《メージェント》の日常:冬馬の記憶
とある休日の事。
冬馬は、自分が通う高校の近くにある公園へ出向いた。
イチョウの木に、缶ジュースを一個置く。
(あれから、今日で一年か)
そう思った時だ。
「……冬馬君」
誰かが、自分に言ってくる。
そこに、翠子が居た。
「あれ、翠子さん?どうしたんです」
冬馬が言うと、彼女は苦笑いをする。
「冬馬君がどこかに行こうとしてたの見ちゃって、黙って付いて来ちゃったの。表情からして、思い詰めた感じがして……ごめんね」
「……なるほど。別に大丈夫ですよ」
と言いつつ、『あの事』を話すのは今だと思う。
「翠子さん、少し話したい事があって。良いですか?」
そう言うと、彼女は頷く。
そして、近くにあるペンチに腰をかける。
「……で?話って何かな」
「その、僕の過去の話なんですけど―――」
記憶の底に眠る『あの事』を話し始めた。
▪▪▪
あれは、僕が高校へ上がった頃の話です。
クラスに、突然変異を宿した同級生が居ました。
彼は、未田音という奴でした。
能力は『自分が蹴った物の威力を上げる術』で僕との能力と相性が良く、《メージェント》に入る前から、私的に突然変異を悪用する人を取っ捕まえていたんです。
なんですが、高校の能力を持った先輩が、僕と未田音の活動に嫌気を差していた、そういう話がありました。
で、『後輩潰し』と名打って、僕たちに攻撃を仕向けようと思ったんです。
……そして一年前の今日、事件が起きたのです。
二人一組では太刀打ちが出来ないと彼らが思ったのか、最初に未田音が狙われ、高校近くのこの公園で、複数の先輩が未田音を襲ったのです。
異変を悟った僕と野瀬先輩が公園に向かった時には、未田音はあのイチョウの木の下で倒れていた状態でした。
(ちなみに、野瀬先輩とは好意的に交流がありました)
未田音は、もう息をしていませんでした。
……それと、実行犯の能力者を持った先輩は、あのあと学校を辞めさせたと聞いています。
▪▪▪
「その先輩は峯河と言う人で、突然変異は『手に持った物を爆発物に変える術』を持っています。今はどうしているか、分かりません……」
冬馬は、最後にそう付け加えた。
「……そっかぁ。通りで、あの事を言う訳ね」
翠子は、そう呟く。
「いずれ話そうと思っていたんですけど、遅くなってしまって……」
冬馬がそう言うと、彼女は首を横に振る。
「良いの、良いの。とっても辛い記憶は、話すのも一苦労だろうし、言ってくれて嬉しいよ。私が、未田音さんの代わりになれるか分からないけど」
「僕は、翠子さんの事……大切にしていますし、あの時の苦い思い出の二の舞には、したくないです」
冬馬が返すと、彼女は頷く。
その時、12時を知らせる無線チャイムが鳴る。
「……あ、もうお昼かぁ。ねえ冬馬君、これから一緒にご飯食べませんか?」
翠子が言う。
「はい、喜んで」
僕と彼女は、席を立つ。
(未田音、僕は今……新しい相方と闘っています。どうか空の向こうで見守って欲しい)
そう冬馬は思った。




