第8話 早速のお出まし
屋敷に戻ったソルトはエリス達パーティーメンバーを自室に集め、ギルマスと話した内容を皆に報告する。
「じゃあ、領主の屋敷にはゴルドとソルトだけ行くのね」
「そうだ。レイ達は留守番だな」
レイからの質問にソルトが他の皆は留守番だと言うと、レイが少し不服そうな顔をすると不満を漏らす。
「そっか~ちょっと残念だったな~」
「そんなに行きたかったのか?」
「うん。ちょっとね。こっちの世界でのセレブってのを見たかったなって程度だけどね」
「そうか。じゃあ、長男の所に嫁げばそのまま体現出来るぞ」
「え? 本気なの?」
ソルトがレイの不満と言うか、要望に対して、少しキツメに答えるとレイが慌てて聞き返す。
「まあ、本気って程じゃないけど、領主の屋敷に皆でぞろぞろ行ったら、何人かはそのまま拉致されそうな感じだったけどな」
「「「え~」」」
「なんでそんなに驚く。さっき、その件も一緒に話しただろ?」
皆が驚く様子にソルトの方が驚いてしまう。そして、エリスがソルトの想像に対し、反論する様に言い返す。
「でも、領主様はソルトが考えている様な人じゃないわよ。とてもじゃないけど、そんなことはないと言えるわ。それに長男のギラン様も言うほど酷いことはしていないはずよ」
エリスもこの街には長いから、領主の噂というか為人は理解していると思っているのだろう。だけど、ソルトは何も心象だけで判断している訳ではない。ちゃんとルーという検索エンジンを使って情報を収集しているのだから。
「そっか。じゃあ、エリスは領主を信じるんだな?」
「ええ、そうよ。悪いけど、私はソルトの言うことより、領主の方を信じるわ」
「そっか。じゃあ、何を賭ける?」
「え? 賭けるって何? どういうこと?」
徐にソルトから賭を提案されたエリスは動揺する。そして、その理由をソルトに確認すると、ソルトはエリスを諭す様に話しかける。
「だから、エリスは領主を信じている。これはいいよね?」
「ええ、そうよ」
「でも、俺はある筋からの情報で領主は世間での評判とは異なる裏の顔があると思っている。ここまではいいよね?」
「ええ、いいわよ。それでなんで賭けることになるの?」
「なんで賭けるのがイヤなの? エリスの言う通りなら大勝ち間違い無しのガッチガチの本命でしょ」
「……そうだけど、ソルトがそこまで自身持っているのなら、何か裏にあるんじゃないかって気になるじゃない!」
「そっか。エリスもそこまでは信じられないと」
「そういうことじゃないけど……でも、ソルトがそんなに不安になることを言うのならって思っちゃうでしょ」
「そうだね。じゃあ、お客さんを呼ぼうか。ちょっと待っててね。ゴルドさんに頼んで捕獲してもらうから」
「「「ええ~?」」」
ソルトは領主の裏の顔があると言い張り、終いにはゴルドに頼んで、捕獲してもらうと言ったものだから、今まで黙って話を聞いていた他の面々が驚く。
「何を驚くの? 確かにソルト言うように屋敷を監視している連中が何人かいるわよ」
「ブランカ、それは本当なの?」
「本当も何もいるんだから、しょうがないでしょ。ソルト、捕まえるのなら早くしないと。アイツら、少しずつ移動しているわよ」
「ブランカ、ありがとう。こっちもゴルドさんに連絡ついたから、始めるね」
『じゃあ、ルーお願いね』
『お任せを……では『目標固定』からの『麻痺』、そして『拘束』……終わりました』
『ありがとう』
ルーの終了宣言と同時に屋敷の回りでドサドサと何かが落ちる音がしたので、レイが確認するためにソルトの部屋から庭へと飛び降りると倒れている一人に近付く。そして、恐る恐る落ちていた棒で突いてみる。
すると男は麻痺しているのと拘束されている為に棒で突くレイを追い払うことも出来ず、ただ体をくねらせることしか出来ないでいた。
そんな様子が何故かレイのスイッチに触れたようで、男の体の色んな所を棒で突いて遊んでいたら、「何をしている?」と後ろから声を掛けられたので振り向くと、そこにはゴルドが立っていた。
「ゴルド! お勤めご苦労様です。こいつらが、この屋敷の様子を覗いていた変態たちです」
「レイ……それは何か新しい遊びか? こっちが疲れるから、いつもの調子に戻ってくれ」
「は~い。まあ、戻ったところで、こいつらはさっき話した通りの『覗き魔』だけど、『領主の長男のお使い』みたいなのね」
レイがその言葉を口にすると拘束されている男がビクッと反応する。
「ほう、なるほどな。強ち嘘とは言い切れなさそうだな。それはソルトからの情報か?」
「うん、そう。ソルトが言うにはね、ここの領主は表面上は善人ぶっているけど、裏に回ればバレなきゃ上等! って考えのクズだって言ってた」
「……それ、本当か?」
「うん。ちゃんと聞いたよ」
「ソルトは中にいるんだな?」
「うん、ほら。あそこで手を振っているよ」
レイが二階の窓を指差すとそこにはゴルドに向かって手を振っているソルトの姿があった。
「そうか。ソルトが言うんなら、ほぼ間違いはないんだろうな。もしかしたら、今まで犯人不明で迷宮入りしていたのも……」
「あ~あるあるだね。上が絡んでいたら、そりゃ迷宮入りになりがちだよね」
「お前……まあ、いい。こいつらはこっちで預かってもいいのか?」
「いいって言ってる。もうマーキングは済ませたから、どこにいるのか、死んだのも分かるからいいってさ」
レイが話す内容を黙って聞いていた男が急に焦り出す。ゴルドもその男の様子に気付くが、ゴルドの立場ではどうしようも出来ないので、すまんなとだけ男に言う。
男もその言葉の意味を理解してか、急に大人しくなる。
「あれ? 動かなくなっちゃった? 死んでないよね?」
「まあ、今は死んでないが、明日まで生きているかどうかだな」
「え? どゆこと?」
ゴルドの話した内容が理解出来ずにレイはゴルドにどういうことなのかと確認する。
「レイ、俺の本業は知っているよな?」
「うん。この街の守備隊でしょ。そのくらいは知っているわよ。で、それがどうしたの?」
「じゃ、その守備隊に金を払っているのは誰か分かるか?」
「もう、バカにしているの? この街の守備隊なんだから当然、領主でしょ! あ!」
「そういうことだ。俺達がこのまま捕縛して守備隊の牢屋に放り込んだら、明日の朝には冷たくなっているだろうってのはそういうことだ」
「え~そんなのダメだよ。どうにか出来ないの?」
レイは目の前に転がっている男が始末されると聞いて焦り出す。そして、それを見たゴルドが転がる男に話しかける。
「おい、聞こえているよな? 分かったら右目だけ閉じろ。分からないなら左目だけ閉じろ」
「……」
「おい、どっちだよ! 分かったのか、分からないのかどっちなのか分からないだろうが!」
「ねえ、ゴルド。それ……ダメだよ。そんなのウィンク出来る人じゃないとダメでしょ」
「そうか? 分かり易いと思ったんだけどな」
「もう、いいから。ねえ、お兄さん。いい? 私の話が聞こえるなら、瞬きを一回。聞こえない、分からないなら二回。やってみて」
レイの問い掛けに男は一回だけ瞬きをする。
「ほう、分かったようだな。じゃあ、俺からも聞くぞ。お前はこのまま詰め所に連れて行かれたら始末される。それは分かるな?」
ゴルドの問い掛けに男は瞬きを一回だけする。
「そうか。まだ死にたくはないよな」
瞬き一回。
「なら、正直に話すか?」
瞬き一回。
「分かった。じゃあ、他の仲間も詰め所には連れて行かない」
瞬き一回。
「じゃあ、しばらくはここでお世話になるんだな」
瞬き一回。
「ちょ、ちょっと、ゴルド。そんな勝手に決めないでよ! え? ソルト、何? うん、分かったよ」
「ソルトはなんだって?」
「先ずは捕縛したのを集めてだって」
「そうか。分かった。おい! 転がっていたのをここに集めろ!」
「え? しかし……」
「いいから、責任は俺が持つから心配するな」
「そうですか。分かりました」
守備隊の若い隊員はゴルドの言葉に安堵し、他の隊員と共に捕獲した男達を積み上げていく。
「これで最後です!」
「ああ、ご苦労様。後は俺の方で処理するから、ここはもういいから、帰っていいぞ」
「はっ!」
ゴルド以外の守備隊が屋敷の庭から出たのを確認すると、ゴルドは嘆息する。
「これで無職か~」
「それだけで済めばいいけどね」
「「ソルト!」」
ゴルドの愚痴に対しいつの間にか側に立っていたソルトが言う。
第9話 聞きたくなかった話を聞いた話
ソルトは積み上げられた男達をジッと見る。
「ゴルドさん、コイツとコイツと……そこの奴。それ以外はいらない。どっかに捨ててきて」
「ダメ! ソルト、そんなことしたら、この人達殺されちゃうのよ!」
「いいよ。どうでも……」
「え?」
ソルトから告げられた冷淡な言葉にレイは一瞬、怯んでしまう。
「でも、ゴルドさんだけじゃ無理だね。レイ、ちょっと旦那衆を呼んで来て。あと、大八車もね」
「ソルト! 聞いてよ! 無視しないで!」
レイがソルトに対し、強い口調で訴える。そして、ソルトは嘆息しながらレイに話掛ける。
「レイ、こっちの三人はまだ救いがある。悪さに加担したと言っても、まだ人を殺めていないからね。でも、残りの連中は違う。躊躇うどころか進んで楽しんで人を殺している。だから、コイツらは救いようがないよ」
「でも……」
「レイ。確かに俺達がいたところでは人の命は何よりも重いって教えられてきたのは確かだ」
「でしょ! なら……」
「でも、ここは違う。人の命はその辺の石ころよりも軽いんだよ。分かるよね?」
「だからって……」
「なら、レイはコイツらが殺した人達の家族に対して、『どうか許して下さい』って言えるの? それでコイツらがレイに感謝すると思うの?」
「……」
ソルトは少し強めの口調でレイに話しかけるが、レイはまだ納得出来ていないようだ。ソルトもそれはしょうがないと思う。ソルト達がこのまま、この転がっている連中をそのままにしておけば、確かにコイツらは助かるだろう。でも、コイツらが生きていれば、また誰かに悪さして誰かが不幸になることは分かっている。だけど、ソルトはまだ、自分の手で人の命を絶つことに躊躇いがある。だから、ここは飼い主に責任を取って貰うのが一番だと思うことにする。
「そして、俺は正義の味方でもなんでもないし、それに直接、手を下すのはまだ躊躇する。だから、コイツらはコイツらの飼い主に処分してもらう。それが一番いい方法だと思うよ」
「ゴルド……ゴルドもそう思うの?」
「ああ、悪いが俺もソルトの言うことに賛成だ」
ソルトが強い意志で、コイツらを助けるつもりは微塵もないということはレイにも分かった。でもどこか納得出来ない部分があり、ゴルドに助けを求めるが、ゴルドもそれを分かってか、ソルトの意見を肯定する。
「でも、今ならまだ助けられるんだよ! どうして、ダメなの!」
「ゴルドさん、ごめんね。ちょっと聞きたくないことかも知れないけど、レイに現実を見てもらわないと先に進めないからさ」
「いい。慣れてる。で、どうするんだ?」
「こうするんだよ。『遮音結界』からの『自白最高』!」
ソルトは山積みの男達の中から、一番罪が重いと思える男を一人抜き出すと、拘束の一部を解いて、話せるようにすると周囲に音や声が漏れないように結界を張ると、男に対し自白すと気分が高揚し幸福感が味わえる魔法を掛ける。
「これでよし。ゴルドさん、何か質問してみて」
「何かって、急に言われてもな~」
「ほら、ここ最近で犯人不明の奴とかさ」
「そうか。じゃあ、アレを聞いてみるか。おい、俺の声が聞こえるか?」
「なんだよ、おっさん」
「いいか、よく聞け。少し前に雑貨屋の主人が殺されただろ。お前は何か知っているのか?」
「知っているのかだって~知っているに決まっているじゃないか! バカなのおっさん」
「待て! それはどういう意味だ?」
「どういうも何も俺達がやたからに決まっているじゃん!」
「じゃん……って。なら、その前のジョーイが殺され、娘が攫われたことは?」
「あ~それな。攫ってくるだけの話だったのにさ、あの親父が騒ぐからよ。思わず殺しちまったじゃねえか」
「殺した……なら、それは誰に言われてやったんだ?」
「おっさんもバカだな~俺だぞ。この街で俺に命令出来るのは領主様だけだろうが! ホント、バカだな~」
「……」
ゴルドは男から出来るだけ聞き出そうと、不明になっている案件に対し、自分が知っている限りを男に対し質問する。
やがてゴルドからの質問が終わり、その全てを聞かされたゴルドの顔は苦虫を潰したように歪んでいる。
そして、それはレイも同じ様で胸の前で両手をギュッと握りしめる。
「レイ、これでも救う価値はあると思う?」
「……」
「無理して答えなくてもいいよ。でも、これで分かったでしょ。じゃ、ゴルドさん、人を呼んでくるから、そいつには猿轡でも噛ませといて」
「ああ、分かった」
ソルトはゴルドにそう告げると屋敷に戻り、獣人の旦那衆に大八車を持ってくるように頼むとゴルドの所へと戻る。
◆◆ ◆ ◆ ◆
「どういうことだ! どうして、そうなった?」
「申し訳ありません。ギラン様」
領主の屋敷でギランに報告しているのは守備隊の若い男だった。
「それだけじゃ分からないだろ! 俺が聞きたいのはどうして、アイツらが捕まったのかと言うことだ。アイツらは俺の子飼いの中でも十分な腕利きを揃えたんだぞ!」
「そう言われましても、私達もゴルドが受けた連絡を元に件の屋敷に向かった時には既に捕らえられていましたので、私にはそれがどうやって捕縛されたのかサッパリでして」
「ちっ、なんだよ! 使えねえな~じゃあ、アイツが囲っている女は手に入らなかったってことかよ。くそっ!」
ギランはソルトの側にいる女性を狙ったのに一人も攫ってこなかったことに腹を立てていたが、ふとあることに気付く。
「なあ、その捕まった連中はどうした?」
「さあ、ゴルドはその場に残り、私を含めた他の者は帰っていいと言われたので……」
「そうか。じゃあ、どうなったかまでは知らないと」
「ええ。申し訳ありません」
「まあ、いいよ。でも、詰め所に戻されたのなら、また連絡ちょうだいよ。後はこっちでなんとかするからな」
「分かりました。失礼します」
◆◆ ◆ ◆ ◆
男が詰め所に戻ると、その詰め所の牢屋には拘束された男達が寝かされていた。
「ん? おい、あれはどうしたんだ?」
「ああ、あれはさっき、ゴルド隊長が連れて来て牢屋に運び入れました」
男に聞かれた守備隊の一人がそう説明する。そして、ゴルドに聞こうにもゴルドの姿が見えない。
「隊長はどうした?」
「さあ? アイツらを置いた後、すぐに出て行きましたけど?」
「いないんだ。じゃあ、都合がいいな」
「何か言いました?」
「いや、別に……」




