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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第二章 遺跡
29/131

可愛いは正義です!

ギルドに入り受付に向かったソルトはキャッキャと、まるで女子高のような騒がしい現場に遭遇する。実際の現場は知らんけど……

「エリス、なにがあったの?」

ソルトは説明を求めてエリスに話しかけようとするが、その騒動の中心にいるのがエリスとレイの二人と、その腕に抱かれているフェンリルの姉弟で、その周りをギルド職員のお姉さんと冒険者のお姉さん達だった。


「やっと来たか、ソルト」

「ギルマス」

「さあ、こっちでじっくり説明してもらおうか」

「なにを?」

「この騒動の原因だ。知らないとは言わないだろ」

「いや、知ってるも知らないも、見たまんまでしょ?」

ソルトがただ子狼にメロメロになっているだけでしょと暗にギルマスに言うと、シラを切るつもりかと肩を掴まれ、ギルマスの部屋へと連行される。


「あれ、ゴルドさんまで呼ばれたんですか?」

「ああ、昼を済ませて出ようとしたら、ギルマスに捕まってな、最近の活動報告を少しばかり話して帰ろうとしたら、あの騒ぎだろ? なら、お前が来るまで待っとけって、ことでここにいる」

「それは災難ですね」

「そう、思うならちゃんと説明してくれ。あの子狼はなんだ? おっと、ホワイトウルフってのは通じないぞ。俺も元は高位ランカーだからな」

「ってことはゴルドさんも知ってたの?」

「いや、俺は正直分からなかったが、今のソルトの反応が全てだな」

「そうだな。ソルトよ、正直に話すんだ!」

「はぁ分かりました。ですが、口外とか従魔登録の取り消しとかはなしですよ」

「分かった。約束しよう」

「本当ですね?」

「疑り深いヤツだな。そんなに俺が信じられないか」

「まだ、知り合って一月ちょっとですからね」

「それを言うなら、俺もか?」

「ゴルドさんは別ですよ。一緒のパーティだし」

「そうか、それはありがたいな」

ソルトの返事に勝ち誇った様にギルマスを見るゴルドだった。


「ふん、そんなことよりあの子狼だ。教えろ」

「じゃあ、本人に聞きましょうか。『レイ、エリスと一緒にギルマスの部屋に来て』」

「レイを呼んだのか?」

「ええ、すぐに来ますよ」

ギルマスの部屋のドアが乱暴に開けられると、レイがソルトに不満を漏らす。


「もう、ショコラと一緒にお姉さん達と遊んでいたのに、なに? しょうもない用件なら怒るよ?」

「レイ、ギルマスにショコラを抱っこさせてやって」

「え~ギルマスに?」

「加齢臭なら移らないから、抱かせてやってよ」

「本当に移らないよね?」

「ああ、もし移ったらちゃんと洗うから大丈夫だ」

「それなら、いいけど……はい、ギルマス。落とさないでよ。いい? 絶対にだからね」

「……」

「ギルマス?」

「ソルト、俺はそんなに加齢臭がするのか?」

「いえ、俺は気にならないけど、どうしました?」

「気にならないか。そうかやっぱりな。だから娘が最近、『お父さん、臭い』って……いや、そんなことは今はどうでもいい。で、俺は抱っこさせられて、どうしろと?」

「ギルマスはなにもしなくていいですから、ショコラ。ギルマスおじさんに挨拶して」

『いいの?』

「ああ、このおじさんなら大丈夫だ」

『ふ~ん、分かった。じゃ、よろしくねギルマスおじちゃん』

ギルマスの頭の中に突然、声が聞こえる。ギルマスが、慌てて周りを見回すが、ここにいる聞き覚えのある連中の声ではないのは確かだと考え、まさかなと腕の中にいるショコラをジッと見る。


『やっと、僕を見たね。ギルマスおじちゃん』

「お前か……」

『お前じゃないよ。ショコラだよ』

「すまん。ショコラ。ソルト、これはどう言うことだ?」

ギルマスがソルトに説明を求めるが、ソルトがギルマスの腕の中にいるショコラを指差し、本人に聞けと言う。

そして、エリスにレイの耳を塞いでもらう。


「ショコラ、君はフェンリルかい?」

ギルマスの質問にショコラがソルトを見る。ソルトはその視線に対し、頷くことで肯定する。

『うん、僕とリリスはフェンリルだよ。でも、『隠蔽』スキルを使って、『ホワイトウルフ』になってるんだ。そうしないと悪い人に捕まるってお兄ちゃんが言うから』

「そうか、分かった。ありがとうな。で、ソルトよ。少し聞きたいことがあるんだが」

今度はギルマスがソルトに質問する。

「ショコラが『隠蔽』だと言ってるが、どういうことだ?」

「え? そのままの意味ですけど」

ギルマスの質問にソルトが、なに言ってるんだと言う風に答える。


そのソルトの答えを聞き、ギルマスが声を荒げようとするが腕の中のショコラを見て、少しだけ落ち着く。

「だから、その『隠蔽』をなぜショコラが使えるのかと聞いているんだ!」

「ああ、そういうことですが。なら、最初っからそう言ってくれればいいのに」

ギルマスが、ソルトの答えにまた『ぐぬぬ』となるが腕の中のショコラを怖がらせる訳には行かないとグッと堪える。


「だから、どうやって『隠蔽』を覚えたのかを話せ!」

「その首輪ですよ。その首輪に着けた魔石で、ショコラ達をドーピングさせることでスキルを覚えさせました」

「そうだった。お前はそれが出来るんだったな……」

腕の中のショコラを撫でながら、ギルマスが呟く。


「ねえ、ギルマス。もういいでしょ」

レイが耳を抑えていたエリスの拘束から自由になるとギルマスにショコラを返せと詰め寄る。

「いや、まだだ」

「なんでよ。もう聞きたいことは聞けたんでしょ?」

「まだだ。お前らのせいで荒んだ俺の心はまだ癒やされていない」

「そんなの、知らないわよ! いいから、返しなさいよ!」

ギルマスに対し、もう一度返すように詰め寄る。


『ギルマスおじちゃん、また遊びに来るから。僕を放して。ね?』

「ショコラ……」

「いいから、ギルマス。早く!」

『うん、またね』

レイがギルマスの腕の中から、ショコラを取り上げると、レイはショコラの匂いを嗅ぎ、ギルマスの匂いが移ってないかを確認する。


「お前、それは失礼だろ」

「だって、移ってたら嫌じゃない」

「ソルト、なんか言ってやれよ」

「はい、レイ。いいか」

「なによ、ソルト」

「いいか、いくらギルマスでも、臭いだの、暑苦しいだの、うるさいとか言われると傷付くぞ」

「いや、私はそこまで……」

「いいから、俺には分かる。分かるから、黙って聞いてくれ」

「でも、ソルト。本当に私は……」

「いや、そうじゃないハズだ。でも、こんなギルマスでも人の親だ。出来れば許してやって欲しい。なんなら、後でギルマスに匂い消しの袋を送ろうか。よければ一緒に選ぼう」

「あの、ソルト?」

「なんだ? まだ、ギルマスに言うことでもあるのか?」

「違うよ。あ!」

ギルマスが、ソルトの後ろから右肩を掴み、次第に力をこめていく。


「ギルマス、痛い……んですけど?」

「ふふふ、ソルトよ。俺がお前にどう思われてるのかよ~く分かった。これでもお前達には少しばかり目を掛けていたつもりだったんだがな。そうか、うるさいか。暑苦しいか。匂い消しが必要なほど臭いか」

「ギルマス?」

「ちょっと、話そうか?」

「いや、でも、俺も……用事が……」

「ギルマス、俺からもよく言っとくから、その辺で許してやってくれ」

「ゴルド……そうか、じゃあ頼むぞ」

「ああ、ちゃんと言い聞かせるから。ソルトもあまり、ギルマスを揶揄うような真似は控えるんだな」

「分かりました。なら、お詫びにオーククイーンのお肉とか興味あります?」

ゴルドの仲裁により、ギルマスの拘束から解放されるソルトが、お詫びとしてオーククイーンのお肉を提示する。


「「オーククイーンだと!」」

「オークってあん時の?」

「ねえ、クイーンがいるってことは、もしかして?」

「うん、キングもいたよ」

「ゴルド、どういうことだ? そんな話は聞いてないぞ?」

「あれ? いや、でも俺もソルトからオークのコロニーを潰したとしか聞いてないぞ。だから詳細は知らなかったんだ」

「でも、今確かに『オーククイーンのお肉』と言ったぞ?」

「ああ、言ったな。ソルト、それは今あるのか?」

「うん、今、ニックさんに頼んでる」

「そうか。だが、それは全部買取に回すんじゃないのか?」

「半分だけね。だって、食べてみたいじゃない」

ギルマスとゴルドが、ソルトの発言に呆れる。


「お前、オーククイーンだぞ。それを全部卸せば、お前の欲しがっっていた家も難しくは無くなるだろ。それなのに肉の方を選ぶのか?」

「だって、食べたいでしょ? そんなに美味しくないのなら、後で買い取って貰えばいいし。それにキングも残っているけど、メイジもウォリアーもまだ出してないからね」

「はぁ。分かった。そこまで言うのなら、受け取ろう」

「え?」

「あ?」

「いやいや、なに一人で食べようとしてるの?」

ギルマスがソルトの詫びの品として、オーククイーンの肉を差し出すと言うから、受け取ろうと返事をするとソルトが否定する。


「どうした? 俺にくれるんじゃないのか?」

「違いますけど、そうじゃないんです」

「なんだ? どういうことだ?」

「実はニックさんにもお裾分けというか、オーククイーンのお肉を食べようと約束したんです」

「なら、ニックにもあげればすむ話だろ?」

「もう、分かってないな~このおじさんは……」

ソルトの発言にギルマスが再びキレそうになるのをオーククイーンのお肉の為だとグッと堪える。


「ゴルドよ、こいつはなにも分かってないんじゃないのか?」

「ギルマス、まずはソルトの言い分を聞いてからにしようじゃないか」

「それもそうか。ソルト、続けてくれ」

ソルトがギルマスに話を続けるように促されたので、話を続ける。


「いいですか。俺達もオーククイーンのお肉を食べたい。これは分かりますよね?」

「ああ、だから自分達で好きなように食えばいいじゃないか」

「だから、分かってないと言うんです」

ギルマスがまたソルトの発言にイラッとするが、なんとか抑え込む。


「いいですか? 俺達はまだ宿暮らしなんですよ? どこで、調理すると言うんですか!」

「そんなの宿の調理人に頼めば済む話だろう」

「そうすると、色んな人が匂いに惹かれて来ますよね」

「まあ、そうなるかもな。だが、そんなに気にすることか?」

「その人達が大人しくしていると思いますか?」

「まあ、自分達にも食わせろと言うだろうな」

「でしょ? そうなったら、俺達も味わって食べることが出来ないじゃないですか。そんなことくらい分かるでしょ。いいおじさんなんだから」

ギルマスがソルトの言葉に再々度イラつくが、まだだとグッと堪える。


「なら、どうすればいいんだ?」

「簡単ですよ。ゴルドさんか、ギルマスの家で焼肉パーティをしましょう!」

「「焼肉パーティだ?」」

「それいい!」

「な? レイもそう思うだろ」

「うん、お庭とかでバーベキューグリルと炭火でじっくりだよね」

「そう、うんうん。やっぱり、皆でBBQだよ」


ギルマスとゴルドがようやくソルトが言いたいことを理解する。

「話は分かった。だが、俺のところじゃ家が狭すぎる」

「あ、ゴルド! てめえ!」

「じゃあ、場所はギルマスの家でいいですね。なら、俺はニックさんを呼ぶけど、エリスとレイは誰を呼ぶ?」

「な、なに勝手にゲストを決めてんだ?」

「ゴルドさんはご家族でしょ? エリスは、あのカフェのお姉さんとか? レイは……友達いないね。女将さんとか?」

「……」

「しかし、そんなに呼ぶのかよ」

「いいでしょ。じゃ。ギルマスの方で日程の調整はお願いね。じゃ、行こうか。あ、ゴルドさんもこの後の用事がないなら、少し付き合ってもらえますか?」

「ああ、いいぞ。じゃ、ギルマス。決まったら教えてくれな」

「あ、ああ。分かった」


ソルト達がギルマスの部屋を出た後で、ギルマスが項垂れたまま、呟く。

「カミさんになんて言えばいいんだ……」


ギルドを出たソルト達はショコラとリリスを抱っこしたまま、歩き続ける。

「ソルトよ、そろそろどこに行くのか教えてくれてもいいんじゃないのか?」

「もうすぐだから。ほら、見えてきた」

「あそこは、木工店か」

「どうするの? 椅子とかなら家具屋よね」

「木工店でなにを買うの? そうか、ショコラのゲージとかいるもんね」

「それは、自分達で注文してくれ。おじさん、出来てる?」

「おう、兄ちゃんか。出来てるぞ。ほら」

木工店の店主がソルトが指定した赤、青、黄色、緑に塗装された注文の品を並べる。


「ソルト、これはなんだ?」

「そうね。私もみたことないけど、なにかな?」

「あ! 私、分かっちゃった。でも、いいのかな?」

「流石にレイは分かったみたいだね。多分想像通りだと思うよ」

店主が並べた品に対し、ゴルド、エリスは皆目見当が付かないが、レイだけは形からなんとなく想像が出来たようだ。


「なあ、兄ちゃん。注文通りに作ったつもりだが、俺にもどう使うものか、使い方が分からないんだが教えてもらってもいいか?」

「まあ、そうですよね。作ったのに使い方が分からないのはイヤですよね。じゃ、教えましょう!」

「ああ、頼む」

ソルトがバッグから、いつも遠征に使っているオークの魔石を取り出す。

「はいはい、そこから先は私に任せて!」

「だめ! 絶対に調子に乗るから」

「ブゥ~」


ソルトは黄色いのを選ぶと、足元のボードに設けられた魔石を載せる台座部分にオークの魔石をセットし、ボードに足を乗せる。

「それだけか?」

「準備はね。ここからが肝心だから、よ~く見ててよ」


ソルトが足元のオークの魔石を爪先で軽く踏むと、魔力を少しだけ流す。するとソルトを乗せたボードが浮き上がる。

「「「おお~」」」

ゴルドにエリス、店主が驚くが、レイだけは予想通りねとほくそ笑む。


「だが、浮いただけじゃなにもならんぞ」

「そこは、ほら」

ソルトが台座を前屈みにすると、ソルトを乗せたまま前に進む。

「止まりたい時は、前屈みの姿勢を戻すか、反対の後ろに反らせて。曲がりたい時は、曲がりたい方向に体を傾ける。動かし方はこれだけ。どう、簡単でしょ?」

「うん、楽しそう! ねえ、私も試していいかな?」

「レイは、訓練場に行ってからにしようか」

「え~ソルトだけ、ずるい~」

「ゴルドさんも、エリスも訓練場で練習しましょう」

「ああ、そうだな」

「うまく出来るかしら」

「なあ、兄ちゃん。それに俺も乗ることは出来るか?」

ソルトは一瞬だけ、考えてから店主に告げる。


「やめといた方がいいですね」

「そうか……すまんな」

「あ、いえ。勘違いしないで欲しいんですけど、多分店主だと浮かせられないと思うんです」

「どうしてだ?」

「この魔石は意外と魔力を吸い上げるんですよ。だから、店主さんの魔力で一気に吸われると体がキツいと思うんです。それでも、試しますか?」

「すまん。そういうことなら遠慮する。教えてくれてありがとうな」

「いえ、こちらこそ。いい品を作って頂いてありがとうございます」

「ああ、またなんかあったら言ってくれ」

「じゃあ、はい! はいはい!」

店主がソルトの言葉に納得し、なにかあればと言った途端にレイが挙手してなにか言いたそうに店主にアピールする。


「ん? 嬢ちゃんはなにか注文があるのか?」

「うん、ここ。このハンドル部分にショコラを乗せる台座を付けて欲しいの」

「あら、それなら私もお願いしたいわ。いいですか、店主」

「ああ、それはいいが、どれに付けるんだ?」

「「赤色で!」」

エリスとレイが同じ色を指定する。


「おばさんは年下に譲るもんじゃないの?」

「あら、レイこそ。若過ぎて、この色は似合わないわよ? ほら、その手を離しなさい」

「エリサこそ!」

互いにハンドルを握り、諦めようとはしない。


「ソルト、どうするんだ?」

「じゃ、ゴルドさんが赤で。レイが緑、エリスが青。はい、決まり!」

「「ええ!」」

「文句があるなら、自分で色を指定すればいいでしょ。まあ、その時はゴルドさんとペアになるけどね。ほら、作ってもらうなら早くしないと。じゃあ、ゴルドさん、俺達は先に訓練場に行こうか」

「あ、ああ、そうだな」

「じゃ、ありがとうございました。もし、その二人が面倒を起こしたら、遠慮なく警備隊に突き出して下さいね」

「ああ、分かった」


「じゃ、行きましょうか」

「おう」


その場にエリスとレイを残すと、ゴルドと一緒に訓練場へと向かう。

レイ達が後ろで文句を言うが、オークの魔石は渡していないので、ボードに乗って動かすことも出来ない。


そして、ギルドの訓練場へと着くとゴルドの物となった赤色のボードの台座にオークの魔石をセットする。

「さっき、俺がやったのを覚えてますか」

「ああ、なんとなくな」

「じゃあ、今から一緒にお浚いしましょう。いいですか?」

「ああ、頼む」

ゴルドがソルトと同じようにボードに左足を乗せ、右足をオークの魔石から少しずらした位置に乗せる。


「じゃあ、右足で軽く魔石に触れてください」

「こうか? うわっ」

オークの魔石に軽く魔力が流れたことで、ゴルドを乗せたボードが浮遊する。


「大丈夫ですか?」

「ああ、いつもの感覚だからな。慣れればどうってことない」

「じゃあ、次は進む、止まる、下がるを練習しましょうか」

「ああ、頼む」


「じゃあ、握っているハンドルに体重を掛けるようにして、少しだけ前屈みになりましょう」

「ハンドル?」

「ええ、ゴルドさんが今、握っている棒のことです」

「これだな。で、止まる時は傾きを戻せばいいんだな?」

「はい。それで止まります。もし、急に止まりたい場合は、後ろに倒れるようにして下さい」

「分かった。ちょっとやってみるな」

ソルトの説明で大体理解出来たゴルドが、少しだけ前屈みになるとボードがゆっくりと進みだす。

「なるほど。で、止まる時は前傾を止めればいいと」

ゴルドが前傾を戻すとボードがゆっくりと止まる。

「それで、確か曲がりたい方向に体を倒すんだったな」

ゴルドは少し楽しくなり、ソルトがさっき木工店で教えてくれた曲がり方を思い出しながら、試してみる。


「うん、問題ないな。っていうか、いつもはソルトに任せっきりだったが、自分で動かすとこんなに楽しいものなんだな。今なら、レイが楽しんでいた気持ちも分かる気がする」


「ゴルドさん、楽しんでるな~」

「ソルト、ひどいよ! 置いてくなんて!」

「そうよ、おかげでここまで担いでくることになったじゃないの」

楽しそうにボードを動かすゴルドを見て、ソルトが呟いていると、レイとエリスがやっと訓練場に姿を表す。


「お、来たね。で、台座は付けてもらえたの?」

「そう、これ。ここにショコラを乗せると、ほら、どう?」


ハンドルの前ではなく後ろの部分に座らせる形で台座が組まれて、取り付けられており、そこにレイがショコラをちょこんと座らせる。

「ショコラは問題ない? どこか窮屈だとか、痛いとか?」

『うん、大丈夫!』

「そうか。で、色はまだなんだな」

「うん、いきなりだったしね。台座の塗装は後回しにしたよ。だから、私にも魔石を頂戴!」

「分かったよ、ほら。エリスもはい」

「やりぃ! 行くよ、ショコラ!」

「あ、レイ! 訓練中の人に怪我させないようにしろよ!」

「分かったわよ。任せなさい! 行くわよ、ショコラ!」

レイがソルトの注意もそこそこにボードに魔石をセットしたと思ったら、ものすごい速さで飛び出していく。


「あんなに速いんだ。ちょっと早まったかな」

「ほら、レイは大丈夫なんでしょ。私にも教えてもらえる?」

リリスを台座に乗せて、準備万端のエリスにソルトはゴルドに教えたように手順を一から教えていく。

「こんな感じ?」

エリスを乗せたボードがゆっくりと浮遊すると、エリスはゆっくりとボードを前進させる。

「ふふふ、いいですね。これは癖になりそうです」


ゴルド、レイ、エリスがボードを練習し乗りこなしていた頃には訓練していた連中も手を止め、ゴルド達が乗る物に興味を示す。

その内、訓練場の周りにも野次馬が出始め、段々と騒がしくなる。そうなると、当然騒ぎが気になるギルマスも気になり、見に来ることになり、騒ぎの中心が『探求者』パーティだと気付けば、当然のようにソルトを探す。

ソルトも雰囲気からマズイと思い、そ~っと訓練場をあとに逃げ出そうとしていたが、気付けばギルマスが目の前にいた。


「どこにいくんだソルト」

「えっと……」

「なあ、この騒動の大元は、お前の仲間のあいつらだよな?」

「さあ、そうなんですか」

「ほう、お前はあれが見えないと言うんだな? 見てみろ、レイなんか宙返りとか始めたぞ」

「え?」

ソルトが訓練場に視線を戻すと、はしゃぎながらアクロバティックな乗り方を披露しているレイのボードが目に入る。

「だから、調子に乗るなと言ったのに……」

「まあ、分かったようだな。なら、改めて説明してもらおうか?」

「はい……」

ソルトはそのまま、ギルマスに首根っこを掴まれたまま、足を地面につけることなくギルマスの部屋まで連行されるが、レイ達は気付くことなく、思いっ切り楽しんでいた。


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