伝説の勇者って奴は……
ギルマスの部屋から出ようとしたところで、ソルトがゴルドに待ったをかける。
「なんだ? 忘れ物か?」
「いえ、忘れ物ではなく忘れないようにするために……ですね」
そう言った後にソルトが無限倉庫からメモ帳とペンを取り出すと『レイ 金貨二枚』と書く。
「あ、そう言えば今日って何月何日なんですか?」
「今日か。今日は五月の二四日の火曜日だな」
「へ~意外と普通ですね」
「ああ、これな。前の勇者が覚えられなくてな。なら、元の世界の暦にしてしまえってことで半ば強制的に変えられたんだそうだ」
「え~なにやってんだよ~まあ、それはそれでいいとして、『五月二四日の火曜日 レイ 金貨二枚』と」
「なあ、それはなんなんだ?」
「おい、いつまでも入り口でなにやってんだ?」
「あ、ギルマス。ちょうどいい。早速やらかしたみたいだぞ」
「「ん?」」
ゴルドがソルトが使っていたペンとメモ帳を取り上げると、ソファに座りソルトに説明を求める。
「さあ、ソルト説明してくれ」
「説明って言われても、普通にペンとメモ帳ですよ。それを説明しろと言われても……」
「お前のいた世界ではこれが普通にあるのか?」
ゴルドがペンとメモ帳を手に取り、ソルトに詰め寄る。
「そ、そうですよ。こっちの物価だとそれぞれ百セルってところでしょうか」
「「百セルだと!」」
「そんなに驚くことですか?」
「あのな、お前の常識知らずについては、理由も知っているから特にはなにも言わないが、ここでは紙ってのはとても貴重なんだよ」
「そういえば、トイレにも紙が置いてなかったから、妙な葉っぱで吹きましたよ。もう、これが痛いのなんのって」
「「トイレで紙を使うだと!」」
「ええ、普通にお尻を拭きますけど?」
「高価な紙でケツを拭くって、お前の家は王族かなにかか?」
「いえ、ごく普通の一般サラリーマン家庭で育ちましたけど、前の勇者はなにも説明しなかったんですか?」
「まあ、その辺りは文献とか残っていないが、あまりオツムの出来は良くなかったらしい。いわゆる脳筋ってやつだな」
「ああ、それで暦も強引に変えたと」
「そういうことだ。でだ、話を戻すが紙は貴重な物だ。これだけは覚えておけ」
「そうは言われても……」
「いいか、お前がなにやら書いているそのくらいの大きさでも金貨一枚取られたりするんだぞ」
「え?」
ソルトはメモ帳を見て、金貨一枚という金額に驚く。
そして、普通に無くなったら買えばいいと気楽に考えていたメモ帳に対し、急に『もったいない』と思ってしまう。
『ありますよ』
「(ルーあるって、なにがあるの? )」
『だから、メモ帳を増やす方法ですよ』
「(本当に! ならお願い出来るかな? )」
『分かりました。コピースキルを取得しました』
「(これは? )」
『これで無限倉庫内の物ならコピーすることが出来ます』
「(いいね。じゃ早速。『コピー』と。ん、メモ帳が増えたね。で、コピーした方は)」
ゴルドとギルマスの前でなにやら考えこむ様子を見せたソルトがなにか小声で呟いているとソルトが持つメモ帳が消えたと思ったら、また現れる。
そして、ソルトがそのメモ帳の中身を確認し呟く。
「やっぱり、前に書いた内容がそのまま残っちゃってるよ」
そう、コピースキルでコピーした物だから、コピーした方にも『五月二四日火曜日 レイ 金貨二枚』としっかり書かれていた。
『では、元に戻しましょう。リペアスキルを取得しました』
ソルトはコピーしたメモ帳を無限倉庫に収納すると『リペア』を唱える。
『これで、コピーしたメモ帳は新品当時の姿に戻ったはずです。確認して下さい』
「うん、ありがとう」
ソルトが無限倉庫からメモ帳を取り出し、中身を確認するとルーが言うようにソルトが書いた内容は消え、ページ数も購入時の状態に戻っている。
メモ帳を確認したソルトはまた無限倉庫に収納すると『コピー』を唱える。
すると無限倉庫のリストに『メモ帳x10』と表示されているのを確認すると、ペンも無限倉庫に収納し『リペア』『コピー』と立て続けに唱えると無限倉庫のリストに『ペンx10』と表示された。
「これでスペアは十分だな。じゃ」
無限倉庫からペンとメモ帳を二つずつ取り出しゴルドさんとギルマスにそれぞれをセットにして渡す。
「おい、どういうつもりだ?」
「俺達の話を聞いていたんじゃないのか?」
「聞いてましたよ。でも、便利だから使って下さい。あ、なくなったら言って下さいね」
「だから、そういうことじゃ「よせ、ギルマス」……ゴルド」
ギルマスがソルトに忠告しようとしたが、ゴルドに止められる。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「いいですよ。なんでしょう」
「さっき、この紙の価値を聞いたはずだよな」
「ええ、聞きましたよ」
「そうか。それならわかるだろ。普通の奴にはこのメモ帳ってのが金貨の束に見えるはずだ。それをお前は二つもポンと俺たちに寄越しやがる。いいのか? このメモ帳一つで昨日のお前の稼ぎを越えるんだぞ?」
「でも、これは俺が作った物じゃないですし。元の値段も知ってますからね。だから、今更このメモ帳が金貨百枚を超える価値があると言われてもねぇって感じです」
「「はぁ~」」
ギルマスが諦めて、もらったペンを手に取り、メモ帳に書いてみる。
「ん? ほほう。うん、これはいいな!」
「でしょう。絶対に気に入ると思いましたよ」
「ギルマス……」
「ゴルドも試してみろ。紙もペンも書き味が断然に違うぞ」
「そんなもんかね……んんん……ふむ、ふふふ」
「ゴルドさんも気に入ったようですね」
ギルマスもゴルドもペンとメモ帳の書き心地にすっかり魅了されたようで、三歳児のように思いつくままに絵や文字を書いて楽しんでいる。
ソルトも小さい頃を思い出し、楽しそうな二人の様子を見ながらしばらく待つことにする。
しばらく様子を見ていたが、二人は飽きることなく手を休めることなく描き続ける。
そのうち、ソルトは見るのにも飽きうつらうつらし、いつの間にかソファに座ったまま寝落ちする。
「ソルト、おい、ソルト。起きろ!」
「ん……ああ、ゴルドさん、どうしました?」
ソルトがゴルドに起こされ、目を覚ます。
「なくなった」
「なくなったって、なにがですか?」
「ペンが書けなくなった」
「え?」
「俺は、紙がなくなった」
「は?」
この短時間にゴルドがペンのインク切れ、ギルマスがメモ帳の紙切れと言われ唖然とするソルト。
「一体、なにをすればそんな結果になるんですか? 高価だと俺に言いましたよね?」
「「すまん……」」
「まあ、いいです。じゃ、一度メモ帳とペンを回収しますね」
「「え?」」
「これはくれたんじゃないのか?」
「ギルマス、じゃあ聞きますけど意味のある内容を書いてますか?」
「……いや特には」
「じゃあ、いいですね」
ソルトが二人のペンとメモ帳を回収し無限倉庫に収納すると『リペア』を唱え、無限倉庫からペンとメモ帳を取り出し二人の前に置く。
「今度は、大事に使って下さいね」
「ああ、分かった。すまんな」
「ありがとうな」
「で、俺はパンツとか買いに行きたいんですけど?」
「あ、そうだったな。ゴルド頼むぞ」
「ああ、そうだな。じゃ、行こうか」
「あ、その前に……『五月二四日火曜日 ギルマスとゴルドさんにメモ帳x2、ペンx2』と」
「「お前……」」
「なんですか?」
「いや」
「ああ、いいなんでもない。ただ、お前がモテないってことは分かった」
「え? 分かるんですか? 確かに俺は異性にモテたことはありません。その理由が分かったんですか?」
「ああ、まあな。それは後で教えてやるから、今はお前のパンツが先だ。ほら、行くぞ」
「絶対に教えて下さいよ! 絶対にですよ!」
「ああ、いいから。じゃ、ギルマスまたな」
「ああ、ゴルドも子守り頼むぞ。後、昼からそいつらの訓練な」
「ああ」
パタンと部屋の扉が閉められるのを見て、ギルマスが微笑む。
「また、面白いモノを拾ってきたもんだ。ククク」
ギルドを出て、ソルトはゴルドと一緒に服飾店へと向かう。
「ここだな。こっちが男向けの服と下着を売っている店だ。通りを挟んで向こうが女向けだな。ほれ、まだ嬢ちゃんが中で選んでいるのが見えるだろ」
「あ、本当だ。まだ選んでいるなんて、女性の買い物は世界に関係なく長いんだな」
「まあ、アイツらに付き合うと長くなるから放っておくとして、お前はさっさと服を選んで来い」
「え? 俺一人でですか?」
「なんだ? 俺に選んで欲しいのか?」
「いえ、そういう訳でもないんですが……」
「じゃあ、一人で十分だろ。俺もなにが悲しくて男の服を買いに付き合わなきゃいけないんだ。それにここには……」
「ここには? ってなんですか」
「いや、行けば分かるから、な。ほら、行ってこい。無事に帰ってくるんだぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。俺は服を買いに行くんですよね?」
「まあ、いいから、いいから」
ゴルドに押される形で無理矢理、店に入れられると奥から「いらっしゃ~い」と声がする。
危険察知スキルが働き、踵を返し店を出ようとするが、扉をゴルドに抑えられ出ることが出来ない。
「え、なに、ゴルドさん? なんで、なんで開けてくれないの?」
「あら、随分可愛らしいお客さんね。このお店は初めてかしら?」
そう言って奥から現れたのは、ゴリマッチョでひげ剃り跡が青い女装のお兄さん、いわゆるオネエさんだ。
「は、はい。初めてですけど、もう帰りたいというか……」
「あら、そんなこと言わずに、ね。今日はなにか欲しいものがあったんじゃないの? ん? あなたの着ているそれって、もしかして……」
オネエさんがソルトが着ているスーツに興味を示す。
「な、なにするんですか!」
「あら、ごめんなさいね。あなたの着ている物にちょっと興味があってね。その形っていうか、シルエットが気になってね。ごめんなさいね」
シュンとなるオネエさんを見て、少しオネエさんに慣れたのもあったのかオネエさんに提案をする。
「見せるのは構いませんが、その前に着替えを買いに来たんで、手伝ってもらえますか?」
「あら、そういうことなのね。分かったわ。全て、このキャサリンにお任せあれ!」
「キャサリン……さん?」
「もう、キャサリンって呼んで。うふ」
「は、はあ」
「それで、あなたのお名前は?」
「そ、ソルトって言います。昨日、この街にきたばかりで」
「あら! そうなのね。で、もうなにをするのか決めているの?」
「はい、冒険者登録を済ませました」
「へえ、じゃあ動きやすいのがいいわね。ちょっと待っててね。一通り揃えてくるから」
「はい、お願いします」
「うふふ、お任せあれ!」
キャサリンが奥に消えること数分、腕にたくさんの衣服を抱えて戻ってくる。
「お待たせ。あなたの体型に合う物を持ってきたんだけど、趣味とかよく分からなかったから、一通り持ってきたんだけどね」
「ありがとうございます。それじゃ……」
そういってソルトがキャサリンが揃えた服の中から自分の好みに合う茶や黒、紺などの落ち着いた色系統を選別し、その中から動きやすそうな服を選ぶ。中には肩や襟にフリフリが付いたシャツも用意されていたが、絶対に触らないと心に決める。
「こんなもんかな。そうだ、後は下着類が欲しいんですけど、ありますか?」
「下着なら、用意してあるわよ。こちらへどうぞ、うふふ」
キャサリンの笑顔にソルトは少し悪寒が走るが、パンツの為だと言い聞かせ後をついていく。
「はい、どうぞ。お好きなのを選んでね」
「うわぁ~引くわ。これはない」
「あら? ダメだった?」
「どう見てもダメでしょ。なんでセミビキニのブリーフ一択なんですか! こんなの収まりが悪くて動けないですよ!」
「あら、そう? 私のお気に入りのコレクションなんだけどねぇ残念だわ」
「え、コレクション? ってことは? まさか……」
「そう、全部私の。どう? 一つ記念にあげるわよ?」
「いや、いらないです」
「あら、残念。じゃあ、こちらにどうぞ」
「今度は本当の売り場なんでしょうね?」
「ええ、今度は売り物よ。はい、どうぞ」
ソルトがキャサリンに案内され、通された先にはブリーフにトランクス、ボクサーパンツといろんな種類が並んでいた。
「また、たくさんの種類がありますね」
「そうね、言い伝えだと前の勇者が残してくれた物見たいよ。後、そこのシャツもね」
そう言われ、ソルトが横に目を向けると無地のTシャツが並んでいた。
「いいですね。じゃあ、パンツはこれを十枚にシャツも十枚っと。後、靴下は……あ、これだな。五本指はないか。まあいいや、じゃこれは三足で。後は、あそこの選り分けた服も一緒にお会計いいですか」
「いいわよ。あ、着替えるなら、そこの試着室を使ってね」
「はい」
ソルトは会計済みの服から上下セットとシャツ、パンツ、靴下と一揃いを持って試着室に入る。
スーツを脱ぎ、パンツ一枚までなった状態でまずはパンツを履き替えると、脱いだ衣服を全て無限倉庫に収納する。そしてスーツをコピーすると、オリジナルをリペアで修復する。
「残りも一緒に……『ソルト……さん、後は私に任せてもらってもいいですか?』ルーいいの?」
『ええ、これくらいならお任せ下さい』
「分かった。頼むね」
『はい!』
残りの作業をルーにまかせて、ソルトはくたびれた状態でコピーしたスーツを手に持ち、試着室を出る。
「うん、いいわね。似合っているわ」
「ありがとうございます。これ、約束のスーツです。変なことはしないで、確認したら返して下さいよ。絶対に変なことはしないで下さいね」
「もう、しないわよ。でも、そこまで言うってことはフリなのかしら?」
「なんで、そこでフリって……まさか、それも」
「ええ、なんでも勇者が流行らせたそうよ。『押すなよ押すなよ』だったかしら」
「なにやってんだ……」
キャサリンはソルトが着ていたスーツをマジマジと眺めている。
「やっぱり、私の知らない縫い方だわ。ん~決めた! ねえ、これをさっきの代金と引き換えにもらえないかしら?」
「え? 俺は構いませんが、それだとキャサリンが損をするんじゃないですか?」
「うふふ、それはあなたの匂いがプラスってことよ」
「返して下さい!」
「いいって言ったじゃない!」
スーツを抱え込み離さないキャサリンとソルトで睨み合うが、結局は根負けしたソルトが折れる。
「分かりました。じゃ、サービスで『リペア』」
「ちょっと、なにしたの! 匂いが消えちゃったじゃないの!」
「いえ、少しくたびれていたので、少しだけ修繕を」
「ダメよ! 匂いが消えたら、楽しみが減るじゃない! 戻しなさいよ!」
「無理です。嫌なら、返してもらいますが?」
「……分かったわよ。覚えてらっしゃい!」
キャサリンがスーツを抱えたまま、奥に引っ込む。
「あの捨て台詞はまるで悪役みたいだけど、いいのかな。まあ、気にしたら負けってことで」
放置された会計済みの衣服をまとめて無限倉庫に収納するとキャサリンの店を出る。
「お、終わったか。大丈夫か? なにもされなかったか?」
ゴルドさんが、ソルトの周りをぐるぐると周りなにも変わったところがないかを確認する。特にお尻周りを。
「ゴルドさん、知っていたのならなぜ先に言ってくれないんですか!」
「いや、知ってたらいかないだろ? それに男向けの衣服はここくらいだぞ」
「くっ……そうですね。仕方ないのでしょうけど、先に言ってくれてもいいじゃないですか。最初は捕食されるのかと思いましたよ」
「ははは、違いない。初見はビビるよな。まあ、そこまで言えるってことは、もう慣れたんだろ?」
「ええ、そうですね。お気に入りのコレクションを見せられるほどには」
ソルトの発言にゴルドが後退る。
「お前、見せられたのか? あのコレクションを……」
「って、ことはゴルドさんも?」
「いや、俺は助かった」
ゴルドの発言にソルトが引っかかりを覚える。
「ちょっと助かったって、どういう意味です?」
「そのままの意味だ。お前はキャサリンのお気に入りに登録済みってことだ」
「はぁ? いや、待って下さいよ。なんですかお気に入りに登録済みって!」
「どうもこうもそのままの意味だぞ。よかったな。でも初めてを体験するなら異性がいいと思うぞ」
「それはご丁寧に。って、そうじゃないでしょ。俺だって、いつかは綺麗なお姉さんと……」
「お姉さんとなにをするの?」
「そりゃ、あんなことや色々って、レイ! いつの間に」
ソルトがゴルドと戯れている間にレイとエリスが横に立っていた。
「で、どうしたの?」
冒険者風の格好をしたレイに一瞬見惚れているとエリスがソルトの耳元で囁く。
「レイに見惚れていますか? お陰で私もセクシーな物が買えましたよ。確認します?」
「な、なに言ってるんですか!」
「あら、私は嘘や冗談は得意じゃないのよ」
「なにを戯れあっとるか知らんが、荷物を宿に置いてこい。その後は飯を食ってからギルドで訓練するぞ」
「「え~」」
「え~じゃない! ほれ、早く行け!」
「「は~い」」
ゴルドに言われ、エリスも一緒に宿へ向かう。
「ねえ、こっちにもオネエっているんだね。私、直で見るのは初めてだったから、最初はびっくりしたんだけどね。お店を出る頃には仲良くなれたのよ。そっちは?」
「ああ、俺もキャサリンってオネエさんだったよ」
「へえ、名前の感じからして綺麗な感じね」
「本人に言ってやれば、喜ぶんじゃないかな。すっごいゴリマッチョの青髭だけどね」
「もしかして……」
「そう、俺の入ったお店もオネエだったよ。初めて自分のお尻の貞操が心配になったよ」
「それは……BLっていうのかな?」
「いや、俺のお尻の心配は? 気になるのはそこなの? もしかして、レイは腐の人なの?」
「さ、さあ。それはどうかな?」
「もしかして、あいつらを頭の中で絡ませたりとか?」
「え、な、なに言ってんのかな? 私はそんなことは……」
「で、どっちがネコなの? やっぱり、金髪の方なのかな?」
「バカだな、ソルトは。ネコは昔っから……」
「やっぱり」
「ち、違うからね」
「どっちでもいいけど、腐教活動だけはやめてよね」
「ぐっ……先を越された」
「はい、着きましたよ。レイもソルトも荷物を置いたら、食堂に着て下さいね」
「「は~い」」
ソルトとレイは二人で部屋に入るとレイが不思議そうに聞いてくる。
「そう言えば、ソルトは無限倉庫があるのよね。いいわね、チートスキルがあるって」
「レイはないのか?」
「ないわよ! 鑑定で見てるから知ってるでしょ!」
「そういえば、そうだな。あ! レイは化粧道具とか持ってる?」
「あるわよ。どうするの? まさか、ソルトもオネエに目覚めたとか?」
「違うから、ちょっと貸して」
ソルトの頼みにレイが化粧ポーチを取り出しソルトに渡す。
「本当になにも変なことしないでよ」
「まあ、見てて」
ソルトはそういうと化粧ポーチを無限倉庫に収納すると『リペア』『コピー』を唱え、元の状態に戻した化粧ポーチをレイに渡す。
「なにしたの? 一瞬消えたみたいだけど?」
「まあ、見てみなよ。口紅あたりが一番分かりやすいかもよ」
「口紅? なにしたの?」
レイが化粧ポーチから口紅を取り出すと、使って減っていた部分が元に戻っているのに気付く。
「なに? どういうこと?」
「新品の状態に戻せるようになったみたいなんだ」
「みたいなんだって、あんた! ねえ、もしかしてだけどさ」
レイが急にモジモジしだす。
「なに?」
「中味を見ないで新品に戻すことも出来るの?」
「ああ、そうみたい」
「なら、これをお願い!」
そう言って、布袋に入れられた物を渡される。
ソルトが受け取り無限倉庫に収納し、まずはコピーしてリペアだなと慣れた手順で済ませる。
「はい、どうぞ」
リペア済みの布袋をレイに渡すとレイが中味を確認する。
「あ、直ってる。よれよれだったのが、ほつれが直ってる。ありがとう、ソルト」
「どういたしまして」
やっぱり、下着だったかとコピーしたのは黙っておくことにしたソルトだった。
「それで、ソルトの方はなにか面白いことはあったの?」
「それがさ、前の勇者ってのがさ」
ソルトがキャサリンの店で見たこと聞いたことを話すとレイも店でいろんな地球由来というか、日本由来の物を見せられたらしい。
その中には本物というよりはコスプレ衣装といった感じのセーラー服にナース服、OLが着る事務服に胸元が強調されるファミレスの制服まで揃っていたそうだ。
「伝説の勇者ってさ」
「本当、なんだろうね」
「「はぁ」」
二人揃って嘆息するしかなかった。




