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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第二章 遺跡
34/131

レイが引鉄を引いたみたいです

獣人家族を使用人として住み込みで雇ってから、三日が経過した。

その間、ソルト達『探求者』は冒険者活動を休止し、屋敷の手入れや獣人家族に対して屋敷の仕事の説明に費やしていた。


そして庭も荒れ放題だったのが、ワーグ達旦那達三人の手で、それほど広くは感じなかった庭が生い茂っていた雑草が刈り取られキレイになりここまで広かったんだなとソルトは感じていた。これで子供達もこの庭で遊ばせることも出来るし、リリス達も走れるようになったとソルトは思ったが、なにかが足りないと感じる。

「ん~なんだ、なにが足りない?」

「なにが足りないの?」

「にいちゃん、ここで遊んでもいいの?」

男の子二人がソルトの呟きを聞いて話しかける。


「え~と、君達は確か……」

「まだ、名前を覚えてないの? 俺はクーリ」

「僕はモーリ。妹はマーリ。ちゃんと覚えてね」

「ああ、ごめん。で、遊んでいいかだったね」

「そう、ダメ?」

「ダメじゃないけど、お父さん達の仕事の邪魔にならないようにね」

「「は~い」」


「まあ、なにが足りないかは後回しにするとして……」

ソルトは庭の日当たりのいい場所に行くと、土魔法の『加工』を使い、シーソーを二つ作り設置する。

すると、それを目ざとく見付けたクーリ達が、ソルトの側にやってくる。

「にいちゃん、これなに?」

「なに?」


「お、来たな。じゃ、クーリはそっちで。モーリはここな」

「座ればいいの?」

「ああ、座って、前にあるハンドルを掴むんだぞ」

「これ?」

「そう」


シーソーにクーリとモーリを乗せると、クーリの方が兄だから少し重いようで、モーリの座る方が持ち上がる。

「怖くないか?」

ソルトがモーリに話しかけるが、大丈夫と言う。逆にクーリの方はどうすればいいのかと聞いてくる。


「クーリ、地面を軽く蹴って」

「蹴るの? こう? うわ!」

「うわ!」

クーリが地面を蹴るとクーリの座っている方が地面から離れる。


「モーリ、下に着いたら蹴って!」

「僕も蹴るの? こう? うわ!」

「うわ!」


「「きゃははは、なにこれ~」」

「クーリにいちゃん、モーリにいちゃん達だけずるい! ねえ、おにいちゃん私も、遊びたい!」

二人の妹のマーリがソルトのズボンの裾を引っ張り、訴えてくる。


それじゃと、ソルトがモーリの前にマーリを乗せ、落ちないようにねと言い聞かせ、その場を離れる。

すると、今度は女の子二人が玄関の隙間からこちらを見ているのに気付く。


ソルトが二人を手招きして名前を聞く。

「私はシリル」

「私はミリル」

「もしかして、双子なの?」

「「そう!」」

「ねえ、私達もあれで遊びたい!」

「遊んでいい?」

「ああ、いいよ」

「「わ~い!」」


ソルトが双子姉妹を空いているシーソーのもう一つの方に案内する。

「クーリ、モーリそのままでいいから遊び方を教えてやってね」

「「うん」」


子供達はシーソーに満足してくれたが、これだけじゃ寂しいしすぐに飽きそうだとソルトは考えると、ブランコに雲梯、ジャングルジムに滑り台に鉄棒に砂場と思いつく限りの遊具を作っていく。

「こんなもんか。うん、我ながらいい出来!」


ソルトが出来たばかりの遊具を見ながら、ほくそ笑んでいるとズボンの裾をくいくいと引っ張られるので視線を下に向けるとマーリが下からキラキラした目でソルトを見上げていた。


「うん、いいよ。怪我しないようね」

「「「「「は~い」」」」」


「随分、作ったね」

「レイも遊んできたら。ほら、ブランコの乗り方が分からないみたいだし」

「そうね、ちょっと指導してくるかな。ほら、そんな乗り方じゃダメだって。ちょっと貸してみなさい」


ソルとはレイがどんな指導をするのかと思って見ていたら、激しく立ち漕ぎで、大きく振っていたと思ったら、ブランコから射出されたように飛ぶと、綺麗な弧を描いて着地する。


「どう? これが正しい遊び方よ」

『ゴン』

「イッタ! なにするのよ! ソルト!」

「なに、危険な遊び方を教えているんだ!」

ソルトはレイの後ろに転移すると、その頭に拳を下ろす。


「いいじゃない。どうせ、いつかはするもんでしょ!」

「そうかも知れないけど、はしょり過ぎだろ! 男の子はいいとしても、女の子は座って漕ぐのが普通だろ?」

「普通ってなに? ソルトはそう言うけど、見てみなさいよ!」

ソルトがブランコの方に目を向けると、シリル、ミリルがソルト達の目の前に着地する。


「どうだった、おねえちゃん。みてくれた?」

「私の方が着地が綺麗だったでしょ? ねえ?」

「ごめん、ソルトと話していて見ていなかった」

「「え~」」


女の子とは言え、獣人姉妹の運動能力の高さに驚くソルトだった。


子供達をレイに任せたソルトが屋敷に戻ろうとすると、屋敷を囲む塀の外からこちらをみている子供達に気付く。

ソルトは子供達に近付くと声を掛ける。


「ご近所さんでいいのかな?」

ソルトが声を掛けると、子供達は揃って首を横に振る。

「どうしてここに?」

「お腹がすいたの」

「そうなのか。お父さんか、お母さんは?」

「いないの」

「なら、誰が?」


ソルト達がどうしたものかと子供達を見ると、手首に痣を見つける。

「あれ? もしかして……」

念の為にと子供達を鑑定すると、状態に『飢餓』『栄養失調』『成長不良』と出ていた。


エリス、レイを念話で呼び出すと子供達の世話を頼み、ゴルドさんも念話で呼び出す。


「ソルト、来たわよ。って、誰なの、この子達は?」

「すまないが、風呂に入れてなにか食べさせてやってくれないか? レイは、この子達の着替えを買って来てくれ」

「いいけど、親はどうしたの?」

「確認したけど、いないそうだ」

「でも……そういうことね。分かったわ。じゃ、ちょっと行ってくるわね」

レイもソルトが手を握っている子の手首の痣に気付いたのだろう。あまり、文句も言わずにお使いに行ってくれた。


しばらくするとボードに乗ったゴルドが屋敷に着く。

「念話で呼び出すなんて珍しいな。なにかあったか?」

「屋敷の中で話すよ」


ゴルドと一緒に屋敷に入ると、ソルトはティアにお茶を頼むとソファに腰掛ける。

「で、どういう用件だ?」

「実はね……」

ソルトが子供達を保護したことを理由を含めて説明する。


「そうか。いや、噂はあったが、実際に確かめてはいない。というか出来なかったと言うのが正直なところだ」

「なにか、心当たりがあるんですか?」

「ああ、多分だが……教会の養護施設だな」

「そうなんですね。でも、それならいくらでも立ち入ることは出来るでしょ? なぜ、ここまで放っておくんです?」

「相手が教会だからな。いくら俺達警備隊でも教会には逆らえないんだよ」

「なぜです?」

「なぜって……そうか。お前達、特にお前は教会なんて縁がなさそうだな」

「そうですね、どちらかと言えば無宗教ですが、それがなにか関係するんですか?」

「あのな、教会と言ってもなにもお祈りするだけの場所じゃないんだぞ。お前なんかなんでもかんでもポンポン魔法で解決するから分からないだろうがな。俺達、冒険者は自分で直せない怪我なんかは教会に属している聖魔法の使い手に治療を頼むんだ。しかもべらぼうに高い金額でな。でも、他に治療してくれる場所もないから、黙って従うしかないんだ。な、俺達が逆らえない理由も分かるだろ」

「分かりません」

「そうか、分かってくれるか……え? お前、あれだけ俺に話させといて理解出来なかったのか? いや、レイなら分かるが……」

ゴルドの説明を黙って聞いていたソルトが一蹴する。


「治療施設がないのが原因なんですね」

「ま、まあな。おい、まさかケンカを売るつもりじゃないだろうな?」

「さあ、なんの話ですか?」

ソルトがゴルドの顔を見て、ニヤリと悪い顔をする。


「おいおい、お前、商業ギルドを潰したばかりだろ? それに教会相手は分が悪すぎる。なんせ、相手の母体は国だぞ」

「だから、なんです。ゴルドさんもあの子達を見れば、俺がなにに怒っているのか、なにをしたいのか分かると思いますよ」

「それだよ。お前が間違ったことはしないと知っているから、俺も困っているんだろうが! たまには俺の立場ってのも分かってくれよ」

「分かりました」

「おう、分かってくれたか!」

「これで冒険者の怪我の心配はいらなくなりますよね?」

ゴルドの前にソルトがゴブリンの魔石を転がす。ゴルドがそれを見て嘆息する。


「お前、それってあれだろ? 嬢ちゃんに最初に用意した、あれだろ?」

「そうです。やっぱり、覚えてましたか」

「当たり前だ! 自然治癒なんて即死以外の攻撃力に対して、ほぼ無効化出来るんだからな」

「これをしばらく身に着けていると、なんと『聖魔法』スキルが取れるんですよ」

「お前、そんなことを公表したら、どうなるか分かって言っているのか?」

「多分、教会はお祈りするだけの神聖な場所になるんでしょうね」

「お前、それが分かっているのなら……」

「だから、公表はしません」

「は?」

「だから、公表はせずにギルドから、『御守り』として格安で販売するなり、無償で配るなりしてもらおうと思います」

「はぁ! なんでそんなことを?」

ゴルドがソルトの真意が分からずにソルトに質問する。


「いいですか? 教会付属の治療施設は高いけど、使わない訳にはいかない。ここまではいいですね?」

「ああ、そうだ」

「なら、その治療施設を使わないようにすればいいんでしょ?」

「それがこれか?」

「そうです。皆が治療施設を使わなくなる。すると、教会は赤字経営の元になってしまった治療院は手放すしかなくなる。そこへ聖魔法を取得した人が、格安で治療を始める。例え、教会の真似をして、高額な治療費を請求しようとしても聖魔法が使える人があちこちにいるんですから、そんな高額な治療費は請求出来ません。どうですか?」

「理想だな。だが、面白い」

ゴルドさんがニヤリと笑う。


「その御守りを三十個ほどもらえるか?」

「そういうと思って、はい」

「ったく、手回しがいいこって。話は警備隊の上の連中とギルマスにも通しておくから、お前は御守りの数を揃えてくれ」

「はい、お願いします」

「おう」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

風呂から上がった子供達にレイが買ってきた衣服に着替えてもらった後は、ちょうどお昼時だったのもあり皆で一緒にテーブルを囲みたいところだが、保護した子供達にいきなり硬い物を食べさせる訳にもいかず、具が入っていないスープだけを用意してもらい子供達の前に並べる。


「どうした? 遠慮せずに食え。子供は遠慮するもんじゃないぞ」

ソルトにそう言われ、目の前のスープをがぶ飲みする。

「あらら、お風呂に入ったばかりなのにねぇ」

エリスが皿を持ち上げ、体を汚すのも構わずにスープを飲み干す子供達を見て泣き笑いの顔になる。


「ほら、お代わりはいくらでもあるんだから、そんなに慌てるんじゃない」

そんなに強い調子で言った訳でもないのにソルトの言葉に子供達がピタッと手を止める。


「ソルト、多分だけど怒られると思っているみたいよ」

レイに言われて、少し言葉が強過ぎたかなとソルトが頭をガシガシ掻いていると、一人の女の子が泣き出す。

「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしませんから~許してください~」

すると、他の子も一斉に謝りながら泣き出してしまう。

「ごめんなざい、私が悪かったんです~ううう、もうしませんから、痛くするのはやめてぐだざい~」


それを見ていたティア達女性陣が子供達のそばに駆け寄り、頭を抱き寄せる。

「大丈夫、もう大丈夫だから、ね。だから、落ち着いて、もう誰もあなた達を叩いたりしないから、ね」

エリスにレイもボロボロと涙を流しながら、子供達を抱きしめる。

「ごめんなざい~」

「いいのよ、もういいの。だから、泣き止んで、ね」

「「「うぇ~ん」」」


やがて、泣き疲れた子供達はティア達に抱かれたまま寝入ってしまう。

「どうするの? ソルト」

「エリス、二階の大部屋にベッドを出すから、子供達を寝かせてやってくれ。あと、着替えさせるのも忘れないようにね」

「ええ、分かったわ。ティア達も手伝ってね」

「はい、もちろんです」


ソルトは自分の部屋と反対位置にあり、誰も使っていない大部屋にベッドを子供達の数だけ用意するとドアが開きエリス達が子供を抱き抱えて入ってくる。

「じゃ、あとは頼むね。それとエリスとレイは交代でここに残ってくれるかな。目を覚ました時に誰もいないと子供達が不安になると思うからさ」

「ええ、いいわよ。じゃ着替えさせるから、ソルトは出て行ってね」

「ああ、頼んだ」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

レイがエリスと一緒に子供達の着替えを済ませ、食堂へと入ってくる。

「エリスはいないが、昼食にしようか。いただきます」

「「「いただきます」」」


皆が食事を始めるが、ティア達女性陣とレイの様子がいつもと違うのを感じとった子供達と旦那達。

「ソルト君、なにがあったか聞いても?」

「ワーグ、ごめん。食事時にする話じゃないと思うから、後で話すよ。皆もそれでいいかな?」

「「「はい」」」


食事が終わると子供達は庭へと走っていき、食堂には大人達とソルト、レイが残っている。

「じゃあ、話すね。まず庭の遊具を作って、クーリ達を遊ばせていたら、あの子達が塀の向こう側から見ていたのに気付いて声を掛けたんだ。それで、その子達の様子が少しおかしかったから鑑定で見たんだ」

「鑑定ですか」

「そう、悪いけどワーグ達もお店にいる時に鑑定させてもらったから。ごめんね」

「いえ、それはいいです。それで?」

「ああ、子供達ね。その見た結果、ほとんどの子が『飢餓』『栄養失調』『成長不良』と出ていた」

「あ~だから、あの傷なのね」

「レイさん?」

ワーグが一人納得するレイに尋ねる。


「あ、ごめんね。さっき、私とエリスで子供達を着替えさせたでしょ。その時にね、見ちゃったんだ。特に背中が酷かったね」

「あの、見たっていうのは?」

ワーグが恐る恐るレイに質問する。


「え~とね、なんて言えばいいのかな。背中にね、大きな傷跡が残っているの。それも一回や二回じゃなく治る前にまた傷を負ったみたいでね、傷跡が重なっているというのかな。もう、元には戻れないのかも知れないくらいに酷いの」

「それって、要は……」

「ええ、虐待でしょうね」

「「「……」」」

皆の表情が暗くなる。特に子供を持つシェル達には自分の子供が同じことをされたらと想像してしまったのだろう。

サリュがさっきの子供達の様子を思い出し、涙ぐむ。


「話は分かりました。それでソルト君はどうするつもりか聞いてもいいですか?」

「聞く? 聞きたい? 巻き込むことになるかもよ?」

どこか楽しそうにソルトが話す。


「ソルト、ここはふざける場面じゃないと思うよ」

「そうだね。ごめんなさい。でも、巻き添えになることは避けられないと思う。もし、嫌なら、この家から出て行くのを止めないよ。ただ、契約はそのままにしといてもらうけどね」

「「「……」」」


「どうするの?」

「どうするって、今更普通の生活には戻れないのはお前だって知っているだろ」

「そうよね。でも、このまま、この家にいると危険だとソルト君は言ってるわ。子供達の父親としてはどうなの?」

「お前な、自分達の子供もそうだけど、あれを見せられて出ていけるのか?」

「そうよね、もし出ていくと言ったら、あなた一人だけ出て行ってもらうところだったわ。うふふ」

「まったく、お前は……」

「あ~コホン!」

顔が近づき過ぎていた二人の後ろからソルトが近付くとワザとらしく咳払いをする。


「ソルト君……」

「いいから、そういうのは他の子供達もいるから、ここでは止めてね」

「「はい……」」


ソルトが食堂を見渡す。

「誰も出て行かないの?」

「私達には子供はいませんが、自分達の子供がああいう風にされたらと思うと我慢出来ません」

「いるよ」

「「え?」」

「お店にいるときに見たって言ったでしょ。その時にティアさんが状態に『妊娠 二週目』って出てたのを見たんだ。ごめんね」

ソルトの言葉にワーグとティアが互いに顔を見合わせて後にティアの下腹部に視線が集中する。

「いえ、責めている訳ではありません。謝らないでください。と、いうかお礼を言わせて下さい。ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「あら、ティアもお母さんになるのね。ふふふ、私達先輩をいくらでも頼ってね」

「はい、頼らせてもらいます。サリュさん、ミディさん」


子供が出来たと聞いたワーグが、お腹の子にも恥ずかしいところを見せられないと胸を張る。

「ソルト君、俺頑張るよ」

「それは分かりました。でも、あの子供達だけじゃないかもよ?」

「いいじゃないですか、お部屋はまだ余っているんだし」

「うるさくなるかもよ?」

「それくらい元気になってもらえれば、安心ですよね」

「でも……」

「助けたいんでしょ? なら、私達は雇用主の希望に応えるだけです。なんなりとお申し付け下さい」

「いいの?」

「ええ、ここにいる誰も反対などしません」


「分かった。じゃ、皆にも協力してもらうけど、皆を俺が守れると、そこまで自惚れてはいない。だから……」

「「「だから?」」」

「皆には強くなってもらう」

「「「ええ?」」」

「大丈夫、すぐに終わるから。ついでに冒険者登録もしちゃう?」

「いえ、流石にそこまでは……」

「でも、強くなってはもらうから」

「「「はい……」」」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルトはエリスの元に行くとレイと交代といい、昼食を済ませた後に頼みたいことがあると話す。

「いいわよ。楽しい話なのよね?」

「ああ、それはもの凄く楽しい話になると思うよ」

「ふふふ、分かったわ」


「さて、レイ。お前のスキルがやっと、役に立つ時だね」

「なにをさせるの?」

「なにって、お前も子供達の傷を見たんでしょ。なら、することは一つでしょ。あ、その前にこれをつけてね」

レイの右手首にゴブリンの魔石をつけた紐を結びつける。

「これはなに?」

「素人の作品で申し訳ないけど、ドーピング用の魔石さ。これに『スキル成長速度十倍』を付与している。これを着けたままで、子供達の小さい傷を先に治していく。最後の子を治した頃には『完全治癒(パーフェクトヒール)』が使えるようになっているだろうね」

「嘘よ、そんなの。だって私はなんちゃって聖女なんだから、そんなことは無理なの! ソルトがやればいいじゃないの!」

「もちろん、俺も手伝うよ。でも、レイは本当になにもしなくていいの? なにもしないままでいいの?」

ソルトの言葉にレイは考える。このままでも自分はなにも困らないし、この先も困ることはないだろう。

でも、自分の力をスキルを使えば、この子達の傷を癒すことが出来る。背中の大きな傷跡も問題なく消すことが出来るだろう。どこか不安は残るが、あのソルトが大丈夫と太鼓判を押してくれる。なら、今こそ自分の力をスキルを使う時じゃないのかと自問自答する。


「やる。やるわよ! 後で文句言っても知らないからね!」

「よし、じゃあこの子からいくか」

「ええ、いいわ。まずは手首の痣からね。『回復(ヒール)』 本当にこれで治るの? って、痣は消えてるわね。じゃ他の傷は……まだ残っているのね」

「まだ、レイのスキルレベルじゃ効果の範囲が狭いみたいだね。そういう訳で続けていってみようか」

「分かったわよ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

八人の子供達の表面的な生傷の全てを治療し、あとは背中の大きな傷跡のみとなった。

ソルトはレイを監視すると、もう『完全治癒』は使える筈だというが、レイは失敗したらどうしようと考えるばかりだ。


「レイ、この子達を治したのはお前の力だろ? なら、あとはその力を使って、必ず治す、治せると自分を信じてスキルを唱えるだけだろ。出来る、お前なら出来るから。その子達を治してやってくれ」

「分かったわ。だから、ソルトは出て行って」

「は?」

「分からないの? 小さいとはいえ、女の子なのよ。それに『成長不良』ってあったんでしょ? この子達は見た目は十歳未満だけど、その『成長不良』を信じるのなら、十歳を超えている子もいるはずよ。だから、ソルトはここまで。私を信じてくれるんでしょ? なら、あとは任せてもらうわ」

「分かったよ」

ソルトが部屋から出るのを確認すると、レイはベッドの上で穏やかな寝息を立てている子供をうつ伏せにしてから、着ているシャツをたくし上げ背中を露わにする。


「うわぁ、やっぱり酷いね。でも、私が治すからね『完全治癒』!」

少女の体が光り出し、レイはあまりの眩しさに直視が出来ないでいると、やがて少女の体を覆っていた光が消える。


「成功したの?」

レイが少女の背中を確認すると、そこには白い肌を露わにした少女がうつ伏せに横たわったままで静かに寝息を立てていた。

「うそ! 消えてる。なくなってる。あんなに酷かった傷が」

レイは念のためと少女の背中をその手で触り確認する。


「凹凸もない。シミもない。痣もないし、傷もない! 完璧だわ!」

レイは嬉しさのあまりに小躍りするが、すぐに他の子も治してあげないとと気を引き締め直して、治療を続ける。


八人全ての治療が終わると、疲れた眠いと近くのベッドに入り込むと少女の頭を抱えて、そのまま眠り込む。


「もう、息苦しい! なに、この柔らかいのは?」

レイが押し付けていた胸をどかしベッドの上で起き上がる。

「ここはどこ? このお姉さんは誰?」

ぼんやりとしていた記憶が次第に鮮明になって湧き上がってくる。


「そうだ、家のお庭で遊ぶ子供達が楽しそうで、それを見ていたら、話しかけられて……」

少女が記憶を辿っていると、部屋のドアが開けられる。


「あら、起きたのね。調子はどうなの? 話せる?」

「……はい」

「そう、じゃ皆を起こして、下に来てちょうだい。そこでだらしなく寝ているお姉さんもついでに頼むわね」

「……はい」

「じゃ、よろしく」

そう言ってドアを閉めて出ていくお姉さん? を見送ると言われたことをしないと怒られると思い、急いで他の子達を起こし身形を整えるとレイを起こす。


「すみません、起きて下さい。起きて下さい、起きてくれないと怒られますから~!」

「えっ! 怒る? 誰が?」

少女の声を聞いたレイが飛び起きる。

「誰が怒るの? ねえ、教えて!」

少女の方を掴み、問い詰めるレイに少女の目に涙が溜まっていく。


「あ、ごめんね。強く言い過ぎたわね。ごめん、ごめんだから泣かないで。ね、お願い!」

「ぐすっ……起きてくれますか?」

「あ、寝ちゃってたか。うん、起きる。ほら、起きたから、だから泣かないで。ね?」

「じゃ下に来てって言ってたから、一緒に来て下さい。ぐすっ」

「分かった。分かったから、ほら、一緒に行こうね。はい、手を繋ごうか」

少女がレイの手を握り部屋の外へと出て、一階の食堂へと向かう。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「やっと、起きたのねレイ。ありがとうね、連れて来てくれて」

エリスが頼んだ少女の頭を撫でる。


「ぐすっ……怒られない?」

「誰が、怒るの?」

「エリス、さっきからこの子が怒られるって不安になっているんだけど、もしかして……」

「え、私? 私が怒るの? なんで?」


レイが膝を折り、少女の目線と同じ高さになり尋ねる。

「ねえ、さっき怒られるって思ったのは、もしかしてこの人?」

レイがそう言ってエリスを指差すと少女が頷き、こう答えた。


「うん、このおばちゃんが言った」

「お、おばちゃんですって!」

少女はレイに抱き着くと顔を伏せる。


少女達はエリスの怒気に当てられ泣き出しそうな顔になるが、様子を黙って伺っていたソルト達は笑いを堪えるのに必死だ。

「もう、なんでよ~」

「エリスおばちゃんは怖いね~」

「レイ! 覚えてなさい!」


そんなやりとりを見ていたサリュが気付く。

「ソルトさん、あの子達の傷が……」

「ああ、レイが治したみたいだね。出来たんだね、レイ」

「ふん、当然よ。どう、私の力は!」

「うん、これで教会と思いっきり戦えるね」

「はい?」

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