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巻き込まれたんだけど、お呼びでない?  作者: ももがぶ
第一章 それぞれの道
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訓練を始めたいと思います

ソルト達が部屋で伝説の勇者について話していると、部屋のドアがノックされる。

「「どうぞ」」

ソルト達の返事と同時にエリスがドアを開け、入ってくる。

「入るわよ。ねえ、すぐ食堂に来るようにと言ってたはずだけど? もしかして、お楽しみだった?」

「そ、そんなことはしないわよ! ねえ、ソルト」

「うん、しないね」

ソルトの頭に今朝のことが一瞬過るが『あれは不可抗力だからノーカンだ』と納得する。

「はぁ、なにそれ? 私には興味がないって言うの?」

「うん。そうだね」

「はぁ?」

「ねえ、レイ長くなるなら、後でゆっくりやって。なにもないなら、食堂へ行くわよ」

「はい」

「……はい」

ソルト達はエリスに食堂に来るように言われたことを忘れた訳ではないが、伝説の勇者の話で盛り上がってしまいエリスに言われたことを無視する形になってしまったのは事実だ。


「「すみませんでした」」

食堂のテーブルに着くなり、エリスにソルト達が謝罪の言葉を口にする。

「別にいいのよ。こちらもお楽しみのところをお邪魔したみたいだし」

「だから、それは「レイ、いちいちそうやって反応するから」……だって……」

「エリスさんもお願いしますよ。この年頃はいろいろと難しいんですから」

「あら? それはソルトも同じじゃなくて?」

「俺の場合は、いろいろありましたから」

「そう、じゃ、まあそういうことにしといてあげる。まずは食事にしましょう。ねえ、ミリー」

「はい、エリスさん」

「今日のランチを三つお願いね」

「三つですね。分かりました」

エリスがウェイトレスを呼び止め、今日のランチをまとめて頼む。


「へえ、ランチメニューもあるんだ」

「なに? レイはそんなことが不思議なの。でも、これも勇者のおかげなのよ。お昼なら、頼みやすいセットメニューにしておけば手間が省けるって言ってね。確かそんな感じだったと思うけど」

「なんだか、偏った知識ばかりが普及されているのね。普通なら、マヨネーズとかオセロとかでしょうに」

「ふふふ、伝説の勇者さんは人に説明するのが苦手だったみたいでね。なにかを書き残そうにも私達が使う文字を覚えることもなかったみたいだし」

「そう、それなんですけどね。どこに行けば教えてもらえます?」

「あら、ソルトはこっちの文字を覚えるつもり?」

「ええ、そうしないと依頼書も読めないし、ここのメニューだって読めないですからね」

「それもそうね。レイはどうするの?」

「私は……」

エリスに話を振られ、少し困り顔になりながらソルトを見るレイにエリスが釘を刺す。

「レイ、いつまでもソルトに甘えるのは関心しないわね。ソルトだって、他の子に目移りすることもあるでしょう。それなのにレイがいつもくっついていたら、彼女も出来ないじゃない。まあ、私はコブ付きでも構わないわよ?」

「そんな、私は甘えるつもりは……」

「ないって言える?」

「ぐっ」

「とりあえず、読み書きくらいは出来るようになりなさい。いいわね?」

「分かりました」

「よろしい。じゃ、読み書きは私が教えてあげるわ。そうね、午前中はこの世界のことについていろいろと教えてあげるわ」

「分かりました。よろしくお願いします。エリス先生」

「あら、いいわね。ソルト、もう一度言ってもらえる?」

「エリス先生?」

「ん~いいわ。もう、なんでも教えちゃう! 手取り足取り全て私に、このエリス先生に身を委ねなさい!」

「ちょっと、どうするのよ。こうなったのはソルトのせいなんだから、ちゃんと責任取りなさいよ」

「責任って、どうやって?」

「そんなの私に聞かないでよ! いやらしい……」

「え? なにが?」

「もう、いい!」

混沌(カオス)な状況に一人取り残され、どうしようかと思っていたソルトの元にウェイトレスのミリーがランチを運んできた。

「お待たせしまし……た……エリスさん、大丈夫ですか?」

「あら、ミリーどうしたの?」

「どうしたのって、なんかエリスさんが恍惚とした感じだったので、大丈夫なのかと思ったのですが、なにかありました?」

「ないわ。別になにもないわよ。ランチが来たのね。じゃあ、いただきましょうか」

「「「いただきます」」」

ミリーが怪訝な顔でこちらのテーブルの様子を伺いつつ奥へと戻る。


今日のランチを頬張りながら、会話を続ける三人。

「もう、ソルトが喜ばせるから、ミリーに変に思われちゃったわ」

「別に喜ばせるようなことをした覚えもないんですが?」

「熟熟したお姉さんには、年下の男の子が可愛くてしょうがないのよ。よかったわね、ソルト」

「ちょっと、レイ。その熟熟したってのはなによ。私は見かけだけは二十代前半で通っているんですからね」

「とりあえず、食べながら話す内容ではないですよね」

「それもそうね。ところで、エリスさん。今まで特に気にしてなかったんだけど、このお肉って、もしかしてアレ?」

「そうよ。昨日、ソルトがギルドで卸したアレよ」

「へぇ意外と気にせずに食べられるものね」

レイが『アレ』つまりは『オークの肉』とエリスに教えられても特に忌避することなく食事を続ける。

ソルトは精神耐性スキルのおかげでなんとか食事をすることが出来ているが、アレがコレかと妙な納得をしながらも食事を続ける。


「「「ごちそうさま」」」

「そう、伝説の勇者が残したものには、今の『いただきます』『ごちそうさま』があったわね」

「へ~意外。ここまでの話だと脳筋のワガママなイメージが強かったけど、そういう道徳心みたいなのもあったんだね」

「レイ、言いすぎ。別に『いただきます』とかは普通だろ?」

「そう? 私達の周りには『言ったら負け』って感じの子がいたりしたよ」

「へえ。あ、そうだ。エリスさん、服は買ったんですけど、靴と武具、防具をなんとかしたいんですけどね」

「そうね、じゃあまずは靴だけでも揃えましょうか」

「「お願いします」」


食堂を出るとエリスの案内で靴を買うためにエリスのおすすめの店へと向かう。


「ここよ。そうね、まずはブーツを買うことをお勧めするわ。普通の靴じゃぬかるんだ所とか歩きづらいしね」

「他にも注意するところはありますか?」

「そうね、あとは革の硬さかな」

「なるほど。助かります」

「おいおい、エリスよ。ワシの仕事を取り上げないでもらえるかい」

「あら、バイスさん。いたの?」

「いたもなにもずっと、あそこの椅子に座っていたぞ。ん? 坊主、そのブーツの革は硬すぎる。初心者にはもっと柔らかいのがいいじゃろ。そうだな、この辺りか。ほれ、試してみろ」

「ありがとうございます」

靴屋の店主であるバイスお薦めのブーツを手に取ると履いていた革靴を脱ぎ、ブーツを手に取り足を入れる。

「へ~ブーツなんて初めて履いたけど、結構いいもんだな。革も柔らかいからそれほど締め付けも気にならないし、足首も固定されないでいいな。うん、これにしよう」

「気に入ったか坊主」

「はい、いいですね。これ、これに決めました」

「そうかい、じゃあちょっと手直ししてやろう。ほれ、そこに座って、こっちに足を載せな」

「はい」

バイスの指示通りにソルトが椅子に座り、バイスの前に用意された台に足を載せる。

「ここはきつくないか?」

「はい、そこは大丈夫ですけど、少し人差し指の先になにか当たる感じがあります」

「ふむ、そうか。じゃあ、ちょっと脱いでくれ」

バイスにブーツを渡すと椅子に座ったままで店内の棚を見渡す。

「バイスさん、サンダルとかあります?」

「サンダル? なんだそりゃ?」

「なんて説明すればいいのかな、えっと靴底に足の甲を固定する紐を通しただけの簡易的な履き物なんですけどね」

「よく分からんな」

ソルトもどう説明したらいいかと悩むが、そうだと言ってバイスに背を向けると無限倉庫からペンとメモ帳を取り出してメモ帳にサンダルの説明図を書くと無限倉庫にメモ帳とペンを収納し、バイスの方を向く。

「これで分かりますか?」

「どれ?」

バイスがソルトからメモ紙を受け取ると、ふむふむと頷く。

「なるほどの、坊主がさっき言っていたことがよく分かるな。坊主はこれが欲しいのか?」

「ええ、宿に戻ったら、ブーツを履いている必要はないですし、これなら楽ですよね」

「そうじゃな、よし、すぐに作ってやろう。部屋の中だけなら靴底はそこまで丈夫じゃなくてもええんじゃろ?」

「ええ、ペラペラでも構いません」

「分かった。このブーツはこれでいいじゃろ。ほれ、少し歩いて馴染ませろ」

「はい、ありがとうございます。お代は?」

「まあ、待て。それほど高くはないからそんなに慌てなくてもええって。それより馴染ませて他に気になるところがないかを確認せえ」

「分かりました」

そういうとバイスは店の奥の工房らしき場所へと向かう。

「あれ? 私のブーツは?」

「レイもソルト同じ革のブーツにすればいいでしょ。多分、これですね」

「なんか、ソルトと私で扱いが違うんですけど?」

「それはバイスに聞かないと分からないわ」

ソルトはそんな二人の様子に耳を傾けながらも履いていた革靴を無限倉庫に収納し『リペア』を唱えておく。


「出来たぞ」

バイスが手にサンダルらしき物を手に持って、店の方へと戻ってきた。

「履いてみろ」

「はい」

ソルトがバイス製のサンダルに足を通し履き心地を確かめる。

「ちょっと、俺の足の甲を締めるには余裕がありすぎますね。この部分をベルトに出来ませんか?」

「ベルトか。そうなると今は部品が足らないな」

「でも、ベルトにすればいろんな足のサイズの人に簡単に合わせられますから、サイズ違いをそんなに用意する必要もないと思いますよ」

「それもそうだな。で、なんでそんなことまでワシに助言するんじゃ?」

「だって、売るつもりでしょ。なら、汎用性があった方がいいと思って」

「ふむ、そうか。汎用性か……」

バイスがソルトの話を聞いて黙り込む。

「ねえ、おじいさん。私のブーツの調整は? ねえってば!」

「なんじゃ、うるさい嬢ちゃんじゃの」

「うるさいって……いいから、見てよ」

「分かった分かった、見てやるから。そこに座れ」

バイスの指示通りにレイが椅子に座りバイスの前の台に足を載せる。

「どこか痛いところはあるか?」

「そうね、特にないわね」

「なら、踵部分が余ったりとか、つま先に余裕があるとかはどうじゃ?」

「う~ん、それも別にないかも」

「なら、特になにもないな。嬢ちゃんも少し歩いて馴染ませてみな」

「分かりました!」

「なんじゃ、乱暴じゃな」

ソルトは店内をうろつきながら、ある商品を探していたが、やはりどこの棚にもなかった。

「ソルトはなにを探しているの?」

「ああ、スニーカーとか運動靴っぽいのをね」

「そう、やっぱりずっと革靴だと疲れるものね」

「そういうこと」

「でも、ゴムとかなさそうだし無理なんじゃない」

「それもそうか。先にそっちがないと欲しい物は手に入らないみたいだな」

「ゴムならあるぞ」

「「え?」」

バイスの言葉にソルト達が驚く。

「お前らのパンツが落ちないようにゴム紐を使っているじゃろ?」

「「あ!」」

「なんじゃ今気付いたのか」

ソルトもレイも下着を購入した時に普通に伸びるのを確認してたが、あまりにも当たり前すぎて気付かなかったみたいだ。

「じゃあ、硬いゴムもあったりとか?」

「なんじゃそれは? ワシが知っているゴムは、そのゴム紐だけじゃな。だが、坊主。お前は他にも色々知っていそうじゃな」

「ぐっ」

バイスの鋭い質問にソルトの息が一瞬詰まる。

「バイス、それ以上はギルマスのいる場所で話しましょうか?」

「なんじゃ、ギルマスってのは?」

「ギルドマスター、略してギルマスよ。いいでしょ?」

レイがバイスの質問に誇らしげに答える。


「それで、なんでそのギルマスが関わってくるんじゃ?」

「その辺りの説明も含めて、お話ししたいと思います」

「分かった。じゃあ、行こう」

「あ、その前にお代は?」

「そうじゃな、坊主はサンダルのこともあるから、今回は要らん。嬢ちゃんは……」

「ちょっと待ってよ。私も色々と知っているんだからね。だから、私のもタダにしてよ」

「それは無理だ。まだ、嬢ちゃんの有用性は分からんしな。まあ、いい話が聞けたら、その時は考えよう。って、ことで銀貨十枚にしとこうか」

「……」

「どうした?」

「レイ、まさか? でも、エリスさんが見張っていたんじゃ……」

「私が気付いた時には払いが終わっていました」

「え~エリスさんがついていながら、それはないでしょ」

「「ごめんなさい」」

ソルトが無限倉庫から銀貨十枚を出すとバイスさんに渡し、メモ帳に『五月二四日火曜日 レイ 銀貨十枚』と記入する。


「なんかよう分からんが、ソルトは苦労するな」

「やっぱり、そう思います?」

「ああ、この先もまだまだ続きそうじゃな」

「はぁ」


「じゃあ、このままギルドに行ってゴルドから訓練を受けてもらうわ。その間にバイスは私とギルマスで話をしましょう」

「分かったわい。いい話を聞けるんじゃろうな」

「それはあなた次第ということで、お楽しみに」


バイスを含めた四人でギルドへと向かうとバイスの登場にギルド内が少し騒つく。

「ふん!」

バイスが鼻息も荒くギルマスに取り次ぐように言うと受付のお姉さんがカウンター奥の部屋へと入っていく。

「やっと来たか。って、バイスと一緒か。なにかあったのか?」

「まあ、あったと言えばあったのよ。だから、バイスにも話を聞いてもらうことにしたの。ゴルドはあの子達の訓練でしょ。ほら、行ってあげて」

「分かったよ。後で、どうなったかは聞かせろよ。いいな!」

「ええ、分かったから、さっさと行きなさい」


「くぅ……絶対だからな!」

ゴルドが後ろ髪を引かれながらもソルト達の所に向かう。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ゴルドに連れられギルド内に併設された訓練場へとやってきたソルトとレイ。

「意外と広いわね」

「ああ、そうだな」

「よし、ソルトは魔法系なんだよな。で、レイはなにを使うんだ?」

「え? なに? 使うってなにを?」

「そこからか……まあいい、まずは二人ともこの木剣を持ってみろ」

「でも、俺は魔法だし」

「私も知らないし」

「いいから、まずは自分の身を守れないことには話にならないだろ。だから、剣くらいは振れるようになっといて損はないから。文句は言わずにさっさと振る!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「で、ここまで来たんだ。話してくれるんだよな」

ギルマスに詰め寄るバイスにギルマスが諭すように言う。

「まあ、待て。まずは確認だ。ここでの話は口外しないと誓えるか? 必要なら契約魔法を使うが」

「ふん、そんなものは必要ない。いいから、聞かせろ。あの坊主はどこから来た?」

「そうか、バイスも気付いたか」

「あのな、あの坊主はワシが気付いてないと思って、好き放題にスキルを使っていたぞ。ちゃんと注意しとかんと、後で痛い目に遭うのはあいつらなんだからな」

「それは本当か、エリスよ」

「ええ、そうね。私が止める隙もなく使っていたわね」

「ワシにはこんな物まで渡してきたぞ」

そう言ってバイスが懐から、ソルトが書いたサンダルを説明したメモ紙をギルマスに見せる。

「これを見せられた時は動揺を隠すのに苦労したわ。なんじゃ、あの世間知らずは!」

「早速やってくれたか。エリスはお目付役じゃなかったのか?」

「そう言われても、私が止める隙はなかったですよ」

「そこなんだよな。結局は本人の節度に任せるしかないんだよな。ったく」

「それで、あの坊主はどこから来たんじゃ?」

「ああ、間違いなく勇者と同じ世界からだな」

「そうか。やっぱりな」

「なんだ、気付いてたのか?」

「あれだけ、知識を目の前で披露されて気付かんほど、まだ耄碌はしとらんつもりじゃ。なら、ワシはこれでお暇するぞ。あの坊主の話していた物を形にせんとな」

「もういいのか?」

「ああ、聞きたいことは聞けた。あとは坊主に確かめるだけじゃ」

「そうか、分かった。くれぐれも口外だけはしないでくれよ」

「ふん、誰に言うとる。余計なお世話じゃ!」

バイスがギルマスとエリスにそう言うと、部屋から出ていく。


「エリスよ。あの坊主に節度を教えるのは大変そうか?」

「そうですね、目の前の興味があることに気が向いてしまうと周りが見えなくなるみたいですね」

「それは困ったな。面倒な連中に目を付けられなきゃいいが……」

「ギルマス、それはフラグというヤツですよ」

「はぁ~ったくよ~伝説の勇者も微妙な文化だけ残していきやがってよ~」


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