第5話 最凶のレベル5の一角、ついに
仕事にも少しずつ慣れた頃。
突然変異特別対策課に、ある情報が舞い込んでくる。
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剛条寺巡査部長が、取り調べの書類をまとめている時の事だ。
「剛条寺殿、よろしいか」
捜査第一課の古株である、白守刑事が話しかける。
「白守殿、如何なさいました?」
そう返すと、白守刑事は顔を曇らせる。
「実は、だが……」
懐から写真をいくつか取り出して、机の上に置く。
殺人事件の現場写真だ。
剛条寺巡査部長は一つの写真に写っているメモが気になり、手に取る。
「『汝、死を司る神である』、これもしかして?」
「ああ、そうじゃ。天黑にずめがまた、殺ったっちゅう話だ」
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天黑にずめ、突然変異は『自分が殺めた死に人を操る』術。
彼女は、手配格の中でも『最凶のレベル5』の一角として、警察が特に警戒している人物だ。
《メージェント》が配備された頃に、一期生が一度捕まえており、実刑判決が出た。
……その後に、凶暴さ故に独房に入れられていた。
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「……確か、天黑は少し前に仮釈放されたと聞いていたが」
剛条寺巡査部長が言う。
「そうだが、背後についていた私服 (警官) の奴がやられたんだ。……その写真が、それさ」
剛条寺巡査部長は、その言葉で背筋が凍るのが分かった。
仲間を殺めて、逃げたのだ。
「一応、上の人間には報告をした。でな、剛条寺殿には俺から話すように、仁川刑事部長から言われている」
白守刑事は、そう言う。
「……それで、こちらはどう動けば良いか」
「厳重警戒で動くように、と聞いている。なんせ、手配格のレベルがレベル……だからな」
白守刑事は、現場写真とや逃げた当時の服装などをまとめた資料を置いて、部屋を出た。
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剛条寺巡査部長は、《メージェント》全員を呼び集めた。
そして、先程聞いた事をそのまま話し、資料も見せる。
「う、うぅ」
現場写真を見せられた時、ベベロが目を瞑る。
「ベベ、大丈夫か?ちょっと離れるか」
ネオンが心配する。
「……だ、大丈夫。み、見なれてない、だけ」
「剛条寺殿、三期生は皆でまとまった方がよいと思われます」
智利が言う。
「そうだな」
「三期生には、彼女と対峙するのは危なすぎます。無理に出動しないのも手です」
汐莉が口を挟む。
「だが、汐莉殿や雷都殿、二期生だけでは厳しい。何処に居るかだけでも……」
その時、汐莉は机を強烈に叩き「後輩には、死なせたくないのです!」と大声を出した。
「汐莉殿の気持ちは分かるが、これは上の人間からの指示なのだ。三期生も出なくてはならない」
剛条寺巡査部長が静かに言う。
「……すいません」
これ以上は言えず、汐莉は言葉を引いた。
「それでは、天黑にずめを捕獲してくれ」
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「隊長」
私は出る時、汐莉に話しかける。
「どうかした?」
「あの、その……どうして、私たちの事が心配なのかな、なんて」
私がそう言うと、汐莉は少し悲しそうな顔を見せる。
「一個だけ、言うならね。私、大切な人とその唯一の肉親を救えなかったから……皆が居なくなったら、嫌だもの」
「大切な人と……その唯一の肉親?」
「塩小路、そろそろ行くぞ」
ネオンの声がする。
「今、話せるのははここまで……よ。気を付けてね」
汐莉は私の肩を叩いて、そう言った。
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二期生と雷都は23区を見るとの事で、三期生は区外へ出る事になった。
「……」
私は、さっき隊長が言っていた事が気になっていた。
「翠子さん、大丈夫ですか?」
冬馬が心配そうに、気にかける。
「あ、うん。大丈夫だよ」
「そうですか」
冬馬は、それ以上は聞かなかった。
「……ねー、兄ちゃん」
ベベロはネオンに、話しかける。
「どうした?ベベ」
「もし、仮にな?うちらが、その『レベル5』の人と闘う事になったら、勝てるのかな」
その言葉に、ネオンは少し悩む。
「やれるだけ、やるしかないさ。それに何かあったら、『通信機』でって話じゃないか……?」
そう返した時だ。
「……いい、相手、みーつけた」
女性の声が聞こえた。
皆は、その方向に目線を向ける。
――そこには、天黑にずめが立っていた。
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辺りが一気に血生臭くなる。
……彼女の周りに、『死に人』が集まっているからだ。
ざっと数えただけでも、二桁は居る。
(……なに、あの殺気)
私はそう感じる。
下手をすれば、殺られる。
彼女の眼は、凶気に満ちている。
「皆!戦闘体勢を取って!」
冬馬の声に、各自体勢を取る。
「……三期生、貴殿方も、私の手の内に……」
にずめが手をこちらに指をかざすと、『死に人』がこちらに向かって走り出した。
「「おりゃぁぁっ!」」
ネオンとベベロは、『死に人』に向かって拳を当てる。
血が吹き出す。
「……目的対象完了、初回制限は3分35秒。僕が先輩を呼ぶんで、それまでなんとか食い止めましょう!」
冬馬の声に私は頷き、走り出す。
「『スクリュー・ウォーター』!」
▫▫▫
『こちら、三期生。西東京市で、天黑にずめと、戦闘中。応援願います!』
冬馬から、そう報告を得る。
汐莉は、『発見器』に組み込まれたGPSで確認をする。
東伏見公園付近だ。
雷都を含め、二期生に場所を教える。
「二期生のみんな、にずめが出たのは東伏見公園付近よ」
『了解です』
「……さてと、私も出ますか」
汐莉はジャケットを取ると、部屋を出た。
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(……あれから、何分経ったの?)
私はそう思う。
『死に人』に、いくら攻撃を当てても立ち上がる。
冬馬は三回制限まで使うと、一時目的対象が出来なくなる。
上限まで使いきり、今は安全な場所で右眼を休ませている。
「……う、ぐっ」
ベベロが、口元を手で覆い隠す。
この強烈な血生臭さで、今にも吐いてしまいそうだ。
「一人、捕まえる」
にずめがベベロの方に指をかざし、そこに『死に人』が集中する。
「塩小路!ベベを守るぞ!」
「……はい!!」
二人で護衛体勢をしようとした、その時だ。
塩ビパイプと、ナイロンテープが飛んできた。
『死に人』の攻撃を防いだ。
「助けに来たわよ!」
めいが言った。
二期生が助けに来たのだ。
私らは、ひとまず安心した。
「……ここからは、私らが相手ですわ!」
詩乃が言うと、二期生は動き始めた。
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(三期生、殺れれば、よかったのに)
にずめはそう思った。
仮釈放が決まった時、自分の所に手紙が来た。
封を切ると、『《メージェント》の三期生を、天黑にずめの仲間に出来れば、俺らの征服に役立つ』と書かれていた。
最後の所に書いてあった、マークを見て誰が送ってきたのが分かった。
(……刑務所、嫌だった)
自由になりたかった。
……その想いを、また《メージェント》が邪魔をする。
(二期生も、やっつける!)
『死に人』に指示をしようとした時だ。
「あんた、これ以上仲間を傷付けないでいただけるかしら?」
「……っ!?」
背後に誰かが居る。
……それも、聞いた事のある声だ。
「どうして、貴女が背後に」
にずめは背後に居る人物に、振り向かずそう言う。
「私の突然変異、忘れたとは言わせないわ」
「イッ……!?」
腰の方に激痛が走る。
そのまま、投げられる。
「天黑にずめ、確保!」
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「久しぶりに、汐莉の変装見れたわね」
引き渡す途中、詩乃が言う。
「あの、何に変装したのです?突然に現れたので」
私が聞く。
……まあ実のところ、変装自体は話を聞いていが、実際に見たのは初めてだったのもある。
「……ああ、やっぱり分からないわよねぇ。近くに居たカラスの一羽が、汐莉なのよ」
詩乃がそう返す。
「やっぱり、詩乃は見てるわねー。戦闘中でも」
汐莉は笑いながら言う。
「……え?カラスの中の一羽?」
私は聞き返す。
「動物に変装している時は、耳に小さなピアスが付いているから、それが目印なのよ。で、カラスの一羽に、変装している汐莉が居たのよ」
詩乃が説明をする。
「……はあ、そうなんですか」
見抜ける人にしか見抜けない、そんな早変装の技術は凄いと私は思った。
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その頃、突然変異特別対策課では……
天黑にずめが仮に住んでいた部屋から押収した手紙を、剛条寺巡査部長は読み進めていた。
(……まさか、彼奴らが関わっていたとはな)
最後のマークを見て、剛条寺巡査部長は頭を抱える。
「一応、汐莉殿と詩乃殿には話しておく……か」
そう呟き、手紙をしまった。




