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どうしてここに?

女将の部屋から出たソルトは自分の部屋へと戻る。

もらった鍵をドアの鍵穴に差し込み回すが、すでに鍵は開けられているようだ。

「不用心だな。まあ、なにも取られる物はないけどね。はぁ今日も色々あったけど、やっと寝られる。おやすみ~」

「きゃっ」

ソルトがそう言ってベッドにダイブすると、ベッドの中から可愛らしい声と柔らかい感触が伝わってくる。


「なにするのよ!」

「なんで、お前がここにいるんだ?」

「はあ? なに言ってんの? ここに案内されたからに決まっているでしょ。そっちこそなんのつもりよ!」

「いや、待て! ほら、この鍵。この部屋に案内してもらって、この鍵をもらったんだ! だから、この部屋は俺のだ」

「ああ、そういうこと」

ソルトの話を聞いて、レイが納得する。

「なにがそういうことなんだ?」

「ほら、見てよ」

そう言って、レイが横のベッドを差す。


「だから、ここはツインでしょ。あんたと私でツイン。そういうこと。で、私はこっちのベッドを使うからあんたはそっちね。じゃあ、おやすみ」

「お、おい……」

「もう、眠いから明日にしてよ。ふあぁ~……くぅ……」

ソルトの問いかけも虚しくレイは満腹感からかすぐに夢の中へと旅立っていった。


「おいおい、女子と一緒の部屋に寝るなんて聞いてないぞ。童貞には罰ゲームでしかないよ。ハァ~まあ考えてもしょうがない。とりあえずは寝るか」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

少し時間を戻し王城で、やっと目を覚まし身支度を済ませた泰雅と共に竜也が宰相の待つ部屋へと向かう。


「宰相って、あの禿頭のか?」

「ああ、そうだが。絶対に本人を前にして言うなよ」

「分かってるって。少しは俺を信用しろよ」

「それが出来ないから、こうやって言ってるんだろうが!」

「二人っきりの日本人なんだから仲良くしようぜ。なあ?」

「はぁ~」


メイドが宰相の執務室らしき部屋の扉をノックすると「入れ」と返事があり、メイドが扉を開けると竜也と泰雅の二人を中へ案内する。

「すまんが、そこのソファに座って待っててくれ。おい、お茶を頼む」

「はい」

宰相がメイドにお茶の用意を頼むと机の上の書類にと目を落とす。


「どうぞ」

メイドが二人の前にお茶を置くとすぐに壁際に戻る。


「すまんが、ここに来るように言っているんだが、どうやら遅れているようだ。もう少しだけ待ってほしい」

「それは「すまん遅れた」」

「ん? そちらが召喚された勇者殿か?」

いかにも筋骨隆々という感じの男性が部屋の扉を勢いよく開けて現れる。

竜也達が声を出せずにいると、宰相が怒鳴りつける。

「この馬鹿者が! いい加減、時間を守ることを覚えんか! それと言葉遣いを直せと何度言えば」

「まあまあ、宰相殿。そんなに怒ると、ほら天辺まで赤くなってしまって……ぷっ」

「え~い、笑うな! 元はと言えば、お前が遅れてくるからじゃろうが!」

「そうでしたね。それはすみませんでした。それで俺に用とは?」

「ハァハァ、もういい。お前にはそこにいる勇者殿を鍛えてやってほしい。どうじゃ、頼めるか?」

「そりゃ、やれと言われればやりますが、俺についてこれるんですかね?」

この言葉に泰雅がムッとするが、横に座る竜也に腕を掴まれ落ち着く。


「こいつはこう言っているが、どうじゃ?」

「はい、鍛えてくれるのはありがたいのですが、どのレベルが合格ラインになるのでしょうか?」

「そうじゃな、初心者ダンジョンで三階層までクリア出来たら、訓練としては終了じゃな」

「三階層ですね。分かりました、それで、訓練はいつから?」

「それはじゃ「今から行こうか?」……お前は」

「いえ、いいですよ。じゃ行きましょうか。その前に訓練用の服があれば用意していただきたいのですが」

「分かった。用意させよう」

「「え~そのままでいいじゃん」」

「「ん?」」

「「気が合うな」」

竜也が同時に喋るバカ二人を見て「混ぜるな危険」という文言をなぜか思い出す。


「いいから、着替えるぞ」

「分かったよ」

「訓練場で待ってるぞ」


部屋でメイドに渡された服に着替えると訓練場へと向かう。


すでに訓練場では先ほどの男が待っていた。

「おう、きたな。そういえば、まだ紹介してなかったな。俺は騎士団団長のゴルザだ。よろしくな」

「竜也です」

「泰雅だ」

「竜也に泰雅だな。じゃあ、まずは訓練場の周りを走ってくれ。とりあえず十週な」

「なんだよ、教えてくれるんじゃないのかよ」

「まずは基礎体力だ。ほら、もう一人はちゃんと走ってるぞ」

「マジかよ」

竜也はなにも疑問に思わず素直にランニングを始める。それに気付いた泰雅が慌てて追いつこうと走り出す。


なんとか十周を走り終わり、ゴルザの元に行く。

「終わったのか?」

「ああ、終わったぞ。ハァハァ」

「ちゃんと、走りましたよ。ハァハァ」

「よし、木剣と盾を渡してやれ」

「はい」

竜也と泰雅に木剣と盾が渡されるとゴルザが告げる。

「よし、もう十周だ」

「「え?」」

「なんだ? 聞こえなかったのか? もう十周だ。ほら行け」


竜也と泰雅は文句を言いたいが、今は言う通りにするしかないと渋々走り出す。


~~~~~

長くなりましたが、これで序章は終わりです。

女将と銘打ったはいいもののどこまでに納めればいいのか分からずにずるずるとやって来ましたが、とりあえずは立ち位置がはっきりとするまでを目標としたら、ここまでになりました。

まだまだ、お話は続きますので引き続きご愛読いただければと思います。



第一章 それぞれの道

ギルドで登録しましょう

ソルトが目を覚ますと、柔らかい感触が顔を包み込んでいるのに気がつく。

「どういうことだ?」

その柔らかい物を手で払おうとすると、「あん」と声がする。

「ん?」

「柔らかい……もう一度」

「あん」

ソルトがその柔らかい物の感触を楽しむ度に艶かしい声がする。そこで急に意識が覚醒し、ベッドの上で身を起こすとソルトの横にレイが寝ていて、位置的にはソルトの頭を抱え込むようにしてレイが寝ていたのだ。

「どういうことだ? 確かに俺は自分のベッドに寝ていたはずだ。それにレイは隣のベッドで寝ていたよな?」

昨夜の記憶をソルトが思い起こしてみても、自分に落ち度があるようには思えない。


面倒なことが起きる前にベッドから抜け出そうとしているところで、レイが目を覚ましソルトをじっと見る。

「ふぁ~あ、あれ? ソルト。あんた私のベッドでなにをしているの? まさか?」

「いや、待て。よく見ろ。お前のベッドは向こうだろ? 俺じゃなくて、お前が俺のベッドに入り込んで来たんだ。俺の方こそ、説明して欲しいんだがな。このままじゃ、俺の貞操の危機に関わるからな」

「な……なんであんたの貞操が心配なのよ!」

「いいから、早くベッドからどけてくれ」

「わ、分かったわよ……で? なにしてんの?」

「なにって、着替えるんだが」

「もう、少しは気を使いなさいよ。私が着替えるんだから、あんたは廊下で着替えなさいよ! 全く」

「はいはい、分かりました」

ソルトはここで争ってもなにも得られるものもなく疲れるだけだと判断し、さっさと着替えると部屋の外に出て食堂へと向かう。


受付でエリスに挨拶を済ませ食堂に入るが、やはりメニューの文字が読めない。

ウェイトレスのお姉さんに文字が読めないことを話し、適当に朝食を頼んでもらう。

「では、少々お待ちください」

「おう、どうだ? よく寝られたか?」

ソルトの目の前にゴルドが座り、話しかけてくる。

「ええ、ぐっすりですよ。いい宿を紹介してもらえてよかったです」

「そうかい。まあ、ここ一軒だけだがな」

「あんたが礼を受け取るのかい?」

「女将!」

「女将さん」

いつの間にか女将まで俺のいるテーブルに現れ、座る。


「それより、ゴルド。そこの坊やの宿代と飯代の話だけどね」

「おう、いくらだ?」

「いらないよ。それを言いに来たんだ」

「そうか、いらないのか……いらない? おいおい、どうした? 女将、正気か? あんな……」

「あんな……なんだい? ゴルド。そんなに不思議なら、今からでも請求してもいいんだよ?」

「いや、分かった。いらないっていうのなら、俺にとってはありがたい。だが、なんでか理由を聞いても? まさか、ソルトを売っちまったのか?」

「バカなことを言わないで欲しいね。宿代と飯代はソルトの働きに対する正当な評価さ。なんなら、ゴルドも後で使ってみるといい」

「ソルトが? ソルト、お前はなにをしたんだ?」

「なにって、ただお風呂を作っただけなんですけどね」

「風呂を作った~? お前、昨日の夜にここに着いたばかりだぞ。そんなお前がなんで風呂なんて」

「そこなのさ、ゴルド。エリスと一緒にこの坊やにここでの暮らし方をしばらく教えてやってもらえないかい?」

「教える? 俺が? このソルトに?」

「ああ、そうさ。この子は話せるが読み書きが出来ない。まるで違う世界から来たみたいだよ。それに魔法とかスキルのことについても無自覚に色々とやらかす危険性もあるからね。どうだい、受けてもらえないかい?」

女将の『まるで違う世界から来たみたい』と言う言葉にソルトがドキッとするが、精神耐性スキルのおかげで表面には出ないで済んだ。


「まあ、俺はいいけどよ」

「なんなら、風呂には自由に入れるようにしてやるよ」

「それはいいな。あと、エールもつけてくれ」

「分かった。ただし、一杯だけだよ」

「ああ、いいさ」

「じゃ、ソルト。飯を食い終わったらギルドまで来てくれな。俺はそこで待ってるからよ」

「はい、分かりました」

ゴルドはそういうと、女将にも挨拶すると食堂から出ていく。

「女将さん、エールを一杯だけご馳走するって、意外と策士ですね」

「そうかい? ちゃんとしたサービスだよ。変ないいがかかりはやめておくれよ」

「でも、ゴルドさんが一杯だけで済みますか? 多分、少なくとも二杯は飲むんでしょ?」

「ふふふ、そうさ。確かにソルトの言う通りさ。結局は二杯、三杯と飲んでくれるからね。それにしても連れのお嬢ちゃんはどうしたんだい?」

「さあ? 俺は先に目が覚めたので着替えを済ませて降りて来たんですよ」

「そうかい。まあ、あのお嬢さんからは目を離さないようにするんだね。大変だろうがね」

「はぁ、分かりました」

「あ~ずるい!」

そこへやっと着替えを済ませて来たレイが合流する。

「なにがずるいだ。お前もさっさと飯を済ませろ。早くしないと置いていくからな」

「え~なにそれ。ひどくない?」

「ひどくない! ゆっくりしすぎているお前が悪い。それに女将さんにも挨拶もせずに」

そこで、レイはやっと女将も同席していることに気が付き、挨拶とお礼を済ませる。

「いいよ、いいよ。それよりソルトの言うことをちゃんと聞くんだよ。あんたは私から見てもどうも危なっかしい」

「そこまで言わなくても……」

「いいや、言わせてもらうさ。娼館に立ちたくなければ大人しく年寄りの言うことは聞くもんだよ」

「……はい」

「さ、邪魔しちゃったわね。後でエリスも寄越すからなんでも聞くといい。じゃあ、またね」

「「ありがとうございました」」


レイの食事が終わる頃にエリスがソルト達の元へとやってくる。

「食事は済みましたか?」

「ああ」

「ええ」

「では、ギルドへご案内します。そこで登録を済ませましょう。あと魔石とかお持ちであれば換金も出来ますので。その換金したお金で衣服と武具や防具を揃えましょう」

「へ~ギルドでそこまで出来るんだ」

「ええ、なるべく魔物系の素材はギルドへ卸してもらった方がトラブルになりにくいので、お勧めします」

「そうなんですね。分かりました」

「では、ご案内します」


エリスさんが先導する形で、ギルドまでの道を周りを散策しながら歩いていく。

「昨夜はもう暗かったから分からなかったけど、意外と人が多いんだね」

「そうですね。ここは魔の森が近いので、魔物系の素材の売買と、それに伴う武具や防具などの製品も作られていますので、それを目的に来る人達も多勢来ます」

「なるほど。じゃあ、他の地域の情報も手に入りやすいとか?」

レイがあの二人のことをなんとか知ることが出来ないかと思いエリスに聞いてみる。


「まあ、そうですね。商人次第ですが、そう言った情報も売り買いされているはずです。もしかして、元いた場所の情報を探したのですか?」

「え、ええ、まあ、その、えへへ……」

「後で、そのお店もご案内しましょう。まずはここで冒険者登録をお願いします。ギルドカードを持っていると身分証明などにも使えますので、便利ですよ」

ソルト達はいつの間にかギルド前に辿り着いていた。

「さあ、中に入りますよ」

エリスに案内される形で、中に入ると受付カウンターを目指す。

「ソルト! やっと来たか。お、エリスもご苦労さん」

「ゴルド、あなたはここでなにを」

「なにをって、ソルト達を待っていたんだよ。エリスも女将から聞いているだろ?」

「ああ、そうでしたね。では、ソルトにレイ、登録をお願いします」

「「はい」」

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