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旅路のなかのグレイコーデ  作者: 紅葉
第二章 親子の片割れ
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第八話 『勇者に相応しい信念を』

 魔族の力で振るわれる拳が唸りをあげる。


「ぐっ……!」


 グレイコーデは拳を肘で逸し、足払いをかける。不自然なほどにあっさりと倒れ込んだルドヴェルに、グレイコーデはのしかかり、首を両腕で固定した。

 肩を怒らせ、藻掻く腕は風を切り、グレイコーデを傷つけていく。だが、その両腕を離さない。

 ユーリとレイツェルはそんな二人をただ見つめていた。


「早く逃げろ、街の外へ!」

「勇者様は!」

「……俺は、ルドヴェルを止める。ユーリはレイツェルを連れて逃げろ!」


 魔族の角が完全に生え揃う。鈍く光る鋭い角に呼応するように筋肉が膨張し、グレイコーデは弾き飛ばされた。


「ユーリ! これは命令だっ!」

「っ、」


 ユーリはレイツェルの手を掴んで走り出そうとするが、動かない。レイツェルの足がまるで糊づけされたように動かない。


「ルドヴェル……」


 レイツェルの視線は、目の前でグレイコーデに殴りかかるルドヴェルに向けられていた。

 異様なほどの速さで迫ったルドヴェルは、拳を振り上げて腹に沈める。


「ぐ、ふぅっ」


 初めてまともに攻撃を受けたグレイコーデが苦悶の声を上げる。そのまま何度も何度も腹に腰に胸に拳が叩き込まれ、その度にグレイコーデの身体が跳ね回る。

 おおよそ過去に勇者と呼ばれた者のざまではなかった。


【戦いを禁ずる】──呪詛によりグレイコーデは縛られている。


 遠心力を乗せた回し蹴り。その踵がグレイコーデの脇腹を深々と抉った。


「勇者様……っ!」


 ユーリの悲鳴が耳に届くと同時に衝撃。壁に叩きつけられる。

 頭が痛い。身体が悲鳴を上げている。視界が揺れて、ルドヴェルが二重三重にブレて見える。


「……っ、は……!」


 治癒も受けられず、今にも朽ち果てそうなこの身体。身体を魔力で賦活し、攻撃の当たる箇所をずらして急所を逸している。

 だが、それも限界だ。

 手に握られている始祖竜の心筋。

 決断の時だ。


「ユーリ、お前は生きたいか? 不自由なく、自由な身体でこの世界を生きてみたいか……!」


 ユーリに向かって血の吐くような叫びを届ける。


「魔族から人に、戻りたいかと聞いている!」

「それは、」

「戻りたいなら、これを取れっ!」


 グレイコーデが投げたものをユーリは受け取る。


 ──竜の心筋。


 ユーリの角がじくりと痛む。反応している。


「それを使えば、お前は人になれる! 人として生きないならば、それを持って逃げろ! レイツェルを連れて街から離れろ!」

「じゃあ、勇者様はどうなるの!?」

「俺は、ルドヴェルを止めてみせる……!」


 再びの回し蹴り。それを腹で受ける。鈍痛と衝撃に息が詰まるが、脚を止める。

 脚を掴み、太腿に肘鉄を入れて股間を蹴飛ばす。

 今度はルドヴェルが宙を舞って壁に叩きつけられた。


【戦いを禁ずる】


「グ、ガッ……ぁ……っ!」


 心臓を握り潰される灼熱の痛みと呪詛の代償。四肢の神経が比喩ではなく、そのまま焼かれていくのを自覚する。

 がくりと膝をつき、胸に爪を立てる。

 まだ動ける。身体を動かせる。歯を噛み締め、口の中あふれる血を嚥下する。

 立ち上がる。ユーリに、レイツェルにルドヴェルの暴力を受けさせるわけにはいかない。

 父に成りたいと願った男の暴力を、子に与えてはならない。



「ガァアアアアアアアアアアアアッ!」


「ルドヴェルゥッ!」



 そのままグレイコーデはルドヴェルに突っ込み、培養液の入ったガラス筒にぶち当たる。培養液が飛び散り、二人の身体を濡らした。

 そのまま二人は互いの身体を殴り合う。腹を潰し、脚を砕き、顔を嬲り、胸を叩き割る。

 魔族と勇者の激突に、部屋は耐え切れずに崩落を始めた。天井が割れ、大岩が降り注ぐ。

 レイツェルは、ぽつりと呟いた。


「……君が、決めていい。ルドヴィルは、だめかもしれないから……だからせめて、君でも」

「え……そんな、勇者様は……ルドヴェルさんは」


 呆然と訊ねる言葉にレイツェルは顔を背けて、ユーリの手を強く握った。

 ユーリに託す。レイツェルはそう決めたのだ。

 魔族と化したルドヴェルを諦めて、今なお戦うグレイコーデを見捨てて、先に進もうとこの少女は言っている。


「何を、言って」


 雷に打たれたような衝撃がユーリを襲った。

 ユーリがルドヴェルを諦めさせたのだ。自分が魔族というそのためだけに、自分がこの先の人生を生きるためだけに、少女に父であるルドヴェルを諦めさせた。

 ルドヴェルを見捨てれば、グレイコーデも崩落の巻き添えとなり息絶える。生き残るのは若い二人──ユーリとレイツェルだけ。


「……ッ」


 ルドヴィル見るレイツェルの瞳から、涙が流れ落ちる。

 拳と拳が交差し、互いの顔面を強かに殴りつけた。引いてもう一度。

 更にもう一度。

 正面から叩きつけられる。

 ルドヴェルは涙を流しながら魔族の本能に従って拳を振るっている。対して、グレイコーデは微かに笑いながら──ルドヴェルに笑いかけながら拳を振るっていた。

 まるで、安心させようとするかのように。

 転じて、ユーリの信頼を確かめようとするように。


「……わたしは」


 このまま走り、レイツェルと一緒に街から離れる。これが最善の選択だとユーリの賢しい理性は判断する。ルドヴェルとグレイコーデを見捨ててそのまま逃げる。

 最小限の犠牲ですむだろう。


「わたしは……!」


 だが、感情は叫び続ける。

 ルドヴェルを見捨てれば、ユーリは一つ後悔を刻む。やっとの思いで親子になれる二人を引き剥がし、自分のために逃げる。


 ──それは、勇者ではない。


 魔族から人に戻す手段はユーリの手の中にある。ルドヴェルを助けられるかもしれないのだ。どれだけ危険で可能性が限りなく少なくとも、ゼロではない。


【勇者に相応しい信念を】


 ユーリは心筋を見る。黒々としており、まるで植物の枝のようだった。……まるで、槍のような形状をしている。

 魔族に覚醒したルドヴェルの肌は硬質で並の力では歯が立たない。

 じくりと再び角が疼いた。


 ──投げろ、と誰かが囁いた。


 ──こんな物を『私』に近づけるな、とユーリの中にいるもう一人が囁いている。


 心筋の使い方が流れ込んでくる。心臓に突き立てれば、魔族を人に戻せると理解を超えた本能で分かる。

 角を通して、魔力が流れ込んでくる。頭が妙に冴え渡り、世界が広がって見えた。


 冴え渡った世界に一つだけ残された感情が流れ込む。

【人を滅ぼせ】という憎悪に似た義務感。全身に広がり全能感と恍惚をもたらすそれを。


「──わたしは、わたしだっ!」


 ユーリは強引に抑え込む。



「わたしは、わたしで決めたい! わたしは、勇者になるんだ!」



 押し留めていた魔族の力を身体に流す。筋肉が膨張し、視界が憎悪に赤く染まる。

 グレイコーデに習った魔力の操り方で、身体を制御する。猛る魔族の力を魔力で強引に指向性を与えるが、力に耐え切れずに幼いユーリの身体は悲鳴を上げる。

 腱が切れ、筋肉が断裂する。骨が軋み、内臓が血反吐を吐く。


「アトリーナ様っ! わたしに、誰かを助けるための力をっ!」


 アトリーナから習った治癒術で身体を繋ぎ止めながら、更に力を溜める。

 狙うのはルドヴェルの心臓。だが、高速でグレイコーデと殴り合うルドヴェルには当たらない。



「──父さん。もう、大丈夫だから」


「ッ」



 レイツェルの囁きにも似たその声が、ルドヴェルの動きを、魔族の本能を縫い止めた。


「グレイコーデ様ッ!」


 その言葉の意図するところを即座に気づいて、

 ルドヴェルを羽交い締めにした。


「やれ、ユーリ」

「うんっ!」


 瞬間、力を溜めていたユーリの腕が音を越えて振るわれた。

 槍投げのごとく放たれた始祖竜の心筋は、唸りを上げて。



「…………レイツェル────」



 狙い違わずに、ルドヴェルの心臓に突き立った。


 その瞬間、ルドヴェルの身体が激しく痙攣した。

筋肉が萎み、目から血の涙が流れる。獣毛も抜けて、身体の骨格が鈍い音を立てて元に戻っていく。ルドヴェルの半身に痛々しい火傷の後が見えた。魔族の獣毛で隠されていたところだった。

 目が開く。

 涙が一筋流れた。


「……やって、くれたな」

「ルドヴェル! わたしが分かるの、ルドヴェル!?」


 レイツェルがユーリを押し退けて倒れ込むルドヴェルの元に駆け寄った。ルドヴィルは魔族から人間のものになった手を握り、開いていた。

 真っ黒な火傷の跡が、ルドヴィルの身体に戻ってくる。

 それをどこかほっとしたような表情で見つめた後。


「ああ、そんなバカでけぇ声出さなくても……十分に、聞こてんだよ……」

「本当に、ルドヴィルなの……?」


 その問いにゆっくりと頷く。


「う、ぁ……ああああああっ……!」


 レイツェルは、ルドヴェルの首に腕を回して大声を上げて泣き始めた。

 そんな親子をグレイコーデとユーリの二人は静かに寄り添って眺めていた。




 崩落した場所からグレイコーデたちは無事に逃げ出すことができた。ヒストリアの拠点は完全に潰れてしまったが、レイツェルに未練はないようだった。


「……二人には悪いが、そろそろ俺達たちはこの街を発たなければならない」


 小柄なレイツェルを大きな胸であやしていたルドヴィルが真っ直ぐとグレイコーデの視線を受け止めた。


「聖堂騎士団、か」

「そうだ」

「この街を、殺すために……来るんだな?」

「……ああ」


 この街はすでに後戻りの出来ない道の只中にいる。

 住民のほとんどが魔族と化したこの街に、魔族の殲滅を目的とする聖堂騎士団が近づいてきているのだ。

 聖堂騎士団はこの街の真実を知った瞬間、街に火を放つだろう。街の周りを包囲し、決して魔族を逃さないために。

 その包囲が始まる前に、グレイコーデとユーリはシアの街から出なくてはならない。

 例え、それが街の住人を見殺す選択肢だとしても。


「……すまない」

「何を謝っているんだ? これは元々俺たちの問題だぜ?」


 ルドヴィルの明るい声と裏腹に、グレイコーデの感情は沈んでいく。助けられなかったという後悔。数あるうちの一つにシアの街が刻まれようとしていた。

 結局、何も変わらなかった。

 かつての旅路でも、六十年経った後でも、何も。

 何も変えられず、ただ諦めのなかで眺めることしかできない。


「何も出来ず、すまなかった……」


 旅路のなかのグレイコーデは、何も変えることなどできなかった。



「そんなこと、ないッ!!」



 紫色にきらめく瞳が、グレイコーデを貫いた。

 それはユーリ。かつての旅路ではいなかったグレイコーデ最後の弟子だ。

 諦念に沈み、灰色に染まった世界を紫のきらめきが席巻していく。


「勇者様は救った。二人の人生を、命を! 何も出来なかった? そんなことない、そんなことあるはずがない! これ以上言ったら、わたし、怒るから!」

「っ」


 紫は、憤怒に染まっていた。その熱がグレイコーデの固く冷たい心を強引に溶かしていく。


「……そうよ。私たちは生きている。だから、私たちを助けたことが何にでもなかったなんて言わせないわ! そんなの、このヒストリア副団長、レイツェル様に失礼だもの!」

「そうだな。俺たちに価値がねぇとは言わせねぇぞ、グレイコーデ」


 黄金の尻尾とそれを見守るおおきな影が豪快に笑う。


「何を、するつもりだ」


 その問いに、二人は軽く拳を合わせて。


「もうこの街に思い残すこともねぇ。俺たちは常に疎まれ、ヒストリアは憎まれてきた。──なら」

「──ヒストリアの歴史に幕を閉じるのよ。ここから先は、わたしたちの時代なんだからっ!!」


 ♰


 鬱蒼と茂り、露に湿った森にも光は差し込む。


 大きな月と小さな月が、彼らを照らしている。

 消えかけた焚き木の傍に、二人の子どもが眠っている。一人の子どもは熟睡し、もう一人の子どもは金髪を広げて寝相が悪いながらも良く眠っていた。

 その二人の子どもを見守る彼ら。

 一人は灰色の髪を短く切り揃えた壮年。

 もう一人は、禿頭に大きな身体を持つ大男。半身には大きな火傷の跡があった。

 四人は街を出て旅をしていた。


「……火の勢いが弱まってきたな」

「虫避けの香草の残りは?」

「明日までは持つ。次の村で買い足さなければいけないか」

「……旅をしていると言っていたな。次はどこへ行くんだ?」


 ルドヴィルの言葉にしばらく黙り込み。


「銀髪エルフ──そちらに言わせれば『白亜の妖精姫』だったか。それを追いたい。順当にいけば、ハロケル村経由で隣国テウルドラギアに入る。そこに俺の知り合いがいるはずだ。彼から情報を貰う」

「ハロケル村……?」

「知らないのか? 確かに小さな村だったな。牧歌的で過ごしやすいところだ。田園と果樹園が有名で……ああ、『信仰断ち』だったか。色々と変わった村だ」

「……村、だったのか? 今向かっている道からは行商人が頻繁に来ていたぞ。聞いたところによるととても発展したところだとか。あの正体の規模からして、村じゃねぇと思ったんだけどな……どちらかと言えば、『街』だな」

「ハロケル……街か」


 六十年前の印象とは大きく外れている。

 年月からしてそこまで発展してもおかしくはないが。果たして。


「それに、今色々と物騒なんだよ。テウルドラギアの向こうでキリギスが内戦をしてやがるし、アーシュトメリアも最近はきな臭せぇ」

「戦争、か」

「ああ」

「…………どうして、人は」


 それっきり、グレイコーデは口をつむぐ。

 そんなグレイコーデを見やり、ルドヴィルは焚き火にかけてあった金属製のコップを持ち上げる。手には水に濡れた布を巻いているがあちち、と火傷しそうな勢いだ。


「おい、ルドヴィル。火が消えてから取ったほうがいいぞ。それほど熱い水が飲みたかったのか」

「うるせぇよ。……ああ、そうだ。飲みたかったんだよ、文句あんのか? ああん?」

「何をそこまで怒っている。ほら、冷たく濡らした布だ。それで今晩中は手を包んでおけ」


 布を投げ渡し、グレイコーデは熱い水を二人分注ぐ。


「ほら」

「ちょっと待てよ。これを入れるとうまいぞ」


 ルドヴィルが取り出したのは紙に包んだ焦げ茶色の粉だった。


「レイツェルに向けてシアの街で行商人から買っておいたやつだ。豆を炒って砕いたもので『コーヒー』とかいう他大陸の飲み物だとよ」

「そんなものを、いいのか?」

「いいからいいから」


 熱い水に溶かすとあっという間に真っ黒に染まる。まるで動物の膠から作ったインクのようだ。

 胡乱気な表情で香りを嗅ぐ。香ばしいような癖になる香りだ。

 そのまま一口飲み──盛大に咳き込んだ。


「ゴホッゴホッ、苦い、これすごく苦いぞ!?」

「その苦さを楽しむんだぜ? なあに、レイツェルには馬の糞扱いされたが、大人なグレイコーデならこの苦味を」

「無理だ、俺はこんなものを飲むほど趣味趣向は捻じ曲がっていない」

「はあ!? お前もか、グレイコーデ!? そんな大層ななりをして舌はおこちゃまかよ」

「……馬の糞か。言い得て妙だな……確かにどことなく」

「おい。それ以上先を言うのなら、熱いコーヒーを頭からかけてやるからな」


 結局のところ、コーヒーはルドヴィルがすべての飲み切り、二人は一息ついた。

 無言の時間。パチリと焚き火が爆ぜた。


「ありがとう、グレイコーデ。お前のお陰で俺はこうしてレイツェルの寝顔を見ていられる」

「……そうか」


 目を伏せる。

 遠くには数多くの明かりが見えた。シアの街を離れる人々の明かりだ。

 あの後、レイツェルはシアの街の一番目立つ広場で拡声器を用いて叫んだのだ。


『シアの街の水源には今までとは比べ物にならない毒を流した。水源の遺物である『神の聖杯』もすでに壊した。ここから先は、シアの街はただの毒の街となり、急いで離れなければ生きていけない』


 という旨の演説を、過激に何度も何度も行った。

 その結果、住民らの間では激しい混乱が起こり、争いが起こり、実際に『神の聖杯』が壊れているのかどうかを確認する者まで現れた。

 結果として、住人のほとんどはシアの街を捨てる判断を下し、遠くにある魔族領を目指して旅をすることとなった。

 シアの街の住人は、聖堂騎士団の包囲から後数日もあれば逃れられるだろう。

 その反面、すべての憎しみを一手に受け止めたヒストリアは完全に幕を閉ざした。

 ヒストリアの工房や旗などはすべて焼き払われ、この世界にヒストリアという学者団体が存在するものを示す証拠は無くなったのだ。

 今、寝顔をさらしているシアの街の落とし子──レイツェルを除けば、ただのひとつも。


「街のことは後悔すんなよ。グレイコーデは人間なんだ。神様じゃねぇ。あのクソッタレの街から俺たちを救ってくれた。それだけで勲章ものさ」

「俺は別段と後悔はしていない。あれで最善だったと今でも思っている。……だが」

「……ユーリ、か」

「そうだ。あの子は純粋が過ぎる。魔族なのにも関わらず勇者に成りたいと願っているほどにだ」


 二つの月が寄り添って光っている。その周りには無数の星々がきらめいている。


「星が綺麗だな」

「……ああ」

「きっと上手くいくさ。だって、ユーリは勇者なんだろう?」


 ユーリに命を救われたルドヴェルが笑う。


「ユーリは勇者だ。俺とは違う……本物になれる勇者なんだ」


 首を傾げるルドヴェルに、グレイコーデは打ち明ける。


「実を言うと俺はな、魔王を倒した勇者なんだ」


 ぽかんと顔を見つめた後、ルドヴェルは大爆笑する。


「何だそれ、もっとマシな嘘をつけよ」


 これでいい。

 魔王を倒した勇者など、もうこの世界にはいらない。


「そうだな。ただの冗談だ」

「今度はもちっとマシなのを頼むぜ」

「ああ、任せておけ」


 勇者とは、何か。

 グレイコーデが至った勇者は、少を殺して大を救うというものだった。

 魔王を殺し、世界を救った。

 街を見捨て、世界を救った。

 我が子を諦め、世界を救った。

 世界を救ったはずだった。だが、後悔がいつまでも残り続けた。

 ユーリには、そうあって欲しくないとグレイコーデはいつしか願っていた。


 老境の勇者は、新しい世代を担う子どもたちに穏やかな視線を投げかけていた。


ユーリの勇者っぷりが炸裂した回でした。子どもながらに精一杯の意地を張って、それを通したのです。

その姿は、グレイコーデとはまた違った『勇者』なのでしょう。


第二章完結しました!

これより幕間と登場人物紹介に続いて、第三章に突入していきます。詳しいことは活動報告に書いているので、そちらを見てくだされば幸いです。

まだまだ広がる『旅路のなかのグレイコーデ』をよろしくお願いいたします!

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