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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第二章 遺跡
28/131

拾ったのは面倒ごとの種でした

ちょっとしたひと騒動から、三日が経過し午前中はいつもの様に魔の森へ出かけ討伐という名のコロニー潰しを終えた『探求者』の面々。

「んじゃ、ニックの所で卸した後は自由行動な」

「うん、いいよ」

「分かったわ」

「自由行動か~」


ゴルドの言葉にレイだけが、微妙な反応をするが今は気にせずにニックの元へと向かう。

「おう、兄ちゃん来たか。今日はなんだ?」

「今日は、ホワイトウルフだね。あまり数はないけど毛皮としては使える物が十分採れると思うよ」

「ほう、ということは……」

ニックがレイの方をチラリと見るとレイの鼻が伸びている様に見えた。


「まあ、物を見てからだな。今日も一目で嬢ちゃんのだと分かるんだろ。お? おや、これは……」

いつもの様にニックが指示する場所にホワイトウルフをソルトが並べるが、今日は傷が多め、少なめの選分けがされていないのを見て、ニックが驚きの表情でソルトを見る。


「どう? どれが私が倒したか分かる?」

「まあ、これとこれ、それから……この辺だろうな」

「うっ……正解です」

「ふっ、まあ多少は出来る様になったようじゃが、まだまだじゃな。だが、エリスのと比べてもそう変わらなくはなってきたと思うぞ。で、今日はどうする?」

ニックの言葉にレイは懇願するようにソルトを見上げる。


ソルトもゴルド、エリスと確認するが二人とも無言で頷いたので、ニックにまとめて精算してくれと頼む。

「分かった。じゃあ、これを持っていけ」

ニックが、サラサラと紙に金額と内訳を書くとソルトがそれを受け取る。


「どうなったの?」

「落ち着け! え~と、『ホワイトウルフx34 五十五万セル』だな」

「それって、多いの? 少ないの?」

「ホワイトウルフの肉は硬いからな。そのまま加工場に回して、干し肉だな。じゃから、どうしてもオークに比べると安くなる。その分、毛皮がきれいな状態なら、高く売ることも出来る。まあ、嬢ちゃんのは正直いまいちだが、毛皮だからなうまいこと切傷を隠せれば使えんこともない。その分を考慮してのその査定だ。まあ、ワシからのご褒美も込みじゃな」

「へ~じゃ、これで高いんだ。あれだけ、苦労したのに」

「レイ、ウルフ系は集団だと厄介なんだけど単体だと、オークほどの危険性はないからどうしても安くなるのよ。まあ、私達みたいにコロニーに自分から突っ込むなんて、ことは普通はしないからね」

「そうだよね。私達の場合は、好んで入っていくのがいるからね」

レイとエリスがなにも気にせずにニックと話し込んでいるソルトをジッと見る。


「あ、そうだ。エリスとレイ、ちゃんと従魔の登録を済ませるんだぞ」

「「は~い」」

「さっきから、チョロチョロしていると思ったが、連れて来ちまったか」

「はい。ちゃんと躾けるというから連れて来たんですが、ダメでしょうか」

ニックが、エリスとレイの腕の中で眠るホワイトウルフの子犬に目を向ける。

「まあ、従魔として登録している奴は他にもいるからな。人に対して怪我させない様にだけ、気を付ければ大丈夫じゃろ」

「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます」

「いいって。ただな、そろそろお願いしたいんだが……」

「ニックさんがお願いですか?」

「ほれ、オークキングを倒したと言ってたろ?」

「ああ、はいはい。いいですよ。ここでいいですか?」

「ばか! まだ早い! ホワイトウルフの解体が終わってからじゃ。そうだな、三時過ぎにでも来てもらえれば、ワシの作業も終わっているだろうから、その辺りで頼む」

「分かりました。じゃ、その頃にまた来ますね」

「おう、頼むな」


ニックとオークキングの解体の約束をすると、ギルドの受付へと向かう。

「お願いします」

「はい、あれ? 今日は一枚なんですね。ってことは……レイさん、おめでとうございます!」

「ふふん、まあ私が本気でやれば、こんなもんよ」

「あまり、調子に乗るなよ。また、雑にしたらすぐに戻すからな。お姉さんもそのつもりで、お願いします」

「はい、分かりました。では、いつものように処理しときますね」

背中を反らせ、のけぞり気味になっているレイの鼻が伸びたところをソルトの一言でキレイに折られたレイが分かりやすく落ち込み、受付のお姉さんもそれを見て、少しだけ同情するがソルトの機嫌を損ねることはしたくないので、なにも見てなかったの様に作業を進める。


「お願いします。後、従魔の登録をお願いしたいのですが、いいですか?」

「従魔ですか? 種類はなんでしょう」

「「ホワイトウルフなの!」」

エリスとレイが、それぞれ抱えていた子犬? 子狼? を受付のお姉さんに見せると、お姉さんまで子狼の可愛さに当てられてしまい表情が緩むのが分かる。

「ハッ、すみませんでした。では、こちらに記入して下さい」

「「は~い」」

「うわ、名前だって」

「後、性別と年齢まで……ソルト見て」

「「このバカ!」」

レイの態度にゴルドとエリスがレイの後ろから怒鳴りつける。

「すみません。後でまた登録に来ます」

「そうですか。では、首かどこかに従魔と分かる首輪みたいな物も用意してもらえますか?」

「分かりました」


受付を離れ、食事にする前に宿へと向かう。

「ソルト、レイの説教はお前に任せた。ちゃんと言い聞かせろよ」

「そうですね。分かりました」

「じゃあな」

ゴルドはそのまま食堂へ行く。


子狼を腕に抱えたまま、レイはなぜ怒られたのかが分からないままだったが、エリスに簡単にソルトが使えるスキルをバラす様な真似をするなと言われたことで、理解する。

「それなら、ちゃんと言ってよ」

「最初っから、言ってるわよ! 自分のスキルもそうだけど、人のスキルを勝手に話すなって」

「そうでした。ごめんなさい……」

「今回はギルド内だったから、よかったけどさ。本当に洒落にならないところで言ったら、口が聞けないようにすることも考えるからね」

「エリス、ソルトがあんな怖いこと言ってるんだけど?」

「そうね、そうした方がいいかもね」

「また、味方がいない……私の見方はお前だけだよ。ショコラ」

ソルトとエリスに注意されへこんでしまったレイが子狼に話しかけた名前らしき単語にエリスが反応する。


「ショコラって、名前?」

「うん、そう。いいでしょ!」

「まだ、性別も分からないのに?」

「そうだけど、ダメかな」

「あのな、レイ。一応、依頼に同行させるんだよな」

「うん、そうだよ。それがどうしたの?」

「いや、ならその子狼が危ない! ってなった時に『ショコラ~』って叫ぶのは気が抜けるというか、なんというか」

「そうね。なんだか甘い感じの名前だし。もう少し強い感じの名前がよくない?」


そんな他愛もない話をしながら、宿へ到着すると女将がソルトに話しかける。

「ソルト! 家具屋からの荷物が届いているよ。なんだい、ベッドとかあんなに注文して。もしかして、私への当てつけかい?」

「いえ、女将さん。そんなつもりは全くないですから。それで、その荷物はどこにありますか?」

「ああ、倉庫に置いてるから持っていきな」

「はい、ありがとうございます」

「ちょっと、お待ち!」

ソルトが倉庫へ、エリス達は部屋に向かおうとしていた所に女将から待ったがかかる。


「「「はい?」」」

「その懐にあるのはなんだい? うちは、ペット禁止だよ」

「「え~そんな~」」

「ペットじゃなく、従魔として飼うつもりなんですけど、ダメですか?」

「従魔に? ふ~ん、それなら許してもいいけど、ちゃんと躾けるんだろうね?」

「「はい!」」

「じゃ、なんかあったら、ソルトが責任を取るんだね?」

「え? なんで俺が?」

「二人が飼い主としての責任を取るんなら、その責任者はあんただろ? ま、頑張んな」

「え~」

「「ソルト~」」

「いいから、二人は部屋に戻ってて」

「はい」

「うん」

「なんで、俺が……」

とりあえず気を取り直して、倉庫へと向かうとそこには家具屋から届いた品が乱雑に詰め込まれていた。


「まあ、贅沢は言えないか。置いてもらっただけでもありがたいと思わなきゃね」

ソルトは家具屋から届いた品を次々と無限倉庫に収納していく。


「これで全部だな。じゃ、部屋に戻るか。誰も見てないよね?」

『はい、周囲には誰もいませんよ』

「ありがとうルー、『転移』」

倉庫の荷物を片付けたソルトは、周囲を見渡し念の為にとルーにも確認し、転移で部屋へ戻る。


「まだ戻って来てないみたいだね。じゃ、その前に……」

ブーツを武具とバイス特製の革サンダルに履き替える。


「あら、ソルトいたんだ」

「また、転移使ったの? ホントにスキルの無駄使いよね」

「エリス。そう言うけどさ、使わないとスキルレベルも上がらないでしょ」

「そりゃそうだけど、ズルいよね」

「ズルイと言われてもなぁ」


「ねえ、そんなことよりさ、この子達を早く鑑定してよ」

「そうそう、私のじゃ細かいところまで見えないしね」

「分かったよ。じゃレイの方からな」

「うん、お願い」


「じゃ、『鑑定』」


~~~~~

名前;ショコラ 生後 7日

性別:オス

種族:フェンリル

体力:D

魔力:A

知力:D

筋力:C

俊敏:A

幸運:A

スキル:

風魔法:lv1


状態:空腹

~~~~~


「うわぁ、また面倒ごとの予感……」

「なになに、どうだったの?」

「もう、名前がショコラになってた」

「あちゃ~やっちゃったか。でもいいわ。これから、よろしくね、ショコラ!」

「じゃ、次はエリスね」

「よろしく」


~~~~~

名前;無名 生後 7日

性別:メス

種族:フェンリル

体力:D

魔力:A

知力:C

筋力:D

俊敏:A

幸運:A

スキル:

風魔法:lv1


状態:空腹

~~~~~


「あ~やっぱり……」

「どうしたの?」

「あ、うん。まだ名前が決まってないから、早く決めてあげて。あと、お腹が減ってるみたいだから、ミルク粥か、なにか柔らかい物を用意してあげて」

「え! 大変じゃないの。私、食堂でもらってくる!」

レイがソルトからの鑑定結果を聞く前に食堂へと慌てて向かう。


「あ~もう、これから大事なことを言おうとしてたのに!」

「大事なことって、なに? この子達に関わること?」

「関わるって言うか、そもそも種族が違うから」

「なに? 種族ってホワイトウルフでしょ」

「それがさ……」

「なによ、もったいぶってないで教えなさいよ!」

「フェンリル」

「え? なに? もう一度いい?」

「だから、その子達はフェンリルだって、鑑定結果に出てたの!」

「え~じゃあ、どうするの? 森に返すの? そんなのダメよ、死んじゃうもの! それに、なんであんなところにいたのよ! あんな所にいたら、ホワイトウルフだと思うじゃないの! ハァハァ」

ソルトが教えてくれた鑑定結果に嘘だ、信じられないとエリスは言うが、ある程度落ち着くと、ホワイトウルフとして押し通せるんじゃないかと思い付く。


「そうよ、ホワイトウルフだって、言い張ればいいのよ」

「でも、鑑定を使われたらお終いだよ」

ソルトの発言にエリスがすぐにシュンとなり、ソルトの方を力なく見る。


「そうよね~なんで鑑定スキルなんて物があるんだろう……」

「とりあえず、エリスは首輪がわりの革ベルトを作って。中央にゴブリンの魔石を嵌め込める様にしたのをね」

「なんで、魔石を?」

「それはね、こういうこと」

無限倉庫からゴブリンの魔石を取り出すと、『念話』『偽装』『障壁』を付与する。


「あんたはまた、非常識な。でも『隠蔽』ってのはもしかしてそういうこと?」

「そう! でも、その為にはこの子達が『隠蔽』を使わないとダメだからね。その為の『念話』ね」

「なるほどね。でも、待って! 『念話』は片方だけじゃ使えないわよ?」

「それは大丈夫」

「なんで?」

「今は秘密」

「……」


「お待たせ~貰ってきたよ~」

「(レイには内緒ね)」

「(そうね。分かったわ)」

レイがミルク粥が入った鍋と皿を手に部屋に入ってくる。すると、その匂いに釣られたように鼻をひくつかせながら、子狼達が起き上がり、軽く伸びをするとレイの前まで来て、ちょこんと座る。

「「……ん~」」

その姿に女子二人が悶え死にしそうになる。それを見たソルトが、レイの手から落ちそうな鍋と皿を受け取り、子狼達の前に皿を置くと、その中にミルク粥をおたまで掬っていれる。


二匹の子狼はソルトの挙動を見逃さないようにしっかりと見ている。そして、ソルトがいいよと言うのと同時に皿に顔を突っ込み、ガツガツと周囲に皿の中身を撒き散らしながら、食事を進める。


それほど時間もかけずに皿の中味を食べ尽くした子狼の姉弟は空になった皿を前に「もっと!」とソルトに訴える。

「欲しいの?」

ソルトがそう聞くと、言葉を理解しているようで、子狼達は頷く。

『ソルトさん、全言語理解ですよ』

「あ、そうだった。さっきまで覚えてたのに、俺も可愛さに当てられたか。ま、いっか。可愛いもんね。はい、お代わり。ゆっくり食べな」

ソえすると、今度は少しお腹が膨れて落ち着いたのかゆっくりと食べ始めた。


「エリス、呆けているのはいいけど、頼んだ首輪は?」

「はっ! ごめんなさい。すぐに作るわ。一時間……ううん、三十分で用意するわ」

エリスはベッドルームに戻ると自分の道具を手に戻りテーブルに座り首輪の作成に取り掛かる。

「じゃ、これ魔石ね」

「ありがとう」


これで首輪が出来れば、従魔の登録に行けるねとレイに話そうとしたら、子狼達と一緒にスゥスゥと寝息を立てていた。

「あ~あ、もう床に寝なくてもいいのに」


ソルトも特にすることもなく、手持ち無沙汰になったので子狼の姉の方を抱えるとソファに座り、自分の膝の上に乗せる。

まだ、眠い所を抱えられた子狼は膝の上で軽くあくびをすると、すぐに丸くなり、そのまま眠る。

「やっぱり、寝ちゃったか。なんか俺まで眠くなって来た……」


「ソルト、ソルトってば! 起きてよ!」

「ん、ふぁ~エリス、なに?」

「なにじゃないでしょ。ほら、出来たわよ。どうするの?」

「ああ、出来たんだね。で、名前は決めたの? ちなみにエリス担当の子はメスね」

「女の子なの。じゃ、リリスにする」

「え? リリスって……」

「あ、いいの。もう使わないし。もし、身分がバレてもエリスで通すし。ね、あなたはリリス!」

「あ~『リリス』って、なっちゃったよ。もう、知らないよ」

「いいわよ、別に。で、そうするの?」

「まずは、その首輪を付けて」

「付けるのね。分かったわ。あ、もう、動かないで、じっとしててよ」

「リリス、じっとして」

ソルトがリリスに向かって言うと、リリスがお座りの状態で大人しくなる。

「エリス、今のうちに」

「う、うん。分かった」

エリスが首輪を装着すると、リリスは少しだけ首の違和感を気にするが、ソルトの大丈夫の一言で大人しくなる。

「よし、ならリリス。念話を使ってみて」

リリスがソルトがなに言ってるのかが分からないようで、お座りのまま、首を傾げる。

「うまく伝わらないか。じゃあ『聞こえる?』」

ソルトの念話が突然、頭に響いたことで、リリスが軽いパニックになり、身を伏せると『ガルルル~』と唸り出す。

『リリス、僕だよ。心配しないで』

頭の中に響く声が目の前のソルトと同じだと分かると警戒を解き、お座りの状態に戻る。

『今度はリリスが、俺に向かって同じように話してくれる。別に口を使わなくてもいいから、頭の中で俺に届けと思えばいいから。さ、やってみて』

『……ちゃん、お兄ちゃん、聞こえる?』

「聞こえた! リリス! 聞こえたよ!」

ソルトは思わず、リリスを抱き上げると、そのまま顔より高く掲げ、ぐるぐると回り出す。

『怖い……お兄ちゃん、怖いよ……』

「ああ、ごめんね。嬉しくてつい」

「ソルト、どういうことか話してくれる?」

『誰、このおばちゃん?』

「この人はエリス。リリスの面倒をみてくれる人だよ」

『ふ~ん、エリスおばちゃん。よろしくね』

「おば、おばちゃん? ソルト、なにを教えたの? ……え? もしかして、あなたが?」

『そう、私。エリスおばちゃん』

「ぶっ……」

「エリス、鼻血」

ソルトがハンカチをエリスに差し出す。

「あ、ダメよ。可愛さに誤魔化されるところだったわ。いい? 私はエリス、エリスお姉ちゃんよ。いい? おばちゃんなんて絶対に言わせないからね」

『お兄ちゃん、怖い……』

「ほら、エリス。リリスが怖がっているから、無理強いは良くないよ」

ソルトがエリスからリリスを遠ざける。


「でも、ソルト……」

「それより隠蔽を教えないとでしょ」

『隠蔽?』

「そう、リリスの種族がね、他の人にバレると良くないから、隠す必要があるんだ。分かるかな」

『うん、分かる。リリス、賢いもん! 『隠蔽』を使って、『種族』を隠せばいいんだよね。なににすればいいの?』

「そうだね、ホワイトウルフでお願いします」

『分かりました。お兄ちゃんの頼みだもんね。『隠蔽』! どうかな?』


ソルトがどれどれとリリスに鑑定を掛ける。

~~~~~

名前;リリス 生後 7日

性別:メス

種族:ホワイトウルフ(フェンリル)

体力:D

魔力:A

知力:C

筋力:D

俊敏:A

幸運:A

スキル:

風魔法:lv1

念話:lv1

隠蔽:lv1


状態:良好

~~~~~


「うん、大丈夫。ちゃんと隠されてるね。偉いね、リリス」

『リリス、偉い?』

「ああ、偉いよ。頑張ったね」

『うん、リリス頑張ったよ』


ソルトがリリスを撫でながら誉めていると、レイが目を覚ます。

「もう、うるさいよ。なにを騒いでいるの?」

「レイ! 聞いてよ! 私のことをおばちゃんって言うのよ」

「おばちゃんって、ソルト。ダメじゃない、せめてお姉さんって言わないと。そりゃ三桁オーバーのご長寿さんとは言え、精神年齢は若いままなんだから、お姉さんにしとかないと。ねえ、エリス。あれ? エリス? なんか怒ってない? ねえ、私はちゃんとエリスのことをフォローしたよ。聞いてたでしょ?」

「ええ、ちゃんと、しっかり聞かせてもらったわ。レイが私のことをどう思っているのかをね。で、覚悟はいい?」

「あれ? なんかおかしくない? ソルト、どういうこと?」

「リリス、GO!」

『やめて! エリスお姉ちゃん!』

リリスの声が届いたのか、エリスがソルトに抱かれているリリスの方をパッと見る。

そして、ソルトの手からリリスを奪い取るとリリスに言い聞かせるように話す。


「そうよ、私がエリスお姉ちゃんよ。いい?」

『……分かった。苦しいよ、お姉ちゃん』

「あ、ごめんね。リリス」

エリスの抱擁から解放されたリリスがソルトに向かって、頷いて見せるとソルトも黙って頷く。


「ねえ、私にも分かるように説明してくれない?」

「じゃあ、この首輪を付けてあげて。エリスが作ってくれた物だ」

「へえ、エリスって器用なのね」


レイがソルトから受け取った首輪をショコラに着ける。

「うん、似合ってるよ、ショコラ」

『……』

ショコラもいきなり着けられた首輪に不満そうだ。

そんなショコラにエリスの腕から脱け出たリリスが話しかける。

『あなたは、ショコラって名前になったのよ。私はリリスね』

『お姉ちゃん?』

『そうよ、お姉ちゃんよ。あなたはまだ寝ぼけてるの?』

『お腹いっぱいで、まだ眠いんだけど……』


『ほら、起きてなさい。今から、あなたはスキルを使うのよ。いい?』

『スキル? でも、まだ僕達には使えないって』

『まあね。でも、今から使うのはそんなに難しくはないから、あなたもすぐに出来るわよ』

『いいや。興味ないし』

『おい! 興味ないとか言ってると、お前の好きなお姉ちゃんとも別れることになるぞ!』

ショコラのぐうたらな感じにもう飼い主に似て来たのかとソルトはゲンナリするが、このままじゃ連れて歩くことも出来ないので、思わずショコラを怒鳴りつける。


『ひっ誰? いきなりなんなの?』

『声が聞こえたんでしょ?』

『うん、いきなり頭の中で声が響いた……もしかして、あの男?』

『そうよ、私達を助けてくれた人。お兄ちゃんよ』

『お兄ちゃん?』

『そうよ、まずはお兄ちゃんに向かって、話しかけたいと頭で念じてみて』

『念じる? こうかな? 初めまして、お兄ちゃん』

『お、ちゃんと聞こえたぞ。よろしくな!』


『出来たのね。じゃあ、次は『隠蔽』を使って、私達の種族を隠すのよ』

『隠して、どうするの?』

『ホワイトウルフに変えるの』

『なんで? フェンリルじゃダメなの?』

『そのままだと、悪い人に連れて行かれたり、討伐されたりするから、変えるんだって』

『ふ~ん、分かった。やってみるね。『隠蔽』これで出来たのかな?』

「よし、ちょっと待ってな『鑑定』」

ソルトが鑑定結果を確認するとリリスと同じように種族が隠蔽され、『念話』と『隠蔽』も取得していた。

~~~~~

名前;ショコラ 生後 7日

性別:オス

種族:ホワイトウルフ(フェンリル)

体力:D

魔力:A

知力:D

筋力:C

俊敏:A

幸運:A

スキル:

風魔法:lv1

念話:lv1

隠蔽:lv1


状態:良好

~~~~~


「うん、大丈夫だ。頑張ったな」

レイの腕に抱かれたままのショコラの頭を撫で頑張ったとソルトが褒める。


「ねえ、ソルトなにをしたの?」

「ああ、知りたいか。なら、ショコラに話しかけてみればいい」

「話しかければいいのね? 初めまして、ショコラちゃん」

『……』

「あれ? どうしたの? もしもし? お~い。ソルト、なにもないよ?」

「そりゃ、お前が『ショコラちゃん』って呼ぶからだろ。仮にも男の子にちゃん付けはよくないだろ。なあ、ショコラ」

『うん、ちゃんづけはやめてほしいかな』

「この感じ。ソルトによくやられるのに似ている。もしかして……」

『そう、念話が使えるよ。よろしくね、お姉ちゃん』

「ぶふっ……」

『ああ、もうなにするんだよ~』

「あ、ごめんね。ソルト、ショコラをお願い」

レイが鼻血をショコラにつけないように顔を上に向けたまま、ソルトにショコラを渡すと、エリスから渡されたハンカチで鼻血を抑える。


「あ~萌え死にするところだったわ」

「私もそうだったもの。分かるわ」


「ほら、二人とも従魔の登録用紙に名前と性別をちゃんと書いて、登録に行くぞ」

「「は~い」」


「ルー、新顔のマッピングを頼むな」

『はい、お任せください』

「「出来たわよ!」」


エリスとレイが登録用紙に記入し終わったので、またギルドへと向かう。

「ソルトはその格好でいくの?」

レイが、ソルトの足元の革サンダルを指して言う。


「ああ、いいだろ。もう、今日は討伐には行かないんだし」

「そうだけど、踏まれたら痛いわよ?」

「そう簡単には踏まれることはないだろう。ほら、行くぞ」


ギルドへ到着するとエリス達は登録に向かい、ソルトはニックの待つ解体小屋に向かう。

「こんちは~」

「おう、来たか兄ちゃん。あの子犬はどうした?」

「今、登録に行ってます」

「そうか、じゃがフェンリルの子犬を拾うなんて、やっぱり兄ちゃんはどこか違うの」

「そんな、こ……今なんて?」

「フェンリルの子じゃろ? 生きてるのを見るのは初めてじゃが、見る奴が見れば分かるかもな」

「そうですね。気を付けます。バレたついでにこれを解体してもらっていいですか?」

フェンリルの親の亡骸を無限倉庫から出して、ニックに見せる。


「ふむ、だいぶ傷だらけじゃな」

「はい、もう見つけた時にはコト切れていました。だから、せめてこの毛皮であの子達の毛布を作ってやれないかと思って、亡骸を収納しました」

「そうか。じゃが、これは売り物にはしないんじゃろ?」

「はい、解体費用は出しますのでお願いします」

「まあいい。それくらいはサービスしてやる。後で毛皮を扱う店も紹介してやるから、持っていくといい」

「ありがとうございます」

「それより、ほれ。はよう出さんか」

「あ、そうでしたね。それで、どっちからにします?」

「そうか、クイーンもいたんだな。ん~よし、まずはクイーンだな。出してくれ」

「はい」

オーククイーンを出すとニックが査定を始める。

「なあ、全部売るのか?」

「ああ、そうですね。出来れば肉は半分は引き取りでお願いします」

「そうじゃろう。キングやクイーンの味は格段に違うらしいからな。ワシも一度は……」

「なら、食べましょうよ」

「兄ちゃん、いいのか? 売れば、とんでもないぞ」

「でも、俺達パーティだけじゃ食べ切れないし、かと言って、この街全員に食べさせる量もないですからね」

「分かった! そう言うことなら、殊更丁寧に捌かせてもらう。期待してくれ」

「お願いします」

「あ、午前中の魔石はそこに置いてあるぞ」

「分かりました。ありがとうございます」


ホワイトウルフの魔石を受け取るとギルドの受付へと向かう。

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