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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第一章 それぞれの道
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自重しろと言ったのに……

ギルドの訓練場でゴルドから指導を受けるソルトとレイ。

『剣術スキルを取得しました』

『体術スキルを取得しました』

『投擲スキルを取得しました』

こんな感じにソルトは体を動かす度に、ゴルドからの指示を受ける毎にスキルを取得していく。

そのことに対し、ゴルドは気付くが今はなにも言わずに黙って指導を続ける。

当然、ソルトに掛かりっきりになるためにレイは木剣を握らされたまま、放置である。


「もう、私にどうしろってのよ!」

「とりあえずは素振りだな。サボるなよ!」


ゴルドがソルトの木剣を捌きながら、レイに素振りをするように言う。

「全く、なんで私がこんなことを……」

「あら? もう愚痴?」

「エリス!」

ギルマスとバイスとの話が終わったエリスがレイの指導にと訓練場に来たのだ。


「ねえ? こんなことに意味があるの?」

「あるわよ。当たり前でしょ」

「だって、私はソルトと一緒だし……」

「いつまで?」

「え?」

「いつまでソルトと一緒にいるの? ソルトはそれを了承しているの?」

エリスに言われたレイは答えに詰まる。

一緒の世界から来たんだから、守ってもらうのが当たり前だと思っていたし、レイは女で、向こうは男だから、それが当然だと思っていた。

だけど、ソルトはことある毎にレイから離れようとしていたことも思い出す。ソルトの真意は知られていないが、レイからはそう見えていた。


「やっぱり、ソルトはこんな面倒な女の世話なんか嫌なのかな……」

「ふふふ、守って欲しいのなら、思わず守って欲しくなるような女になればいいじゃない。それか、誰の世話にもならないくらいに強くなるしかないわよ」

「守って欲しくなるような女かぁ~私には無理だな~」

「なら、強くなりましょうか。はい、見てあげるから素振りを続けなさい」

「はい……」


「ちょっと、休憩だ」

「はい」

ゴルドが剣を止め、左手でソルトを制止しながら、休憩を提案する。


「ふぅ~それにしても、最初は素人の打ち込みじゃったのに、いつの間にか俺の技を吸収したように打ち込みが変わったぞ」

「そうですか?」

汗を拭いながらソルトがゴルドの呟きに返す。

『私も頑張りましたよ?』

「そうだな、ありがとうルー」

「なんか言うたか?」

「あ、いえ。独り言で……」

「そうか。じゃ、俺は嬢ちゃんの方を見てやるかな。どれ」

休憩を取るために座っていたゴルドが重たい体を起こし、レイの元へと向かう。


「なんじゃエリス。お前が嬢ちゃんを見てくれてたのか?」

「ええ、ほんの少しね。じゃあ、こっちはお任せするわ。私はソルトの魔法の面倒を見てくるわね」

「ああ、頼む」

「ねえ、まだ素振りを続けるの?」

「そうだな、まだ体がふらついているからな。ビシッと振り下ろせるようになってからが、本当の訓練だな」

「え~」

「え~言わない! さっさとやる!」

「は~い」

「返事は伸ばさない!」

「……はい」


エリスが休憩中のソルトに近付き声をかける。

「もう休憩はいいの?」

「エリスさん」

「エリスでいいわよ。同じパーティメンバーなんだし。ね」

「はい」

「じゃ、座ったままでいいから。使える魔法を教えてくれる?」

「え~と、じゃ」

ソルトが座ったままの状態で、『水球』『火球』『風球』『土球』『光球』『闇球』『雷球』『氷球』と今使える魔法を球にして発動させる。

「なにこれ?」

「なにって、使える魔法ですけど?」

「え~と、これって私が教えることあるの?」

エリスがソルトの扱える魔法の種類にも驚くが、複数の魔法を同時に繰り出しているのにも驚きしかない。


「おい、見ろよアレ」

「なんだ、わぁすげえ、アレって幾つ同時に発動してんだ。え~と、一、二、三……」


そんな周囲の野次馬に気付いたエリスがソルトに魔法を止めるように言う。

「ソルト、もう魔法を止めて! 早く、野次馬が凄いから!」

「野次馬?」

ソルトがエリスに言われ、周りを見回すとゴルドにレイ、それに見知らぬ冒険者が人垣を作っていた。

「うわっ……なんだこれ?」


ゴルドがソルトに近付き、こぼす。

「自重しろと言うたのに……」

「え? でもエリスが、使える魔法を見せろって言うから……」

ソルトとゴルドがエリスを見る。


「わ、私は悪くないわよ。だって、魔法の練習の前にどれくらい使えるかを確認するのは当然でしょ! それなのにあんなに出来るなんて聞いてないわよ!」

「まあ、落ち着けエリス。こいつが色々と世間知らずなのは知っていただろ? なら、いろんなことを想定して、こっちが注意してやらなきゃダメだ。それが指導する側の責任だぞ。まさか、いい歳こいたお前に説教するとはな」

「わ、分かったわよ。私が悪かったわ。これでいい? ほら、野次馬連中を下がらせて! これから魔法の練習をするんだからね、巻き添えになっても知らないよ!」


「「「ひゃ~」」」

エリスの言葉に野次馬が蜘蛛の子を散らすように消える。


「なんで、ゴルドとレイも残っているの?」

「いや、なんとなくだな……」

「そうね、ソルトの魔法には興味もあるし……」

「いいわ。でも、邪魔だけはしないでね」

うんうんと頷くゴルドとレイ。


エリスが十メートルほど離れた位置に的を五つ用意すると、ソルトに的に向かって水球を放つように言う。

「一つずつ? それとも一度に全部?」

「え?」

「ねえ、ゴルド。エリスはなにに驚いているの?」

「なににって、お前……そうか! お前はソルトと一緒にいたんだったな」

「そうだよ。ソルトはいつも魔物を纏めてやっつけていたからね。本当にどんだけチートなんだか」

「そうか……って、エリス! 中止だ! 中止!」

「え? なに、ゴルド?」

「じゃ、いきますね! 『水球』x5」

「あ! やっちまった……」

ゴルドがと止めるも間に合わず、五つの的に五つのゴルフボール大の水球が飛んでいき、的を破壊する。


「おいおい、嘘だろ? 水球だぞ。しかも詠唱なしで、あんな小さい球で的を壊したぞ」

「お前、出来るか?」

「いいや、無理だ。水球にあんな破壊力なんて無理だ」


「ゴルド、どうしよう……」

「まあ、やっちまったもんはしょうがねえ。こうなりゃ大盤振る舞いだ。ソルト、的を作り直して全部の種類を見せてみろ!」

ゴルドが半ばヤケになり、ソルトに指示する。


「は~い、じゃ的から作りますね」

ソルトが地面に手を付け、『錬成』とつぶやくと十メートル先に的が五つ、ポンポンポンと出来上がる。

「ウソ!」

「じゃ、水球は試したから、『火球』『風球』『土球』『氷球』『光球』」

ソルトが呟くと同時にヒュンヒュンヒュンと的に向かって飛んでいき、破壊する。


「ウソ! 属性違いの球を全部的に当てるなんて……ウソよ!」

「エリス、事実は事実だ」

「でも、複数の属性を操るだけでも大変なのよ! こんなに永く生きている私だって三属性が限界なんだから!」

「さすが、チートね」

「なんだ、そのチートってのは?」

「まあ分かりやすい例がそこにいるじゃない」

レイの呟きにゴルドが反応し、確認するがソルトそのもののことだと説明される。


「まあ、意味は分からんが凄いことなんだろうな。よし、ソルト! 球はいいから、今度は『水槍』とか違うのを見せてくれ」

「分かった。いいよ。じゃ、まずは『錬成』っと。次は『水矢(ウォーターアロー)』『水礫(ウォーターバレット)』『水槍(ウォータージャベリン)』『水壁(ウオーターウォール)』」

ソルトが作り直した的に向かって、それぞれ種類の異なる水魔法が放たれる。

結果、水壁以外の魔法が当たった的は破壊され、水壁はその場に存在し続けている。


「ねえ、的を作り直す前にさ、残った的を練習台にしてもいい?」

「いいですよ。どうぞ」

「ありがとう」

残った的に向かいエリスが、なにやら詠唱を始めると火球が的に当たり弾ける。

「え?」

「凄いですね、エリスさん」

火球が的に当たるのを見たソルトが無邪気にエリスを誉めるが、エリスは釈然としない。

「ねえ、なんで壊れないの? アレだけ、特別性のなにかなの?」

エリスがソルトに詰め寄るが、ソルトにはなんのことだか、意味が分からない。


「いいわ、ねえ! 誰か新しい的を用意してくれる?」

「はい! 喜んで!」

エリスのお願いにどこかの居酒屋を思い出させる返事をした若者が、そそくさと新しい的を用意する。

「用意出来ました! エリスさん!」

「ありがとう」

「いえ。では」

若者が的の横から離れるのを確認したエリスが再び詠唱を開始し、火球を的に向かって放つと的が『ボン』と破壊される。

「ね? 見た? 見たでしょ? ああなるのが本当なのよ! なのになんで、ソルトの作った的は壊れないのよ!」

「え? 壊れますよ。ほら」

ソルトが火球ではなく水球を的に放つと、ソルトが作った的が『ボン』と破壊される。

「「「え?」」」

「納得いかないのでしたら、もう一度『錬成』」

新しい的を作成してから、ソルトが『火球』x5を的に向けて放つと『ボボボボボン』と五つとも破壊される。

「「「え?」」」

ゴルド、レイ、エリスがもう一度驚く。


「待て! エリスよ。お前の火球では、ギルドで用意した魔法は破壊出来る。これは間違いないな?」

「ええ、そうよ。あなたも見たでしょ?」

「ああ、でだ。ソルトの作った的は破壊出来ない。これもそうだな?」

「ええ、そうよ。悔しいけどね」

「なるほど。では、エリスよ。込める魔力とか火球の強さというか、それは同じか?」

「そうよ、どちらの的も放った火球は同じものよ」

「そうか、分かった。では、ソルト。まずは的を十個用意してくれ」

「ええ、いいですよ。『錬成』」

「すまんな。じゃ、ちょっと試してくる」

ゴルドはそういうと的の正面に立ち、剣を構える。

「はっ」

気合いの入った掛け声と共に剣を的に向かって振り下ろすが『ガッ』と音がして、的の縁で振り下ろした剣が止められていた。

「俺の剣でもダメか」

「ゴルド、大丈夫?」

「ああ、エリス心配はいらない。それよりこの的だ」

「なんだ、なんの騒ぎだ……って、お前らか。で、なにをやらかしたんだ?」

野次馬をかき分けて、ギルマスがソルト達の前に現れる。


「ゴルド、この状況を説明してくれ」

「ああ、実はな……」

ゴルドの説明にギルマスが眉唾物の話として、信じてもらえない。

「なら、ギルマスよ。試しにその的をなにを使ってもいいから壊してみるがいい。そうすれば俺の話が嘘じゃないって分かるだろう」

「そこまでいうか。なら、お前の剣を借りるぞ」

「ああ、どうせ刃こぼれした剣だ。好きに使って構わない」

「後で泣くなよ」

「いいから、試してみなって」

ゴルドに挑発される形で的に向き合うギルマス。

野次馬達も自然と呼吸をとめ、結末を見逃すまいと身構える。

「ふん!」

ギルマスが的に向かって、勢いよく剣を振り下ろすが、振り抜けない。

「はぁ?」

ギルマス自身も自分の剣の腕を過小評価する訳ではないが、この地位に上り詰めたこともあり多少の自信は持っていた。

だが、今ギルマスの目の前には、ギルマスの剣戟に耐えた的が、そのままの状態で立っている。


「ゴルド、どういうことだ?」

「だから、言ったじゃないか。もう忘れたのか?」

ギルマスがソルトをジッと見る。


「誰か、この的を魔法でも剣でもなんでもいいから、破壊した奴には俺が賞金を出そう!」

ギルマスの発した言葉に一瞬、野次馬も静まるが、言ったことの意味を理解すると途端に騒ぎだす。

「「「「「ウォォォ~」」」」」

「いくらだ? 賞金はいくらだ?」

「賞金は金貨一枚だ!」

「なんだよ、一枚か~」

「だが、全部を破壊すれば金貨十枚だぞ?」

金貨一枚に不平をこぼす野次馬にギルマスがさらに挑発すると、今度はやる気が起きたのか、また騒ぎだす。

「本当だな? ここにいる全員が証人だからな。後でナシってのはごめんだぞ」

「俺はギルマスだぞ。そんなせこい真似はしない!」

「よし! 乗った! なら、賞金は俺が独り占めだ! そこを退いてくれ」


やたらと威勢のいい若者の冒険者がギルマスを退けると的に向かって「せぃ!」と斬りかかるが、的の縁に食い込むこともなく剣の刃が欠けただけだった。

「え! 俺の剣が……」


それを見た他の冒険者が騒ぎ出す。

「あんなの八百長だ!」

「そうだ! アイツの剣で切れないなら、ここにいる連中じゃ無理ってもんだ!」

「そうだ! そうだ!」


野次馬の暴言とも言える内容にギルマスどころかゴルド達も眉を顰める。

「ソルト、一発頼む。あ、分かりやすいヤツでな」

「分かりやすい?」

「ああ、そうだな……やっぱり火球だな」

「分かりました。では『火球』」

ソルトが呟くと的が『ボン』と音を発して弾け飛ぶ。


「え? 嘘? 壊れた?」

「俺が切れなかった的が……」


「これで分かっただろう? 決して壊れない的ではないってことが。じゃソルト。壊した分を補充してくれ」

「はい。『錬成』」


ギルマスが野次馬に向かって、もう一度確認するように言う。

「今すぐに壊せという話ではない。あの的を壊せるようになれば、それはお前達が精進したからという証になるだろう。だから、今のレベルで満足せずにいつかはあの的全てを破壊出来るように、これからも精進して欲しい。では、解散!」


「ギルマス、ソルトがさっき破壊したのも賞金は出るの?」

レイがギルマスに確認するように問いかける。


「冗談はやめてくれ。ソルトに一々的を壊すたびに賞金を出していたら、こっちが破産するわ!」

「なんだ、ケチ!」

「お前、ケチって……ああ、もういい。で、なにを帰ろうとしてんだソルト」

訓練場から出ようとしていたソルトをギルマスが呼び止める。

「え? でも訓練することもないし、帰って風呂に入ろうかと」

「そうか、風呂か。それはいいな」

「でしょう。じゃあ、お疲れ様でした」

「だが、待ってもらおうか。そこ! ゴルドとエリスもだ!」

「俺達は別になにもしでかしてないはずだ。なあ、エリス」

「え、ええそうよ。私達はなにもしてないわよ」

「ふ~ん、そうか。だが、自重させろとアレほど言ったのを忘れたのか?」

ギルマスに問い詰められるゴルドとエリス。


「まあいい。言い訳なら纏めて聞こうじゃないか」

「ねえ、私は?」

「「「お前は素振りだ(よ)!」」」

「え~そんな……」


ギルマスに連行される形で、部屋に通されるゴルド、エリス、それにソルトの三人。

「じゃあ、順を追って話してもらおうか」

ギルマスが自分の椅子に座るとジロリとゴルドを見据えて話ようにという。


「分かった。まずは俺からだな。俺はソルトとレイに木剣を握らせ、まずは素振りから始めた」

「まあ、普通だな。で?」

「その内、ソルトの素振りが様になってきたから、俺を相手に打ち込みをさせた」

「随分と早いな。で?」

「そしたら、打ち込みもだんだんと形になってきたから、俺も少しだけ手を出すようにしたんだ」

「ほう、それはまた珍しいな。で?」

「俺も少しやり過ぎたかなと、思ったんだがな。今度は俺の剣を捌き出して立場が逆転しちまった」

「それはさすがに「ないと言えないだろ」……そうだな」

ギルマスがソルトの表情を確認するが、ソルト本人はなんで自分がここにいるのかを理解していないようでのほほんとしている。


「はぁ……ゴルドの言うことは分かった。じゃ、次にエリスだ。聞けばそもそもの騒ぎの発端はお前だと言うじゃないか?」

ギルマスの言葉にエリスが、ゴルドとソルトを順に見るが、ゴルドは首を横に振り、ソルトに至ってはなんのことか理解していないようだ。


「まあ、いいわ。結果的には私のせいみたいだしね」

「そこは認めるんだな」

「だって、まさか、あんな飄々とした坊やが涼しい顔で一度に複数の魔法を、それもほぼ全属性の魔法を発動するなんて誰にも想像出来ないでしょ! だから、私のは過失よ」

「待て! 今、なんと言った?」

「だから、ほぼ全属性の魔法を一度に発動したのよ! そこでのほほんとしているソルトがね」

「ゴルド、それは本当か?」

「ああ、俺も周りの野次馬が騒ぎ出してから気付いたんだが、本当だ」

「そこまでか……」

「それだけじゃないわよ。忘れたの? あの魔力制御もそうだけど、その子は無詠唱で魔法を使っているのよ」

「「……」」

「え? ゴルドは気付かなかったの?」

「すまん。そもそも俺は詠唱なんて気にしたことなかったし」

ギルマスがゴルドとエリスの話した内容を咀嚼し、自分なりに解釈する。


「なあ、これって俺達だけでなんとか出来る問題か?」

「無理ね。もうほとんどの冒険者がソルトの存在を知っちゃったし。ギルマスのせいでね」

「そうだな。あれがトドメだな」

今度はゴルドとエリスがギルマスをジッと見詰める。


「いや、あれは騒ぎを収めるために仕方なくだな」

「でも、結果的には火に油よね」

「そうだな。その内、どこかのお偉いさんが差し出せと言ってくるかもな」

「お前ら、俺のせいだと言うのか?」

「結果的にはそうよね?」

「まあ、そうだな。だが、そうなると、あの嬢ちゃんもなんとかせんと人質に使われるかもしれんぞ」

「そうよね。弱い所を突いてくるのは当たり前よね。って、ことでギルマスからも護衛をお願いね。もちろん、自費でね」

「な、待て。なんでそうなる?」

「当然でしょ!」

「ああ、騒ぎを大きくしたのはギルマスだ」

「くっ……」


ソルトはのほほんとしていながらも三人の話す内容に耳を傾けていた。

「(そうか、俺じゃなく搦手でレイが狙われるのか。それは嫌だな)」

『では、こうしましょう』

「(どうするの? )」

『まずは、ゴブリンの魔石に魔法を付与します。そうですね、無属性魔法の障壁がいいでしょう。では、無属性魔法スキルを取得しました』

「(じゃ、魔石を取り出して、『障壁』を付与! これでいい? )」

『はい、あとはネックレス……いえ、ここはブレスレットですね』

「(なんで、ネックレスの方がいいんじゃないの? 邪魔にならないし)」

『ダメです! ネックレスなんて絶対にダメです!』

「(分かったよ、ルーがそこまで言うのならブレスレットに加工してもらうよ)」

『はい! それでお願いします』


「楽しそうだな。人の気も知らずに……」

ソルトがルーとの会話を楽しんでいると、ギルマスに睨まれる。

「で、それはなんだ?」

ギルマスが、ソルトの持つ魔石に興味を示す。

「お前のことで、俺達三人が頭を悩ましているってのに、お前は一体なにをしているんだ? まあいい、それを寄越せ」

「あっ」

ギルマスがソルトの持つ魔石を取り上げるとエリスに鑑定を頼む。

「分かったわ。ちょっと待ってね……なにこれ?」

鑑定スキルを使ったエリスが絶句する。

「なんだ?」

「どうした?」

エリスの驚きにギルマスとゴルドが反応する。


「いい? この魔石にね、『障壁スキル』が付与されているわ」

「なんだよ。そんなに驚くことじゃないだろ」

「馬鹿じゃないの?」

「なにがだよ。お前、俺にバカって言えるのか?」

「言えるわよ。これってゴブリンの魔石よ」

「ああ、それっぽいな」

「ああ、もう。だから馬鹿だって言ってるの!」

「なに!」

「まあ、待て。エリス、すまんが俺達に解るように話してくれ」

「はぁ。いい? この子達は昨日、ここへ来た。それは知っているわよね?」

「ああ、そうだ。それが?」

「はぁ。このゴブリンの魔石は昨日倒したゴブリンの魔石って言ってたわよね」

「そうだな」

「はぁ。ここまで言っても分からないなんて……いい? 昨日、狩ったゴブリンの魔石に今は『障壁スキル』が付与されているの! ここまで言えば私がなにを言いたいのか分かるでしょ!」

ゴルドとギルマス、二人とも腕を組んだまま黙り込み考える。

「そうか!」

「ようやく分かってくれたのね」

「どっかで買ったんだな!」

ゴルドの発した言葉にエリスが愕然とする。

「ゴルド、お前は……いいか、エリスが言いたいのはこうだ。ソルトが魔石にスキルを付与した。な、これが正解だろ?」

「ええ、ギルマスの言う通りよ。そうでしょ、ソルト」

「はい……まずかったですか?」

詰問するような調子の三人にソルトがやらかしたと思い、恐る恐る聞き返す。


「まあ、まずくはないが理由を聞いてもいいか?」

「はい、さっき三人が、このままだとレイが狙われると聞いたので、それなら身を守れるものがあった方がいいだろうと」

「そうか、のほほんとしていたように見えて、ちゃんと話は聞いていたんだな」

「はい。あとこれも……」

エリスに向けて、二つの魔石を差し出す。

「なに? どうするの?」

「怒られる前に見せておこうと思って……」

「まさか……はぁ」

ソルトが差し出す魔石を鑑定し、驚愕するエリス。

「エリス、だから分かるように話してくれないか?」

「分かったわ。いい? こっちが『自然治癒力向上』で、こっちが『毒耐性向上』よ」

「つまり、どういうことだ?」

「レイが、この三つの魔石を身に付ければ、即死レベル以外の攻撃ならなんの問題もないってことよ」

「「……なに!」」


三つの魔石を鑑定したエリスの口から思わずこぼれる。

「愛されているのね~」

「そうではないけど、放って置けないというか、俺のせいで巻き込まれるのは違うかなと思って」

「ふふふ、そうね。いいわ、これ預からせてもらうわね」

「えっ!」

「心配しなくてもいいわよ。ちゃんと装飾品に加工してあげるから。で、なにがいい? やっぱりネックレスかな?」

『ダメです!』

「いえ、出来ればブレスレットで……お願いします」

一瞬、お願いしようと思ったソルトだったが、ルーが素早く反対し多野で、最初の予定通りにブレスレットに加工してもらう。

「ネックレスで誤解されるのはイヤかしら?」

「そうですね、そういう関係ではないですし……」

「分かったわ。ちゃんと加工してあげるから。心配しないで」

「お願いします。あ! 代金は?」

「そうね、あとで魔石に付与してもらうってので、どう?」

「エリスがいいなら、それで」

「ふふふ、ありがとう」


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