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第三話 親子で幸せを掴むため3

馬車が走り出してしばらくすると大きな町が見えてきた。

丘の上から見える限り町は大きなレンガの壁で守れているようだ。

だが、もんらしきところから少し離れて小さな建物が点在しているのは何だろうか?


「あれがキリセントよ。大きな町は初めてだったわね」


いや、母様よ。

小さな町ですら初めてですよ。

それは置いといて。


「わあ」


思わず笑みがこぼれてしまう。

前世以来、久しぶりの町というのもある。

だが、それ以上に町の様相にも心が躍っていた。

前世の東京なんかと比べるとずっと田舎町なのだが、多くの建物がレンガでできて昔行ったドイツやフランスの田舎町のようだ。

どことなくファンタジーの世界に入り込んだような、そんなわくわく感が私の中に溢れていた。


そういえば、ここはファンタジーの世界だったな。


「アルベルトが嬉しそうでよかったわ」


「うん!」


私が夢中で馬車の窓から見ているうちに町の防壁が目の前にまで迫ってきていた。

遠目で分かりずらかったが近くずく事で壁もレンガでできているのが分かった。

ただ、出来ているレンガのどれもが真っ黒な色で一見ではセメントかコンクリートでできているように見えた。

本来レンガの素材に含まれる鉄などが酸化して色が変わるのだが、こんに黒くはならないはず。

この世界にしかない特別な素材を使っているのか。

町の建物は遠目でもレンガだと分かるような色だったし、その線が濃厚か。


「そろそろ席に座りなさい」


「はい」


入り門近くなると大きな相乗り、荷物を多く乗せたもの、農家で使われるような様々な馬車が列をなしていた。

列の先を見るとどうやら検問待ちをしているようだ。

だが、その横を私たちの馬車は走っていく。

そして、門まで着くと御者が二、三言門番に話をすると検問もろくにせずに中へ通されるのだった。


これが貴族。

ちょっと、愉悦。


「どうやら、旦那様はもう町に入られておられるようです」


「なら、先にそちらにですね」


そうか、祖父に会いに行くのか。

やさしそうな人だといいなあ。

でも、前世の私だと孫が可愛くて仕方がなかった。

町内会の老人会でも孫が嫌いな仲間はほとんどいなかった。

勝機はあるはず!



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……」


「…………」


「………………」


どうやら私の祖父は少数派の方だったらしい。

大きな建物に着いた私たちは中に入ると使用人が今の部屋に通した。

そこには既に白髪に長い白髭を生やした、昔孫と一緒に見た魔法使い学校の校長のような人がカップのお茶を啜っていたのだった。


「お久しぶりです」


母様がそう言うが、祖父は何も言わずに冷たい視線で母を見た。

そして、私に視線を向けるとすぐにつまらなそうにカップに視線を戻し、お茶を啜ったのだった。


「失礼します」


「……」


母様は頭を下げて開いている席に座るが変わらず声をかけるどころか、視線すら向けない。

無視というよりは、興味が無いように見える。

自分の娘だろ?

何でそんな態度なんだよ。


「アルベルト、こちらに」


母さんは私に隣の席に座るように促すが、祖父の座る席の横に立つ。

そこでやっと頑固そうなジジイは私にしっかりと視線を向けたのだ。

私はその視線がカップに向かう前に背筋を正し、頭を下げる。


「お爺様、始めまして。アルベルト・バルフェルトです。よろしくお願いします」


相手が礼を失する態度でも、こちらが礼を尽くさない理由にはならない。

ましては自分の祖父である。

まずは自己紹介をするのが道理だろう。


「……」


だが、祖父は視線をカップに戻してしまう。


ダメだったか。


そう思うと同時に祖父は手に持つカップをテーブルに置いたのだった。

そして、近くに立っている給仕に視線を向ける。

それに給仕は祖父の隣の席を引いて私に座るように促したのだった。

私は座るが、祖父はずっと私に視線を向けたままだった。


「最低限の礼節は身に付けているようだな」


「ありがとうございます」


祖父の言葉が誉め言葉だったのか分からないが、とりあえず礼の言葉を返す。

だが、私の言葉に長い髭をさすりながら何かを考えるように瞳を閉じる。


「私が怖くないのか?」


不機嫌な態度の事だろうか?

もしそうだというなら、もう少し感情を抑えてくれとも思う。

だが、ただ容姿だけでそういうのであれば。


「何を怖がるのですか?」


「ふむ、なるほど」


何がなるほどなのか分からないが、どうやらお気に召したのか口角が上がった。

だが、気を緩めるな。

こういった気難しいタイプの爺さんは何が引き金で怒り出すか分からないしな。


「アリアマ、お前の言うように利口な子供のようだな」


「そう、なんです」


祖父の言葉に母様は嬉しそうに言葉を返すが、母様に祖父は何も向けなかった。

その視線は私にずっと向けていた。


「それにこの私に恐れをなさぬ胆力」


祖父は隣に座る私の頭を急に撫でる。

どういうことだ?

とてもそんなことをするような人には見えないが。


「よかろう。後の事は祝儀の後だ」


祖父は席を立つと出て行ってしまった。

よく分からない。

だが、母様が嬉しそうな顔をしている。

それだけで、良かった。



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