第13話 展開が早すぎる
朝食を済ませ何をしようかと考えていたソルトの元にギルマスからの使いだと手紙を渡される。
「ギルマスからってイヤな予感しかしない」
「何、書いてあるの?」
「まあ、ソルトの言うように碌なことは書かれていないんでしょうね」
レイとエリスに急かされ、ギルマスの手紙を開くと、こう書かれてあった。
『今日の午後三時にパーティメンバー全員で領主の屋敷まで来るように』
「うわぁ~イヤな方が当たった!」
「どれ? うわっ本当だ。もう隠す気ゼロだね」
「で、どうするの? 本当に全員で行くの?」
エリスの問いにソルトは考える。領主の言うようにパーティーメンバー全員で出掛ければ、この屋敷には襲撃に対応出来るのはいなくなる。
だから、そうなるのは避けたい。
「ねえ、何も素直に領主の言うことを聞いてあげる必要なんてないんでしょ」
「レイ……」
「でも、私は行くからね。私にあんな真似させたオヤジの面くらい拝まないと気が済まないのよ!」
「でも、いいのか?」
「いいの! ついでに二、三発は張り倒す予定だけどね」
「「……」」
レイの鼻息の荒さにソルトとエリスは黙るしかなかった。
「なら、領主の屋敷に行くのは、俺とレイ。それにブランカとシルヴァも来てもらったほうがいいか。後は留守番で」
「「「え~!」」」
いつの間にか側に来ていたサクラ達が不満を漏らす。
「おいおい、ソルト。荒事があるっていうのに私は除け者か?」
「だからだよ、サクラ。絶対に話が終わる前に仕掛けるだろ?」
「……そ、そんなことは……ないと思うぞ」
「ソルトさん、私はなんでお留守番なんですか?」
「シーナが狙われたら、守りながら戦う自信がない。だから、お留守番で」
「私が可愛いから狙われやすいと言うんですね」
「シーナ、ソルトはそこまで言ってないぞ」
「いいえ。言っているも同然です。分かりました。私は喜んでお留守番しています」
「ソルト、私はなぜだ?」
「ああ、リリスにカスミにノアにガネーシャは屋敷の防衛力として残って欲しい」
「そんなの私一人で十分じゃないのか?」
サクラはそう言うがソルトはそれだけじゃ不十分だと言う。
「確かにサクラは実力はあるが、相手がどれだけの戦力を投入してくるか分からないからね。コスモにショコラもいるけど、屋敷も人が増えたからね」
「チッしょうがないね~」
「それにサクラはすぐに没入するだろうから、周りを冷静に見られる人が必要なんだよ。シーナ頼むね」
「分かりました。お任せ下さい」
「じゃ、こっちも準備しておこうか」
「「「はい!」」」
それから、ソルトは屋敷の住人に今日は用心の為に外に出ないようにお願いすると、ヤッシー達にもお願いする。
「何も俺達まで……」
「念の為だ。お前達が生きていると知ったら都合が悪い連中がいるんだからな」
「「「分かりました」」」
約束の時間になりソルト達四人は十分に準備を済ませ、領主の屋敷へと向かう。
領主の屋敷の前には既にゴルドとギルマスが立って待っていた。
「ゴルドさん、ちゃんとギルマスに話したの?」
「話したが、信じてはもらえなかったんだ」
「ソルト、俺は領主様を信じている。それだけだ。後、パーティーメンバー全員と書いたハズだが?」
「そんな急には無理だって。だから、話をするだけなら、このメンバーで十分なハズだからさ」
「まあ、いいが。私まで領主様に怒られるのは勘弁だぞ」
「いいから、いいから。ほら、門番に挨拶して」
「まったく……」
ギルマスが代表として、門番に挨拶をすると門が開かれ中へと通される。
『ソルトさん。気を付けて下さい。淀んでいます。特に地下の方が……』
『分かった』
ルーからの助言を受け、屋敷の中へと足を踏み入れる。
玄関の中に入ると執事風の男がこちらですとソルト達を先導し会議室の様な部屋へ通される。そこには極端に肥大化したとしか思えないようなモノと神経質そうな中年の男が座っていた。
「おう、よく来てくれた。まずは座ってくれ」
モノがそう言うと、ギルマスが一礼してソルト達に座るように言う。
「私が領主のディランだ。隣が息子で長子のギランだ」
「ギランです。ところで、そちらのパーティーメンバーはこれで全員ですか? 報告に聞いていた数より随分少ないようですが?」
ギルマスが顰めっ面になり、ソルトに代わり答えようとするのをソルトはギルマスを制し自分から話し出す。
「申し訳ありません。お話を伺ったのが急だったのと、冒険者ゆえに作法がなっていないのもありまして、失礼に当たると思い、本日は私を含めて四名となりました」
「ふん、そうか。だが、そうならそうと先に断りを入れるモノじゃないのか?」
「ギラン、よさないか」
「ですが、父上「いいと言っておる」……分かりました」
ギランはまだ何か言い足りそうだったが、領主がそれを止める。そして、重そうな体を揺らしながらソルト達に話しかける。
「ギルマスから、今回の騒動の件は聞いた。本当によくやってくれたな」
「はっ。領主様からそう言われるとは「違う!」……は?」
「私が言いたいのはな、『よくもやってくれたな』ということだ」
「え? それはどういうことでしょうか?」
領主の物言いにギルマスは少々混乱する。
「まったく……いいか? 計画としては私達親子が視察に行っている間にこの街は魔物に蹂躙されキレイな更地になっている予定だったのだ。そうなれば、増えてきたスラムの連中や、どこかから紛れ込んできた獣人も含めて全部キレイになくなるハズだったのに……それをお前達が台無しにしたんだ。本当によくやってくれたよ」
「領主……様……」
「ギルマスよ。だから、言っただろ?」
「ねえ、ギルマスにはあれが言い領主に見えるの? 俺には肉塊にしか見えないんだけどさ」
「そうね。それにさっきからずっと瘴気がまとわり着いているのが私としては気になるんだけど?」
ブランカの言葉に領主の顔が変わる。
「ほう、そこにいる女はちょっと違うようだな。まあ、それは後の楽しみにするとしてだ。ギルマスにはまだ分からないようだな。ギルマスよ、最近、教会の連中がこの街から出て行ったのはどうしてだと思っていたんだ?」
「そ、それは……」
ギルマスはソルトを一瞥するが、領主は話を続ける。
「教会は今回の計画を知っていたからな。それに目的を果たせないのもあって引き上げたのよ」
「あ~やっぱり、そうだ。ソルト、あの壁にあるのアレ。あの司祭の部屋で見た奴だよ」
「どれ?」
「ほら、あの肉団子の後ろの変な紋様があるでしょ」
「ああ、あるね」
ブランカがいうアレとは、領主の後ろに掲げられているレリーフで十字架をモチーフにしてはいるが、聖的な物とは言い難い禍々しい何かだった。
「ほう、お前はこれを見たことがあるのか? これは教会でも上の方の立場の者にしか与えられないものだぞ」
「なら、それをなんでお前が持っているのさ」
「物怖じしない女だな。だが、それも余興か」
「やるのか? オヤジ」
「ああ、お前もそろそろ我慢の限界だろう」
「分かっているね。さすがオヤジだ」
そう言うと二人の様子が変わる。
「りょ、領主様?」
「ギルマスよ。いい加減に気付け! アレはもう人とは呼べない! ほら、出るぞ!」
ソルト達は部屋からの脱出を試みるが、窓の方が早かろうと近くの窓をぶち破り、庭へと出る。
『『ニガスカァ~』』
そんな人の声とも思えない叫びがソルト達が飛び出してきた部屋の方から聞こえると、窓からは何本もの触手がソルト達を目掛け伸びてくる。




