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もしかして、この転移は俺のせい?

丘の上に建つ王城を眺める二人の男女。

年の頃はまだ十代後半だろう。


「あの城にアイツらがいるんだな?」

「私が集めた情報ではそうみたいだよ」

「なあ、助けに行く必要があるのか?」

「うん、私は助けたいと思う」

「そうか……」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


俺、佐藤 俊夫(さとう としお) 三十五歳は、今日も一日中営業先を回り疲れた体を公園のベンチに預け、コンビニで買った五百ミリリットルのストロング缶をあおり、仕事の愚痴を吐く。

入社以来、開発畑で勤しんできたのに、先月の異動でいきなり営業に回された。

会社の言い分としては、開発に詳しい人間が営業にも欲しいという話だったので、それなら必要な時に呼んでくれれば客先だろうが一緒に向かうと言ったのだが、それだといちいち説明の度に呼ぶことになり効率が悪いと言いやがる。

しかも営業としての研修があるのかと思えば、俺より年下の社員について回って三日目には「もう一人で出来ますね」とまだなにもわからない状態で放り出され一人で回ることになった。


「冗談じゃねえ! もう、やめちゃおうかな、こんな会社。開発に戻れないのなら未練もないし……」

ストロング缶を一口飲むとゲップが出る。

「うっぷ。ん?」

公園の入り口から近くの高校の制服を着た男女三人組が中に入ってくる。

男子高校生二人が女子高校生を挟んでなにかを言い合っているようだ。


「うわぁ~なんだよ。頼むから巻き込まないでくれよ~」

そう思うのなら、この場から立ち去ればいいものをどうなるのかという好奇心が勝ってしまい、高校生達の様子を見ることにした。


「俺の方が麗子にふさわしいって言ってんだろうが! お前なんか、お呼びじゃねえんだよ!」

「ふふ。麗子さんには僕の方がふさわしいのさ。見てわからないか? 君みたいな粗暴な人には無理かな?」

「なんだと!」

「なんだい?」


俺が座るベンチと高校生までは十メートル以上は離れているのだが、お互いが話している内容はここまでよく聞こえてくる。

どうやら、あの女子高校生を巡って争っているみたいだ。


短髪で金髪にピアスのガッチリとした背の高い少年と、サラッとした髪にメガネを掛けた生徒会長っぽい少年が、一人の女子高校生を取り合っているなんて青春だね~


そんな風に二人の様子を見ていると女子高校生と目が合う。

すると、女子高校生がスタスタと俺の座るベンチに近づいて来たと思うと、そのままベンチに座り話しかけてくる。


「ねえ、おじさんはどっちと付き合えばいいと思う?」

「え?」

そう言ってきた女子高校生は茶髪のセミロングで目鼻立ちの整った綺麗な顔にカラコンをしているのか目が青く、体の発育も大変……


「ねえ、どう思う?」

「え? なんで俺に聞くの?」

「だって、周りにはおじさん以外にいないし」

「え?」

そう言われ、周りを見回すと確かに人がいない。

いや、おかしいだろ? 俺がベンチに座った時は、まだ何人かが散歩したり、向かいのベンチで休んでいたりとか数人はいたはずだ。それに飲み始めてからそんなに時間は経っていないはずなのに、いつの間にかいなくなっている。

どういうことだ?


「ねえ、だからどっち?」

「いや、俺に言われても好きな方と付き合えばとしか言えないけど?」

「なら、私が好きなのはどっちなの?」

「へ? なんでそんなことまで聞くの?」

「だって、私……」


そんなやりとりをしていると言い争っていた男子高校生を中心に魔法陣の様な複雑な紋様が浮かび上がり、全体的に光りだす。

「なんだ、こりゃ?」

「ふむ、なんでしょうね?」


その紋様は俺達が座るベンチの方まで広がってきた。

「うわ、ヤバい!」

咄嗟に触れてはいけないと思い、肩から下げた鞄を抱きかかえるとベンチの上に立つ。

「なんなのこれ?」

横に座っていた女子高校生も立ち上がり、俺の腕を掴んでくる。


すると男子高校生が光に包まれ出したと思ったら、いつの間にかその場から消えていた。


「消えた?」

「いなくなっちゃった?」


二人でそう呟くと魔法陣に触れていなかったはずなのに俺達の体も光に包まれだす。

「うわぁなんだこれ!」

「怖い!」

女子高校生に抱き付かれ、少し得した気分になるが俺達の体も次第に消えていくのが見えた。

「これって、巻き込まれたのかな?」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

男子高校生が目を覚ますと、そこは薄暗い石造りの壁で囲まれた部屋だった。

隣で気持ちよさそうに寝ている金髪の少年を起こす。


「おい! 泰雅。 起きろって!」

「ふぁ~なんだよ、竜也。せっかく麗子が……って、ここはどこだ?」


二人の少年は立ち上がり、部屋の中を確かめると足元には、どこかで見たような複雑な紋様の魔法陣のような図形が描かれている。

「まさか……」

「なんだ? 竜也はなにか思い当たることがあるのか?」

「まさかとは思うけどな。『ステータス』……やっぱり」

竜也と呼ばれた少年が『ステータス』と呟くと彼の視界には日本、いや地球では見ることが出来ない彼自身の情報が半透明の板の表面に羅列されていた。


「そうか、僕は『賢者』として呼ばれたのか」

「おい、竜也。俺にも分かるように説明してくれよ」

もう一人の少年、泰雅と呼ばれた少年が竜也に説明を求める。


「ああ、ごめんよ。泰雅、頭の中で『ステータス』って呟いてみなよ。面白いものが見られるからさ」

「ん? ステータスだと、うわぁ……なんだこれ?」

「見えた? 泰雅のにはなんて書いてあったのか分かる?」

「あ、ああ。『戦士』ってあるな」

「僕が『賢者』で、泰雅が『戦士』か。お話なら、『勇者』と『聖女』か『聖者』がいたと思ったんだけどな」

「なあ、それよりここはどこだよ」

「ここは地球じゃないどこかだね」

「地球じゃない? じゃあ、日本でもないってことか?」

「そうなるね」

「冗談じゃない! 空手の試合も近いのに……」

「僕だって用事があるんだけどね。こればっかりはどうしようもないかな」

「どうすんだよ」

「どうしようか?」


そんな時、困惑している二人がいる部屋の扉がゆっくりと開かれる。


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