、智利君。丁度よかったわ」
詩乃が話しかける。
「どうかされましたか?」
「『ファイナルばあさん』って、知っているかしら?最近、動画で観て気になっていて」
『ファイナルばあさん』……それは、ネット掲示板で有名な都市伝説だ。
ネット情報に詳しい智利は、もちろん知っていた。
「出逢ったら最期、という話でしたよね」
智利が言うと、詩乃は頷く。
「でも、実在に居るのかしらね」
「実在の信憑性はともかく、今でも盛んに掲示板で話題になっていますよ」
智利はそう言い、タブレットを開く。
『ニハチちゃん』と呼ばれる日本最大級のネット掲示板で名前を調べると、今日の日付でスレッドが立てられている。
『ファイナルばあさんについて語るスレ 32』
というページを開く。
『>1 都内で現れているファイナルばあさんについて語るスレ』
と、最初に書かれている。
スクロールをしていくと、今現在でコメントが入る。
『>107 何だか、見た目が同じばあさんが近くに居るww』
『>108 ≫107 おいおい、マジかよ』
「え、嘘じゃない?」
それを見ながら、詩乃が言う。
『ファイナルばあさん』の見た目は、白髪で短髪、少し腰の曲がった姿で杖をついている。
一つ特殊な事を言えば、杖の下は5股で支えている。
『>110 ≫107 そいつに話しかけてみたら?』
『>113 ≫110 話しかけてみるんゴ』
『>116 話しかけてみたけど、何故か逃げられた。てか、そのばあさん誰かと話していた。あいつ、何処かでみたよーな』
「……なんか、気になるわね」
詩乃が言うと、智利は頷く。
「僕、ニハチちゃんのアカウント持っているんで……話しかけてみます」
急遽『ニハチちゃん』にログインし、先程のスレッドに再び入る。
『>120 ≫116 見かけたの何処ですか?ざっくりで良いんで』
『>121 ≫120 浅草橋らへん』
『>122 ≫121 嘘だろ、俺近くに居るんだけどそのばあさん見たぞ?話しかけるか?』
『>123 ≫122 お願い出来ますか?』
……それから数分後、待っても話しかけた人のIDからコメントが来ない。
『>130 ≫122 もしかして、ファイナルばあさんに仕留めれたんじゃね?』
『>131 んな訳ねーんじゃね?それが本当だったら、ガチモンじゃん』
そのスレッドに居る人たちが、少し騒ぎ始める。
『>139 思い出した!話しかけていたの、ウェイトのマークが入った服を着ていた。そいつに、封筒を渡していたな』
『ウェイト』の言葉を聞いた途端、智利の顔が曇る。
「……ウェイトって、《反組織部隊》の事を指すんですよ」
「それ、本当!?」
詩乃が言うと、智利は頷く。
《反組織部隊》は謎が多き組織だが、マークはネットに出回っている。
一部の界隈では『ウェイト』と呼ばれていて、しばしば考察のスレッドが立てられている。
「ねえ、どうする?」
詩乃が聞く。
「汐莉殿に報告の上、三期生の皆様に探すようにした方がよろしいと」
詩乃は急いで、汐莉を呼び出す。
「……もぉ、何でまた都市伝説の人物が《反組織部隊》と絡んでいるのよ」
開口一番、汐莉は言う。
「信憑性を含め、調べた方がいいです。何事も無ければいいですし、何かあったらそれもそれ……」
智利がそう返す。
「それは、そうね。近場に居るのは翠子さんと雷都君だと思うから、『通信機』で伝えるわ」
▪▪▪
その頃、私と雷都は休憩を挟んでいた。
『……二人共、聞こえるかしら』
汐莉の声が『通信機』から、聞こえる。
「どうかしましたか」
雷都が返事をする。
『ちょっと、人探しして貰いたいのよね。白髪で短髪の、おばあさんなんだけど……』
「あれ、あの人じゃ無いですか?」
私は、すぐに分かってそっちの方向を指す。
そこに、伝えられたまんまの人が居る。
「翠子さんが見つけてくれた。話しかける」
雷都が言うと、その人に近付く。
「あの」
そう、雷都が話しかけた瞬間だ。
その人は、急に走り出した。
「あ、こら!待て!」
雷都も走り出し、私もすぐに追いかける。
(……ちくしょう、歳の割りに速い)
追いかけながら、雷都はそう思う。
(こうなったら!)
意識を少し腹の方に向ける。
「帯電流……!」
筋肉が自身の電流で刺激され足が速くなり、追い抜いた。
「止まれ!」
雷都が止まった瞬間、その人は杖を雷都に向けて腹の方に刺す。
(………ッ!?)
その後は、あっという間だ。
腕を掴まれたと思ったら、そのまま投げ技を喰らわされた。
「……ガッ」
「副隊長!大丈夫ですか!?」
私がやっと追い付くと、雷都は相手に捕まえられていた。
「は、早く、助けてくれ」
「……はっ、はい!」
私が技を出そうとした時、また逃げ出そうとした。
「……おーっと、ここは通さねぇよ」
向かおうとした方から、誰かが飛んできた。
……紛れもない、丹緒だった。
「詩乃隊長から伝言で、俺も追っていた。ようやく、追い付いて良かったぜ……あんた、活動妨害にて確保だ」
その人は観念したのか、そのまま捕まった。
▫▫▫
ひとまず、その人を捕まえたところで時間になったので、施設に戻った。
「……あ、お疲れ様です」
私たちの部屋に、智利が居た。
奥には、汐莉も居る。
「捕獲、ありがとうございました。二人のお陰です」
智利が言う。
「……んまあ、俺の犠牲があったからだな」
そう雷都が言うと、智利は苦笑いをする。
「野々羽さんが来てくれなかったら、捕まえられなかったのも事実です」
私が言うと、皆は頷いた。
「……ねーっ、また『ファイナルばあさん』が出たみたいよぉ?また捕まえてみる!?」
汐莉が言い、パソコンを見せる。
「……いや、これ過去ログですよ汐莉殿。日付が去年のモノです」
智利がそう返す。
「なんだ、つまらなーい」
汐莉は、ふてくされたように頬を膨らます。
「なぁ、そうなったらまた俺……投げ技決められるのか?」
雷都がそう、私に小声で聞く。
「いや、もう無いと思いますよ」
私は苦笑いしながら、そう返す。
(まあ、なんとかなった……よね)
そう私は思った。
▪▪▪
「……詩乃殿、よろしいか」
剛条寺巡査部長が、二期生の部屋に入る。
「はい、何か分かりましたか?」
「ああ……これを見て貰いたいのだが」
紙を一枚、机に置く。
そこには、『突然変異:都市伝説に化ける術以外、詳細不明』と書かれている。
「……また、このパターンね」
詩乃が言うと、剛条寺巡査部長は頷く。
「ひとまず捕まえただけでも、成果はあったと思われます」
その言葉に、詩乃は頷いた。




