第7話 拘置所からの脱走を防げ
突然変異特別拘置所。
そこは突然変異の能力者で逮捕された人たちが拘置される場所で、『留置所』も兼ねている。
その中の一室に野々羽丹緒が居り、休息していた。
(拘置所の刑務作業者として、収容している)
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(はあ、またこの景色か)
天井を見ながら、丹緒はそう思っていた。
犯罪に手を染めたのは、『魔が差したから』。
かつての同級生である、まいとめいに話したが……理由はもっと複雑だ。
実のところ、仕事を転々としていたフリーターだった。
その為か、生活はいつもギリギリ。
住んでいた部屋の家賃は、何度か滞納していた。
だから、自分の能力である『重力無視』を使って犯罪を犯した。
(まあ今度は、住める場所と生きていけるだけの金、手に入るからな)
あの二人が、自分に手を差し伸べてくれた。
その気持ちには、答えたい。
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暫くした後、突然サイレンが鳴り響く。
その音に、丹緒は飛び起きる。
「……何があった?」
ドア近くに居た、警備員に聞く。
「何人か、脱走を謀ったみたいだ」
イヤホンに手を当てながら、そう答える。
その時、『捕まえなければ』という感情が湧いた。
……何故かは分からないが、そう思ったのは確かだ。
「おい、そいつらを俺が取っ捕まえてやる。ここから出してくれないか」
警備員は驚いた表情を見せる。
「君は、囚人だぞ?そんなことをして、許されるとでも……」
「それは分かっている。ただ、相手は突然変異の持ち主だ。無能力者が太刀打ち出来ると思わない……どうか、頼む!」
丹緒は土下座をする。
「……分かった。条件は一つ、自分と一緒に行動してくれ」
▫▫▫
警備員の鷹南芽と共に、丹緒は建物の中を走っていく。
「脱走を謀ったのは3人だ。警備員を倒しながら、南側の出入口に向かっている」
そう、鷹南芽が言う。
「脱走した相手の番号は?」
「203番、208番、217番だ」
2から始まる数字は、留置側にいる人間だ。
(拘置側は、3から始まる)
記憶が正しければ、確かそこには銀行強盗を行った輩が入っていると聞いた。
能力は未知数だが、やるだけやるしかない。
「……もうすぐ、留置側に入るぞ」
鷹南芽の言葉に、丹緒は頷いた。
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「兄貴!もう少しで、南側の出口ですぜ!」
多川がそう言う。
「……たく、警備員にここまで手こずるとはな」
芽館が、呟く。
「まァ、いい運動になったじゃねぇか。……最終突破だぞ!多川、行け!」
左根島が多川に指示し、南口に通じる鉄格子を壊そうとした時だ。
頭上から黒い影が通ったか思うと、多川が誰かに飛び蹴りされた。
「一人目、捕獲!」
誰かが、多川に手錠をかける。
「誰だ、テメェ」
左根島は、そう聞く。
「……ただの通りすがり、さ」
仲間を確保された左根島と芽館は、血相を変えて殴りかかる。
相手を交わしつつ、壁を駆け上がる。
そのまま壁から飛び、芽館の所に蹴りを喰らわせ、倒れたところで手錠をかける。
「……二人目、確保」
相手がこちらに目を向ける。
「これ以上抵抗するならば、貴様にはもっと地獄を見る。それでも良いのなら、かかってこい」
左根島はすっかり怯え、そのまま確保された。
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事が終わり、丹緒は部屋へ戻った。
「ありがとう、助かったよ」
鷹南芽が、丹緒にそうお礼を言ってきた。
「こっちがお礼を言わせてくれ。鷹南芽さんがあの場で、俺を出してくれたから、脱走を防げた」
丹緒は頭を下げる。
「……お互い様、だな」
鷹南芽がそう言うと、丹緒は頷いた。
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それから、数日後。
丹緒は、面会室へ通された。
そこには、詩乃の姿があった。
「どうして、《メージェント》の隊長が?」
丹緒は聞く。
「貴方の刑期を、来週末に減刑するとの通達を頼まれたのよ」
丹緒は目を見開く。
「何でまた、急に減刑だなんて」
「脱走未遂事件の解決に、一役買ったのがあってね。……貴方には、『正義の心意気』があると判断したからなのよ」
(そうか、『正義の心意気』か)
詩乃の言葉に、丹緒は納得した。
……あの時、『捕まえなければ』と思ったのは、それだったのだ。
「あとね、この減刑を説得してくれた人が居たのよ」
詩乃が追加で言う。
「説得?一体誰が……」
「鷹南芽さんよ。私からまいとめいの話をしたら、『これは減刑に値する』と上の人間に直接言ってくれたの」
「そう、ですか」
……また、自分は助けられた。
でもこれは、自分が行った事に対しての『表れ』だろう。
「それじゃあ、伝える事は伝えたし、私はここで失礼するわね」
そう詩乃が言って、席を立つ。
「あの、隊長さん」
丹緒は出ていこうとする、詩乃に声をかける。
「どうしたの?」
「俺、絶対にこのご恩は忘れないです……!」
その言葉に、詩乃は笑顔を見せて頷いた。
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出所当日になった。
荷物を持って、外へ出る。
「……野々羽君」
誰かに声をかけられ、後ろを向く。
そこには、鷹南芽の姿があった。
「無事、出所おめでとう。これからも、外の世界で頑張ってくれ」
「……こちらこそ、ありがとうございました」
丹緒は頭を下げる。
鷹南芽は、肩を叩く。
「それでは、僕は業務に戻るよ」
そう鷹南芽は言い残し、中へと入っていった。
「野々羽くーん!」
聞き慣れた声がした。
その方向へ向くと、まいとめいの姿があった。
「出所、おっめでとー!」
そうめいが言うと、抱き付いてきた。
「ち、ちょっと、お前……」
「……めい、周り、見てるよ?」
まいが言うと、めいは離れてくれた。
「えへへっ。事件の事聞いてさ、野々羽君もやれば出来るのねって思った!」
めいが笑顔でそう言う。
「……まあ、な。それも二人が手を差し伸べてくれたからな」
丹緒が言うと、二人は頷く。
「それじゃあ、住むところ、教えてあげるね」
まいがそう言い、三人は歩いていく。
―――野々羽丹緒、新しい生活の始まりである。




