第四話 『証と共寝』
フードがひらりと外れる。
レイツェルの視線はユーリの角に釘付けになっていた。
「……へぇ。綺麗な髪ね」
「う、あ……」
言葉が上手く口から出ない。まるで喋り方を忘れてしまったかのようにぱくぱくと口を動かす。
「魔族ってやつ?」
「……」
上から下までじっくりと観察を終えたレイツェルは、両手をパンッと打ってにっこり笑った。
「角がついてる魔族って、あたし初めて見たかも」
「……驚かないんですか?」
「そんなに驚かないわ。だってフードを被ってる時点でフードの奥に見られたくないものがあるって言ってるようなものだし、色々と考えて魔族かなって思ったわけ。当たったでしょう?」
「……うぅ……」
思わずユーリはぺたりと座り込んだ。頬を熱いものが流れ落ちる。
「……泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ」
「泣いてません」
「泣いてるじゃん」
「うぅ……っ!」
「…………ごめん。フードを勝手に取って」
この涙は悲しくて流しているわけではない。魔族だと分かっていても話してくれる衝撃と驚き、疑念、嬉しさ──色んな感情が一気に胸に押し寄せてきた結果、ユーリの身体は涙を流すという反応を示したのだった。
「……正直こんな風になるなんて、思ってなかったわ。だって、この街の人は全員あんたみたいな身体をしているもの」
「え……そんなことあるんですか」
思わずユーリは聞き返す。魔族は排斥の対象。それがユーリの中の常識だった。
「角が生えてる人は見たことがなかったけど、ルドヴェルもあんたみたいな身体をしているわ。尻尾が生えてきた人もいたんだから。それ用のパンツもあるわよ。見てみたいかしら?」
「……い、いや、パンツじゃなくて……」
「確かここらへんに、かわいいやつが……」
そう言ってレイツェルはガサゴソと部屋を漁り出す。そうしてレイツェルが投げてきたものは、女性用の下着だった。
頭に投げられたそれを見て、ユーリは瞬時に顔を真っ赤に染める。
「っ、こんなもの……見たくないです……っ!」
「そう? ……そういえば」
疑問げに小首を傾げた後、ユーリの耳元に近づいて囁いた。
「あんたって、女の子なのかしら?」
「なっ」
ユーリはぽかんと口を開けた。徐々に耳まで赤くなって、やがてぷるぷると震える。
そんなユーリにレイツェルは嗜虐的ににんまりと笑った。
その後、口早に告げられるユーリの必死な言葉にレイツェルはうんうんと何度も頷いた。
「それは苦労するわね。特に君が勇者様って呼んでいるグレイコーデのデリカシーの無さには関心すら覚えるわ。うんうん」
「そうなんですよ、この前も勇者様は野宿で寝る時にわたしの手を握って来て、びっくりし過ぎてトイレに行こうと思っていたのに行けなくて──」
他愛もない話がユーリの口から流れ出る。それはアトリーナにもグレイコーデにも話せないような話。
ユーリはアトリーナとグレイコーデを尊敬している。六十年余り前に魔王を倒した生きる伝説なのだから当然だ。だが、尊敬と友誼は違うもの。こんな他愛もない話を出来る身近な人などユーリの身の周りにいなかった。
唯一の難点があるとすれば。
「その、グレイコーデ様は本当に勇者様なんです。君の言う名乗らぬエルフ様と同じ旅仲間だったんですよ?」
「あんな冴えないおじさんが勇者様のわけないじゃないの。そもそも勇者様は死んだって国から発表されたじゃない。それに、もし生きていたとしても六十年前に旅していたんだから、あのおじさんは若すぎるわ」
「それはアトリーナ様がわざと……それに魔王の呪いが……」
そもそもグレイコーデが旅をしている事情が複雑すぎる。それに外見やら死んだとやら、ユーリの口からは説明出来そうになかった。
「どれも話にならないわね。名乗らぬエルフ様が目の前に顕現して、あのおじさんを勇者様だと言ったらあたしも認めるけど?」
「名乗らぬエルフ様……一体どこにいるんですかぁ……っ!」
がくりとうなだれて天井を見上げるユーリに、レイツェルは微笑みかけた。
「やっぱり、君はそっちのほうがいいわよ。陰気臭いフードを被っているより、顔を見せてオシャレしたほうがいいと思うわ」
「そう、ですか……?」
「そうよ」
「……えへへ」
やはり人は第一印象だけで判断するのは良くないとユーリは思い知る。往来の中ではあれほど野蛮で粗暴な言動だったが、深く知れば知るほど彼女は優しい人だということが分かる。……多少、いや、だいぶ強引なところはあるが。
「嬉しいですけれど、ごめんなさい。この街では気にしなくても、他の街では魔族はいじめられるんです。フードを被って姿を隠さないと生きていけません」
「何よ、それ。そんなのおかしいじゃないの……!」
「魔族は、人を襲う本能を持っていますから」
怒りをあらわにして、レイツェルは怒鳴った。
「じゃあ、ユーリはあたしを殺したいの?」
「……いいえ」
「あたしを喰いたいの?」
「……いいえ」
「あたしの血を啜りたいの?」
「……いいえ」
「なら、何が問題なのよ! 魔族が人を襲うならあたしなんて真っ先に襲われてるわ!」
ユーリはアトリーナに聞いたことを思い出して、記憶をたどるように口にする。
「角、です。角が魔族の本能と命を直接結ぶ導線だって、アトリーナ様は言っていました」
「……この、ぐねぐねした角?」
レイツェルはユーリの正面に立って無遠慮に角を突いて撫で回す。
「硬そうに見えて、意外と柔らかいのね……」
「ぁ、だめっ……やあぁ……!」
ユーリはくすぐったいようなぞくぞくした感触に苛まれ、思わず腰が抜けてしまう。それでも角を弄り続け、レイツェルが満足した後には腰砕けのユーリが取り残された。
息を荒らげながらユーリはふらふらと立ち上がる。
「……ぁ、はぁ……街の人は、角が無いんですか?」
「無いわね。その、顔の模様みたいなのも無いわ。そもそも、街の人たちはただの人だったの。地下遺跡から湧き出してくる水──特に最近の水を飲んだ人は皆ユーリみたいな身体になるのよ」
「……魔族に、なる?」
「魔族って角があるんでしょう? 多分ここの人たちは魔族もどきよ。水を飲んで変異した身体は力が強くなる。……いい事ずくめだと思うわ。ルドヴェルはあたしにここの水を飲ませないけど」
──何かが歪んでいる。
レイツェルの話を聞いて、ユーリは漠然とした不安感を覚えた。
そもそも、魔族の体力が優れているのは空気中に漂う魔力を角を経由して身体に取り込んでいるためだとアトリーナに聞いたことがあった。その代償として、魔族は人を襲う本能を持つ。
シアの街の魔族もどきの人々は角が無い。だが、魔族特有の強い体力は持ち合わせている。それを利用して、地下遺跡の発掘を行っている。
──角が無い魔族もどきは、一体どこから魔力を吸っている……?
魔族もどきに変異させる水。ルドヴェルは決してレイツェルにそれを飲ませない。割に合わない魔力と体力のバランス。
水──全てを狂わせたのは、水なのだ。
「……ユーリ?」
ぞくりと背筋に怖気が奔った。
シアの街の水は魔族もどきの力の源なのだ。水を飲んで力を取り込む。角が無いために魔族としての本能に苛まれることはない。
だが、彼らは魔族の身体を持っている。偏見と迫害の対象となる呪われた身体を。
魔力を吸収できない欠陥品の身体を、迫害を受ける身体を永遠に持ち続けるのだ。
この街の食物は全て、地下遺跡の水を使って作られている。つまり、シアの街で長い時間を過ごした者は、身は魔族と化して街に縛り付けられ、心は外の教会への恐怖に怯えて街にこもるようになる。
まるで、巨大な牢獄。
「……だから、ルドヴェルさんは……レイツェルに水を飲ませないように……」
あの禿頭の大男の笑みを思い出す。彼は全てを知っていた。レイツェルと言い合いをしているルドヴェルは怖かったが、間違いなく彼は彼女を愛していたのだ。
「最近は街の物を全然食べさせてもらえないのよね。他の街から買ってきた携帯食料ばかりで……もう嫌になっちゃう」
「……街の水が入った食べ物は食べないでください」
ユーリの必死な言葉に思うところがあったのか、レイツェルはやけに素直に頷いた。
「はいはい。分かったわよ。魔族になったら、このすべすべの肌とか台無しだからそんなことしないわ。……そろそろ頃合いかしら。禁止区域の立ち入り制限は昨日解かれたって聞いたし、地下遺跡に探しに行かないと」
「何を、探しに行くんですか」
レイツェルは少し嬉しそうにはにかんで。
「あたしの父さんと母さんの残した傑作。水を生み出す遺物『神の聖杯』の複製──『人の聖杯』を回収するの。綺麗な水を出せれば、街は助かるでしょう?」
はしゃぐレイツェルを見て、ユーリは反対に不安が増していく。
「グリモティアの最高傑作よ! それをヒストリアのあたしが取りに行くの。わくわくするわっ!」
「……」
レイツェルの眩しい笑顔には一片の影もなかった。
──これで、もしも『人の聖杯』なんてものがなかったら、レイツェルはどうなってしまうのだろうか?
「……覚悟はしておいてください」
「覚悟なんて必要かしら?」
「いざという時は、わたしが守るから」
それを聞いたレイツェルは拳を振り上げて、ユーリの頭に振り下ろす。
「ふふっ」
目をつぶってしまったユーリに、レイツェルは笑いながら優しくコツンと当てた。
「生意気よ、ユーリ」
「……こっちも勇者様の弟子なんです。格好くらいつけさせてください」
「はいはい。エセ勇者の弟子さん」
「グレイコーデ様は本当の勇者様ですっ!」
「嘘をつくときは誰でも本当っていうのよ」
「……うー……!」
「おおー、睨みつけられると怖いわね」
からかわれている。それはユーリにも分かっている。レイツェルにはユーリが及ばないほどの精神的と力がある。助ける人と助けられる人がまるで正反対だ。
「けど、いざという時はよろしく頼むわ」
レイツェルはぱちりと片目をつむった。
力が足りない。守るべき相手よりも足りない。
「……分かった。任せといて」
それでも、ユーリはレイツェルの悲しむ顔など見たくはなかった。
♰
グレイコーデとユーリは使われていない部屋を与えられ、そこで眠ることになった。
「意外と広い?」
「そうだな」
居住施設はそこから見れば狭いが、中は思ったよりずっと広い。地中を掘り進み、そこに土台を埋めて組み立てられたという。
長年使われていないと言うので埃が積もっていたり、蜘蛛の巣が張ってある心配をしたが、レイツェルが定期的に掃除するようで、ほとんど汚れてはいなかった。
黙々と一人で掃除するレイツェルの姿は意外ではあるが、「自分の工房に汚い所があったら嫌じゃない?」とのこと。その際にルドヴェルは「ここは俺の家でお前の工房じゃねぇんだけど」とぼやいていたが、レイツェルの蹴りをすねに食らってうめき声に変わった。
レイツェルは反抗期の娘で、ルドヴェルは娘に頭の上がらないダメ親父といった様子だった。そんな家庭が意外にも居心地の良い物に感じる自分をグレイコーデは受け入れ始めていた。
「あの二人は、騒がしいな」
「うん。けど、楽しい」
「……ああ」
グレイコーデとシルヴィアの間に子宝は恵まれなかった。
旅の間、死にかけたことも何度もあった。
その度に動かない身体を無理やり魔力で賦活して動かしてきた。身体の悲鳴を聞こえないふりをして前に進んできた。
そうして、魔王を倒したのだ。
代償は重くのしかかった。内臓のいくつかは動いておらず、また筋繊維も千切れたまま。骨は砕かれたものを無理やり魔力で補強して動かし続けたためか、変形してしまっている。
勇者パーティーは、皆そのような無理を通して世界を救ったのだ。
戦いが終わった後、グレイコーデとシルヴィアは子が作れない身体になっていたとしても不思議ではなかった。
だから、あのような二人は──例え親子ではないにしても、グレイコーデには輝かしく映るのだ。
世界を救った代償を見せつけられているような気がして。
やるせなさと慈愛──相反するような感情が老いた身体をいっぱいにする。
そんな気持ちを悟られまいと、グレイコーデは感情を心の奥底にある小瓶にしまった。
「勇者様」
「何だ」
「お願いがある」
ユーリは真剣な表情で、グレイコーデを見つめていた。その様子に少し身構えてしまう。聖堂街のあの夜、ユーリはこの表情を浮かべた後シルヴィアの遺灰が入った首飾りを奪ったのだ。
「わたしの髪を切って」
ユーリから発せられたのは、予想とは違う言葉だった。
「……守りたいものができたから」
決意の表明といったところか。
目に見える形で欲しいといった辺りユーリの精神の未熟を表しているのだろう。
……だが、これが一歩目だ。
ここからユーリは強くなる。
「ああ、分かった」
グレイコーデはゆっくりと頷いた。
先ほどからユーリはずっと部屋に備え付けられた鏡面の前で髪を眺めていた。
ときより「えへ、えへへ……」と何とも気の抜けた笑い声を漏らして、張り付いている。『髪を切って』と頼み込んだ時の真っ直ぐと芯の通った格好の良さは感じられず、年相応の緩んだ喜びが漏れ出すばかり。
──この辺りが、子どもということなのだろうか。
グレイコーデがまだ勇者ではなかった頃、「俺は勇者になる」と村の中央の高台で叫んだ時も、傍から見ればこんな感じだったのだろうか。
勇者になると決意表明した後、庭で木刀を一晩中振り続けたことを覚えている。翌日、あくびをしながらやって来たシルヴィアにふらふらのグレイコーデは模擬戦を挑んで──呆気なくこてんぱんにされたのだ。泣きはらしたグレイコーデに追い打ちをかけるように、二週間ほど筋肉痛で動けなかった。
それ以来、グレイコーデはシルヴィアとの模擬戦に苦手意識というか、トラウマを持ったような気がする。
「……変わらないな、俺も」
ユーリの髪はうなじほどまで伸びた髪をばっさりと切り揃え、前髪も眉の下あたりまで整えた。こうして見ると、ユーリの中性的な容貌が更に際立つ。男物でも女物でも似合いそうな容姿だ。
鏡に貼りついているユーリを眺めながら、グレイコーデはシアの街の露店で買った本を読み始めた。
しばらく無言の時間が流れる。
「ユーリ」
「なに、勇者様?」
「レイツェルにお前が魔族であると知られたそうだな」
ユーリは顔を固まらせて、うつむいた。
「……フードを無理やりに取られて」
「ふむ。常在戦場の心構えと体術も並行して教えたほうが良さそうだな。鍛錬が始まったら覚悟しておくことだ」
「勇者様だって、わたしに首飾り取られてた」
不満げな顔で呟くユーリに、グレイコーデは緩ませた。
「あれは不覚だったと認めよう。だが、俺は老いて、お前は若い。程度は求めない。身を守る術として覚えておけば良い」
「程度……前に訓練で話してくれた。勇者様は寝ながら暗殺者のナイフを避けたことがある、程度? ……うぅ……」
「それは極論だ。比較はするな」
各国にとって不都合は大きく、教会の一大勢力である勇者パーティーの数々は国と国との力関係を変化させるに足る存在だ。勇者の旅で満足に眠れたことなど一度もない。
「俺がいなくなった後は自分で身を守るんだ。それまでは俺が守ってやる」
「勇者様がいなくなる……?」
「その時は確実に来る。俺はもう老いたからな」
ユーリは静かに考え込む。
賢い子だ。自分の行く末を考えているのだろう。
ユーリは魔族だ。グレイコーデが死んでからの選択肢はおのずと限られてくる。
まず、辺境の魔族領で同胞たちと寄り集まり静かに暮らすというのが無難な道だ。貧しい暮らしだが、同胞たちと暮らすのに気苦労はいらない。もしかしたら家庭を持てるかもしれない。旅を続けるというのも一つの道だ。世界中を見て回り、アトリーナの遺言に従って暮らす。不安定かつ教会との軋轢も生まれるかもしれない。だが、ユーリは賢い。このまま旅を続ければいつかグレイコーデをも越える旅人として成長するだろう。
旅路もユーリの家となる。
その他にも、経験を生かした傭兵や旅路で学んだ学を伝える教師、歌う才があれば吟遊詩人にだってなれるかもしれない。
ユーリを縛るのは魔族という自分の身だ。
それから解き放つのも、グレイコーデの役目なのかもしれない。
傍らのベッドに座り込んで考えにふけるユーリを見つめて、不思議な愛おしさが胸の中に湧いたことに驚く。
──父親、か。
そういう柄でもないと、グレイコーデは自責する。
魔族を殺し、ユーリのことでさえ機会があれば殺そうとするグレイコーデが父親になれるはずもない。
この温かな気持ちは、表に出してはいけないものだ。
ルドヴェルは、父親になれなかったと言う。愛を込めて育て上げても父親として認められなかったと言う。
ならば、親になるには血の繋がりが必要なのだろうか。親はそれぞれ一人ずつで、心は満席になるというのだろうか。
子を成せなかったグレイコーデは、もう親にはなれないというのだろうか。
「……っ……」
更に深く考えようとすると、胸に鈍痛が広がる。萎縮した肺が広がろうとしている。今までこんなことはなかった。
「ユーリ。明日は早い。もう寝ろ」
「うん」
魔石灯をひねると音も立てずに灯りが消えた。
グレイコーデは横向きに身体を傾けて腕を枕として寝る。勇者時代からの癖だ。奇襲に対処しやすくなるが、腕に血が通わずに身体に悪いらしい。何度もアトリーナに注意された。
ユーリが立ち上がる気配がした。自分のベッドで眠るのだろう。
「……勇者様」
再びベッドに重みがかかる。
「……どうした」
「一緒に寝ても、いい……?」
暗がりに目を凝らすと、自分の枕を抱いてこちらを見つめるユーリの姿があった。
「だめ……?」
紫色の瞳は相変わらず綺麗だった。
沈黙が続く。やがて諦めたように立ち上がろうとしたユーリに向かってグレイコーデは呟いた。
「……勝手にしろ」
口から漏れた言葉に自分でも驚く。魔族と一緒に寝るなど勇者時代には考えられなかった。心がぬるま湯に浸った結果だと考えた。アトリーナの説得に絆されたとも考えた。老いたからとも考えた。
「……ぁ…………うんっ……」
声から分かる嬉しそうな響き。ふわりと布団が持ち上げられて、グレイコーデの背中側に温かなものが入り込む。
ひたりと背中に額をくっつけてユーリはあどけない声で「ありがとう」と唇の形を作った。
背に擦れるユーリの角がこそばゆかった。それ以上に、心が温かな気持ちで満たされていた。
どっと眠気が押し寄せてくる。勇者時代に感じた焦燥感を煽る種類ではない。シルヴィアと一緒に寝た時に感じた身を焼くような愛おしさでもない。
重くて静かな、温かい眠り。
「おやすみなさい、勇者様」
「……おやすみ、ユーリ」
……ユーリの性別って、どっちなんでしょうか?
なんかロマンがあっていいですよね。
面白かったら評価やブックマーク、感想をよろしくおねがいします。モチベがぐんぐんと上がっていきます。