第8話 術と音の不協和音
例の術の掛け合わせがあった、翌日。
汐莉が、二人を呼び止める。
「実はね、二人に取っ捕まえて欲しい人が居るの」
そう言うと、紙を差し出す。
『突然変異新規手配格書』と書かれた紙だ。
一枚めくると、『茄ヶ咲みえり』という女性の基本情報が載っている。
突然変異は『爆音を奏でる術』、『手配格をレベル3とす』と書かれている。
「……こいつ、確か路上ライブをすると音がかなり迷惑と言う話を聞いたことがありますが」
雷都が言うと、汐莉は頷く。
「『爆音』ってのは、どうやら彼女が使う音響機器が原因らしいのよ。止めようとしても爆音過ぎて近付けないし、耳を塞いで近付いたとしても機器を物理的に壊せない……」
「だからこそ、私達の術を掛け合わせようと考えたんです?」
「ええ、そうよ」
外部からの圧で壊せないか、という事だ。
それなら、二人の能力がうってつけなのかもしれない。
「それで、今日の午後6時頃にライブをすると彼女のSNSにそう書いてあったから、そこに行って確保をお願いしたいの」
汐莉の言葉に、二人は頷いた。
▫▫▫
「まさか、この事だったんだな。『二人の能力を掛け合わせたい』ってのは」
出動前、雷都が私にそう言う。
「そうですね。隊長も、色んな事を考えていますよね……」
「まぁ、そうだな。それじゃあ……行こうか、翠子さん」
私は頷いた。
▪▪▪
その頃、みえりは路上ライブの準備をしていた。
周りに数台のアンプスピーカーを並べ、ギターに繋ぐ。
(最近許可取りが厳しくなってきてるなぁ。何でだろう……)
そう、みえりは考える。
自分で作曲した曲を、自分の術で爆音にする。
思う存分に使えないじゃない……
「ま、今日は久々に音を出せるから!よぉーっし!」
ギターに手をかけ、みえりは弾き始めた。
「届け!アタシの音楽を!」
▫▫▫
「なんか、物凄い音がしませんか?」
向かう道中、私は雷都にそう言う。
「ああ、数キロ離れていると思うんだが……結構音が聞こえるな」
近付くにつれ、ギターの音が耳障りになっていく。
「……イッ、なに、この爆音……!」
思わず、私は耳を塞ぐ。
「ここから、耳栓をした方がいいな」
雷都がそう言い、私は頷く。
ポケットから耳栓を出し、耳を塞ぐ。
音が少し軽減される。
音のした方へ急いで向かうと、そこにみえりの姿が見えた。
雷都が人差し指を、差し出す。
私の術を出して欲しい、という合図だ。
手の方へ意識する。
(……『ウォーター・ミスト』!)
辺りが、『もや』に包まれていく。
▫▫▫
みえりは、ふと『異変』に気付く。
(何?この『もや』みたいなみたいなの……)
少し水気がするけど、気にする程でもない。
そのまま続けても問題はない、そう思った時だ。
「自流放電!」
そう声が聞こえたかと思うと、アンプスピーカーが壊れ始める。
「な、何!どうなってるの!?」
みえりがそう言った瞬間、全身が痺れ始める。
「……い、いた、痛い……!何、これ……!」
数分した後、痺れが治まり始める。
(んもう、何だったの?)
そうみえりが思った時、後ろから声をかけられた。
そこには、男女二人が居る。
「茄ヶ咲みえり、だな?」
男性か、そう言う。
「……え、は、はい……」
「突然変異の悪用を取り締まる、《メージェント》だ。貴女を、確保しに来た」
▪▪▪
「ねーっ!本当に私がやったこと、いけないの!?」
身柄を引き渡す途中、みえりがそう言う。
「あんな爆音を奏でられたら、誰でも耳を塞ぎたくなるだろう?」
雷都が言うと、みえりはふてくされた顔をする。
「みえりさん」
私が言うと、みえりがこっちを向く。
「突然変異の能力って、誰でも持っていない能力だから使いたくなる……その気持ち分かるんです。けど、自分が思っている以上に、他人に迷惑がかかるモノだと、思うんです」
それは、《メージェント》に入ってから分かった事。
突然変異は、特に他人に迷惑がかかる……と。
「……アタシはただ、音楽を届けたいのに」
そう、みえりは呟く。
その時、目の前にパトカーが止まる。
そして、彼女を引き渡した。
▪▪▪
帰路へついていた時、私はみえりの言葉を思い出していた。
『アタシはただ、音楽を届けたいのに』
今まで捕まえて来た人達とは、違ったこの気持ち。
……一体、何なんだろう。
「どうかしたか?」
ふと、雷都が話しかける。
「あ、その……みえりさんの最後の言葉が、気になっていて。少し悪意があったとしても、本当に捕まえて良かったのかなって」
そう返すと、雷都は笑った。
「変なこと……言いましたか?」
さらに言うと、雷都は手を振る。
「すまん、すまん。翠子さんは優しいんだな、と思っただけさ。……それだったら、彼女に出来る事をしたら良いんじゃないか?」
私は目を見開く。
「私が、出来る事?」
「そうさ。突然変異を持った彼女に、何かしら手を差し伸べるのも……俺達の仕事、なのかもしれないぞ」
▪▪▪
数日後、私は特別拘置所に向かっていた。
あれから考えた事を、みえりに話そうと思ったのだ。
面会室で待っていると拘置所の扉が開き、みえりが入ってくる。
「……貴女、確かアタシが捕まった時の」
覚えてていたみたいだ。
「アタシのとこに来て、どうしたの」
「みえりさんが言った事が、気になっていたんです。『音楽を届けたいのに』って」
その言葉に、みえりは「ああ、そう」と返す。
「アタシ、ずっと路上ライブに憧れていてね。突然変異を持つようになってから、使えるかなって思ったのよ。でも、そう簡単にはいかないわよねぇ」
物悲しそうに、みえりは言う。
「あの、みえりさん」
私は紙を取り出して、みえりに見せる。
「アコースティックギター?」
みえりが言うと、私は頷く。
「みえりさんの突然変異って、機械を繋いだ時に発動すると聞いています。だから、それじゃないギターを使えば、別の意味で音楽を届けられるって思ったんです。それに、ここ……」
描かれているギターの方に、指を向ける。
そこに、みえりのSNSのアイコンがある。
「世界に1つだけのギターを作る工房を見つけて、見積りをして貰ったのです。みえりさんのアイコンが入ったのを、安く作ってくれるそうで……どうでしょう?」
「……どうして、そこまでしてくれるの?」
みえりは、そう返す。
「私、仲間に言われたのです。『何かしら、手を差し伸べるのも自分達の役目』って。だから、私は……みえりさんを応援したい。別の形でって、思って」
みえりは、目に涙を溜める。
「あんた、アタシの初めてのファンかもしれない……」
私の提案は、みえりに受け入れてくれた。
刑期を終わらせたら、あのギターで路上ライブを開くと言った。
もちろん、私はそのライブに行こうと思う。
きっと、いいライブになりそうな……そんな感じがしたから。
▪▪▪
面会室を出ると、雷都が出迎えた。
「どうだったか」
雷都がそう言うと、私は笑顔で頷く。
「……そうか、受け入れてくれたんだな。きっと、彼女は更生する」
そう雷都が言って、私の肩を叩いた。
(闘って終わりじゃない。こういう、解決法も……あるんだな)
と私は思った。




