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旅路のなかのグレイコーデ  作者: 紅葉
第一章 大聖堂の聖女
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第六話 『たる所以』☆

 昔の話だ。

 グレイコーデとシルヴィアは、聖堂街と名の付く前の街を郊外に下っていた。

 その途中にて、ある少女と出会い、彼女が番をしている馬小屋にただで泊まらせてもらえることになった。雨風をしのげて、朝と昼には黒麦のパンと搾りたての牛乳がついてくる正しく優良な馬小屋だったことを覚えている。


「……むにゃ……エビ、ふりゃい……?」

「さっさと起きろ、このシルヴィアが」


 ゆさゆさと揺らす。


「むにぃ……わたしの名前を……形容詞にしないでよ……ばかぁ……」

「ったく」


 この街に来てから二日過ぎた。昨日もシルヴィアに引っ張られて冒険者組合に治癒師を求めて行ったが、相変わらずの収穫ゼロ。

 昨日はシルヴィアも昼過ぎにどこかへ消えて、グレイコーデ一人で強面の冒険者たちに声をかけて回っていた。……正直二度とやりたくない。

 蹴られた尻はまだ痛むし、頬を殴られたことで切れた口の中は、まだ血の味がする。

 靴裏から一枚しか残っていない銅貨を出す。


「今日で一文無し……。そろそろ街から出た方がいいかもしれないな」


 これで安い黒麦パンを買い込んで、次の街に向かう。日雇いの仕事も探さなければならない。

 隣で寝ている馬の鼻息が荒い。ぱたぱたと足音が聞こえて来る。


「おはようごさいます、勇者様っ!」


 馬小屋の扉が開けられて、眩しい少女が飛び込んで来た。馬小屋に泊めてもらっている少女──いわばグレイコーデたちの生命線といってもいい。


「昨日はありがとうございます! 勇者様のお陰で、街で仕事が見つかりましたっ! まだ月雇いの安仕事ですけれど、これでやっと夢に向かって近づけます!」

「確か君の夢は、街に店を持つことだったか? そうか、叶うといいな。俺はただ一緒に頭を下げただけだ」


 昨日、この恩人に対して何か返したいと思ったグレイコーデは少女のために街で仕事を見つけて来たのだ。少女の体格に合う仕事。力仕事でもなく、身体を売る仕事でもない。少女の街に関する知恵を用いた、街の案内役としての仕事だ。

 話し上手の彼女には適任だろう。


「いえいえ、勇者様のおかげですよ! あんなに熱心にわたしの良い所を並べて頭まで下げてくれて、向こうの人だいぶ引いてましたし……」

「……はは」


 これが勇者の力というものだ。若干の権力を振りかざして、頭を下げるときは思いっきり下げる。こうすれば、大体の事は上手くいく。旅をする間に学んだ処世術だ。


 ──そろそろ伝えておくべきかもしれない。


「俺たちは明日この街を立つつもりだ。色々と世話になった」

「えっ……そう、ですか……」


 少女の顔が悲しげにくもる。


「もう路銀も少ないからな。そろそろ魔物でも狩って、教会の使命を果たさないといけない」

「……そうですよね。勇者様は、勇者様なんですから」


 しばらく黙って俯くと、やがてぱっと笑顔を浮かべた。歯が抜けたばかりの幼さに相応しい輝くような笑みを浮かべて、彼女は言う。


「えっへへっ! だったら一つ、未来の街の看板娘のお礼を受け取るつもりはありませんか?」


 そうして少女はごそごそとポケットを探る。取り出したのは一枚の紙切れ。そこには『入湯券 お二人まで』と書かれている。


「最近、街に開いたお風呂屋さんは知っていますか? この券はなんと一人銀貨一枚のところをなんと二人で銅貨一枚にまでまけてくれるんです!」


 少女の興奮具合が分かる説明の仕方だった。具体的には『なんと』が二回同じ文に入っていた。


「破格ですよね? 絶対に行ったほうがいいですって!」


 馬小屋に寝泊まりしていたグレイコーデたちは、確かに小汚い。ここは一つ垢でも落としに行くのが賢明だろう。……正真正銘の無一文にはなるが。


「何だか上手く乗せられた気分だな」


 そう呟くと、少女はあわあわして。


「そ、そんなことないですよ! 決して、『街案内だから街にお金を落とすような人を連れてこい』だなんて、命令されてませんよ!」


 全部少女の口から聞こえている。

 つまりこれは、少女の初仕事というわけか。中々に商魂たくましい。


「それに、シルヴィアさんも昨日こっそりお風呂屋さんに行ってましたから、これでおあいこですよ?」


 シルヴィアを見るグレイコーデの瞳が一瞬で冷え込んだ。


「……おい、シルヴィア」

「なにゅ?」


 藁を口に咥えて寝ぼけ眼のシルヴィアに、汲み置きした水をぶっかけようとすると。


「ふんっ」

「おわっ!?」


 足をかけられて崩れ落ちる。その上から汲み置きした水が降り注ぎ、グレイコーデはびしょ濡れになった。高く舞った木桶がコツンと音を立てて、地を叩く。


「……ぐっ」


 ぶるりと震える。季節はまだ秋の始め。だが、水を被った全身は僅かな風でさえ冷たく感じる。対して、シルヴィアには一切の水がかからず、気持ち良さそうに起き上がり、ぽわぽわとあくびをしている。

 恨みがましく睨むグレイコーデを見つけて、小首を傾げる。


「むー? なに、びしょ濡れでどうしたの?」


 そんなことをたわけるシルヴィアから目を逸らして、少女から割引券を受け取る。


「これはもらっていく。ありがとな」

「は、はい……ゆっくりとしていってくださいね……?」

「あー、それ銭湯のチケット! しかもペア!」


 途端に目を輝かせるシルヴィアに。


「……俺が昨日必死に冒険者組合に行って仲間を探している間、お前は何をしていた? 答えたらこの券を使ってもいいぞ」


 一言一言噛み締めるように、グレイコーデは言ったつもりだった。しかし、歳は十四。しかめた顔も言葉の重みも年相応にしかならない。


「お風呂入ってたーっ! 今日も入れるなんてラッキー! さー、行こ行こっ!」

「てめぇ……」


 ぶちぶちとグレイコーデの心の中で何かが切れる音がした。


「まあまあ、ただお風呂入ってたわけじゃないし、たぶんヒーラー募集も君より上手くいったからっ! ま、取り敢えずお風呂っお風呂〜!」


 何やらグレイコーデの昨日の努力を全否定する言葉が聞こえたような気がするが。


「……はぁ」


 それを追求しては身が持たなそうな気がしたので、ため息一つで済ませておく。

 楽しげに跳ね歩くシルヴィアの後から、グレイコーデはとぼとぼとついて行った。

 背後からの心配そうな少女の見送りが、また辛かった。




 大浴場は二階建ての大きな石造りの建物だった。街で何度か見かけた建物だ。

 開いたばかりだというが、意外と空いている。人が多く訪れるのは、日が沈みきってからだそうだ。グレイコーデとシルヴィアは二人で建物内に入っていく。

 先客がいるようで、一人分の靴があった。かなり高級な革靴だ。男用にも女用にも見えるそれは先客の地位を示しているようだった。


「……なあ、ここ本当に俺たちが来ていいところなのか?」

「へーきよ、へーき。わたしも昨日来てたし、勇者とその付き添いなんだから多少の融通は効かせてくれるでしょ!」


 金品は受付に預けるか水切り袋に入れて持ち歩くか選べるようだった。不幸か幸いか、グレイコーデたちは一文無しだ。粗末な片手剣を受付に預けて、それで終わった。

 男と女は時間交代で入る順番が決まるらしい。今後二時間ほど男の時間だということでシルヴィアが悔しがっているのを尻目に、ガラス戸を引く。

 外套やら内着やら下着やらを籠に入れて、湯浴みの間というところに通じる廊下を通る。

 銅貨一枚払った光景は、グレイコーデが見たことのないものだった。


「うわ……お湯がこんなにたくさん……」


 湯気が真っ白に揺蕩う。その向こうに軽く湯浴み用の桶が数十はある。中でも一際目を引くのは、中央にある大きな石造りの浴槽だった。人が何人も入れそうな広さのそこに、お湯が並々と広がっている。

 お湯は貴重だ。位の高い宿屋でもこれほどまでお湯を使わせてもらえないだろう。

 取り敢えず、先にお湯を使って身体の大まかな垢を流していく。張り出してある浴場の決まり事に書いてあったことだ。


「それにしても、すごいなぁ」


 建物もそうだが、これだけのものを使っても良いのだろうか。やっぱりここは貴族用の大浴場で、勝手に使ったグレイコーデたちは騎士団に捕まるのではないか、などと戦々恐々としていたが。


「ふ、ふぁあああ……!」


 声が浴場に響く。

 身体を拭き終えてお湯に浸かった途端、全ての思考が吹き飛んだ。

 最初は熱いと感じたお湯は、身体全体が浸かる頃には、じんわりとした心地よいものに変わっていた。


「……ふへぇ……気持ちいい……」


 だらんと身体を弛緩させる。


 ──もう何もしたくない。永遠にここにいたい。むしろお湯の中に住みたい。


 そんな勇者にあるまじきことを考えていた矢先だった。


「……ん?」


 水中に揺らめく金色が見えた。それは、髪の毛であり、ゆらゆらと水に合わせて揺れている。髪の毛の下には身体を弛緩させきった人影が。

 その人影と、目が合った。……合ってしまった。


「ご、ゴースト……!?」


 思わず立ち上がる。

 水死体のゴーストなど聞いたこともない。というか、なぜ大浴場にゴーストがいるのか意味が分からない。つまり金髪を生やした人影はゴーストではないということに──


「ひっ」


 人影にがしりと足首を掴まれる。

 その瞬間、理性が限界を迎えた。


「びゃあぁぁああっ!?」


 そのままバシャリと水面が割れて人影が這い出てきた。

 艷やかで傷一つ負ったことのないような玉の肌。身体の曲線は滑らかで、出るところ引くところがしっかりとしている中々な体形──え?

 金髪は後ろの高いところで一つにまとめており、その顔は誰しもが一度は振り返るほどの造形──え?


 ────え、なんで。


「シンメリー・サリエル・アトリーナ……?」

「……にひ」


 両者、生まれたそのままの姿でお互いを見つめ合うこと三秒。

 先に声を上げたのは、グレイコーデだった。


「え、えぇぇぇぇぇぇぇえええ──むぐぅ、ぐごご……!」


 大声で叫ぼうと声を張り上げる寸前に、アトリーナの手がグレイコーデの口を素早く塞いだ。


「しっー、しっー! 落ち着きなさい、落ち着かないと殺すわよぉ?」

「むぐぅ、むぐぅ!」


 しばらくの間、グレイコーデは叫び続けた。


「あちゃあ、私の手べっとべと……」


 グレイコーデのよだれでべとべとになった手を振って、アトリーナはなぜか少し嬉しそうだった。

 浴槽の縁に座り向かい合う。

 流石に生まれたままの姿ではない。布を適所に巻いている。……が、見えそうで見えないというのが妙な色気を発している。

 別の意味で理性が持たない。


「あなたは、シンメリー・サリエル・アトリーナ。教会の神官……ってことで良いですよね」


 堪らえて、話す。


「そうよ。アトリーナって呼ばれたいわね」

「では、アトリーナ……さん」

「敬称はいらないわ。それにその慣れていない敬語も取り外して大丈夫よ」


 神妙な顔で言うアトリーナ。なぜこのような状況になったのか、意味が分からない。


「……アトリーナ」

「なぁに?」

「どうして、あんたがここにいるんだ」

「あら。私がお風呂に入ってちゃだめかしら? 最近開いたってばかりの大浴場。とっても良いわよね」


 白々しく答えるアトリーナに、グレイコーデの我慢は限界を迎えた。


「今は男の時間だぞ! あんたは女だろ、なんでいるんだよ!」

「……──かけてたわよぉ」

「え……?」


 なぜか彼女は吹っ切れたような清々しい顔で。


「【沈黙(カロス)】と【透明化(ウルバノ)】をさっきまではちゃんとかけてたわよぉ。……自分にねぇ」

「まさかお前……!」

「男湯って、本当に最高よねぇ……雄々しい筋肉に汗臭さ……そびえ立つ立派な──」

「止めろ、この変態がぁあああああああッ!」


 何ということだろうか。本当に、なんということだろうか。

 教会の神官が、こんなにも美しい聖女が。


「覗きじゃなくて、堂々と入ってるじゃねぇか! それに魔法も重ねがけで用意周到だしよ! お前本当に何なんだよッ!」

「シンメリー・サリエル・アトリーナよぉ」

「名前を聞いてるんじゃねぇんだよ!」


 絶叫が木霊した。

 聞くところによると、彼女はこの他の数回にも渡り、男湯に侵入を繰り返していたらしい。沈黙魔法と透化魔法を重ねがけして、男湯の浴槽の中で隠れていたらしいのだ。

 そして、浴槽の中より男たちの裸体を──。


「……なんでだ。なんでこんなことをした!」

「趣味よ」

「うっ」


 彼女の一言に圧されて、思わず後ずさる。

 教会の神官がこのような趣味を持っていると皆に知れ渡ったら、教会は潰れるのではないだろうか。


「治癒術を応用したら、なんか水の中で長時間いても大丈夫だったからぁ……だからつい実験として……」

「それで選んだのが男湯の侵入か?」

「そうよぉ。今自分は男湯にいるってことだけでもワクワクするし、ちょっぴり濡れたわねぇ」

「うわぁ……」


 紛れもない変態だった。シンメリー・サリエル・アトリーナは変態だったのだ。

 なまじ美しく有能な彼女だからこそ、一層残念に思えてくる。

 これ以上この女と一緒の空間にいては身の危険を感じるとグレイコーデは立ち上がった。今日この場で聞いたことは教会に一句一言余さずに伝えようと決意する。こんな女を野放しにしていれば、どこの誰が被害に合うか分からない。

 無言で浴場から出て行こうとするグレイコーデの耳に、アトリーナの呟き声が聞こえた。


「……息抜きなのよ」

「え?」


 思わず振り返ると、目の前でアトリーナは身体を隠していた布をはだけさせていた。その裸体は彫像よりも白く輝き、グレイコーデの目を奪う。


「教会の中では、本当に窮屈で、つまらなくて……堪らなかった。求められる事といえば、私の治癒術の腕だけ……誰も私を見ようとしてくれない。見ているのは私の治癒術だけ。誰も私を見てくれない。誰も私と話してくれない。寂しかったのよぉ……」

「お前……」


 頬が上気し、緑色の瞳が潤んでいる。グレイコーデは動けない。


「これでも私、次期枢機卿なのよぉ、笑えるでしょ? 次期枢機卿が、寂しがり屋だなんて」


 いつの間にか、アトリーナはグレイコーデの頬に手を当てていた。


「アトリーナ……」

「だから──」


 くるりと世界が反転する。足を払われたと認識する間もなく、アトリーナがグレイコーデに覆い被さってきた。


「研究資料として男の身体を触らせなさいなぁ! 悪いようにしないから、ほんの少し、ほんの少しだけだからぁ!」

「止めろ、離せ、離せぇえええ!」


 先ほど見せた悲しげな顔はなんだったのか。

 アトリーナは、息を荒らげながら迫る。その姿はさながら草食動物を喰らおうとする肉食動物のようだった。


「いいじゃないのよぉ、減るものでもないしぃ」


 じたばたと振り回す腕をがしりと掴まれる。勇者としての鍛錬を積んでいるはずが、振りほどけない。


「治癒術の研究には治験が必要なのよねぇ。教会内では女の子の身体しかなかったから、男の身体は貴重なの。ほら、力が抜けるでしょう? 治癒術の応用で筋弛緩させたわぁ」

「止めろぉ、止めろぉっ!?」

「今、治癒師を探してるんだってねぇ。私の事を教会に報告しないなら一緒に旅について行ってもいいわよぉ?」

「なんでお前がそれを知ってい──」

「いただきま~すぅ」

「うぁあああああああっ!?」


 アトリーナは迫り、それから逃れようとするグレイコーデ。

 両者の攻防は、数分続いた。

 ガラス戸が引かれる。


「あ」


 シルヴィアの目線は、浴場の床にて全裸で激しく組み合うグレイコーデとアトリーナをしっかりと捉えていた。


「し、シルヴィア……これは……」


 なぜか後ろめたさを感じて言い訳を考えていると。


「──終わったの、アトリーナ?」

「もちろん〜。きっちり合格よぉ。これで、シルヴィアちゃんと一緒に旅に行けるわねぇ」

「…………え?」


 仲良さげに話し始める二人を見て、グレイコーデの思考は固まった。

 アトリーナは小さなべろを出して、片目を閉じる。


「作戦成功ってねぇ、シルヴィアちゃん?」

「別に。グレイコーデを信じてたから当然よ」

「あらあらぁ」


 後に聞いたところによると、シルヴィアはアトリーナと先日に会っていたそうだ。魔法を自分にかけて湯から覗くアトリーナに、シルヴィアはいち早く気づいたという。

 シルヴィアは多重にかけられた魔法を一目で看破した後、その人物は教会の神官アトリーナだということに気づいた。アトリーナが教会に居づらく感じていたことを見抜いて、ヒーラーとしてパーティに誘ったそうだ。

 そこでアトリーナが出した条件は、同じ条件で魔法をグレイコーデが看破出来れば、パーティに加入するとのこと。


「……あれ。俺ってアトリーナの魔法なんて看破したか?」


 看破した記憶のないグレイコーデがアトリーナに聞くと。


「……ふふっ。あなたの身体つきが余りに良かったから、思わず集中が鈍ってしまったわぁ。ふふふ……」


 とのこと。どん引きしていると、改めてアトリーナはグレイコーデ一行に加入すると伝えて来た。

 魔法は看破出来ずとも、身体つきだけで集中力を乱したことは、看破よりもよっぽどアトリーナのお目にかなったようだった。

 全く嬉しくない。

 こうして、グレイコーデは治癒師を手に入れた。

 聖女というより、研究欲と性欲の化け物のような色欲聖女だったが、当初のアトリーナが治癒師として同行してくれればいいな、という願いが思いがけない方法で叶ってしまった。

 昨日、冒険者組合に一日中頭を下げたグレイコーデに代わって、浴場でのんびりとしていたシルヴィアが教会の神官、しかも次期枢機卿を引き抜いたのだ。


「くそぅ……」


 思わず目尻に熱いものに濡れる。

 実際は、この色欲聖女を放っておけば間違いなくこの街にとって害になるので、引き取るようなものだったが、それでもグレイコーデは悔しかった。

 そうして、お風呂屋から馬小屋に帰ったグレイコーデ一行を迎えたのは、お風呂屋を紹介した少女。


「うわ、増えてる……鼻の下、伸ばしてる……」


 少女の呟きは、聞かないことにした。

 鼻の下を伸ばしているのではなく、涙を堪えるために顔をぴくぴくさせているのだ。

 そんなグレイコーデの気持ちをつゆも知らず、酒の代わりにマナポーションを飲み干すアトリーナ。


「ちなみにぃ、私は男の子も女の子もどっちもいけるわよぉ? シルヴィアちゃんもグレイコーデもいらっしゃいなぁ」


 ぽあぽあと緩んだ笑顔から出た言葉は、断固とした決意を持って無視することに決めた。


アトリーナが色欲性女たる所以です。

ちなみにこの聖女、とてつもなく有能です。仲間に入れなければ、今でもグレイコーデは読み書き、基礎算術すらできなかったでしょう。……えろい女教師属性も合わせ持つ(ぼそっ

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