第9話 冷気と共に風向きが変わる
桜谷崎高校がテスト期間に入ったと言うことで、もうしばらく私は雷都と共に行動する事になった。
今日見回りをする、向島警察署へ挨拶を済ませる。
「……さて、今日もよろしく頼むぞ。翠子さん」
「はいっ」
二人は、街中へ繰り出した。
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何事もなく、もう少しで見回りが終わる頃。
(……何だ、この気配は)
雷都は、さっきから誰かに付けられているような感覚を覚える。
明らかに、自分達を狙っているような……そんな感じだ。
「副隊長?」
私がそう言った瞬間だ。
一人の男性が、こちらに殴りかかってきた。
咄嗟に、『ウォーター・ウォール』を出した。
その時、『異変』が起きる。
彼の拳が『ウォーター・ウォール』当たった瞬間、一瞬で凍りついたのだ。
(……違和感の相手はコイツか!)
と、雷都は悟る。
「翠子さん、技を出すな!コイツは俺が対処する!」
「……え、あ、はい!」
雷都は拳に力を入れる。
「拳流放電!」
相手ももう一回殴りかかったが、カウンターで彼に当たる。
そして、相手は倒れ込んだ。
「……活動妨害で、確保!」
その後、『発見器』の反応があり、突然変異の対象者として警察に引き渡した。
▫▫▫
「トップ、例の三期生に攻撃を仕向けましたが、無理でした。相方が、副隊長だったので、それが原因です。……はい、そこは僕のサーチ不足でした。すいません……分かりました。ここは一旦撤退します」
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施設に戻ったあと、雷都はずっと机で考えていた。
今まで確保してきた人達は、『自分から暴れまわった』のが前提。
そして、自分らに攻撃を仕向けたから確保したんだ。
だが、今回は違う。
最初から自分達を狙っていただろうし、『こちらの能力を知った』上で攻撃を仕向けたように見える。
「雷都君?どうしたの、考え事をして」
汐莉が話しかけてきた。
「実は―――」
今日あった出来事を、汐莉に話す。
それを聞いた汐莉は、顔を曇らせる。
「何か、嫌な感じがするわね」
汐莉がそう言った時、樹也巡査が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「汐莉さん、雷都さん。見てもらいたい物が……」
そう言いつつ、紙を机に置く。
そこには、『突然変異:冷気を操る以外、詳細不明』と書かれている。
「先程、雷都さんと翠子さんが捕まえた人物のデータベースです。……これ、おかしいと思いませんか」
その言葉に、二人は考え込む。
「……これ、もしかして《反組織部隊》の一員じゃないかしら」
汐莉が、静かに言う。
「ノーウェイト?」
樹也巡査は聞き返す。
「反組織部隊と書いて、ノーウェイトって呼ぶ所だ。秘密が多い組織だと聞いているが、なぜそこの名が?」
雷都が言う。
「……あそこに、『突然変異以外の情報を無かったことにする術』を持っている奴が居るのよ、幹部クラスに。それの仕業が高いわね」
そう、汐莉が返す。
「ひとまず、剛条寺巡査部長と仁川刑事部長に……話を通しておく。言伝ての詳細は明日、話すわ」
汐莉の言葉に、二人は不安ながらも頷いた。
▫▫▫
(とうとう、まずい話になってきたわね)
刑事部長の部屋に向かいながら、汐莉はそう思う。
……のだが、事実は事実。話しておかないといけない。
部屋に着くと、中には剛条寺巡査部長と仁川刑事部長が居る。
「話は何だね、汐莉殿」
仁川刑事部長が、そう聞く。
「先程、部下が捕まえた人物のデータベースです」
そう汐莉は言い、紙を出す。
「……突然変異以外の情報は無し、もしかして」
剛条寺巡査部長が言うと、汐莉は頷く。
「《反組織部隊》が、こちらに攻撃を仕向けて来たのか」
仁川刑事部長が言う。
「にずめの件から、どうも行動がおかしいと思ったら……」
剛条寺巡査部長が、呆れた様子で言う。
「仁川刑事部長、お願いがあります」
汐莉が口を開く。
「願い?」
「《反組織部隊》の件、そして一期生の件。これを部下達に話したいのです」
「汐莉殿!それはいけないと、あれほど……」
剛条寺巡査部長が、声を荒らげる。
「この事を話しておかないと、私の二の舞になるだけです!それでも、良いんですか!?」
汐莉がそう返す。
「汐莉殿の、言う通りかもしらんぞ、剛条寺。過去の経験を話すのも、守りを深める案……上の人間には、秘密を打ち明かした事は言わんでおく」
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その翌日、《メージェント》の全員が集められた。
桜谷崎高校の二人はテスト期間中だが、重要な話だからと呼ばれた。
「話って、何でしょうね」
私は小声でネオンに聞く。
「見当付かないな」
ネオンはそう返す。
「お待たせ」
汐莉が部屋に入る。
そして、紙を一枚ずつ渡していく。
「……さて、これから重要な話をするわ」
配り終わった所で、汐莉は再び口を開いた。
▫▫▫
今お渡しした紙には、《反組織部隊》と呼ばれる組織の情報が載っています。
この組織は、突然変異を持っていて、かつその能力に反感を持っている人達が入っています。
実のところ、天黑にずめの件、翠子さんと雷都君が襲われた件に、関与している事が分かっています。
これから、その組織に注意をして欲しいと思います。
……それと、この組織に関して一つ話しておきたい事があります。
ここのトップは、かつて私と行動していた一期生なのです。
今でこそ、家族の安全と保護は条例で決まっているのですが、当時は法整備が整っていませんでした。
そのせいで、5年前……私の相方であった三島武瑠の姉で弁護士だった三島あけみが、追っていた犯罪集団に殺されてしまったのです。
この件は、『警察庁の不手際』と片付けられ、箝口令が敷かれました。
この事に反抗をもった、彼は《メージェント》を抜けて、《反組織部隊》を結成したと聞いており、事実上一期生は解散になりました。
……そして、二期生以降は身の安全を確保するように法整備が進められ、今に至ります。
▫▫▫
汐莉は、そう話した。
「塩小路、どうした?」
私の表情を読み取ったのか、ネオンが聞く。
「三島あけみ……私の、母……です」
「何ですって……!?」
汐莉は驚く。
「でも、どうして姓が違うのだ?」
雷都が聞く。
「家族の安全を守る為と、母は旧姓を使って弁護士の活動をしていました。私の今の姓は、父のです」
私はそう、返す。
「汐莉、どうする?血の繋がった関係がバレたら……」
詩乃が口を挟む。
「出させてください!私だけ、そのまま守られる訳にもいきませんから……!」
私は頭を下げる。
「そうね、ひとまず父方の姓を名乗っているし、突然変異のデータベースを乗っ取ったところで、家族構成は明かされない。しばらくは普段通りにやって貰うわ。……ただ何かあれば、保護観察とさせていただく。それでいい?」
汐莉が言うと、私は頷いた。
▫▫▫
「ねえ、汐莉。仁川刑事部長にこの事、話すの?」
事が終わったあと、詩乃は汐莉に言う。
「ええ、一応は」
汐莉が返す。
「……もし、彼女に身の危険があったらどうするの?」
「その時は、私の腹を切るだけよ」
そう汐莉は言い、部屋を出た。




