第4話 野瀬のぼるの思考的事件解決術
三期生の4人は前線で活動する中、のぼるは能力の関係上『取り調べ』の方で活動していた。
樹也巡査からは、「取り調べが進む」とかなり信頼を得ていた。
▪▪▪
ある日の事。
「……おはよう、ございます」
のぼるはいつもの通り、出勤する。
「おう、貴方が野瀬さんと言ったかな」
Ver.205の担当刑事である、剛条寺巡査部長が珍しくこちらに姿を見せていた。
「野瀬君、実はね……」
実のところ、先輩方が銀行強盗に関わった突然変異保持者を捕まえたのだが、裏にまだ『主犯者』が居る事が分かった。
……のだが、捕らえた人をいくら取り調べをしても、口を割らないらしい。
そこで、『思考読み術』の術を持っている自分に話が来たと、汐莉が説明した。
「無理に口を割らせたら、流石に問題が出てくる。だからこそ、貴方にお願いしたい」
剛条寺巡査部長が、そう追加で言う。
「……分かりました。自分で良ければ」
剛条寺巡査部長は、頷いた。
▪▪▪
逮捕されたのは、多川志江と呼ばれる男性。
そして、突然変異は『あらゆる物を歪ませる術』。
現場の指示者は、捕獲逃れをされた―――
と、取り調べ書には書いてある。
確かに、指示者が居たと事を考えれば裏があると考えるのが妥当だと、のぼるは思う。
(ちなみに、逮捕された多川と指示者が二人で居た所は、現場近くの防犯カメラで分かっている)
取り調べ室に、多川が入る。
「……こいつ、誰ですか」
多川は、のぼるの事を見ながら言う。
「ちょいと取り調べに必要な人物さ。あんたが気にする事じゃ無いぞ」
剛条寺巡査部長が、そう返す。
多川は少し複雑そうな顔をしたが、頷いた。
「……さて、本日の取り調べを行う」
取り調べが始まった。
「なあ、多川。本当にあんた一人で、この強盗の計画をしたのか?あんたと現場指示者がカメラに映って居たのに――」
「だァ!俺が一人で計画したっつーてんだろォ!」
多川は言葉を遮るように、大声で言う。
「……まあまあ、落ち着け」
なだめるように、剛条寺巡査部長が言う。
(……右手、かなり握りしめているな。焦り、か?)
のぼるは、そう感じる。
それに、目線が定まっていないような気がする。
(読む価値、ある)
のぼるは多川の目を見つめる。
(『思考読み術』は、相手の目をみて目線が合ったときに発動する)
一瞬だが、目が合った。
(……ハッキング!)
『絶対に左根島さんの事、ばらしちゃいけねえ!』
最初に読み取った【言葉】はこれだった。
「……あの、多川さん」
自分が口を開くと、多川はこちらを見る。
「なんだ?急に喋ったと思ったら……」
「左根島さんという方、どういう関係性で?」
「…………!?」
明らかに、多川が動揺する。
「……お前、アイツの手下だったのか」
剛条寺巡査部長が、そう呟く。
「左根島まがらと言うんだが、以前から追っている奴だ。突然変異は、『相手の目線を乗っ取る術』。手配格はレベル4の輩なんだがな、なかなか尻尾を捕まえられなかったんだ」
『手配格』と言うものは、突然変異保持者の中でも『犯罪者予備軍』が高いとされている人物の事を指しており、レベルの最高は5。
「……レベル4なら、ここで逮捕しないともっと犯罪が起きるかも」
のぼるが言うと、剛条寺巡査部長は頷く。
「おまえ、奴らの居場所は分かるのか?」
「……こ、ここ、ここで、言ったら……お、俺、こ、殺される……」
多川がそう返すと、剛条寺巡査部長が胸ぐらを掴む。
「殺される以前の事をやっている、おまえにその事が分かるか!」
そう言っても、多川は首を横に振る。
(これは、【映像】で分からないか……?)
【映像】の記憶が読めれば、先に進めるかもしれない。
目線を合わせ、もう一度術を発動させる。
【映像】には、東京タワーがほぼ間近で見られる雑居ビルが映しだされた。
そこに、防犯カメラで見た現場指示者の男性と、もう一人居る。
そのビルの一室に入る。
そこには多川が逮捕された銀行の名前があり、次に襲う銀行の名前もある。
………ここが、彼らのアジトだろう。
「……剛条寺巡査部長、奴らのアジトは港区にあります。東京タワーの近くにある、雑居ビルの一室です」
「それ、本当か」
剛条寺巡査部長がそう返すと、のぼるは頷く。
「あと、もしかしたら……次の犯罪現場に向かうかもしれません。証拠を押収したら、二期生の方々と自分に連絡してください」
▫▫▫
それから、すぐにアジトの詮索が行われた。
のぼるの言う通り、港区の雑居ビルにアジトがあった。
そこを調べた後、押収品の中に『次の計画場所』が書かれた紙を見つけた。
日付は今日になっているが、まだその事件の報告を得ていない。
「野瀬君、本当に貴方も出るのね」
出動の準備をしている時、汐莉が心配そうに言う。
「主犯者の乗っ取り術は、多分自分にしか見抜けませんから……やるしか無いです。それに、何かあれば剛条寺巡査部長に報告します」
術を見抜くには、『相手の思考が明らかに読めない』と考えたからだ。
「分かったわ。くれぐれも気を付けてね」
汐莉が言うと、のぼるは頷いた。
(……自分の事、信じて心配してくれている。何としても無事に事を終わらせよう)
気持ちを察したのぼるは、施設を出た。
▪▪▪
六本木にある、某銀行。
ここが、次の計画場所だ。
辺りには、突然変異特別対策課の私服警官と剛条寺巡査部長、《メージェント》二期生、そしてのぼるが警戒している。
(もうすぐ、日が落ちる。そろそろ現場に来て良いのだが)
のぼるは焦る。
(……?)
現場近くに、見覚えのある人物が居るのに気付く。
……あれは、防犯カメラに映っていた『現場指示者』だ。
彼は、携帯をいじっている。
……何とか、術の範囲内に近付きたい。
その時、相手が電話に出る素振りを見せる。
(………今だ)
のぼるは、気配を感じさせずに彼に近付く。
一瞬だが、目線が合う。
(ハッキング!)
術を使ったが、何も感じられない。
人は何かしら考えている為、このような違和感は感じない。
思った通りになったのだ。
「……隊長、聞こえますか」
その場を離れつつ、のぼるは詩乃に『通信機』で小声で伝える。
『野瀬君?どうしたの』
「現場近くにいる、青いジャンパーとジーパンを着た奴が居ます。そいつが指示者です」
『本当なのね?』
「はい、間違いありません」
『分かったわ、声をかけるわよ』
そこで、『通信機』が途切れる。
(……後は、主犯者は何処に隠れている……!?)
それさえ分かれば、いい話なのだが。
(考えろ、考えろ……)
必死に考えていると、ふと彼が電話をしたときに見上げた方向を見る。
建物群の中に、見えるのは―――
(六本木ヒルズ!)
ここらで一際目立つビルはそれであり、ここは何とか見える位置だ。
まだ、今なら主犯者は中に居るはず。
「……剛条寺さん!主犯者は六本木ヒルズに居ます!」
その方向に向かいながら、『通信機』で伝える。
『それは本当か!?』
剛条寺巡査部長が、そう返す。
「ここらで目立つビルは、それしかありません!急いで出入口を塞ぐようにして貰えますか!」
『分かった、そこの警備会社に今すぐ連絡しよう』
そう言って、『通信機』が切れる。
(……間に、合ってくれ!)
▪▪▪
「身分証明書の提示を、よろしくお願いしますー」
数分後の六本木ヒルズの出入口内では、警備員と私服警官が出入りする人間に対して身分証明を行っていた。
主犯者である左根島は、顔と名前は一応確認出来ている事から、すぐに見つかるかも知れない……との事だ。
「……チッ」
一人の男性が、関係者専用の裏口に向かおうとした。
「……貴方、なぜこっちから出ようとするんです?」
のぼるの声に、相手は驚く。
「てめぇ!誰だ!?」
「《メージェント》所属、野瀬のぼるだ。左根島まがら、貴方を確保する!」
その瞬間、左根島は殴りに来た。
「貴様ァ!ふざけんなァ!!」
のぼるはひらりと交わし、身体を壁に叩きつける。
「……ゲハッ」
「左根島まがら、確保!」
▪▪▪
主犯者の左根島まがら、現場指示者であった芽館と言う人物は、無事に逮捕された。
(芽館の突然変異は、『相手の思う通りに動ける術』との事で、左根島の右腕的存在だった)
これまでの強盗事件にも数件関わっている事から、余罪を調べている。
「……助かりましたぞ、野瀬君」
仕事の終わり、剛条寺巡査部長が言う。
「いえ、お役に立てて光栄です」
そう返すと、剛条寺巡査部長は頷く。
「これからも、よろしく頼みますぞ」
「……はい!」




