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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第二章 遺跡
32/131

そんな訳で部屋決めです

商業ギルドで、なんやかんやと色んなことがあったが、無事にソルト達への引き渡しが完了したことを示す書類も作成されたことで商業ギルドのギルドマスターもほっと胸を撫で下ろすが、じゃあ次ですがとソルトが発した言葉にギョッとする。


「失礼ですがお客様への引き渡しは、先ほど無事に引き渡しが完了したことをお客様も確認なされたと思いますが?」

「屋敷はね。でも、俺を詐欺ろうとしたことへの謝罪はどうなるの? それに他の人への謝罪は? そもそも、イチ職員が出来ることなのかな? 噂にならないのもおかしいよね? そう思わないゴルドさん」

「まあ、そうだな。不審な点は今思えば、そこら中にあるような気がするな。ソルトよ、すまんがお前への謝罪云々は有耶無耶になるかも知れんが、ここから先は俺達に任せてもらえるか?」

「そうだね、ゴルドさんの方できっちり締め上げてくれるのなら、俺は十分だよ。今度、そこのギルドマスターに会う時はほっそりとしている姿を見られるかもね」

「ひっ!」

ソルトがギルドマスターの顔を見ながらニヤリと笑って見せるとギルドマスターが怯えた顔になる。

「ソルト、その辺にしとけ。もう、俺達に任せるんだろ」

「分かった。あとは、よろしくね」

「ああ、任せろって。よし、今日はもう終いだ。すまんが、職員以外は出てくれ!」

「「「え~!」」」

「不平不満なら、後で商業ギルドに損害補償でもなんでも出せばいいだろ。なあ、ギルドマスター」

「そんな、そんなことされたら、私の立場が……この商業ギルドが……」

「まあ、今まであんな奴らを見逃していた罰だと思うんだな。ほら、そういうことだから出ていってくれ」

「いや、でも……」

「損害補償の受付は早い者勝ちになると思うぞ?」

ゴルドが不満を漏らす利用客にそういうと我先にと、商業ギルドから出ていく。


「ああ、もう終わりだ~」

「そう言うな。代わりのギルドマスターなら、本部から送られてくるんだろ。ほら、行くぞ。って、重いな。お~い、誰か手伝ってくれ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ソルトが屋敷の方に戻ると、まだエリス達は帰宅していなかった。

「なら、先に自分の部屋を決めるか。確か二階までで、三階部分は屋根裏部屋だよね。レイが家賃に文句を言ったら、屋根裏に入ってもらうとして……」

ソルトは二階に上がると廊下の突き当たりにある部屋へと入る。

「執務室に寝室、それに応接室もあるな。あとはトイレか。しかし無駄に広いな。こりゃ、俺達だけじゃ掃除も行き届かないぞ。どうするかな。ま、とりあえずは、ベッドに机だろ。それに応接間に応接セットだな。書棚は……いらないか。箪笥は……いいか」

独り言を呟きながらソルトが部屋に必要な物をメモに書き留める。


『カーテンは修復されていないのですね』

「リペアするのは屋敷自体で、付属品としてのベッドやカーテン、家具はリペアの対象とならないみたいだね。とりあえず、この天蓋付きのベッドや、趣味の悪い古いカーテンはいらないから、収納と」

『絨毯はどうですか?』

「う~ん、ものは良さそうだから修復してみようか。『リペア』と、おう綺麗になるもんだ。じゃ、屋敷中の敷物を修復していくか」

『では、私にも手伝わせて下さい』

「ん? 手伝ってくれるのは嬉しいけど、どうやって?」

『『照準固定』を使えばいけると思います』

「あ! そうだね。じゃ、いくよ!」

『はい!」

ソルトが目に付くものほとんどを『照準固定』で捕捉していき、それをルーが『リペア』を唱えると、一気に修復されていく。

「うわぁすげ~」

『ふふふ、ありがとうございます』

「よし、じゃあこの調子で全部屋を済ませようか」

『はい!』


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ただいま~って、エリス、なにか変じゃない?」

「変って言えば、玄関の前に立った時にも変だけど?」

『なんか洗われた感じ』

『そうですね、爽快感はありますね』

二人と二匹は自分達が立つ、玄関マットらしき物を見る。


「ねえ、屋敷を出る時にはなかったよね、これ?」

「そうね。確かになかったわ」

『ソルトお兄ちゃんの匂いがする』

『そうですね、確かにお兄様の匂いがします』

まあ、分かりきったことではあるが、二人と二匹は確信し屋敷の中へと入っていく。


「やっぱり、ソルトが暴走しているような気がする」

「みたいね。でも、いい方への暴走みたいだし、放っておきましょう。それより買ってきた物を厨房へ運ぶわよ」


厨房に入り、まずは買ってきた食材を調理するための準備を始めるエリスが、気付く。

「ねえ、包丁はどこ?」

「その辺の引き出しか、どっかにあるんじゃないの?」

「ないわよ?」

エリスが流し台の引き出しとか棚を探すが、まな板すら用意されていない。


「もう、しょうがないわね。レイ、ちょっと行ってきて」

「え~なんで私が」

「下拵えなんて、まだ一人じゃ出来ないでしょ。文句を言わずにさっさと行く!」

「もう、ショコラ。行くわよ!」

『……僕もですか?』

「そうよ、まだダイエットが必要でしょ! ほら、早く!」

『はい……』


「まだまだ、ダイエットが必要なんて、どんだけ甘やかしているのかしら。ねえ、リリス。リリス……」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「これで全部かな?」

『あとは一階と地下室ですね』

「地下室か~使わないでもいいよね」

『では、一階もすませちゃいましょう!』

「そうだね」


一階はエントランスに厨房、食堂、風呂、脱衣所、応接室、会議室にと色んな部屋に使用人用と思われる狭い部屋もいくつかある。

やっぱり、誰か雇わないとダメだなとソルトは考えながら装備品の修復を進めていく。


『お兄様! まだ、お仕事中ですか?』

「リリス。もう少しね。お買い物は済んだの?」

『はい、ただ不足分をレイさんが買いに行ってます』

「そうなんだ。リリスがここにいるってことは、エリスはいるんだね」

『はい、夕食の準備をしています』

「分かった。で、リリスはどうしたの?」

『お兄様の側にいたいのですが、ダメですか?』

リリスに上目遣いで言われたソルトはデレ~ッとなると、いいよ一緒に回ろうかとリリスを誘う。

『はい!』


『なぜでしょう。なにかモヤモヤします』

「ルー、どうしたの?」

『ソルトさん、なにか胸の奥底にモヤモヤしたものを感じています。どうしてでしょう?』

「へ~それはまた、新しい感情だね。で、いつ感じたの?」

ソルトがリリスを撫でつつルーに質問する。

『つい、さっきです。その、リリスにソルトさんがデレていた時になにかモヤッとしました』

「あれ? それって、もしかして……」

『分かるんですか! 分かるのなら、教えて下さい!』

ソルトは多分、これじゃないかなと思い当たる節があるが、正直に言っていいものかどうか悩んでしまう。


『ソルトさん、どうしました?』

「ん~まあいいか。ルーは、気にしないでいいよ。その内、分かるから」

『え~でも……』

「大丈夫、そんなに悪いことでもないから」

『そうですか、ソルトさんがそこまで言うのなら』

「気にしすぎは良くないよ。ねえ、リリス」

『はい!』


『やっぱり、モヤッとします……』


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「エリス、おかえり」

「ソルト、ちょうどよかった」

「どうしたの?」

「宿を引き払うのはいつにするの? もう、今日からここに泊まるのなら、荷物を取りに行きたいんだけど」

「そうだね。女将さんにも挨拶しないとダメだね」

「それもあるけど、私の荷物が結構あってね、出来れば、その……」

「あ~荷物持ち? いいよ。俺も女将に聞きたいこともあるし。じゃ、行こうか」

「あ、その前に食材をお願いしていい?」

「いいよ」


ソルトが厨房に置かれた食材をまとめて収納すると、エリスと一緒に宿の部屋へと転移する。


「もう、いきなりはやめてよね」

「いいから、荷物はどこ? ついでにレイの荷物も持っていくから、俺が見たらマズいのは布を被せるかなにかしてもらってもいいかな?」

「いいわよ、そのくらいなら」

「じゃ、終わったら教えて」

「ええ。でも、どうやって?」

『念話が使えるでしょ?』

「あ、それもそうね。『分かったわ』これでいい?」

「うん、大丈夫」


エリスに荷物を纏めるように頼むとリリスと一緒に女将を探す。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ソルト、そんなにキョロキョロして、どうしたんだい?」

「あ、女将さん!」

一階に下りて女将を探していたソルトが不意に後ろから声を掛けられ振り向くと女将がそこに立っていた。


「実は屋敷を手に入れることが出来たので、この宿を引き払うことになりました」

「そうかい。でもよく屋敷なんて手に入ったね。そんなに安くもないだろうに。ま、ここじゃなんだから、私の部屋で詳しく聞こうじゃないか」


女将に部屋で話そうと言われ、ソルトは女将の後を着いて歩く。

「ここだよ。そういや、この部屋に入るのは初めてだったかい?」

「はい、そうですね。お邪魔します」


女将にソファへ座るように促され、ソルトは女将と向かい合ってソファへと座る。

「どれ、安くもないお屋敷を手に入れた話を聞かせてもらおうじゃないか。どうせ、今日の商業ギルドの騒ぎにも加担しているんだろ?」

「知ってましたか」

「まあね。こんな商売してるんだし、宿はこの辺じゃ、ここ一軒だけだ。放っておいても自然と話は集まるのさ。じゃ、聞かせてくれるかい」

「それじゃ、商業ギルドに入ってから……」


ソルトは女将に今日の出来事を事細かに説明する。


「なるほどね~いやぁ上手いこと考えるもんだね。悪い奴ってのは抜け目がないね。で、ソルトが聞きたいのは、そんなことじゃないんだろ?」

「はい。思わず屋敷を手に入れたんですが、広さ的に三人で掃除するにも行き届かないところが出てきそうで。あと、出来れば食事の用意と庭の手入れを頼める人を紹介して欲しいんですよ。例えば奴隷とか」

「悪いけど奴隷ならいないよ」

「そうなんですね。じゃ、誰か雇わないと」

「ソルトは奴隷がいないことには驚かないのかい?」

「特には」

「そうかい。他のところから来た連中は奴隷がいないことを不思議がるんだけどね」

「他の所では当たり前なんですか?」

「そう。そこら中にいるよ」

「でも、ここにはいない」

「ああ、なんでも逃げて来た勇者が奴隷の存在に嫌悪感を抱き、長い時間を掛けて奴隷制度そのものを変えたのさ。今じゃ、人材派遣業と名前を変えているけけどね。当然、奴隷よりも待遇はいいし、隷属させられる訳じゃないから、嫌ということも出来るんだ」

「そうなんですね。じゃ、そこを紹介してもらえますか」

「分かったよ。ちょっと待ってな」


女将が机の引き出しを開け、なにやらゴソゴソと探している。

「あった。これだよ」


女将がソファに座るとソルトの前に薄い木の板を置く。大きさとしては名詞くらいだろうか。

ソルトがその板を手にとり、表面に書かれている文字を確認する。

『人材センター キューピッド あなたがお探しの人材を派遣いたします』

そう書かれていたのを読み、女将に確認する。


「これが勇者の残した人材派遣業ですか?」

「ああ、そうだよ。場所は宿を出てから商業ギルドに行く途中の通りにあるから、すぐに分かるだろうさ。私からの紹介だと言えば、それなりに優遇してくれるだろうさ」

「ありがとうございます」

「なに、いいって。それで、今晩からは、その屋敷にするんだね」

「ええ、そのつもりです。挨拶はまた、改めて伺います」

「いいよ、でもリリスだけじゃなく、ショコラともちゃんと挨拶したいね」

女将がリリスの頭を撫でながら、名残惜しそうにしている。


「まだ、俺達はこの街にいるし、ここへも食事とかで寄ることもあるでしょう。今生の別れでもないですから、いつでも遊びに来るし、うちにも遊びにきて下さい」

「ああ、ありがとうよ。そのうち、寄らせてもらうよ」

「じゃ、また焼肉をする時にでも、招待しますね」

「あれかい?」

「ええ、あれですね」

「オーククイーンにオークキングまで、食べることが出来たんだ。流石にあれ以上は無理だろ」

「ふふふ、あれ以上のをお約束しましょう」

そう言って、ソルトは女将に向かってニヤリと笑う。


「まあ、気長に待ってようじゃないか」

「はい、近いうちに必ず」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『ソルト、終わったよ。お願い!』

『ああ、分かった。行くよ』

「では、女将。また」

「もう行くのかい?」

「ええ、後で三人でご挨拶に伺います」

「そうかい。まだ半年も経ってないのになんだか寂しいね」

女将がリリスに抱きつきながら、言う。

「この子だけでも置いて行ってもいいんだよ」

「勘弁して下さい。女将さん、じゃ行きますね」


女将の部屋を出ると、ソルトは自分達の部屋へと戻る。

「荷物はこれだけ?」

「ええ、そうよ。左が私ので、右がレイの物よ」

「エリスの仕事道具より、レイの私物が多いのは不思議だね」

「レイは捨てられない性格みたいよ」

「また、難儀な」


エリスとレイの荷物を収納し宿から出ると人材派遣の話をしながら通りを歩く。

「そうね、確かにあの広さを三人だけで管理するのは難しいわね」

「だろ? って訳で今から、ちょっと行ってみようか」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

女将に言われた様に通りをしばらく歩くと『人材派遣業 キューピッド』の看板が見えてきた。

「ここみたいだな。すみません」

「はい、いらっしゃい。本日はどのような人材をお求めで?」

店に入るなり、いきなり威勢のいいお兄さんに話しかけられソルト達は驚いてしまう。


『ぱこ~ん』と音が響き、お兄さんが頭を抱えて、その場に蹲る。

「何度言ったら分かるんだい! このおバカは! ここはそういう店じゃないんだから、もっと落ち着いて接客しないか!」

少し勇ましい感じのお姉さんが、ハリセンの様なものを手に持ち、お兄さんに説教を始める。

お兄さんは、百八十センチメールを超える様な巨体なのにお姉さんは百六十そこそこって感じだ。

そんな、お姉さんが今、ソルトの目の前で自分よりも頭一つは大きいお兄さんを正座させ、説教している。


しばらく状況が飲み込めずにただ見つめていることしか出来なかったソルト達だが、漸くお姉さんがこちらに気付くとすみませんでしたと深々とソルト達に対しお辞儀をする。


「あ、いえ」

「それで、お客様。失礼ですが、私どもの店は初めてのご利用でしょうか?」

「はい。そこの宿の女将からの紹介で来ました」

「女将からでしたか。それは失礼しました。では、こちらへ」


お姉さんに案内され、奥の部屋に通される。


「改めまして、店主の『ナタリー』と申します。以後、よろしくお願いします」

「ソルトです」

「エリスです」

「ありがとうございます。早速ですが、お探しの人材を伺ってもいいですか」

「はい、探しているのは掃除、洗濯、料理と家事一般が出来る人と、庭仕事が出来る人を探しています。一応、家には私達の他に女性が一人、従魔がこの子と同じサイズのがもう一人。なので、従魔に対して忌避感がない人が好ましいです。それと、少し屋敷が広いので家事担当は出来れば二人、庭仕事も警備を兼ねて三人から五人程度をお願いしたいと考えています。もし、働いてくれる人が住み込みを希望するのであれば、部屋の方も少々狭いですが用意させて頂きますので」

「わ、分かりました。そうですね、今でしたら少々訳ありですが、家事一般と庭仕事も出来る人と言うか家族が登録されています」

「家族ですか?」

「ええ、賃金はそれぞれで頂きますが……」

「なにか問題があるんですか?」

「問題と言うか、切実と言いますか……住む所がないんです」

「住む所がない?」

「少し前にこの街に流れ着いたみたいなんですが、この街には身寄りもいなければ、頼れる人もいないので、家を借りることも出来ず、この店に登録をしたのはいいのですが、二人を一度に雇ってくれる相手もいなかったので。もし、住み込みでいいと言うのであれば、多少の勉強はさせて頂きますがどうですか?」

「エリス、どう思う?」

「そうね。私はいいと思うわ。言い方が悪いけど、子供がいるのなら下手なことは考えないと思うの。なにかして逃げるとなれば、子供は足手まといにしかならないから」

「そうか、分かった。では、ナタリーさん、その家族と会わせてもらえますか?」

「はい、分かりました。では、隣の部屋に用意させますね。それでなんですが……」

「まさか、もう一組いるとか?」

「実は……二組います。一組は子供はいないので夫婦二人だけですが、どうです? もし、三組とも契約して頂けるのであれば、サービスいたしますが」

ナタリーの言葉にソルトは唖然とするが、三組の住み込み希望の家族を雇うとなると少し考えてしまう。だが、家事と庭仕事をしてくれる人材を格安で手に入れられるのであればお買い得かもと考える。

『雇いましょう!』

『おや、ルーは乗り気だね』

『ええ、なんだか放っておけません』

「ふふふ、エリスはどう思う?」

「そうね、まずは会ってからにしましょうか?」

「そういうことです。ナタリーさん」


ナタリーは頷くと隣の部屋にソルト達を案内する。


そこには頭から耳を生やしたいわゆる獣人の家族が三組立っていた。

一組は若い獣人の夫婦のみ、残り二組はまだ小さい子供がいて、一組は二人の男の子と、その妹らしき女の子の五人家族、残る一組は赤子を抱え、その両親の足にしがみつく女の子二人の五人家族だった。


ソルトも獣人を初めて見る訳ではないが、三組が一緒にこの街へ流れ着いたとなると、近隣でなにかあったのではないかと勘繰ってしまう。

『ルー、ちょっと近隣でなにか起こってないか、調べられる?』

『分かりました』

『悪いね』

『いえ、私も気になるので』

ソルトが家族を一人ずつ鑑定して見るが、特に怪しむところはなく、それぞれの職能スキルも確認出来たので問題ないとエリスに告げる。

エリスも自身で鑑定したのか、分かったと言う。


「分かりました。三家族とも引き受けましょう。で、契約ですが」

「ありがとうございます。それでは、元の部屋で契約しましょう」

「分かった。エリス、その人達に出来ること、出来ないことを聞いといて。それと欲しい物、必要な物もね。例えば、ベッドとか換えの衣類とかね」

「分かったわ。じゃあ聞かせてもらえる?」

「はい……」


ソルトはナタリーと元の部屋に戻り、ソファに座る。

「では、早速ですが……契約の話になるんですが……」

「また、なにか問題でも?」

「ええ、実はあの三家族とは、契約を結んでいません」

「ん?」

「変な話をしているのは分かっています。ですが、あの家族を見たら、そのままにしておく訳にはいかず、それに変な客を紹介することも出来ずにズルズルと」

「状況は分かりましたが、俺にどうしろと?」

「ですので、ソルト様にはあの三家族と直接契約していただく形となります。お願いできませんか?」

「それはいいですが、一般的な賃金がどのくらいかをお聞きしても?」

「そうですね、家政婦としては月十二万セル、庭仕事なら月に十五万セルほどでしょうか」

「なるほど。で、そこから住み込みとしての住居費用を引くと?」

「ええ、そうなります」

ナタリーからの話を聞いたソルトは支払いは出来ない話じゃないし、リリスに対しても忌避感はないと思う。ただ、リリスを見た瞬間に拝む様にしていたのが少し気になるくらいだ。


「ソルト、終わったわよ。そっちは?」

「ああ、こっちも終わった。じゃ、エリスは一緒に買い物に行って。足りなければ後で払うから」

「分かったわ。じゃ、行きましょうか」

「あの……いいですか?」

若い夫婦の奥さんが質問してくる。


「なに?」

「好き嫌いとかあれば、教えて下さい」

「ん?」

「あ、いえ。その料理をするのであれば、好みを聞いておきたいと。後でお叱りを受けるのも嫌なので……」

その言葉を聞き、ソルトもエリスも笑い出す。


「ふふふ、ソルト。どんなお叱りをするのかしら? ふふふ」

「ははは、そう言うエリスこそ」

笑う二人を見て、質問した奥さんがなにか気に触ったのかと不安になる。


「あ、ごめんね。私もソルトも、もちろん、もう一人の子もそんなことは心配いらないから。まあ、口頭で注意するくらいのことはするかもしれないけど、手を上げることは絶対にないわ。だから、安心して」

「はい、分かりました」

「じゃ、ソルト。私達は買い物して帰るから、後の面倒なことは全部お願いね」

「ああ、分かった」


エリス達がゾロゾロと部屋から出ていくと、ちょっと早まったかなとソルトは思うが、同時になんとかなるだろうとも思う。

「今、考えてもしょうがないか」

「では、ソルト様。後のことは全てお任せすることになってしまいますが、本当にありがとうございます」

「いえ、俺も求める人材を手に入れることが出来たのでありがたかったです。では、失礼します」

「はい、ありがとうございました」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

『エリス、こっちは終わったから。買ったものは、全部屋敷に届けさせて』

『分かった。そうするわ』


ソルトはエリスに連絡するとボードを出して屋敷へと戻る。


「ソルト、おかえり~」

屋敷に戻るとレイがショコラと一緒にソファに寝転がったまま、ソルトに言う。


「レイは自分の部屋は決めたのか?」

「あ、まだ! ねえ、どの部屋でもいいの?」

「どれでも、と言いたいけど。部屋の広さで家賃も変動するからな。あと、人を住み込みで雇ったから、その人たちを優先にするから、レイは一間の部屋になるな。となると、屋根裏か?」

「え~屋根裏なの?」

「まあ、とりあえずは修復してあるから、見てみなよ」

「分かったわよ。その内、高い家賃でも払ってみせるんだから。行くよ、ショコラ!」

『行ってらっしゃ~い』

「もう! いいわよ」

レイがショコラを呼ぶもショコラは起き上がりもせずにレイを送り出す。


「こんなところまで、飼い主に似るのか」

ソルトは、まだまだぽっちゃりさんなショコラを見詰めながら、そんなことを呟くのだった。


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