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スキルってどうするんだ?

レイがずるいと騒ぎだすが、それを俺に言われてもとソルトが嘆息する。

「ねえ、それでさ、話を戻すけどさ、さっきはなんで独り言を話してたの?」

「独り言? ああ、あれか。なんかな頭の中で誰かが喋るのが聞こえるんだよ。そうだな、例えるのなら機械音声みたいな感じかな」

「へえ、なんかラノベしてるね」

「ラノベしてる?」

ソルトはレイが言っていることが出来なかったので、どういう意味なのか聞き直す。

「あのね、私がよく読んでいたラノベのお話の中ではね、主人公の頭の中にね、その主人公をサポートする助手みたいのがいてね。その助手が頭の中で問いかけると色々説明してくれたりするのよ。ソルトのもそんな感じなの?」

「いや、俺の場合は頭の中で『なんとかスキルを取得しました』って言うくらいだな」

「へ~それってなんだかゲームの中のレベルアップの時のアナウンスみたいだね」

「そう言われればそうだな」

ソルトはレイが話してくれたことを自分なりに考えてみる。

向こうから話かけてくることが出来るんなら、こっちから話しかけてみれば応えてくれるんじゃないかとソルトは考えてみる。


「よし、ちょっと試してみるか」

「なにをするつもりなの?」

「レイ、今から独り言を言うかもしれないが、決して気がふれた訳でもないからな。なにもしないで黙って見ていてくれな」

「そう。いいわよ」

ソルトはさっき考えていたことを早速試してみることにした。


「お~い、聞こえますか?」

『……』

「おーい、聞こえてますよね? もしも~し、返事してもらえますか~?」

『……』

「聞こえないふりですか~? もしかして、耳が聞こえないんですか? あ~あ、なんかスキルが欲しくなったな~水魔法が欲しいな~」

『水魔法スキルを取得しました。あっ!』

「はい、確保~」

『それで用事はなんですか?』

「随分、砕けたね」

『さっき自我を得たみたいです』

「へ~自我ね~なら、これからは普通に話すことも出来るのかな?」

『はい、そうです。ただ頭の中で念じるだけでも会話は出来ます』

「(こんな感じ?)」

『はい、そうです』

ソルトが脳内の助手と話していたら、レイがソルトの袖口を摘んでくいくいと引っ張る。

「なに?」

「なにじゃないでしょ。どうなったのよ」

「ああ、捕獲出来た。ついでに自我も持ったみたいで、今話してた」

「そうなの? じゃあ、今はどこにいるのかを聞いてよ」

「それもそうだな。ってことで現在地を教えて。……そういや、名前はなんて言うんだ?」

『現在地は惑星ラティアの大陸にいます。この場所はどの国家にも属していませんが、通称「魔の森」と呼ばれています。それと私の名前はありません。生まれたばかりのようなので』

「へ~」

「ねえ、私にも分かるように話してよ」

「ああ、ここは惑星ラティアの大陸だってさ。それでここは『魔の森』だってさ」

「へ~そう、魔の森ね~……って、思いっきりやばいじゃん! なにを平然としているのよ!」

「なにがだ?」

「なにが? じゃないでしょ! 魔の森ってことは魔物がいっぱいってことでしょ!」

「そうか」

「そうかじゃないでしょ! なんで余裕なのよ!」

「いや、その魔物ってのがよく分からないからな」

「なに言ってんの! 魔物が分からないって『グギャギャ』そう、魔物ってのはちょうどこんな……ギャ~」

レイが木陰から急に現れた緑色の小人を指差し悲鳴を上げると、ソルトの後ろに隠れる。


「これが魔物か~」

「なに、呑気にしているの! なんとかしなさいよ! 男でしょ!」

「そう言われてもな~」

ソルトが落ち着いていられるのは訳がある。

この緑色の小人を見た瞬間に『怖っ』と感じたら『恐怖耐性スキルを取得しました』と脳内スキルが仕事をしたのだ。


緑色の小人は右手に棍棒らしきものを持っている。対して、ソルト達は手ぶらだ。

「さて、こっちは手ぶらだしな~どうするか」

『水魔法のウオーターアローが適切かと思います』

「そうか、ならそれでやってみるか。ウオーターアロー!」

ソルトが叫ぶと右手に水で矢の形に生成されたものが現れた。

『では、それを投げてください』

「ほいっと」

『投擲スキルを取得しました』

「グギャッ」

水で生成された矢は緑色の小人の腹を貫き、緑色の小人はその場に倒れ込む。


「うわ、グロッ!」

「うぇ」

「ちょっと、ソルトがしたことでしょ。なんとかしなさいよ」

「そうは言っても、どうすりゃいいんだ?」

『穴を掘って、焼却して下さい』

「そうか、あとグロいのを平気になるようにならない?」

『精神耐性スキルを取得しました』

「お、気が楽になったよ。ありがとう」

『いえ、仕事ですから』

「じゃあ、穴掘りなら土魔法だな」

『土魔法を取得しました』

ソルトは覚えた土魔法を早速使う。

「『穴掘り(ディグ)』と。これでいいか? もう少し深くするか『穴掘り』」

ソルトは土魔法で掘った穴の中に緑色の小人を投げ入れ、『獄炎(インフェルノ)』と唱えるがなにも起きない。

「あれ? なんで?」

『まずは火魔法を取得して下さい。では、火魔法スキルを取得しました』

「そういうことね。では改めて『獄炎』……ねえ、なにも出ないよ?」

『イメージされている魔法は現時点でのレベルでは無理です。まずは火魔法のレベルを上げて下さい』

「早く言ってよ~ま、いっか。『火球(ファイアーボール)』」

「ちょっと、それじゃ生焼けになるでしょ? 連発出来ないの?」

「初心者に無茶言うなよ。連発ね~並列とか?」

『並列思考スキルを取得しました』

「出来たね。じゃ、火球x5」

ドッゴ~ンと穴の中で爆発が起き、熱波が上空へと噴き出る。


これからの話をしましょう

「お? 水魔法と土魔法に火魔法のレベルが上がっている。使ったから? 魔物を倒したから?」

「へ~いいわね。ねえ、魔物を倒したのは水魔法でしょ?」

「そうだな。あ! そういうことか。この世界ではスキルは使ってレベルが上がるんだ」

「そういうことみたいね。ところで、ソルトさ。もしかしてだけど、あなたもラノベ読者なの?」

「……」

レイの質問にソルトが黙り込む。レイがいうようにソルトはラノベ読者だ。ましてや書籍からウェブ連載まで読み耽るラノベ読者だ。

だが、今レイからの質問に答えないでいるのは、三十五歳という年齢でラノベ読者であることを晒すのに少し抵抗を感じているからだ。

「どうしたの? まあ、さっきの魔法を使っているところとかだけ取り上げても十分ラノベ読者ってことが分かったから」

「そうなのか?」

「そうよ。ゲームかラノベでもなければ、あんなすぐに『獄炎』とか出してこないと思うのよ。どう?」

「ま、参りました……確かに俺はラノベ愛好家だ。さっきのもゴブリンだということは分かっていた」

「そう。まあ、それが分かっただけでも、これからの話をいちいち説明しないで済むだけでいいから助かるわ。で、どうするの?」

「どうするって?」

「だから、これからどうするのかってことよ。このまま、この森を開拓して暮らすのか。近くの村を訪ねるとか、先に飛んでいったアイツらを探すとかさ」

「レイはどうしたいんだ?」

レイの質問にソルトが質問で返すとレイは自分の考えをソルトに話す。

「私は先に来たはずのアイツらを探したい。やっぱり友達だし、同じ世界の仲間だもの」

「そうか、まあ俺には関係ないな」

「なんで? 同じ日本人じゃない! 助けようと思わないの?」

「助けたところで、どうするんだ? 皆でおててつないで仲良く暮らすのか? 俺はレイ達三人とはなんの繋がりもないのに? 俺一人だけ仲間外れのまま、過ごすのか? そんなのごめんだね」

ソルトはこの三人に巻き込まれただけのおっさんだと思っている。たまたま、そばにいたせいで巻き込まれたと。


「そうね、確かにソルトは私達三人とは、日本人という以外になんの繋がりもないわね」

「だろ? それに探すと言ってもどこをどうやって探すつもりだ? ただでさえ右も左も分からないこの世界で。今、自分達がどこにいるのかさえ、はっきりしないのにさ」

「魔の森でしょ?」

「まあ、そこだけははっきりしているな」

そう、ソルトの脳内で会話してくれる便利な存在がソルトの疑問に応える形で教えてくれた。


「でも、それを教えてくれた人……人って言っていいのか分からないけど、ソルトの頭の中にはググってくれる人がいるんだから、手伝ってくれてもいいじゃないの。探した後は私が勝手にするからさ。ねえ、お願い!」

「お願いって……俺にはなんの見返りもないのにか?」

「見返りって……ソルトはこんな時に見返りを求めるの?」

「ああ、そうだ。見返りもなく働くなんてゴメンだ。元の世界じゃ上から無理矢理頼まれて便利に使われてきたからな。そんなのは絶対に嫌だ」

「そう、なら……私を好きにすればいいじゃない!」

「へ? 今なんと?」

「だから、私を好きにすればいいって言ってんの! もちろん、成功報酬の後払いだけどね。どう? まだ十六歳の未使用の新品よ」

『ゴクリ』とソルトが生唾を飲み込む音がレイにも聞こえる。

正直、報酬としては高過ぎるとも言えないが、今のレイの状態で差し出せる確実な報酬といえば自分自身しかなかった。

『あいつらさえ、見つければ報酬を変えることも出来るかもしれない』

そんな楽天的に考え、ソルトが答えを話してくれるのを待つ。


ソルトは肩掛け鞄の中からメモとペンを取り出すとなにかをサラサラとペンを走らせると「こんなもんか」と呟くとペンをしまい、メモを破って切り離すした紙片をレイに渡す。

「はい、これ」

「これは?」

「アイツらがいると思われる場所だね」

「へ~こんなにすぐに分かるんだ。便利だね」

「じゃ、頑張ってね」

「え? 一緒に行くんじゃないの? 報酬は? 私はいらないの?」

「うん、いらない。じゃ、そういうことで」

そのまま、森の中に消えようとするソルトの服を掴んで引き止める。

「待ってよ! 私一人残してどこに行くつもりなの?」

「だから、レイはアイツらのところに行くんでしょ? 頑張ってね! じゃ」

「だから『じゃ』じゃないでしょって言ってんの! なんで私を置いていくのかって言ってんの! どういうことよ!」

「え~」

「『え~』じゃないわよ! ちゃんと説明してよ!」

「じゃ言うけど、怒るなよ」

「それは聞いてみないと分からないわね」

「じゃ、言わない。バイバイ」

「だから、ちょっと待ちなさいって。いいわよ、なるべく怒らないようにするから、言ってみなさいよ」

「ハァ~分かったよ。面倒だから。ただ、それだけ。じゃ」

「はぁ? 面倒? たったそれだけの理由で置いていかれるの?」

「置いていくんじゃなくて、別行動でしょ? 俺はソロでやっていく。レイはアイツらと合流する。ね? じゃ、そゆことで」

「待ってよ! 報酬は? 私はいらないの?」

「うん、いらない。それ、さっきも言ったよね?」

「なんでよ! ほら、こんなにピッチピチなのよ?」

ソルトがレイの体を一瞥して答える。

「別にレイじゃなくても、ここならキレイな人もいっぱいいるだろうしさ。例えばエルフのお姉さんとか。ふふふ」

「なにだらしない顔しているの!」

ソルトがまだ会ってもいないエルフの女性を思い浮かべにやけているとレイにキレられる。


「だから、そうじゃなくて、ここがどんな場所か理解してるの?」

「魔の森でしょ? もう忘れたの?」

「忘れるかぁ! だから、そんなところになんで()()()()を置いていこうとするのって話じゃない!」

「え? だから、別行動するんでしょ?」

「だから、そこはかよわい女性を守って、この魔の森から抜けるのが男の役目じゃないの?」

「そうなの? 初めて聞いたけど?」

ソルトにそう言われレイはどうやったら、ソルトに守ってもらいながら森を抜けることが出来るのかと考える。


「もういい? 暗くなってきたし寝るところを確保したいから行きたいんだけど?」

ソルトにそう言われて初めて気づく。すでに陽が翳り初めていることに。

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