助けてほしいの
一部の方を除き、だいぶ落ち着いて来たので、改めて少女達に事情を聞いてみる。
話を聞く前にソルトがエリスとレイに聞いた内容を書き留めるように頼む。
「まず、どうして君達はあの場所にいたのかな?」
「分からない……」
「分からないってのは、どういうことなのか聞いてもいい?」
「今日、いきなり出て行けって言われたの」
「そうだったのね。その、養護院の人はどうして出ていけと言ったの? その理由は話してくれたの?」
「なにも教えてくれなかったの」
「それは困ったわね」
「でも、思い付くことはあるの」
「それはどういうこと?」
「私達が多分一番年上なの」
少女達の話を聞いてみたが、明確に出て行けと言われた理由が分からない。
「ソルトはどう思う?」
「あれだけの話で分かると思うか?」
「そう言えば、一番年上って言ってたわね。ねえ、あなた達って歳はいくつ?」
「分からないの。でも一番上一つ下だと思うの」
「そう、それであなた達の名前を聞かせてもらってもいい?」
「……」
「どうしたの?」
「ないの」
「え?」
「ないの。私達には名前はないの」」
少女達の『名前がない』という告白にソルト以外が驚く。ソルトは観察した際に彼女達に名前がないことを知っていたからだ。
「ごめんなさいね、理由を聞いても?」
「いいの、私達は物心がついた頃には、教会の養護院で暮らしていたの。だから、自分達がどういう経緯で、養護院に入れられたのかもわからないの。それに私より下の子も、一緒で職員の人に今日から世話をしろと言われ、名前もなにも知らされてないの」
「なら、あなた達より上の人達はいたの?」
「おじさんはいるの。でも、男の子はいないの。私より上の女の人はもういないの」
「なんでいないのか分かる?」
「分からないの」
「そう、でもなにか理由があるんでしょ?」
「足りない、出てこないって言われたの」
「足りない? 出てこない? それはなにか分からない?」
「分からないの」
女の子から話を聞き終えるとエリスが顔を顰める。
「え~と、ちょっとまとめるね。この子達はなにか目的があって集められているんだけど、ある一定の年齢に達すると出てくるハズのなにかが出てこなかったから、捨てられたってこと?」
「多分な。ちなみに彼女達は十二歳な」
「「「……」」」
少女の話をまとめるとソルト達は言葉が出なくなるが、施設職員と思われるおじさんについて聞いてみる。
「そのおじさんは、いつもなにをしているの?」
「私達をいつも怒るの」
「なんで怒られるの?」
「分からないの」
「そうか、ごめんね」
「いいの。でも、まだ残されている子がいるの。あの子達も助けてほしいの!」
ティアやエリス、レイも思わず、そばにいた子の頭を抱き寄せると大丈夫と連呼する。
「ソルトがなんとかしてくれるから、大丈夫よ!」
「そうよ、あいつがなんとかするから、なにも心配することないわ。安心して」
「おいおい……」
「あら、ソルト君は助けてくれないの?」
「ティアさんまで……」
「どうなの?」
「そりゃ、助けますよ。でも、まだ情報が……」
「そう。でも、あの子達の傷跡のことは聞いたんでしょ?」
「ええ、聞きました」
「なら、今でもあの子達より、小さい子が同じ目に遭っていると思わない?」
「それは……」
「なら、ぐだぐだ言わずに行きなさい!」
「え?」
「『え?』じゃないでしょ! 早く助けに行きなさい!」
「はい……」
ソルトはティアに押し出されるように屋敷を追い出される。
「あ~おっかない」
『母親として黙っていられないんでしょうね』
「え~まだ、お腹の中にいるのに?」
『母性本能なんでしょう』
「そうか。じゃ、道案内をお願いね」
『ふふふ、行くんですね』
「そりゃね。俺だって助けたい気持ちはあるけど、なにも知らないのは怖いからね」
『なら、私がお助けしましょう!』
「そうだね。ありがとう」
『いえ、私も体があれば、一緒に怒って、一緒に助けに行きますよ』
「そっか。そうだね。ルーも外に出たいよね」
『いえ、そういうつもりで言ったんじゃ……』
「でも、本心でしょ。いつか、その方法を必ず見つけるから、待っててね」
『……はい、ありがとうございます』
「なら、行こうか」
『はい!』
『あ、そこ違います。右じゃなく左です』
「はい……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
街は既に日が暮れて、街灯もないのでソルトは歩きにくいなと思い『夜目』スキルを使う。
「これで、よし。目的の養護院はあれか。ルー、中の人数は分かる?」
『ちょっと、待って下さい。地図に出しますね』
ルーが言うと、視界の隅の地図が拡大表示され、養護院の間取りが表示され、敵対を示す赤色が三つ、無関心の黄色が十二個表示されていた。
「さて、どうしようかな」
『あ、ちょっと待って下さいね。気配遮断スキル取得しました。隠密スキル取得しました』
「え~と、これを使ってどうしろと?」
『あれ? 忍び込むんじゃないんですか?』
「え?」
『え?』
「正面から行こうと思ってたんだけど? ダメ?」
『……ソルトさんて、バカですか?』
「うっ、ルーが冷たい……」
『こういうのは隠密が基本でしょ! もう、しっかりして下さい』
「でも、寝静まるのを待つのも暇だし」
『なら、寝かせてしまえばいいじゃないですか』
「あ、それもそうか」
『もう、『目標固定』で準備は済ませましたよ。じゃ、やっちゃいますね『睡眠』、はいこれで大人は夢の中です』
「あ、ありがと」
『いいえ。ほら、済ませちゃいましょ』
ソルトは玄関を開けると、子供達が集められている部屋へと向かいドアを開けると、そこは女の子だけが集められているようで一箇所に固まっていて、皆がソルトのことを怯えた目で見つめる。
「えっと、驚かせて、ごめんね。ここから逃げたい人はいる?」
「……お、おにいちゃんは……助けて……くれるの?」
「うん、そのつもりだけど、どうする?」
「痛いことする?」
「しないよ」
「ごはんは食べられるの?」
「ああ、もういらないってくらいにね」
「うわぁ……それって、お腹いっぱい? ねえ、お腹いっぱいって、どんな気持ち?」
ソルトは膝をつき、子供達の視線に合わせる。
「ねえ、ちょっと待っててね。『エリス、今からちょっと戻るけど、まだ子供達は起きてる?』」
『ソルト! いきなりね。ええ、まだ起きてるわよ。どうしたの?』
『分かった。ちょっと、連れて行くね』
『な!』
ソルトが屋敷の中に転移すると、目的の女の子を見つけると一緒に行こうと手を繋ぐと、また転移する。
「「「おねえちゃん! ! !」」」
養護院の子供達の前に戻ると、子供達がソルトと、その横にいる少女を見て驚くが、子供達が一斉に少女に抱き着いて泣き出す。
「おねえちゃん、生きてた! 生きてたんだね!」
「生きてるよ、あなた達も大丈夫みたいね」
「おねえちゃん……ぐすっ」
ソルトが少女達に向かって話す。
「じゃ、行こうか」
「「「え?」」」
「ほら、ボ~ッとしてないで、行くよ。ほら、皆で俺に捕まって!」
「「「え?」」」
「もう、『え?』じゃなくて、『はい』でしょ。ほら、捕まる」
「「「はい!」」」
「じゃ、行くね。『転移』」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
屋敷のリビングに子供達を抱えたソルトが転移してきたものだから、ティア達も突然のことに驚く。
「はい、人数が多いから、ティアさんも手伝って、お風呂に入れてあげて」
「はい、じゃ私に着いてきてね」
「痛いことするの?」
「しないわよ。どっちかというと気持ちいいことかな?」
「気持ちいいの?」
「ええ、お風呂に入ると気持ちいいのよ」
「お風呂?」
「そう、お風呂よ。体を洗って、お湯に浸かって温まるの」
「洗うの?」
「そうよ。ほら、行きましょ」
「「「うん」」」
ソルトは一番年上の女の子の手を繋いだままだったことを思い出し手を離そうとしたが、逆にその手をギュッと握り返される。
その場でしゃがんで、目を合わせると女の子に尋ねる。
「ねえ、子供達はあれで全員かな?」
「うん」
「そうか。でも、君達は安全だと言えるまで、庭に出すことも出来ないけどいいかな?」
「うん、いいの。怒られないならいいの」
「そうか。あ、ねえ。君達の名前なんだけどさ。いつまでも名前がないのは不便でしょ。だから、出来れば名前を付けたいんだけど、ダメかな?」
「いいの?」
「ああ、皆で素敵な名前を考えよう」
「うん、分かったの。ありがとうなの」
目の前の女の子にいきなり抱き着かれ、ソルトが驚く。
「あ~ソルトがいけないことしてる~」
「レイ、見てたのなら助けろよ!」
「いいじゃない。別に悪いことじゃないし」
「分かった。レイ、お前がこの子達の責任者な。ちゃんと名前を考えてやるんだぞ。それと、二階の大部屋で一緒に生活な」
「え? 私、屋根裏部屋から出られるの?」
「ああ、一時的にな」
「一時的でもいいよ。でも、名前って?」
「この子達八人と、今日助けた十二人全員な」
「え? 全部で二十人、それを私が、考えるの?」
「そう、キラキラネームじゃダメだからね」
「え~」
「じゃ、よろしくね」
「え~」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まだ『聖女』は見つからないのか!」
「はい、各地で素質を持つであろう女子を世話させていますが、十二歳を過ぎても発言する者はいないと報告を受けています」
「くそっ! 『聖女』は我が教会の象徴だぞ! いいから、早く探すんだ! もう、あの国では勇者が召喚されたと噂されている。なら、我が教会も『聖女』を擁立する必要があるんだ。それが分かるなら早く探し出すんだ!」
「はい!」
「くそっ忌々しい……」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「なあ、レイ」
「なに? 今は名前を考えているんだけど……え~と、ショコラは使ったし、クッキーにカヌレに……「おい!」なによ!」
「キラキラはダメだと言ったろ?」
「え~全然キラキラじゃないじゃん。可愛いでしょ?」
「じゃ、お前は今から『クッキー』だ」
「なんで? 私には『レイ』って名前があるんだけど」
「だから、別名『クッキー』で。七十、八十になってもクッキーか。可愛いな」
「えっいやよ。なんで?」
「可愛いんだろ? なら、いいじゃないか」
「……でも」
「分かったのなら、真面目に考えるんだな。一個でも巫山戯た名前があれが、お前の別名になるんだぞ」
「分かったわよ。で、ソルトはなんの用なの?」
「いや、今更だけどな、俺達の召喚理由って知ってる?」
「そう言われれば、そうよね。ラノベなら、途中で神様に会ったりするもんだけど会ってないし、王様とかから告げられるイベントもなかったし。考えてみれば、知らないわよね」
「だろ? そもそも魔王っているのか?」
『いますよ』
「あ~いるんだ。へ~……って、いるのかよ」
『ええ、でも今は不在みたいです』
「不在かよ」
「どうしたの? ソルト」
「ああ、魔王が不在だって」
「へ~やっぱりいるんだね。でも不在ってことは、どこかで生まれるとか?」
「どうだろう。なあ、お前の友達なら向こうで聞いてるんじゃないか?」
「そうだね。その可能性もあるね」
「じゃ、聞いてみろよ」
「聞いてみろって、どうやって?」
ソルトがブレスレットを指して念話を使えと話す。
「でも、使い方は?」
「多分、顔を思い浮かべれば使えるだろ」
「また、いい加減な」
「いいから、試してみなよ。報告はここ、メルティア公国のエンディのギルドにレイ宛で届くように言えばいい」
「ちょっと、待ってメモするから」
レイがさっきソルトから言われたことをメモに書き、黙読しソルトに内容に書き漏らしがないかを確認する。
「うん、大丈夫」
「じゃ、念話を使ってみるね『もしもし、竜也聞こえる?』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『もしもし、竜也聞こえる?』
「なんだ? 麗子……いや、まさかな」
「どうした、竜也。訓練疲れか?」
今、竜也は泰雅と一緒に自分の部屋で、今後のことについて話し合っていた。そろそろ強くなってきたし、外に出られないのかとか。
そんな竜也の頭に突然、懐かしい声が響く。
『もしもし、聞こえるなら返事してよ』
「あ、ああ、聞こえるぞ。レイだろ!」
「おい、竜也大丈夫か?」
『聞こえるなら、立ち上がって尻文字で『レイ』って書いてみて』
「レイだな。よし、見えてるんだな。どこからみているのか分からないが、よく見とけ!」
竜也は立ち上がり、尻文字で『れ』『い』と腰をくねらせながら書く。
「書いたぞ! レイ、見てくれたか?」
「竜也、大丈夫か?」
『あ、こっちからは見えないんだった。ごめんね』
「おい……」
『でね、お願いがあるんだけど、いい? ちゃんとメモしてよ?』
「ああ、泰雅! メモだメモ!」
「ああ、分かった」
『言うよ、竜也達が召喚された理由を教えてほしいの。その理由を書いて、メルティア公国のエンディのギルドにレイ宛に送って欲しいの』
「待て、もう一度」
『もう一度言うよ。竜也達が召喚された理由を書いて、メルティア公国のエンディのギルドにレイ宛に送って欲しいの』
「メルティア公国のエンディのギルド宛だな。分かった」
メモを見ながら、竜也が笑う。
「竜也、どうしたんだ? お前、変だぞ?」
「麗子がこっちに来ている」
「え?」
「だから、麗子がこっちに来ているみたいなんだ」
「なんで、そんなことが分かる?」
「さっき、頭の中に麗子から話しかけられたんだ」
「お前、大丈夫か?」
その時、泰雅の頭にも懐かしい麗子からの声が響く。
『竜也がおかしくなったと思っている泰雅へ。私は元気だよ。じゃあね』
「聞こえた……俺にも聞こえた! 麗子だ! 確かに麗子だ!」
「だろ? 俺の言っていることが嘘じゃないって分かったろ?」
「ああ、だけど俺にはショートメッセージレベルだった……」
「まあ、そこは気にするな」
「ああ」




