第10話 逃げるのなら返却します
ゴルドに捕縛した男達のことを頼むと、さっきの若い男には注意するようにとだけ言う。
「そりゃ、どういう意味だ?」
「どうもこうも、こういう時にそういうことを言うんだから、分かるでしょ。だから、今日の宿直はその若い男に任せれば犠牲は出ないですむかもね」
「なるほどな。要はそういうことか。しかし、あいつがな……」
「まあ、人は見かけによらないのはしょうがないよ。でも、うすうすは気付いていたんじゃないの」
「言うな。それでも信じたくなるのが人情ってもんだろ。まあ、知ってしまった今となっちゃ裏切られた感じで一杯だけどな」
「じゃあ、そういうことでよろしくね」
「ああ、分かったよ。じゃあ、ちょっとこの人達を貸してもらうぞ」
「うん。あ! そうだ。そのまま空で帰って来るのもアレだからさ。これで載せられるだけのお酒でも買ってきてよ」
そう言ってソルトは懐から金貨が入った革袋を取り出すとワーグに渡す。
「いいのか?」
「いいよ。人も増えたし、最近騒いでないからね」
「そういうことなら遠慮なく。じゃあ、出るぞ」
「「おう!」」
ゴルドを先頭に捕縛した連中を乗せた大八車三台をワーグ達が引いて行く。
「これで何か動きがあるだろうけど、問題は……アレをどうするかだな」
ソルトの横にはしゃがんだままの状態でムスッとしたままのレイがいた。
「はぁ~レイ」
「……」
ソルトがレイに声を掛けても反応しないままだ。
「こりゃ、放置するしかないか。なら、先にコイツらを片付けるか」
ソルトが言った片付けるに寝転がされた男達がビクッと反応する。
そんな男達の様子を気にすることなくソルトは『解除』を唱え、捕縛していた男達を自由にする。
男達は自分達を拘束していた物がなくなり、体を起き上がらせると手足をぶらぶらさせ自由に動くことを確認するとソルトを一瞥する。
そして、一人の男がソロ~ッと逃げ出すような雰囲気になると、ソルトがその男の前に素早く移動する。
「言うのを忘れていたけど、お前達の魔力パターンはもう覚えたからな。どこに逃げても無駄だぞ。それにもし逃げたなら、お前達が帰るのはここじゃなく領主の屋敷だからな。俺が言っている意味は分かるな? もちろん、その時は両手足がキレイに拘束された状態だからな。その状態で領主の屋敷の前に転がされたら、どうなるんだろうな」
「「「……」」」
ソルトに十分過ぎるほどの説明がされたことで男達はその場で直立不動の姿勢をとる。
「自分達の立場が分かったみたいだな」
ソルトがそう言うと男達は凄い勢いでブンブンと首を縦に振る。
「あと、屋敷から出るのを無理に止めるつもりはないが、もし出た場合は俺じゃなく領主が捕縛すると思っていた方がいいぞ。まあ、それも我慢出来ない程の期間じゃあない。長くても一週間ってとこだろう」
「「「……」」」
「分からないか。まあ、分からないなら分からないでいいけど、せめてお前達の名前ぐらいは聞いておこうか。じゃあ、お前からだな。お前の訴えでレイがあんな風になったんだし」
「レイって言うんですか」
「ああ、そうだ。じゃあ、聞かせてくれ」
「あ、はい。俺……いや、私の名はヤッシーです」
「お……私はサブ……です」
「わ、私はジョンです」
「分かった。ヤッシー、サブ、ジョン……と」
ソルトは板きれに名前を書き、その板に紐を通すとそれぞれの首に掛ける。
「あのぉこれは?」
「ああ、家は子供が多いから。名前を覚えてもらうまではそれを着けといて。じゃあ、屋敷にいる子供達に紹介するから、着いてきて」
「「「へい!」」」
三人が勢いよく返事すると、ソルトは三人に振り返る。
「あのさ~」
「へい! なんでしょ」
「それ!」
「へ?」
「だから、その『へい』ってのを止めてもらえるかな。子供達に悪影響が出そうでイヤなんだけど」
「へい! 分かりやした」
「いやいやいや、全然分かってないじゃん! その三下口調は止めてって言ってるの!」
「へい……はっ。いや、でもこれは、もう体に染みついたクセみたいな物でして……そんな急に直せと言われやしても……」
「それは分かるけど、俺の方の言い分も理解してよ」
「へい! はっ、すみません」
「子供が使い出したら、ペナルティがあるからね。いい? 俺はお願いしたからね」
「「「へい! ……あっ」」」
「はぁ~もういいよ。でもちゃんと直してよ。ほら、入って」
「「「へい!」」」
屋敷に入ると、そのまま食堂に行き、ソルトは全員に集まってもらうようにお願いする。
「ソルト、それってさっきの襲撃犯?」
「そう。でも、レイがどうにかしてくれって言うから、比較的罪が軽いっていうか、人を殺めていないのだけ残した」
「そう。で、レイはどうしたの?」
「それがさ……」
ソルトはゴルドに引き渡した連中の非道さを説明して、そしてそれまでもレイがなんとか処分されないように出来ないかと言ってきたのを無理だと突っぱねたところまでを説明した。
「……ってことなんだ」
「そうなのね。まあ、レイの言うことも分かりはするけど、どちらかと言うと私もソルトの意見に賛成だからね。これが戦争で人を殺したとかって言うのなら分かるけど、今回のケースは違うわね」
「そういうこと。それでも納得出来ないのか、レイはまだ庭で拗ねているんだよ。エリス、悪いけどフォロー頼んでもいいかな?」
「私が? いいんじゃないの別に放っておいても」
「でも、このままじゃ詰所に行きそうでさ」
「それはマズいわね。はぁ~しょうがないわね。いいわ、任されましょう」
「ありがとう」
「いいけど、高くつくわよ」
「分かった。エリスが好きそうなメニューを考えてみるよ」
「ん~そういうことじゃないんだけどね。まあ、いいわ」
そう言ってエリスは玄関を出ると、まだ拗ねているレイの元へと向かう。
エリスが出ていったのと入れ替わりになるように食堂に屋敷で生活する人達が集まる。
「ソルト、揃ったみたいだよ」
「サクラ、ありがとう」
食堂に集まったのを確認したソルトは軽く咳払いをすると、首から板をぶら下げた三人の男を紹介する。もちろん、なんでここにいるのか。なんで名前が書かれた板をぶらさげているのかもちゃんと紹介する。
「へ~するとコイツらは私達を攫うつもりで、この屋敷を襲撃しようしていたってことなんだね」
「サクラ、だからって虐めないようにね。それとヤッシー達もサクラとかに下手に逆らったり、乱暴しようとしたりしないようにね」
「「「しませんから!」」」
「でも、ほら。領主の息子が狙ったくらいだから、キレイと思うでしょ?」
「「「へい! ……あ」」」
「もう、それはいいから。でもね、ここにいる人はある程度の護身術は身に着けているから気を付けてね」
「「「へ……分かりました!」」」
「ねえ、ノア。聞いた? 今の!」
「何を?」
「何って、今ソルトが言ったでしょ! 私のことをキレイだって!」
「ああ、それ。それねサクラ単体じゃなくて、ここにいる人全員だから。もちろん、私も含めてね。残念でした」
「ぐぬぬ……」




