第3話 燃える火の粉を乗り越えろ
「おはようございます」
平日の出勤。皆はVer.305の部屋へ集まる。
「皆、集まったわね。それじゃあ……」
汐莉が今日の出動場所を言おうとした、その瞬間だ。
『汐莉さん!聞こえますか!』
無線機から、めいの声が聞こえた。
「めい?どうかした?」
『今、代々木公園の方に居るんですけど、辺りが燃え盛っているんです!犯人は突然変異所持者ですが、消火活動が間に合わないのと、私とまい姉の能力じゃどうにもならいんです……!』
『……翠子さんと、ベベロちゃん。二人なら、やれそう!』
まいの声もする。
「翠子さんとベベロちゃん、行けるかしら」
汐莉は確認する。
「分かりました!」
「了解やで!」
二人はそう返すと、汐莉は頷いた。
「今から、二人向かいます。それと念のために、そのまま待機してくれるかしら」
『『了解です』』
「それじゃあ、二人共よろしく!ぐれぐれも気を付けてね!」
二人は頷いて、部屋を出る。
「じゃあ、今日の通常勤務は冬馬君とネオン君のコンビでお願いします」
冬馬とネオンは頷いた。
▫▫▫
代々木公園に向かうにつれて、煙と炎が見え消防車の音が鳴り響く。
「……二人共!こっち!」
めいが手を振る。
中央広場一体が燃え盛り、消防士が引っ切り無しに水をかけている。
「犯人は?」
私が聞く。
「奥に、居る。これを身に付けて、入って」
防火服と、スモークマスク、防煙メガネを渡す。
急いで身に付ける。
「それじゃあ、行くよ!ベベロちゃん!」
「あいよォ!」
▪▪▪
炎が散りばめられた辺りは、かなりの高温だ。
……だが、二人の能力では何とかなるレベルだ。
「『スクリュー・ウォーター』!」
私の力で水の渦を巻きながら、中へ進んでいく。
火の粉の中心に、男性が居る。
多分、彼が犯人だ。
「……あぁ?誰だお前ら」
男性がこちらに気が付いたようだ。
「突然変異を悪用する輩を、捕獲する《メージェント》や!おとなしゅう、捕らえられよ!」
ベベロが走り出し、拳を出す。
「俺の野望に、文句を言うんじゃねぇ!」
相手が手に火の粉をまとい、応戦する。
拳が合わさった時、衝撃波が走る。
上手いとこ力が相殺され、一旦両者が離れる。
「なかなかやるじゃねぇか!」
相手が煽るように言う。
「……イッ」
さっきの衝撃と熱で、ベベロは左手を押さえる。
(今ここで、もう一発拳を喰らうのは耐えられないかも。ここは、私がなんとか……)
「ここからは、私が相手です!」
私は、ベベロの前に立つ。
「……俺の火の粉を、消してみろやァ!」
再び拳に火の粉をまとい、こちらへ向かってくる。
「『ウォーター・ウォール』」
水の壁を作る。
一瞬で、右手の火の粉が消え去る。
「チィッ!まだだ!」
右手を無理に押して壁を破壊し、私の手を掴んだ。
『ウォーター・ウォール』は衝撃吸収はしてくれるが、無理に押して破壊するのは想定外だ。
(マズイ……ッ!)
無理に手を離そうとしても、強く握り締めてくる。
「……い、は、離して……!」
残りの片手で対処しようとするが、そっちも握り締めてきた。
「水、弱いなぁ……くくく、テメェはここで終わりだ」
口に空気を入れる。
もしや、火の粉を出すんじゃないのだろうか……!
(や、やられる!)
目を瞑った瞬間だ。
「姉ちゃんを!離せぇぇええ!」
ベベロの声が聞こえたかと思うと、握り締めていた手が離れた。
(……ベベロ、ちゃん?)
私が目を開けると、ベベロが相手に体当たりしていた。
「これ以上!姉ちゃんを!」
馬乗りになったかと思うと、ベベロは相手に向かって何発もパンチを喰らわせた。
数発喰らった相手は、そのまま気絶をしてしまった。
▪▪▪
相手が捕らえられると、炎が一気に鎮火していった。
犯人をなんとか、警察官に身柄を明け渡した。
「二人とも、大丈夫……?」
まいが心配そうに、話しかける。
「私はなんとか。でも……」
私は隣で横になっている、ベベロの方を見る。
彼女は事が終わった後、力を使い果たしたのか気絶してしまった。
「ねえ、中で何があったの?」
めいが聞く。
一部始終の事を、話した。
「多分、一種のトランス状態じゃないかしら。翠子ちゃんを守ろうとする気持ちが、オーバーしてしまったかもね」
めいが言う。
「トランス状態?」
私が聞く。
「……いつもの状態と違って、別人が乗り移った感じになる、事。さっきの話を聞いていたら、ベベロちゃん、じゃないみたい……」
まいが説明する。
あの時の表情は、すごい殺気立っていた。
確かにその通り、なのかもしれない。
「ふ、ふぇ?」
ベベロが目を覚ましたみたいだ。
「ベベロちゃん、大丈夫?」
私が話しかける。
「……あれ、犯人は?」
何度か拳を喰らって、気絶した事を話した。
「そうか、そうなんやな……うちが、何度も……」
ベベロは自分の拳を少し見た後、私を見つめる。
「ほ、ほんとーはな、すごい怖かったん。このまま、姉ちゃんがやられたら、どうなるんやろうって。そしたらな、もう頭が真っ白になって、気が付いたら……」
「そっか、そっか。怖い思いさせてごめんね。……でも、ベベロちゃんのお陰で犯人も捕まったし、私も大きな怪我をしないで済んだ。ありがとうね」
私はベベロの、頭を撫でる。
ベベロは、私の懐に入ると肩を震わせた。
▪▪▪
そのまま、私とベベロは戻った。
エントランスに、汐莉が居た。
「事情は、めいから聞いたわ。大丈夫かしら」
そう言うと、二人は頷いた。
「……そう、それなら良かったわ。報告書はまいとめいに任せているから、今日はそのまま休みなさい」
寮の方面に向かう前に、私だけ汐莉に声をかけられた。
「何でしょうか、隊長」
「ベベロちゃんの事、何かあったら貴女に相談するかもしれないわ。女の子同士、何かと言えるかもしれないから」
「……分かりました。私で良ければ」
そう返すと、汐莉は頷く。
「それじゃあ、私は戻るわ。お疲れ様」
「お疲れ様です」
汐莉は、奥の方へ歩いていった。




